朝鮮語
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朝鮮語(ちょうせんご)または韓国語(かんこくご)は、主に朝鮮民族が使う言語で、朝鮮半島の大韓民国(韓国)、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)および中華人民共和国吉林省延辺朝鮮族自治州・長白朝鮮族自治県の公用語。
韓国での政府呼称は「韓国語」、北朝鮮での政府呼称は「朝鮮語」である。日本においては、「韓国語」は専ら韓国の言語を指す呼称として用いられ、南北を区別しない呼称としては学術的にも一般にも「朝鮮語」が用いられるので、ここでは言語名を朝鮮語に統一する。
目次
概要
全世界でおよそ7500万人程度の話者がいると推定され、そのうち7100万人を朝鮮半島の話者が占める。朝鮮半島以外の地域の話者としては、中華人民共和国(特に延辺朝鮮族自治州)・旧ソビエト連邦(特にサハリン・ウズベキスタン・カザフスタン)に住む朝鮮民族集団が存在する。ただし、これらのうちウズベキスタン・カザフスタンなど中央アジアで話されている言語は高麗語(コリョマル)として別言語とされる場合もある。
音韻面では子音に有気音と無気音の対立がある。連音(フランス語で用いられる用語のリエゾンとしばしば混同されるが、実際にはそれに合わせればアンシェヌマンである[1])が起こることも特徴である。音節構造においては、ほとんどが母音で終わる開音節の日本語とは異なり、子音で終わる閉音節も多く現れる。ただし、在日朝鮮語では日本語の影響で閉音節の発音はほぼ崩壊している。
言語類型論の観点から見ると、日本語と同じ膠着語であり、修飾語は被修飾語に先行し、前置詞ではなく後置詞を用いる。歴史的に日本語やベトナム語と同様に中国語と漢字文化の影響を強く受けてきたが、現在の表記には主にハングルが用いられる。
政治的には韓国で話されている言語と北朝鮮で話されている言語は同一の言語である(つまり、韓国・北朝鮮とも双方の言語を同一の言語と見なしている)が、南北には発音・語彙・文法・正書法などに違いが存在する。このことから、日本においては「朝鮮語」を韓国で話されている言語と区別した「北朝鮮で話されている言語」という狭義の意味で使うこともある。また、日本において「韓国語」は通常は「韓国で話されている言語」を意味し、北朝鮮で話されている言葉をあえて「韓国語」と呼ぶことはまれである。
ISO 639による言語コードは2字がko、3字がkorで表される。
言語名
テンプレート:See also 北朝鮮においては「朝鮮語」に相当する「조선말, 조선어(チョソンマル、チョソノ)」という呼称が用いられており、韓国では「韓国語」に相当する「한국어, 한국말(ハングゴ、ハングンマル、韓國語)」という呼称が用いられている。ここで「말(マル)」は「言葉」を意味する朝鮮語の固有語であり、「어(オ、語)」は漢字語である。固有語を好む傾向のある北朝鮮では「조선말」が用いられることが多く、韓国では公式な場面では「어」を用いた「한국어」が通常用いられる。この他に朝鮮民族どうしの表現として「国語」に相当する「국어(クゴ、國語)」や、朝鮮語の固有語で「我々の言葉」を意味する「우리말(ウリマル)」という表現も用いられる。
中央アジアの朝鮮人の間では「高麗語」(고려말、Корё маль、コリョマル)という呼称が用いられている。ただし「高麗語」は朝鮮半島の言語とは別の言語を指す場合がある。詳細はコリョマルまたは本記事後述を参照。
日本では伝統的には「朝鮮半島」、「朝鮮民族」などと同様に「朝鮮」の名を冠した「朝鮮語」という呼称が用いられており、学術的な場面や専門家の間でも主に「朝鮮語」と呼ばれる。その一方で、韓国との交流関係に比べて北朝鮮との交流関係が非常に疎遠であることを反映し、一般的な場面では「韓国語」と呼ばれることが増えている。そのどちらかの名称を用いることは公平ではないとし、「コリア語」、「高麗語」、「韓国・朝鮮語」、また言語名を避けて文字名称である「ハングル(語)」が中立性を保つために用いられることもある。ただし「ハングル」は韓国での名称であって北朝鮮では「チョソングル/チョソングルチャ」(조선글/조선글자、朝鮮文字)なので、「ハングル(語)」も公平ではないとされる。なお、名称はさまざまに呼ばれることがあるとしても、韓国・北朝鮮との交流関係の違いを反映してか、現在の日本で出版されている朝鮮語の文法書やテレビ・ラジオ放送で学ぶことになる正書法・発音・語彙・文法等は基本的に韓国で標準とされるものであり、北朝鮮で行われる正書法・発音・語彙・文法等は韓国との違いとして少し紹介される程度であるのが現状である。
