敬称
テンプレート:WikipediaPage テンプレート:出典の明記 敬称(けいしょう)とは、話者が相手や第三者に対して敬意、尊敬の念を込めて用いられる名前(人名)や肩書きの後ろに付ける接尾語、またはその語自体で相手や第三者を表現する代名詞である。後者の場合は、職名などで、一つの名詞としての機能を持っていて、独立して用いられる。
目次
解説
敬称の用途としては、一般的な会話のほか、郵便物や文書などの宛名の記載などに用いられる。日本語で敬称を付ける場合、その後に続く記述においても敬語を用いるのが標準的である(例えば、「天皇陛下は」と述べる場合は「出てきた」ではなく「お出ましになった」と書く)。
一方、相手をからかう場合に用いられることもあるが、敬語や丁寧語ほど相手に対する距離を置くという意図としては用いられない。
敬称とは反対に、相手を蔑んだり馬鹿にしたりする呼び方を蔑称と呼ぶ。
日本語の敬称
歴史
近世までの日本の敬称の特徴として、必ずしもそれに限定しないまでにも、皇族や公卿、将軍、大名やその一門に対しては、宮殿、御殿、城、館、屋敷など特定の建造物の名称をもって敬称することが多いのが特徴である。特に天皇、皇族、大臣、将軍の敬称として院、御所、大御所、「御所さま」「大御所さま」と敬称した。
大名も、殿様に代表されるように、御殿にちなんだ敬称で呼ばれることが多く、室町時代に成立した屋形号を免許された大名は、家臣から「屋形」、「屋形さま」「お屋形さま」と敬称されている(同音異義の「お館さま」「親方さま」ではない)。また、戦国大名の北条氏康は家臣より「御本城(ごほんじょう)さま」と敬称された記録もある。
これは身分の高い女性も同様であり、皇族の夫人には御息所などと称したように、将軍の正室には御台所(みだいどころ。現在の台所の語源)、大名の夫人には「廉中」「御廉中さま」「室」「奥方」「奥方さま」「裏方」「お屋敷さま」「御新造さま」と称し、また側室は「お部屋さま」、上﨟には「お局(つぼね)さま」などと称した。
また、公家の子弟を御室御所といい、将軍、大名の世子などは、それぞれ「小御所」、「新屋形さま」「若さま」「若殿さま」「御曹司」など当主に準じた敬称が一般的に用いられた。その他、世子、夫人問わず高貴な家系の一門には、「西の丸さま」「二の丸さま」などと住まう住居の名称を称する例もある。
現代
現代の日本語の敬称は敬意を表したい対象者の固有名詞の直後に付ける接尾詞型の敬称と、代名詞そのものに敬意が含まれる代名詞型の敬称の2種類に大別できる。また、日本語では、話者自身が属する組織の者には、敬称を付けない(話者の身内、所属会社の経営者など)。皇族が天皇を「陛下」、皇太子を「殿下」と、また力士が師匠を実の親であっても「親方」と呼ぶなどの僅かな例外がある(同格ではない)。また、報道などで複数の人名を列挙する場合、「(敬称略)」と断った上で敬称を付けない場合もある。
接尾詞型
- 様(さま)
- 相手を尊敬する意味で使用される。口頭でも文書でも使われ、どの場面でも用いることに違和感が少ない敬称である。病院の患者の名札では「様」の代わりに「殿」を用いることが多い(ただし、呼ぶときは「さん」)。
- マスメディアにおいて皇族(対象が年端もいかない乳幼児であっても)に対して使用されることも多いが皇室典範 第四章 第二十三条にあるように誤用である。マスメディア各社では特に、漢字表記の「様」ではなく平仮名の「さま」付けで表記するのが各社の内規で義務付けられている(例:「皇后さま」「皇太子さま」「三笠宮さま」「皇太子妃雅子さま」「秋篠宮妃の[1]紀子さま」「秋篠宮家の長男の悠仁さま」)が、日本共産党を始め天皇制廃止論を唱える個人・団体はこの敬称を“人に貴賎の等級をつけるもの”として嫌い、『赤旗』などの関連紙では敬称を付けず、総理大臣同様に表記する[2]。
