ブドウ
テンプレート:生物分類表 ブドウ(葡萄、学名 Vitis spp.)は、ブドウ科 (Vitaceae) のつる性落葉低木である。また、その果実のこと。
目次
概要
葉は両側に切れ込みのある15 - 20cmほどの大きさで、穂状の花をつける。野生種は雌雄異株であるが、栽培ブドウは一つの花におしべとめしべがあり、自家受粉する。このため自家結実性があり、他の木がなくとも一本で実をつける。果実は緑または濃紫で、内部は淡緑であり、房状に生る。食用部分は主に熟した果実である。食用となる部分は子房が肥大化した部分であり、いわゆる真果である。外果皮が果皮となり、中果皮と内果皮は果肉となる。果実のタイプとしては漿果に属する。大きさは2 - 8cm程度の物が一般的である。ブドウの果実は枝に近い部分から熟していくため、房の上の部分ほど甘みが強くなり、房の下端部分は熟すのが最も遅いため甘味も弱くなる。皮の紫色は主にアントシアニンによるものである。甘味成分としてはブドウ糖と果糖がほぼ等量含まれている。また、酸味成分として酒石酸とリンゴ酸が、これもほぼ等量含まれる。
ブドウ属の植物は数十種あり、北米、東アジアに多く、インド、中東、南アフリカにも自生種がある。日本の山野に分布する、ヤマブドウ、エビヅル、サンカクヅル(ギョウジャノミズ)もブドウ属の植物である。
現在、ワイン用、干しぶどう用または生食用に栽培されているブドウは、ペルシアやカフカスが原産のヴィニフェラ種 (V. vinifera, common grape vine) と、北アメリカのラブルスカ種 (V. labrusca, 英: fox grape)で ある。
米がうるち米(食用)・酒米(酒造用)があるように、ブドウにも食用ブドウと酒造用ブドウがあり、食用はテーブルグレープ(table grapes)、酒造用はワイングレープ(wine grapes)と呼ばれている。
栽培法
ブドウは温帯の農作物で、平均気温が10度から20度程度の地域が栽培適地である。北半球では北緯30度から50度、南半球では南緯20度から40度の間に主要産地が存在する。最適の降水量は品種によって差があり、ヨーロッパブドウは一般に乾燥を好み、アメリカブドウは湿潤にも強いが、種全体としてみれば年間降水量が500㎜から1600㎜あたりまでに主要産地が存在する。ブドウは水はけがよく日当たりが良い土地を好む。ほかの果樹と同様、ブドウも種子から育てると質の良い果実ができにくく、また枝を土に挿すと容易に根を生やすため、古来から挿し木によって増やされてきた。しかし、19世紀後半に根に寄生するフィロキセラによって大打撃を受けたため、以後は害虫予防のために台木を使用することが一般的となった。
木の仕立て方には、垣根のように垂直の木を直列に木を並べる方法と、棚を仕立ててブドウのつるを這わせる方法の二つが主要な方法となっている。ヨーロッパなどのブドウ園では垣根式が多いが、日本では棚式が主流となっている。
収穫期は品種によって差があるが、日本においては最も早いデラウェアが7月下旬から収穫が始められ、最も遅い品種は11月上旬まで収穫される。また、ハウス栽培の場合はこれよりも早くなる。
歴史
テンプレート:Main ブドウの栽培化の歴史は古く、紀元前3000年ごろには原産地であるコーカサス地方やカスピ海沿岸ですでにヨーロッパブドウの栽培が開始されていた。当初よりワインとの関連が深く、メソポタミア文明や古代エジプトにおいてもワインは珍重されていた。メソポタミアでは気候や土壌的にブドウの栽培が困難なため、多くは輸入されたものであった[1]。古代ギリシアではワインのためのブドウ栽培が大々的に行われ、ギリシア人が植民した地域でもブドウ園が各地に開設されるようになった。ギリシアを支配したローマ帝国の時代にはワインは帝国中に広まり、そのためのブドウ栽培も帝国各地で行われるようになった。特にガリアやラインラントにローマ人はブドウを導入し、現在でもこの地域はブドウの主要生産地域となっている。ローマ帝国崩壊は政治の混乱によってブドウ栽培は衰退していったが、各地の修道院などによって生産は少量ながら維持され続け、やがて政情が安定するとともに再び栽培が盛んとなっていった。11世紀から13世紀にかけては気候が温暖となり、イングランドのような北方の国家においてもブドウの栽培が盛んとなり、現ベルギーのルーヴァンなどでも輸出用のワインを作るためにブドウ栽培なども行われていた。しかし14世紀ごろから気候が寒冷化した上に輸送費が下落して、ブドウの栽培地域はしだいに南方へと限られるようになっていった[2]。