中華人民共和国は、1949年の建国から社会主義陣営に所属しており、当初から北朝鮮を朝鮮半島全体の唯一の正統政府としていた立場から、朝鮮民族の国家、民族や言語、文化に冠する呼称に「朝鮮」(簡体字で「朝鲜」)を使用し、中国の国民を構成する朝鮮系の集団やその言語に対してもこの名称を用いて、「朝鲜族」や「朝鲜语」と呼称してきた。しかし1992年に韓国と中国が国交を樹立してからは、韓国との直接交流が進展し、韓国資本の裏付けにより、韓国式の語彙や文字配列をそのまま移植した語学テキストや辞典類が「韩国语」の名称を冠して発行されるようになった。その結果「韩国语」という呼称は、新たに、中国の延辺朝鮮語とも北朝鮮の朝鮮語とも異なる特徴を持つ韓国の言語に対する呼称として、「朝鲜语」とともに併用されるようになってきている。
多くのヨーロッパ言語では高麗に由来する Korean (英語)などの名称を用いており、中立性の問題は提起されていない。漢字文化圏言語では朝鮮または韓国語、その他は高麗から由来した名称を用いている。その他の独自の呼称として、モンゴル語の「ソロンゴス」(Солонгос)(この名称の由来についてはさまざまな異説がある)、満洲語の「ソラホー」などがある。
系統
一般的には分類上孤立した言語と見なされることが多いが、アルタイ諸語との関係、また日本語との関係もしばしば議論の的となる。学者によっては、日本語と共にアルタイ諸語に含める場合もある。
日本語との関係
統語面では、基本語順がSOV型である[2]、膠着語である、助詞で主題を表示し主題優勢言語である等、日本語とは類型論における類似性が著しい。統語面での相違点としては、否定や法の表現では逆位となる場合やいわゆる「かばん語」によって否定表現が一語となっているものがある。
音韻的な面では、古い時代では語頭に流音(ラ行)・有声阻害音(濁音)が立たない点、母音連続を避ける点などに類似性がある。また、中期朝鮮語には母音調和が見られるが、日本語にも古くは母音調和があったとする説もある。一方、朝鮮語の音節が閉音節(CVC)を基本としているのに対し、日本語は開音節(CV)を基本としているなど、相違点も見られる。
なお、これらの統語・音韻面での類似性はアルタイ諸語に共通して見られる特徴でもあり、朝鮮語及び日本語がアルタイ語族であるという論拠の一つになっている。
その一方で語彙は、漢字語あるいは字音語を除き、一定の音韻対応によって系統的に同一の祖形に当てはまるものは見出されていない。
江戸時代から、様々な側面から日本語と朝鮮語の類似性を指摘する研究者はたびたび現れている(金澤庄三郎など)。小倉進平は対馬方言と朝鮮語の関係を研究したが、対馬方言への朝鮮語の借用以上のものは見出していない。漢字の呉音は古くは「対馬音」と呼ばれ、研究者の中には朝鮮字音から直接輸入されたと考える者もあったが、河野六郎の研究などによりその重層性が明らかにされていった。
かつてのような単純な説は出されることはなくなったが、現在でも様々な資料と方法によって親族関係を見出そうとする研究が続けられている。共通点については言語連合(Sprachbund, language union、例:バルカン言語連合)の可能性もある。
アルタイ語族
韓国の学会では、朝鮮語が孤立した言語でないとしたらアルタイ語族に属すであろうという考え方が主流である。ただし、テュルク語群、モンゴル語群、ツングース語群には一定の類似性があるものの、それらが共通の祖語を持つアルタイ語族であるということは今のところ証明されるめどは立っていない。歴史学の見地から考えると、百済、新羅、高句麗では言語体系が異なるという説も存在しており、『三国志』魏書弁辰伝には馬韓、辰韓(秦韓)間においては異なる言語が用いられていたという記述が存在している。また、高麗王朝の支配者層は元の時代にモンゴル系民族に取って代わられたため、モンゴル系言語の流入も考えられており、言語体系は定かではない。その中でも、朝鮮語はアルタイ語のうち、ツングース語族との関係が最も深いと考えられており、唯一まとまった文字資料をもつ満州語との比較研究が行われている。
方言・変種
標準語