- 書き言葉の場合、「様」という漢字にはいくつかの字形がある。「様」の字形を崩した美様、平様などがあるが、主に用いられたのは永様、次様、水様の3様である。永様は「樣」と書き、自分よりはるか目上の人物に用いられる。次様は「檨」(右下が次)と書き、自分より少し目上または同等の人物に用いられる。水様は現在一般的な「様」のことで、自分より目下の人物に用いられるが、現在ではこれが一般的であり、誰に対しても用いられるが、使い分けることが推奨されるテンプレート:要出典。
- 「さま」や「サマ」などのように仮名で書いた場合、親密度は増すが敬意はかなり落ちるので、相手を選んで用いる必要がある。一般的には漢字で書くのが無難である。
- 殿(どの)
- 主に書き言葉で用いられる。
- 事務連絡や公的文書においては、格の上下の区別なく用いられる。
- 役職名に続けて用いることがある(例:部長殿)。ただし「○○部長殿」のように「名前+役職名+殿」のように用いるのはこの場合の役職名は敬称である(後述)ことから二重敬語であり、誤りである。正しい使用方法は、「姓+部長」(口頭や通常の文書)か「××部長+姓名+殿」(形式張った文書)である。
- 私的文書においては、格下相手に対しての敬称として用いられることが一般的であり、格上や同格の相手に対して「殿」を使うと失礼とされることがあるので注意が必要である。
- 最近では、役所等から個人に送付される郵便物等の敬称が「殿」から「様」へと変えられつつある。これは、受け取った人に格下だという誤解や不快感を与えないよう配慮しているためである。逆に市民から役所(首長)に対しての文書では、“公務員は公僕”の観点により、常に用いられる(白地の申請書・届出書はすべて印刷済み)。最近は、「(宛先)○○市長 (公務員の氏名)」と敬称を付さない形式が増えている。
- 古くは、かなり身分の高い相手に対して用いられる敬称であった。平安時代の書物には「関白入道殿」といった表記が用いられている。
- さん
- 話し言葉では最も一般的な敬称で、主として名前の後ろに付けられるが、この場合は接尾辞と異なり、取外しが可能。また一定の距離がある相手、初対面で自分との関係が量れない相手の名前にも付ける。ビジネスの現場では、相手方の団体名に付けることも多い。
- 女子を表すことがある。
- 年長者の名前に付ける。ただしある程度親密な関係でない限り、年長の者が若年の者を呼ぶ場合もこれを用いる。
- 最も一般的な親族の呼称の接尾辞。「お父さん」「お母さん」など。
- ちゃん
- 幼児や子供に対して呼びかける語として、他の敬称と違って、名に多く用いられている語。
- 親族の呼称の接尾辞として幼児が用いたり、親しみをこめて用いる。この場合、一般的に高齢者に対して用いる比が大きい傾向がある。「おじいちゃん」「おばあちゃん」など。
- 幼なじみの親しい友人同士が大人になっても相手に対して用いる。この場合、あだ名の接尾辞であったり、名前の後半の一字を省略して接尾辞的に用い、分離不可能な語になっていることがある(『タッチ』での「タッちゃん」「カッちゃん」)。しばしば恋人同士や夫婦などでも用いられる。
- マスコミで子供に対して用いる。この場合は親しみやかわいらしさのために、名で呼ぶことが多い。小学校で男児は「君」に、女児は「さん」に言い替えるのが一般的である。マスコミによっては小学校入学前の子供にも「君」を用いることがある。
- 育児雑誌などでは女児に、また女性アイドルにも「ちゃん」を用いることで性別表記を省略している。
- 芸能界(芸能人ではなく制作関係者、いわゆるギョーカイ)でも姓にも付けて用いられる。年齢や立場による使い分けを省くため。
- 氏(し)
- 肩書きを別にして紹介する時に使用し、一般的に話し言葉ではあまり使われず、書き言葉または報告や報道といった改まった場面で用いる。主として男性に用いることが多かったが、現在では女性に対して用いることも多い。また、古風には「うじ」とも読むが(用法は同じ)、同様に通常ではほとんど使われない。
- トキワ荘系の漫画家(『まんが道』で描かれているほか、いしかわじゅんが手塚治虫から「いしかわ氏」と呼ばれたとエッセイコミックに書いている)やオタク(1980年代中盤の『ちょっとヨロシク!』で花田の友人達が用いているのが初期の例)が日常会話で用いる。