一方、原産地から東へと伝播したものは、紀元前2世紀には中国に到達した。
大航海時代がはじまり、各地にヨーロッパ人が植民するようになると、移民たちは故郷の味を求め、ワインを製造するために入植先にブドウを植えていった。南アフリカのケープ州やチリなど、この時期に持ち込まれたブドウ栽培が成功してワインの名産地となった地域も多い。北アメリカ大陸にもヨーロッパブドウが持ち込まれたが、ここでの栽培は当初あまり成功しなかった。これは、ブドウのもう一つの主要系統であるアメリカブドウに属する野生種が北アメリカ大陸東部には多くあり、フィロキセラ(後述)などのアメリカブドウの病害が免疫のないヨーロッパブドウに大被害を与えたためである。アメリカブドウはすでにネイティブ・アメリカンが活発に利用しており、やがてヨーロッパ系の植民者たちも野生種の中から有望な種を選抜して栽培種化していった。しかし、アメリカブドウには独特の香りがあり、ワインにするには不向きであったため、アメリカブドウは主にジュース用として発展していった。
アメリカでワインを生産するため、ヨーロッパブドウをアメリカで育てるために様々な試みがおこなわれた。病害に強いアメリカブドウとヨーロッパブドウを掛け合わせた雑種を作るやり方も盛んに行われたが、ワイン用としては一部を除いてヨーロッパブドウを越えることができず、次第にすたれた。一方で生食用品種では巨峰やピオーネなど有望種がいくつも生まれている。もう一つの方法として、病害に耐性を持つアメリカブドウを台木としてヨーロッパブドウを接ぎ木する方法が19世紀後半に開発され、これが主流となった。
北アメリカ原産のブドウはフィロキセラ(Phylloxera、ブドウネアブラムシ)に対する耐性を持つが、1870年頃に北アメリカの野生ブドウの苗木がヨーロッパにもたらされ、この根に寄生していたフィロキセラによって、耐性のないヨーロッパの固有種の殆どが19世紀後半に壊滅的な打撃を受けた[3]。以後フィロキセラ等による害を防止するの理由で、ヨーロッパ・ブドウについては、アメリカ種およびそれを起源とする雑種の台木への接ぎ木が行われている[4]。
日本で古くから栽培されている甲州種は、中国から輸入されたヨーロッパブドウの東アジア系が自生化して、鎌倉時代初期に甲斐国勝沼(現在の山梨県甲州市)で栽培が始められ、明治時代以前は専ら同地近辺のみの特産品として扱われてきた[5](ヤマブドウは古くから日本に自生していたが別系統にあたる)。文治2年(1186年)に甲斐国八代郡上岩崎村の雨宮勘解由によって発見され、栽培がはじまったとされる。甲州の栽培は徐々に拡大し、正和5年(1316年)には岩崎に15町歩、勝沼に5町歩の農園ができていた[6]。江戸時代に入ると甲府盆地、特に勝沼町が中心となり、甲州名産の一つに数えられるようになった。松尾芭蕉が「勝沼や 馬子も葡萄を食ひながら」との句を詠んだのもこのころのことである。正徳]6年(1715年)の栽培面積は約20haに上った。その後、関西や山形でも栽培がおこなわれるようになり、江戸時代末期には全国で約300haにまで栽培面積は拡大していた[7]。日本にあった在来の品種は甲州だけではなく、甲府盆地で栽培された甲州三尺や、京都周辺で栽培されていた聚楽といった品種も存在していたが、聚楽はすでに消滅し、甲州三尺の栽培も少なくなってきている。
