天領
テンプレート:出典の明記 天領(てんりょう)は、江戸時代における江戸幕府の直轄領のことである。
天領という用語は、明治初期に旧幕府直轄領が天皇の御料(直轄領)になったときに天領と呼ばれるようになったため、さかのぼって幕府時代のものも天領と通称するようになったもので、江戸時代に使われていた用語ではない。江戸時代には支配所(しはいしょ、しはいじょ)、支配処(しはいしょ、しはいじょ)と呼んだ。また通称で御料(ごりょう)、御料所(ごりょうしょ、ごりょうじょ)、御料地(ごりょうち)、公儀御料(こうぎごりょう)などとも呼ばれた。なお、現在では幕府領、幕領という語が用いられることもあり、その中に旗本知行地(約300万石)も含めて呼ばれることもある。
目次
概要
豊臣政権時代の徳川氏の蔵入地が基であり、関ヶ原の戦い、大坂の役などでの没収地を加えて、17世紀末には約400万石となった。その年貢収入は幕府の財政基盤となった。
大坂、長崎など重要な都市や、佐渡金山などの鉱山、湯の花から明礬を生産していた明礬温泉も天領とされた。佐渡、隠岐、甲斐、飛騨は一国まるごと天領となった。
幕府直轄の各領地には代官処がつくられ、郡代や代官・遠国奉行が支配した。また預地として近隣の大名に支配を委託したものもあった。観光地として有名な高山市の高山陣屋は、江戸幕府が飛騨国を直轄領として管理するために設置した代官所・郡代役所である。
寛政11年(1799年)には東蝦夷地(北海道太平洋岸および千島)が、文化4年(1807年)には和人地および西蝦夷地(北海道日本海岸や樺太(後に北蝦夷地として分立)およびオホーツク海岸)が天領とされたが、文政4年(1821年)には松前藩領に復した。 安政2年(1855年)になると、和人地の一部と蝦夷地全土が松前藩領から再び天領とされているが、安政6年の6藩分領以降に東北諸藩の領地となった地域もあった。
江戸時代末期に老中首座となった水野忠邦は、天保の改革の一環として上知令(江戸城大坂城の十里四方を天領とする)を発令したため、天領の石高は増えたが、周辺に領地を持つ大名から大きく非難された。
天領の石高の変遷と内訳
天保郷帳において日本の天保期の総石高 (内高)は琉球を含めて3055万8917石余と算出されているが、勝海舟編『吹塵禄』所収「天保十三年全国石高内訳」によると、天保13年(1842年)の天領は総石高の14%に当たる420万石を占めた。
所領別 | 石高 (石) | 割合 (%) |
---|---|---|
禁裏仙洞御料 (皇室御領) | 40,247 | 0.1 |
御料所高 (天領) | 4,191,123 | 13.7 |
万石以上総高 (大名領) | 22,499,497 | 73.6 |
寺社御朱印地 (寺社領) | 294,491 | 1.0 |
高家並交替寄合 | 179,482 | 0.6 |
公家衆家領寺社除之分 (公家領)、 万石以下拝領高並込高之分 (旗本領) |
3,354,077 | 11.0 |
六拾余州並琉球国共 | 30,558,917 | 100.0 |
また18世紀以降の天領の石高の変遷は以下の通りである。[1]
内訳 | 元禄15年 (1702年) |
享保15年 (1730年) |
宝暦7年 (1757年) |
天保9年 (1838年) |
文久3年 (1863年) |
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郡代・代官支配地 | 3,867,435.700 | 3,602,380 | 3,896,000 | 3,284,478.26665 | 3,173,924.14438 |
関東筋 | 1,199,833.906 | 1,076,451 | 1,149,400 | 932,014.13504 | 882,192.33367 |
畿内筋 | 662,924.000 | 668,647 | 414,300 | 463,696.31026 | 521,454.30627 |
海道筋 | 497,333.000 | 738,747 | 715,300 | 719,794.80472 | 691,916.20596 |
北国筋 | 555,300.000 | 267,118 | 734,400 | 355,058.24664 | 240,506.50338 |
奥羽筋 | 455,394.794 | 319,988 | 380,000 | 375,375.91618 | 378,040.55971 |
中国筋 | 252,050.000 | 407,564 | 365,000 | 284,327.64181 | 286,813.23685 |
西国筋 | 244,600.000 | 123,865 | 137,600 | 154,211.21200 | 173,000.99854 |
遠国奉行支配地 | 138,188.000 | 139,651 | 9,100 | 144,196.73099 | 149,406.53199 |
浦賀(相模国)奉行 | 770 | 700 | 6,517.38299 | 3,456.14331 | |
神奈川(武蔵国)奉行 | 6,187.78250 | ||||
伏見奉行 | 4,320.000 | 4,494 | 5,000 | 5,166.68200 | 5,174.96700 |
佐渡奉行 | 130,433.000 | 130,952 | 132,512.66600 | 132,572.37700 | |
新潟(越後国)奉行 | 2,015.26218 | ||||
長崎奉行 | 3,435.000 | 3,435 | 3,400 | ||