- 女史(じょし)
- 社会的地位のある女性に対して用いる。氏を男性だけに用いる場合、女性には女史が用いられることがある。中国語では女性に用いた場合、「女士」となる。男性への敬称は「先生」。現在は「看護婦」のような女性差別用語となるため、一般的に社会で使用されることはほぼ無くなった。
- 刀自(とじ)
- 年配の女性に敬意を込めて用いる。「刀自」単独でも名前に付けても用いられる。
- 君(くん)
- 名前の後ろに付けるのは、「さん」や「ちゃん」と同様である。
- 男子を表すことがある(学校教育で女子児童・生徒と区別するためによく用いられる)。
- 上司が部下に対して用いる。これは男性が用いることが多い傾向がある。
- 親しい年少者や男の子へ呼びかける語。特に報道やマスメディアでは未成年の男子によく使われる。
- 国会などでは、相手の年齢・実績にかかわらず用いられる(衆議院議長が土井たか子だった時や参議院副議長が山東昭子だった時などを除く。そのほかにも男女問わず「さん」付けを用いる議員や男性議員「君」付け・女性議員「さん」付けで使い分けている議員もいる)。
- 男性が女性に対して使う場合もある。グラビアアイドルなどの若手芸能人の例が有名。
- 育児雑誌などでは男児に、また男性アイドルにも「くん」を用いることで性別表記を省略している。
- 近年、青少年が少し年上の同級生や先輩に対して用いることもある。
- 嬢(じょう)
- 未婚女性に対して用いる。君を男子だけに用いる場合、女子には嬢が用いられることがある。
- たん、タン
- 「ちゃん」と同じであるが、萌えの対象とする人物(主に少女)にしばしば使われる。比較的新しい言葉で、まだ一般的な場面で使われるケースは少なく、現時点ではまだインターネットスラングの一つである。
- きゅん、キュン
- 「くん」と同じであるが、「たん」と同じく萌えの対象とする人物(主に少年)にしばしば用いられる。こちらも、現時点ではまだインターネットスラングの一つである。
- 卿(きょう)
- 日本では平安時代以降、江戸時代までの公卿に対する敬称(岩倉卿など)。また、華族制度があった時代における華族への敬称。現在では外国で爵位などを有する者に対して、とりわけイギリスにおける Lord の訳語として使われることが多い。
- Lord Lytton→リットン卿 (公爵以外の貴族。爵位名にLordが付く)
- Lord William Bentinck→ウィリアム・ベンティンク卿 (公爵・侯爵の長男以外の男子。姓名または名にLordが付く)
- 公(こう)
- 貴族や(古代の)大臣に対し使う。近世以降では、「忠犬ハチ公」のような愛称的な用例もある。近衛文麿や西園寺公望を「近衛公」「西園寺公」と呼ぶのは公爵の略で、男爵に対して「某男」、子爵には「某子」、伯爵には「某伯」、侯爵には「某侯」と、爵位に対応して同様の言い方があった[3]。
- 夫人(ふじん)
- 既婚女性に対して用いる。夫の社会的地位が高い場合に用いられることが多い。
- 御中(おんちゅう)
- 文書の宛先などで、相手が企業や官公庁、学校などの団体などの場合に用いる。
- 尊(そん)
- 仏教での信仰対象に対して用いる。日本仏教界では、信仰の創始者を釈尊(しゃくそん)と呼ぶ。釈尊(本名=ゴータマ)とは、出身部族であるシャカ(釈迦)族の尊い人とされている。「尊」には、古代から神や貴人の尊称である「みこと(命、尊)」の意味がある。このうち、仏教の信仰対象には阿弥陀三尊、不動尊、地蔵尊などと「尊」を使う。
代名詞型
- 君(きみ)
- 二人称代名詞。親称も参照。
- 男性が恋人や妻である女性に対して用いる呼称であり、独立して用いられる。
- 上司などが部下に、年長者が年少者に、女性が男性の年少者に用いる。
- 男性の年少者に対しては「キミ」と片仮名で表記することもある。
- 貴方、貴男、貴女(あなた)
- 女性が恋人や夫である男性に対して用いる呼称であり、独立して用いられる。