その後、明治時代に入ると欧米から新品種が次々と導入されるようになった。当初はワイン製造を目的としてヨーロッパブドウの導入が主に行われたが、乾燥を好むものの多いヨーロッパブドウのほとんどは日本での栽培に失敗した。例えば、1880年(明治13年)に兵庫県加古郡印南新村(現 稲美町)にて国営播州葡萄園が開園したが、わずか6年後に閉園に追い込まれた[8]。一方アメリカブドウの多くは日本の気候に合い定着したものの、ワイン用としてはにおいがきつく好まれなかったため、生食用果実の栽培に主眼が置かれるようになっていった。とくに普及したのはデラウェアとキャンベル・ア-リーであり、戦前はこの2品種が主要品種となっていた。昭和10年には8000ha近くまで栽培面積が拡大したものの、第二次世界大戦によって一時急減し、昭和21年には生産量が戦前の半分にまで減少したものの、昭和30年には戦前の水準に回復した。
利用
果実は、そのまま生食されるほか、乾燥させてレーズンに、また、ワインやブランデーなどのアルコール飲料、ジュース、ジャム、ゼリー、缶詰の原料となる。世界的にはワイン原料としての利用のほうが主である。ワインを原料とした酢(ワインビネガー)も製造される。
ワインを製造する地域では、残った種子を搾油の原料としてグレープシードオイルが製造される。また、種子にはプロアントシアニジンという成分が含まれ、健康食品用などに抽出も行われている。
紫色をした皮にはアントシアニンなどのポリフェノールが豊富に含まれており、赤ワインやグレープジュースにも多い。絞った後の皮などの滓は、肥料として処理することが多い。
葉も可食であり、西アジアを中心とする地域の料理ドルマの材料に用いられる。
特殊な利用法として、ブドウの実に大量に含まれる酒石酸から酒石酸カリウムナトリウム(ロッシェル塩)を製造することができる。ロッシェル塩は強誘電体であり、圧電素子としてかつてはよく利用された。日本では第二次世界大戦末期には通信機器用の軍需物資として注目され、ブドウ園から原料が大量に集められた[9]。しかし湿気に弱いという欠点があったため、現在ではより優れた特性を持つほかの物質によって代替され、この目的で使用されることはなくなった。
生産
世界
2004年のブドウの総生産量は6657万tであり、バナナ(1億394万t)、かんきつ類(1億273万t)に次いで生産量が多い果物である。1980年代前半までは世界で最も生産量の多い果物であったが、生産量は20世紀中盤からほぼ横ばいで、20世紀に入り生産量の急増したバナナやかんきつ類に抜かれ、さらに同じく生産量の急増しつつある4位のリンゴ(6192万t、2004年)に追いつかれつつある。国際連合食糧農業機関によると、世界のブドウ園の総面積は75,866㎞2にのぼる。世界のブドウ生産量のうち71%がワイン生産用、27%が生食用に使用され、残りの2%はレーズン生産用である。世界最大のブドウ生産国は中国であり、ついでイタリア、アメリカ、スペイン、フランスと続く。
国 | 面積 (km²) |
---|---|
スペイン | 11,750 |
フランス | 8,640 |
イタリア | 8,270 |
トルコ | 8,120 |
アメリカ合衆国 | 4,150 |
イラン | 2,860 |
ルーマニア | 2,480 |
ポルトガル | 2,160 |
アルゼンチン | 2,080 |
チリ | 1,840 |
オーストラリア | 1,642 |
アルメニア | 1,459 |
レバノン | 1,122 |
国 | 生産量 2009年 (トン) |
‡ | 生産量 2010年 (トン) |
‡ | シェア 2010年 |
---|---|---|---|---|---|
中華人民共和国 | 8,039,091 | 8,651,831 | 12.67% | ||
イタリア | 8,242,500 | 7,787,800 | 11.40% | ||
アメリカ合衆国 | 6,629,160 | 6,220,360 | 9.11% | ||
スペイン | 5,573,400 | 6,107,200 | 8.94% | ||
フランス | 6,104,340 | 5,848,960 | 8.56% | ||
トルコ | 4,264,720 | 4,255,000 | 6.23% | ||