代官・遠国奉行支配地合計 | 4,005,623.700 | 3,742,031 | 3,905,100 | 3,428,674.99764 | 3,323,330.67637 |
大名預所 | 739,025 | 577,800 | 763,366.31504 | 752,411.43166 | |
関東筋 | 12,700 | 44,551.89540 | |||
畿内筋 | 42,272 | 255,800 | 106,465.51481 | 83,296.10637 | |
海道筋 | 59,909 | 30,400 | 70,710.78082 | 70,710.78082 | |
北国筋 | 397,955 | 123,700 | 254,358.19707 | 256,785.96562 | |
奥羽筋 | 180,207 | 103,500 | 170,964.18122 | 166,818.83083 | |
中国筋 | 34,273 | 23,300 | 111,829.02950 | 103,141.17024 | |
西国筋 | 24,409 | 28,400 | 49,038.61162 | 27,106.68238 | |
総石高 | 4,481,056 | 4,482,900 | 4,192,041.31268 | 4,075,742.10803 |
関連語
- 領分(藩)(約2250万石) - 諸大名が領有する地域(大名領)。石高1万石以上の武家領。
- 知行所 - 旗本が領有する地域(旗本領)。石高1万石以下の武家領。
- 禁裏御料(約10万石) - 皇族領・公家領。皇族および公家が領有する地域。
- 朱印地・黒印地(約40万石) - 有力な寺社が領有する地域(寺社領)。
- 人名地 - 人名(にんみょう:人名株により幕府より自治権を認められた者)による自治地域。
幕末の天領
テンプレート:節stub 地方区分は現代のもの。人名は代官を務めた旗本。
北海地方
いずれも箱館奉行の「御預所」。戊辰戦争(箱館戦争)後の令制国および郡をカッコ内に記す。
- 東蝦夷地(千島国)
- 東蝦夷地(根室国)
- 仙台藩警固地 - 根室場所付島々(花咲郡の島嶼部)
- 東蝦夷地(釧路国)
- 東蝦夷地(日高国)
- 東蝦夷地(胆振国)
- 和人地(胆振国)
- 北蝦夷地(樺太)
- 西蝦夷地(北見国)
- 西蝦夷地(石狩国)
- 和人地(後志国)
- 和人地(渡島国)
東北地方
戊辰戦争(東北戦争)後の令制国をカッコ内に記す。
関東地方
- 常陸国
- 上野国
- 下野国
- 下総国
- 上総国
- 安房国
- 武蔵国
- 松村忠四郎 - 豊島郡52村、荏原郡72村、足立郡7村、多摩郡83村、久良岐郡11村、橘樹郡78村、都筑郡38村、埼玉郡14村、比企郡14村、高麗郡55村、入間郡67村、大里郡4村、新座郡19村、幡羅郡3村
- 佐々井半十郎 - 豊島郡14村、足立郡114村、葛飾郡202村、埼玉郡38村
- 大竹左馬太郎 - 豊島郡17村、足立郡176村、葛飾郡6村、埼玉郡90村
- 大河内金兵衛 - 足立郡1村
- 福田所左衛門 - 足立郡2村、埼玉郡1村、大里郡2村
- 小笠原甫三郎 - 葛飾郡70村、埼玉郡11村
- 韮山代官所(江川太郎左衛門) - 多摩郡159村、久良岐郡5村、比企郡4村、入間郡3村、榛沢郡1村、横見郡1村
- 古賀一平 - 橘樹郡2村、都筑郡1村
- 荒井清兵衛 - 埼玉郡1村
- 平岡忠次郎 - 埼玉郡1村
- 木村飛騨守 - 埼玉郡21村、比企郡15村、男衾郡25村、入間郡5村、榛沢郡23村、児玉郡5村、秩父郡23村、那賀郡2村、横見郡12村、大里郡2村、賀美郡8村、幡羅郡9村
- 大岡忠四郎 - 榛沢郡1村
- 中山誠一郎 - 榛沢郡1村
- 伊奈半左衛門 - 榛沢郡1村、児玉郡2村
- 川田玄蕃 - 児玉郡1村
- 大音竜太郎 - 賀美郡1村
- 神奈川奉行 - 久良岐郡1村
- 神奈川奉行預所 - 久良岐郡11村、橘樹郡13村
- 相模国
北陸・甲信地方
東海地方
近畿地方
- 伊勢国
- 大和国
- 近江国
- 山城国
- 摂津国
- 河内国
- 小堀数馬 - 錦部郡4村、石川郡1村、河内郡8村、讃良郡8村、若江郡17村
- 内海多次郎 - 石川郡5村、古市郡2村、讃良郡1村、丹南郡10村、丹北郡1村
- 木村惣左衛門 - 石川郡10村
- 石原清一郎 - 石川郡1村
- 多羅尾民部 - 古市郡1村、安宿部郡1村、讃良郡1村、茨田郡16村、交野郡1村、若江郡3村、渋川郡7村、志紀郡1村、丹南郡7村、丹北郡2村
- 多羅尾織之助 - 大県郡2村、讃良郡1村、茨田郡21村、若江郡8村、渋川郡7村、志紀郡1村
- 多羅尾久右衛門 - 讃良郡2村、茨田郡6村、交野郡1村、渋川郡1村、丹北郡4村
- 斎藤六蔵 - 茨田郡4村
- 多羅尾主税 - 讃良郡16村、茨田郡11村、丹北郡3村
- 石原清左衛門 - 茨田郡1村
- 山崎彦九郎 - 若江郡1村
- 宇都宮藩預所 - 志紀郡1村、丹北郡3村
- 高槻藩預所 - 茨田郡6村
- 和泉国
- 丹波国
- 丹後国
- 播磨国
中国地方
四国地方
九州地方
脚注
- ↑ (a) 村上直, 「江戸幕府直轄領の地域的分布について」, 『法制史学』, (25), pp. 1-17 (1973). (b) 村上直, 「江戸後期, 幕府直轄領の地域分布について」, 『法制史学』, (34), pp. 60-74 (1982).
参考文献
- 村上直, 『天領』, 人物往来社, 1965年.
- 村上直, 荒川秀俊, 『江戸幕府代官史料』, 吉川弘文館, 1980年.
- 和泉清司, 『徳川幕府領の形成と展開』, 協友社, 2011年.
- 旧高旧領取調帳データベース