- 顧客や不特定多数の個人に対する呼称で独立して用いられる。「貴男」は男性にだけ、「貴女」は女性にだけ用いられる。
- 卿(けい)
- 同輩以下の人への呼び名。接尾詞型の卿(きょう)とは読み方が異なる。
- 貴官(きかん)
- 警察官、消防吏員、軍人その他官吏に対して使う。
- 貴職(きしょく)
- 何らかの職業にある者に対して使う。
- その他
- お父上、ご尊父(ごそんぷ)、お母上、ご母堂(ごぼどう)、ご一同様、お嬢様、ご子息(ごしそく)、奥様、ご主人
接尾詞型かつ代名詞型
- 各位(かくい)
- 複数の人の各々に対する敬称。相手が複数である場合に、相手の後ろに付けて用いる(例:道府県警察本部長各位(この場合は警視総監だけが別扱いで「殿」がつく)、広報担当者各位、報道関係者各位)。文脈によっては対象者を省略し単に「各位」のみで使う場合も多い。
- あくまでも複数の人の各々に対する敬称なので、使用には注意が必要である。個人を特定可能な場合には列記したり、各々ではなく団体宛ての場合には「御中」を利用するなどの考慮も必要である。
- 「各位殿」「各位様」という表現は、二重敬称にあたるため用いない。
- 主上(しゅじょう)・聖上(せいじょう)
- 天皇に対して呼びかける語。またはそれ自体が独立した呼称として用いられる(使われていたのは昭和天皇在位中まで。21世紀初頭の現在では宮内庁、それも内廷関係者以外ではあまり用いられない)。
- 令息(れいそく)・令嬢(れいじょう)
- 貴人の息子・娘。他人の子を敬っていう語。
- 同志(どうし)
- 思想を同じくする人に対し使う。主に共産党などの左翼の政党や政治団体の活動家、またソ連のコムソモール団員の間で(ロシア語ではタヴァーリッシ(товарищ))。
- ドイツ語の表現としては、一般的にはカメラート(Kamerad)、左翼系ではゲノッセ(Genosse)がある。前者は僚友や戦友、後者は利害を共にする仲間というニュアンスを持つ。
- かつての社会主義国家、改革開放前の中国では「同志」は一般的な呼びかけとしても機能していた(現在でも、政府の公文書等において用いられることがある)。
- 北朝鮮では目上の人に同志(トンジ 동지)、目下の人に同務(トンム 동무)[4]と使い分ける。
- 貴下(きか)
- 同輩以下の者(主に男性)に対する敬称。通常は書き言葉の書面上(手紙など)で用いる。
- 先生(せんせい) / 大先生(だいせんせい)
- 幼稚園や小・中・高等学校等の教諭、保育所の保育士、大学の教授などの教育者、医師、弁護士、公認会計士などの専門職、牧師などの宗教的教職者、その他、議員、作家、漫画家、棋士、講演会の講師に対しての呼びかけ語である一方、氏名の後ろにつける場合もある。これらの職業に該当する者は、年齢に関係なく先生と呼び合う。また、時代劇では用心棒に対しても使われる。なお、医師への手紙では「先生」の後に「御侍史(おんじし)」や「御机下(おんきか)」をつけ「○○先生御侍史(御机下)」とすることが多い。
「下」の付く敬称
高貴な人に直接話しかけることは失礼に当たるとされたことから、高貴な人のいる一定の場所のそばにいる取次ぎの人に間接的に呼びかけることで敬意を表す敬称が発生した。
- 陛下(へいか)
- 字義は「階段の下」。
- 天皇皇后、皇帝、王の敬称。該当項参照。
- 日本では天皇のみの敬称だったが、皇室典範制定後、后位(皇后・皇太后・太皇太后)の敬称としても採用された。
- 殿下(でんか)
- 字義は「宮殿・殿堂の下」。
- 皇太子以下王族皇族や皇帝に臣従する国王に対する敬称。該当項参照。訳語としては、欧州大陸の貴族やその親族に対する敬称としても用いられる。
- 妃殿下(ひでんか)
- 王族、皇族の男性の配偶者に用いられ、またはそれ自体が独立した呼称として用いられる。
- ただし、皇室典範第23條に定められているとおり、皇族への敬称は「陛下」、「殿下」の2種類しか存在しないことに留意すべきである。つまり、「妃殿下」は、それ自体が「敬称」ではなく、「『皇太子妃』殿下」、「『親王妃』殿下」、「『王妃』殿下」など「身位+敬称」の略である。