チリ | 2,500,000 | (F) | 2,755,700 | (I) | 4.03% |
アルゼンチン | 2,181,570 | 2,616,610 | 3.83% | ||
インド | 1,878,000 | 2,263,100 | (I) | 3.31% | |
イラン | 2,255,670 | 2,255,670 | 3.30% | ||
10カ国総計 | 67,901,744 | (A) | 68,311,466 | (A) | 100% |
- ‡ 脚注:
- 無印 = 公式データ
- (A) = 5月データ、公式データ、半公式データ、、推計を含む
- (F) = FAO推計
- (I) = 理論に基づくFAOの推計
注釈: この数字はブドウ生産量上位10か国の総計であり、世界の総生産量ではない。この10か国の生産量は2010年には世界のブドウ生産量の71.38%を占めている。
日本
2010年の日本のブドウ生産量は18万4800tであり、果物ではウンシュウミカン、リンゴ、ナシ(ニホンナシ)、カキに次いで5位の生産量である。昭和時代の末期には30万tを記録していたが、以後は年々微減する傾向にある。栽培面積も同様に、昭和54年、55年の30300haを頂点として減少傾向にある。県別では山梨県が最大の産地で、2010年には45100tの生産があり、国内生産量の24%を占めた。以下、2位の長野県が23900t(13%)、3位の山形県が19700t(11%)、4位の岡山県が15100t(8%)、5位の福岡県が9150t(5%)となっている[11]。日本は南西諸島を除くほぼ全域がブドウの適地であるため、北海道から九州までの広い範囲においてブドウが生産されている。世界ではワイン生産用が7割を占め非常に多いのに比べ、日本では生食用が9割近くを占め、ワインやブドウジュース、菓子などの加工用は1割弱に過ぎない[12]。また、輸出は全くないが、年間10,000tあまりが輸入されている。
品種的には、日本で最も栽培されている品種は巨峰であり、2010年度には5465haで栽培されていた。ついでデラウェアが2967ha、ピオーネが2430ha、キャンベルアーリーが655ha、ナイアガラが513ha、マスカットベリーAが406ha、スチューベンが377ha、甲州が316haと続く[13]。昭和45年ごろにはデラウェアが栽培総面積の36%を占め、ついでキャンベルアーリーが26%、甲州10%であったが、昭和40年代後半より巨峰の栽培技術が確立すると急速に栽培面積を拡大し始め、1994年には巨峰の栽培面積がデラウェアを抜いた。平成に入ってからはピオーネも急速に栽培を拡大させている。デラウェアは昭和35年の無核化技術の開発によって栽培が拡大したものの、粒が小さいため近年では栽培が減少傾向にある。キャンベルアーリーや甲州は戦前からの主要品種であったが、新品種の開発によって栽培面積は漸減傾向にある[14]。
分類
ブドウ属
ブドウ属 (Vitis) には、主に次のような種がある。
西アジア種群
- ヨーロッパブドウ(European grape、学名 ヴィティス・ヴィニフェラ Vitis vinifera)
- 中近東が原産であるとされる。ヨーロッパに自生する唯一の種である。乾燥した気候とアルカリ性の土地によく育ち、フィロキセラ耐性が無い。雨にも寒さにも弱い。皮が薄く果汁が多く、実は柔らかい。最古の栽培ブドウ種であり、ワイン製造に適している。逆に、加熱すると異臭を発するためにジュース製造には向かない。ヨーロッパ・ブドウはワイン製造とともに拡大していったが、この過程でワイン製造に不向きな在来種が淘汰され、ヨーロッパや西アジアにはこの種しか残っていない。逆に、ブドウ酒を生産することのほとんどなかった日本や東南アジアにおいてはヨーロッパブドウは他の種を淘汰することはなく、後述の野生各種が残存することとなった。
- ヨーロッパブドウは1種しか存在しないが、伝播の方向によって西洋系、黒海系、東洋系の大きく3つの品種に分けられるようになった。西洋系品種にはカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールといったワイン用の主要品種が含まれている。東洋系品種は西南アジア亜系とカスピーカ亜系に分かれ、甲州はカスピーカ亜系に属する。