- 閣下(かっか)
- 字義は「高殿の下」。
- 身分や地位の高い人を敬って、その役職名の下に付けていう敬称。
- 貴族、大統領や首相、大使などの高位の官職、軍の高官などに用いられ、またはそれ自体が独立した呼称として用いられる(例:大統領閣下、参謀総長閣下)。
- もともと勅任官以上の者に用いた。現在では主に外交儀礼として大臣や(他国の)将軍などの官名・職名につけられる。また、訳語としては、英国などの貴族の爵位に付して用いることがある。閣下の敬称をつける際に、相手が博士の学位を有している場合は、官名、名前の下に博士閣下と呼称することもある(例:〜大統領●●博士閣下)。
- 聖下(せいか)
- 正教会の総主教、カトリック教会のローマ教皇に対して用いる訳語として他の「○下」を真似て作られた語。英語の"His Holiness"に対応。ただし、英語ではHis Holinessであっても、ダライ・ラマ法王は猊下とされ、ローマ教皇は猊下や台下とされることがある。日本政府は、モスクワ総主教について聖下を用いたことがあるが、ローマ教皇に対しては台下を使用している。
- キリスト教における最高位の聖職者に対する敬称。
- 猊下(げいか)
- 字義は「猊座(仏ないし高僧の座る座)の下」。
- 猊とは獅子(Lion)の別表記である。仏陀の説法を師子吼(ししく。師子は獅子に同じ)、説法の座を師子座という。また狻猊(さんげい)は龍の子(竜生九子)の内の獅子に似た一匹で、煙を好むため寺院の香炉の装飾の意匠にされ、転じて獅子座を「狻座」「猊座」とも言う。
- すなわち、猊下とは「師子座の下(=の側近の方)にまで申し上げます」の義。狻下(さんか)。
- 首座の聖職者の敬称。
- 主としてダライ・ラマ法王や宗教上の権威者に対して用いられる。またはそれ自体が独立した呼称として用いられる(例:法王猊下)。
- キリスト教では枢機卿など、仏教でいえば教主、門主、門跡、管長、僧正などに対して用いる(例えばダライ・ラマ猊下、浄土門主心譽康隆猊下、仁誉俊映猊下、願誉唯真猊下。ローマ教皇の場合には聖下を使う場合がある。このときは「Your( His )Holiness」が対応する)。日本では日蓮正宗のみが例外的に「上人猊下」の呼称を用いる。
- 座下(ざか)
- 字義は「座席の下」。
- 正教会における、総主教以外の主教(府主教・大主教・主教)に対する敬称。
- 台下(だいか)
- 字義は「高楼の下」。
- 高位の聖職者その他の貴人の敬称。
- 仏教で言えば教主、門主、門跡、管長、僧正、などに対して用いる(例えば、各大本山の門主、法主)。ローマ教皇に対する日本政府で用いる敬称(聖下の項を参照)
職業で用いる呼称(肩書き)
- 役職名(担当部署名などは付さない。また、長い場合には短縮形を用いることが多い)
- 大臣、長官、会長、理事長、社長、総裁、頭取、専務、常務、理事、本部長、局長、部長、課長、係長、所長、主幹、校長、委員長、議長、監督、主任など
- 階級名
- 大佐、軍曹、一佐、検事長、検事、警視正、消防監、警部、大将(「御大将」を略して「御大」とも)。
- 資格・職能を表す名称
- 弁護士、博士、教授、医師、建築士、税理士、運転士、判事、事務官など
- 選手
- スポーツに従事する者に用いられる。例外として野球の内野手たち(特に投手)のみ、担当するポジション名で表記されることも多い(外野手は異動があるので使われない)。
- 報道関係、特に試合に関する記事・ニュースではほとんど省略され、呼び捨てとなる。
- 関取(せきとり)
- 大相撲で十両以上に位置する力士の敬称。「○○(四股名)関」としても使用される。これに対し、幕下以下は「取的」とされ、さん付けで呼ばれる。一方、関脇(せきわけ)以上の三役は「関取」とはまず呼ばれず、「関脇」「大関」「横綱」と呼ばれる。
- 師匠
- 落語などのお笑い界では直接の師匠だけでなく、自分の師匠と同クラスの先輩(そこまでいかない先輩には「兄さん」「姉さん」などが用いられる)に対して用いられる。また、師匠の師匠クラスは「先生」と呼ばれることが多い。一方、大相撲では原則として「部屋の経営親方」を指し、たとえ師匠となった者より現役の力士が兄弟子でも、師匠と呼ばなければならない。
- 丈(じょう)
- 歌舞伎役者や大相撲の行司などに用いられる。
接頭辞型
敬称に準ずるもの
テンプレート:Seealso かつて犯罪者(被疑者)などは敬称を省くのが一般的だったが、人権意識の高まりから、報道では、被疑者については「容疑者」、被告人については「被告」、受刑者については「受刑者」、死刑の言渡しを受けて拘置される者については「死刑囚」などの語を敬称に類似するものとして用いている。役職にあったものの場合は肩書を代わりに用いることもある。また、服役中のまま死亡したり、死刑が執行された後は「元受刑者(元服役囚)」「元死刑囚」という語が用いられる。
しかし、これらの呼称は敬意を表するものではないため、通常は敬称として認識されていないテンプレート:要出典範囲。
マスメディアにおいては、被疑者や被告人であっても、従前より一定の肩書きや地位が著名である場合や対象者の名誉に対して特別の配慮をする場合には、「容疑者」や「被告」といった肩書きは用いずに、異なる敬称を用いることがある。オウム真理教の村井秀夫「元幹部」、SMAPの稲垣吾郎「メンバー」、島田紳助「司会者」「所属タレント」、小泉今日子「タレント」、和泉元彌「狂言俳優」、中村獅童「歌舞伎俳優」、UVERworldのTAKUYA∞(本名・清水琢也)「ボーカル」、布袋寅泰「ギタリスト」、月亭可朝「落語家」、小室哲哉「プロデューサー」などがある(→報道におけるタブー#芸能プロダクションタブー)。
田中角栄がロッキード事件で逮捕された頃は被疑者・被告人は呼び捨てが普通だったが、マスコミではロッキード事件の記事の時は「田中」、それ以外の政治記事の時は「田中元首相」と表記していた。また、アメリカ同時多発テロ事件の首謀者であるウサマ・ビン・ラディンは、当初日本のマスコミは「ビンラディン氏」と呼称していたが、彼がビデオ声明で自分が首謀者だと表明した後は「ビンラディン容疑者」と呼称を変えた。なお、当初から呼び捨てにしていたメディアも存在する。
他の言語の敬称
欧米の言語
代名詞型
欧米の言語においても、英語以外の印欧語の多くは二人称に親称と敬称をもつものが多い。
- 他の人称代名詞を二人称単数の敬称として用い、区別のため語頭を大文字にする例が多い。
- ドイツ語:sie(三人称単数女性、三人称複数) / Sie(二人称敬称)
- イタリア語:lei(三人称単数女性) / Lei(二人称単数男女敬称)- 文法上は両者とも第三人称単数扱い。
- フランス語:vous(二人称複数)を二人称単数の敬称として用いる。
- ロシア語:Вы(二人称の複数)を二人称単数の敬称として用い語頭を大文字にする。
- 英語のyouも歴史的には二人称複数であり、二人称単数のthouに対する敬称として用いたものである。
- スペイン語:usted(二人称単数男女敬称)ustedes(二人称複数男女敬称)/ tú(二人称単数男女親称)vosotros(二人称複数男性親称)vosotras(二人称複数女性親称)
接頭詞型
英語
以下のような敬称があるが、多くは書き言葉(文書)で使われ、現在会話ではサービス提供者が利用客に対して使う場合や、目上の人に対して使う場合以外ではあまり使われない。日本で良く使われる「〜さん(様)」「〜氏」に相当する直接的な言い回しは英語にはなく、肩書きか、氏名を言う場合は通常は呼び捨てにされる。映画などで上司が部下に対して"Mr."、"Miss"を使い、日本語で「〜君」と訳される場合がたびたびあるが、昔はもっと広い範囲で敬称が使われていたためである。一般に同僚には敬称抜きで人名の短縮形を用いる。