北米種群
- アメリカブドウ(Fox grape、学名 ヴィティス・ラブルスカ Vitis labrusca)
- 北アメリカを原産とする種のひとつ。湿った気候でよく育ち、ヨーロッパ種よりも寒さにも強い。耐病性も強い。この系統の品種は独特の香りを持ち、それに由来する香りのワインを、(特にヨーロッパの)ワインの専門家は「フォクシー (Foxy)」と形容し忌み嫌う。逆に、ヨーロッパブドウと比べてジュース製造には向いている。もともとは北アメリカ大陸東部の野生種をヨーロッパ人植民者が選抜して栽培化したもので、栽培種としての歴史は200年ほどしかない。なお、1種しかないヨーロッパブドウと異なり、アメリカブドウはラブルスカ種のほかにも約30種が存在する[15]。
東アジア種群
- ヴィティス・アムレンシス (V. amurensis)
- アジアを原産とする種のひとつで、朝鮮半島、中国東北部、ロシアに自生する。寒さに強い。和名はチョウセンヤマブドウまたはマンシュウヤマブドウ。中国名は山葡萄。本種は当初北海道に自生していると考えられていたため、北海道で醸造されている「アムレンシス・ワイン」の原料は北海道産アムレンシス種だとされていた。しかし、その後、アムレンシス種の北海道での自生は誤認だとわかり、アムレンシス・ワインの原料はヤマブドウの1系統かタケシマヤマブドウVitis coignetiae var. glabrescensだと考えられている。
- ヴィティス・コワネティー (V. coignetiae)
- サハリン島(ロシア)、南千島、日本列島(北海道、本州、四国)、鬱陵島(うつりょうとう)(韓国)に自生する[16]。和名はヤマブドウで、上記アムレンシスと同じく寒さに強い。北海道では平地で普通に見られるが、東北地方では低山地、関東以西では高山地に自生し、四国にも分布するが、現在のところ九州地方での自生は確認されていない[17]。東北地方[18][19]、信州[20]、岡山[21]などでは、ヤマブドウワインが造られている。
- ヴィティス・シラガイ (V. shiragai)
- 岡山県・高梁川流域の限られた地域に自生する野生ブドウで、和名はシラガブドウ。自生地での個体数が減少していて、絶滅が危惧されている。アムレンシスと同種とする分類学者もいるが、アムレンシスは寒冷地に自生するのに対し、シラガブドウは温暖な地域に自生することから生態的相違点が大きいので、全くの別種であると考えた方が合理的である。和名および学名は植物分類学者牧野富太郎が、情報を提供してくれた白神寿吉に因んで命名した。
その他、クマガワブドウ、アマヅル、リュウキュウガネブ、ヨコグラブドウ、ケナシエビヅルなど、日本では15種類の野生ブドウの自生が確認されている。また、アジア大陸には中国を中心に、約40種の野生ブドウが確認され、日本の野生ブドウと同種または近縁種も確認されている。
ヨーロッパ・ブドウの台木に使われるブドウの原種
全て北米原産でヨーロッパ・ブドウと違ってどれもフィロキセラ耐性を持つ。
- ルペストリス種 (V. rupestris)
- 台木の品種の一番基本になる種。砂地に生えるため比較的乾燥に強く、交雑や繁殖が容易である。
- リパリア種 (V. riparia)
- 川の土手に生える("ripa" とはラテン語で川の土手の意)。そのため湿った土地で良く育つ。酸性土を好む。繁殖は容易。
- Berlandieri 種 (V. berlandieri)
- 石灰岩の丘に生えることから、アルカリ性の土壌を好むとされる。繁殖は難しい。
- Champini 種 (V. champini)
- ルペストリス種と V. mustagenesis の天然の雑種と考えられている。強い (Root-knot) ネマトーダ耐性を有する。繁殖は難しい。
マスカダイン属
ブドウ属に含められる場合もあるが、形態や染色体の数等の違いから、一般に別の属 (Muscadinia) とされる。2–3種が属す。