英語では、たとえば電話で「This is Mr. Johnson」などと自分にも敬称をつけて名乗ることがあるが、これはDr.などの肩書の有無や女性の場合未婚(Miss)か既婚(Mrs.)を区別したり、ファーストネームと紛らわしい場合名字であることを示したりするためである。しかし近年、女性は未婚・既婚を区別せずMs.を使うことが多くなったこともあり、敬称をつけて名乗ることは少なくなり、日本語と同様に自分に敬称をつけると尊大な印象を与えると考える人もある。
- Lord(ロード)
- 男爵以上の爵位を持つ貴族(英国の貴族 Peerage)に用いる。例えば、正式にはAlfred Tennyson, 1st Baron Tennyson(アルフレッド・テニソン、初代テニソン男爵)である貴族は、Lord Tennyson(「テニソン卿」)と表記される。次項の Sir と異なり、Lord+爵位名で表記することに注意。
- Sir(サー)、Dame(デイム)
- ナイトの資格を持つか、准男爵に叙せられている者に対して用いる。サーは男性、デイムは女性。Sir (Dame) +ファーストネーム、もしくはSir (Dame) +フルネームで表記する(口頭での呼びかけは Sir (Dame) +ファーストネーム)。例えば、John (Patricia) Smith が、ナイトの資格を持つか、准男爵に叙せられている場合は、Sir John (Dame Patricia) または Sir John Smith (Dame Patricia Smith) と表記する。Sir (Dame) Smithとは表記しない。
- Dr.(ドクター)
- 学者、医師など。和訳は「先生」「博士」など。博士号を持つ者に対して Mr. や Ms. を使うのは不適当とみなされる。第47代米国副大統領ジョー・バイデンの妻ジル・バイデンは教育学の博士号を持つことから、公私において「ミセス・バイデン」ではなく「ドクター・バイデン」と呼ばれている。
- Prof.(プロフェッサー)
- 教授。高等教育機関において最上位にある者、またはそれに準ずる者(名誉教授)に与えられる称号。ドクターよりさらに高位とみなされる
- Mr.(ミスター)
- 男性に対して広く用いられる。和訳は「さん」「君」「氏」など。
- Miss(ミス)
- 未婚女性に対して用いる。和訳は「さん」「嬢」など。
- Mrs.(ミセス)
- 既婚女性に対して用いる。和訳は「さん」「夫人」など。
- Ms.(ミズ、ミス)
- 既婚・未婚を問わず女性に対して広く用いられる。上の2語が婚姻の有無で区別することから女性差別と受け取られることがあるためビジネスの場などで使われることが多い(ジェンダーフリー思想)。和訳は「さん」など。今日のアメリカではビジネスの場ではほとんどの場合女性には Ms. が使われ、その発音も「ミス」になっている。一方イギリスでは年齢や既婚未婚が不明な場合は Madam を用いることもある。
- His/Her Majesty
- 日本語の「陛下」にあたる。略はHM。例:Her Majesty The Queen(英国女王の場合)。
- His/Her Royal Highness
- 日本語の「殿下」にあたる。略はHRH。王族への敬称だが例外もある(ルクセンブルク大公及びその親族など。例:His Royal Highness, Prince of Wales(英国王太子の場合)。
- His/Her Imperial Majesty
- 日本語の「陛下」にあたり、略はHIM。特に皇帝や天皇の称号を持つ君主への敬称を王号を持つ君主への敬称と区別する必要があるときに使われる。現在では日本の天皇と皇后にのみ用いられるが、ほとんどの場合は Imperial を省いた His/Her Majesty が使われている。例:His (Imperial) Majesty The Emperor(今上天皇の場合)。
- His/Her Imperial Highness
- こちらも「殿下」にあたる。略はHIH。皇族への敬称。現在では日本の皇族にのみ用いられている。
- Excellency
- 大臣や大使などの外交使節団長などに使用する。「閣下」と訳されることが多い。
- Right Honourable (Rt. Hon.)