- マスカダイン(Muscadine、学名 ムスカディニア・ロトゥンディフォリア Muscadinia rotundifolia)
- 北アメリカを原産とする種のひとつで、アメリカ合衆国南部の亜熱帯から熱帯の地域で栽培される。温暖湿潤な気候と酸性土壌を好む。ヨーロッパ・ブドウと異なりフィロキセラに対する免疫を持ち、他の病害に対しても強い耐性を持つ。しかしヨーロッパ・ブドウと接ぎ木も交雑も困難なことから、ワイン用ブドウの栽培にはほとんど利用されない。栽培品種の育種は、両全花を持つ次のスカッパーノンの発見により飛躍的に向上した。アメリカでは通常、房ではなく粒単位で売られる。マスカダインの皮は、普通のブドウよりも厚みがあり、芳醇な香りで甘い。果皮色は紫、緑、銅色の3種類に分けられ、生食以外に加工(ジュース、デザート・ワイン、ゼリー等)に用いられる。
- スカッパーノン(Scuppernong)
- マスカダインの1品種で、アメリカ合衆国南部の亜熱帯から熱帯の地域で栽培される。色は、緑で温暖湿潤な気候と酸性土壌を好む。普通のブドウよりも一粒一粒が丸い。名前の由来は、ノース・カロライナ州にあるScuppernong Riverから来ている。17世紀にアメリカ開拓者たちがスカッパーノン川周辺で発見し、その後、栽培促進された。名前の由来をさらに辿ってみるとアメリカ先住民のアルゴンキン族の言葉「アスコポ」からきており、意味は「甘い月桂樹」である。
品種
ブドウ品種の一覧も参照。また、ワイン用品種についてはワイン用葡萄品種の一覧項がある。
- カルディナル
- 甲州日本最古の品種で、平安時代末期に栽培が開始された。現在でも甲府盆地を中心に栽培されている。生食用のほか、日本における白ワインの主要原料ともなっている。
- 巨峰・種無し巨峰 1945年に大井上康によって開発された日本産の欧米雑種。大粒で味がよく、日本で最も栽培されている品種である。
- 藤稔
- 紫玉
- 紫苑
- ピオーネ 1973年に井川秀雄によって開発された欧米雑種。大粒で味がよく、日本では3番目に栽培が多い品種である。
- あづましずく
- ナガノパープル
- 高妻
- 紅瑞宝
- 紅伊豆
- 多摩ゆたか - 芦川考三郎によって作出された緑系ブドウ。
- 安芸クイーン
- 竜宝
- ゴルビー
- ブラック・コリンス レーズン用主要品種の一つ。
- コールマン - コーカサス地方原産の黒系ブドウで、正式名はグロー・コールマン。日本では冬(11月から1月頃)に収穫される。
- コンコード - おもに加工用に使用され、赤いグレープジュースの主要原料である。
- シナノスマイル
- ブラックオリンピア
- オーロラブラック
- シャスラ
- レッドグローブ(Red Globe)
- リビエラ(Ribier)
- クリムゾン・シードレス(Crimson Seedless)
- トムソン・シードレス(Thompson Seedless)レーズン用の主要品種である。
- サルタナ(Sultana) - レーズンで有名。トムソン・シードレスと同一種とされる。
- マスカット・オブ・アレキサンドリア(Muscat of Alexandria)古い品種で、香りがよく世界各地で栽培される。日本でも温室にて栽培される。生食用のほか、レーズン用の主要品種ともなっている。
- マスカット・ベーリーA(Muscat Bailey A)
- シャインマスカット
- ルビーロマン
- ルーベルマスカット
- 紅マスカット
- 翠峰
- デラウェア 日本で2番目に多く栽培されている品種。小粒だが味がよく、戦前からの主要品種であった。ジベレリン溶液による種無し処理がはじまった品種である。
- キャンベル・アーリー(Campbell Early) 戦前からの主要品種であるが、1970年代から栽培面積が激減した。
- 瀬戸ジャイアンツ(桃太郎ブドウ)
- ナイアガラ
- ポートランド
- スチューベン (Stuben)
- 旅路(タビジ)
- 甲斐路(カイジ)
- ピッテロビアンコ