- イギリスおよび一部のイギリス連邦諸国で首相および閣僚、ロンドンなどの大都市の市長。伯爵および伯爵夫人、子爵、男爵、枢密顧問官などに用いられる。「閣下」と訳されることが多い。
- Galant
- 軍人に対し用いられる敬称。直訳は「勇敢なる」。例:Dear Galant Cpt. John Smith(「勇敢なるジョン・スミス大尉様」手紙の書き出し)。
その他の印欧語
- フランス語
- 男性:Monsieur(ムスュ)
- 未婚女性:Mademoiselle(マドムワゼル)
- 既婚女性:Madame(マダム)
- 日本語では聞こえ方の問題から「ムッシュ」「マドモアゼル」表記になる事が多い。
- フランスでは2012年にマドモアゼルの表現は性差別にあたるとして公文書で使わないよう通達が出された[5]。つまり官公庁では年齢問わずマダムである。
- ドイツ語
- 男性:Herr(ヘア)
- 未婚女性:Fräulein(フロイライン)
- 既婚女性、または未婚か既婚か不明な場合:Frau(フラウ)
- 肩書:Dr.(ドクトア/博士)など。ドイツ語では肩書の前にさらに"Herr", "Frau"をつけて"Herr/Frau Dr. 〜"とするのが普通。最近では肩書を省略して単に"Frau 〜", "Herr 〜"と呼ぶ傾向がある。また、英語と同様に"Herr/Frau"を付けず"Dr. 〜"などとすることもある。
- イタリア語
- 男性:Signóre(スィニョーレ)
- 未婚女性:Signorina(スィニョリーナ)
- 既婚女性:Signóra(スィニョーラ)
- 日本語では聞こえ方の問題から「シニョーレ」「シニョリーナ」「シニョーラ」表記になる。
- ロシア語
ロシア語にはMr./Mrs.に対応するГосподин/Госпожаなどもあるが、これはロシア人同士で使うことは少なく、「名-父称」(姓を入れない)が敬称の代わりに使われる。
アジアの言語
- 韓国・朝鮮語
- 身内でも立場が上の者には敬称および敬語を用いる。
- 例えば自分の父を他人に向かっても「父」でなく「お父さん」という(相手の父に対する敬称も別にある)。
- また「社長」や「先生」だけでは敬称と看做されず、これに接尾辞「-님」(ニム、「様」)をつけて用いる。
敬称とポリティカル・コレクトネス
ポリティカル・コレクトネス(PC)の関係から不適切とされる敬称の使い方は改めるべきだという観点がある。
学校などで男子に「くん(君)」、女子に「さん」をつけて区別することが一般的に用いられていたが、近年、一般的な「さん」に比べて「くん」を使用する相手が対等以下に限定されるという理由で、男女平等の観点から、この用法は適切でないという意見もあり、男女とも「さん」をつけることが奨励されつつある(特に義務教育を終えた、年配の人が混ざることがある高校や大学の場合)。なお、病院では年少の男子に対しては「くん」、女子には「ちゃん」を用いるのが一般的である。
英語において、既婚女性に対する敬称のMrs.は本来姓または夫の姓名につけて用いるのが普通であったが、改まった場で自分の名前ではなく夫の名前で呼ばれるのは女性蔑視だとして、近時では自分のフルネームにMrs.をつけて呼ぶ例が多い。さらに、女性について既婚か未婚かによって敬称を異にするのも不適切であるとして、既婚・未婚を問わずMs.を用いることがビジネスの場などでは一般化している。
その他
殿下、閣下、猊下のように極めて高い地位の者に対する敬称には「下」と字が入るが、これには、身分の低い者が直接その地位の者を呼ぶのは失礼に値するという考え方のため、「下の取り次ぎの方を通して貴方のことをお呼び致します」という意味がこめられている。
近年、日本人に対する英文(電子メールなど)での敬称は「Mr. XXX」などではなく「XXX-san」(さん)や「XXX-sensei」(先生)という表現が使われてきている。また英語口頭表現において日本人の名前を呼ぶ際も「名字+さん」という言い方をすることがある。たとえば松坂大輔を Matsuzaka-san(マツザカサン)と呼ぶなど。
脚註
関連項目
- 敬語
- 最高敬語
- 呼び捨て - 蔑称
- 日本語の二人称代名詞
- T-V distinction
- 尊厳の複数 - 王侯等が自らを指すのに一人称複数形を用いること。