- ロザリオビアンコ (Rosario Bianco)
- ロザリオロッソ (Rosario Rosso)
など。
種無しぶどう
植物ホルモンを利用した方法で、ホルモンの作用により果実内部の種を形成させない方法である。
1970年頃からはジベレリン水溶液が使用されているが、近年ではサイトカイニン水溶液を添加することにより処理時期が拡大している。
デラウェアなどの小粒種が主であるが、最近では技術の向上により巨峰などの大粒種にも種無しが現れている。種が無い為、種有りに比べ脱粒しやすい。また、収穫時期は種有りに比べて早まる。なお、ジベレリン水溶液は元々無色透明であるが、ジベレリン処理をした果実を色で判別するために水溶液に食紅などを混ぜ着色している。ジベレリン溶液は本来は果実の成熟期を早めるために使用するもので、種無し化の効果が見つかったのは副産物である。
生産国
日本国内の主な産地
日本国外の主な産地
など。
脚注
注釈
出典
参考文献
関連項目
外部リンク
- ブドウ - 「健康食品」の安全性・有効性情報 (国立健康・栄養研究所)
- ブドウ(葡萄) 江戸時代の植物図鑑(長野電波技術研究所)
- ↑ 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典3 飲料・栄養素』 小林彰夫監訳 朝倉書店 2005年9月10日 初版第1刷 p.107
- ↑ 「中世ヨーロッパ 食の生活史」p44 ブリュノ・ロリウー著 吉田春美訳 原書房 2003年10月4日第1刷
- ↑ 中川 (2002)、pp.179-180.
- ↑ 中川 (2002)、p.183
- ↑ 中川 (2002)、p.131
- ↑ 「飲食事典」本山荻舟 平凡社 p536 昭和33年12月25日発行
- ↑ 「果物・野菜散歩」pp28-29 金沢大学大学教育開放センター 平成9年8月1日
- ↑ 播州葡萄園120年 稲美町教育委員会 2000
- ↑ 「ワインの科学」p70 清水健一 講談社 1999年1月20日第1刷
- ↑ http://faostat.fao.org/site/567/DesktopDefault.aspx?PageID=567#ancor Food And Agricultural Organization of United Nations: Economic And Social Department: The Statistical Division 国際連合食糧農業機関
- ↑ http://www.maff.go.jp/j/tokei/pdf/syukaku_ninasi_10.pdf#search='%E3%81%B6%E3%81%A9%E3%81%86+%E7%B5%B1%E8%A8%88' 農林水産統計 平成22年度日本なし、ぶどうの結果樹面積、収穫量及び出荷量 日本国農林水産省大臣官房統計部 平成23年3月18日公表 2012年12月11日閲覧
- ↑ 「果実の事典」p433 杉浦明、宇都宮直樹、片岡郁雄、久保田尚浩、米森敬三編 朝倉書店 2008年11月25日初版第1刷
- ↑ http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001102429 「政府統計の総合窓口」内「果樹品種別生産動向調査」(ぶどう生食用) 2012年12月11日閲覧
- ↑ 「果物・野菜散歩」pp31-32 金沢大学大学教育開放センター 平成9年8月1日
- ↑ 「地域食材大百科第3巻 果実・木の実、ハーブ」p290 農文協 2010年8月25日第1刷
- ↑ 改訂版原色牧野植物大図鑑 REVISED MAKINO'S ILLUSTRATED FLORA IN COLOUR (ISBN4-8326-0400-7-C0645)
- ↑ ヤマブドウ 安定栽培の新技術と加工・売り方(P42-58)(社)奥山漁村文化協会 ISBN4-540-02124-9)
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