朝鮮語を公用語と定めている韓国と北朝鮮は、それぞれ別々の標準変種を規定している。韓国における標準変種は「표준어(標準語)」であり、「ソウルの教養ある人々が使用する言語」と規定される。また、北朝鮮における標準変種は「문화어(文化語)」であり、「平壌の労働者階級が使用する言語」と規定される。ただし、北朝鮮の標準語も実際には伝来のソウル方言を基礎としており、元来の南北の方言差に由来する標準語の差異は、皆無ではないもののかなり限定的である。また、中国領内の延辺朝鮮語は、基本的に北朝鮮の標準語を規範としている。
南北双方の言語とも、実質的には20世紀前半のソウル方言を基礎としているが、韓国と北朝鮮がそれぞれ独自の言語政策に基づいて標準語を発展させていった結果、語彙・正書法・辞典における文字配列の順序などで、韓国における「한국어,한국말(韓国語)」と北朝鮮における「조선말,조선어(朝鮮語)」の間に相異が出ている[3]。たとえば韓国と北朝鮮では、独立後に漢字表記の廃止と日本語語彙の置き換えが着手されたが、それぞれが個別に行った結果、韓国における「韓国語」と北朝鮮における「朝鮮語」の相違を拡大することになった。
中国領内の延辺朝鮮語では、とりたてて日本語語彙の追放に取り組まれることがなく、さらに中華人民共和国の建国以降は、近代的概念を表す語彙を中国語経由で取り入れるようになったことから、朝鮮半島における「韓国語」「朝鮮語」とは別個の独自の特徴が拡大されることとなった。
韓国と北朝鮮の言葉の違いに関しては朝鮮語の南北間差異を参照。
方言
朝鮮語の方言は大きく本土方言と済州方言に分けられ、そのうちの本土方言は西北方言(平安道方言)、東北方言(咸鏡道方言)、中部方言(黄海道、江原道、京畿道、忠清道方言)、西南方言(全羅道方言)、東南方言(慶尚道方言)の5つに分類される。韓国の標準語の基礎になったソウル方言は中部方言に属し、日本においても比較的知られている釜山方言や大邱方言は東南方言に属する。
他言語との接触によって生じた朝鮮語の変種
- 在日朝鮮語
- 在日韓国・朝鮮人が家庭内や仲間内で用いる朝鮮語。語彙や発音の面で日本語の影響を強く受けている。したがって、日本人の朝鮮語学習者と同じような発音となる傾向が非常に多く、また日本語からの借用語が極めて多い(ソニン、アユミなど)。また、在日朝鮮人は慶尚道・全羅道・済州道などの南部地方出身者が多いため、中部方言であるソウル方言とは相違がある場合が多い。
- 在米朝鮮語
- 韓国系アメリカ人がコリアン・スクール等で習う韓国語。こちらは英語なまりの韓国語になる場合が多く、英語からの借用語を多く使う傾向がある。
- 中国朝鮮語
- 中国東北地区の少数民族である朝鮮族の使用する朝鮮語。四つの言語変種の中で最も本国の言葉に近く、本国人とほぼ問題なく理解し合える。違いとしては北朝鮮、韓国でそれぞれ行われた「日本語語彙の追放」運動がなく、また1945年以降、近代文明の科学技術に関する語彙、共産主義体制における政治的用語などが中国語経由でもたらされるようになった。中国朝鮮語のうち、北朝鮮と地続きの吉林省延辺朝鮮族自治州で行われる延辺朝鮮語が最大の話者を擁する。延辺州の住民は地続きの朝鮮北部からの移住者の末裔が多数を占めるため、ベースは隣接する咸鏡道の方言に近い。そのほか、中国朝鮮族のうち、黒龍江省、遼寧省等に分布する諸集団の中には、日本の併合地だった時期の満蒙開拓団に起源を有する朝鮮南部出身者の集落もあり、言語的にはきわめて多彩である。近年は、青島、天津などの沿海部でも使用されている。
- 高麗語 (コリョマル)
- 高麗人(旧ソ連、中央アジアに住む朝鮮民族)が用いる朝鮮語。中国朝鮮語同様、ベースは近代化以前の地方方言であり、音韻・語彙・統語全ての面でロシア語の影響を強く受けている。現在では若年層が習得することのほとんど無い、絶滅危機に瀕した言語変種である。
一般に南北朝鮮人との意思疎通の容易さは、中国朝鮮語>在米朝鮮語>高麗語 (コリョマル)、在日朝鮮語だとされているテンプレート:要出典。
音韻
朝鮮語の音節は (C) V (C) の構造を持つ。
短母音は本土方言テンプレート:IPA2の八つであり、ソウル方言ではテンプレート:IPA2とテンプレート:IPA2の区別はなくなり(融合・合流)、母音音素が7つになっている。二重母音はテンプレート:IPA2のみである。母音調和は中期朝鮮語には存在したが、現代語ではその痕跡を残すだけにとどまる。
子音は破裂音テンプレート:IPA2、破擦音テンプレート:IPA2、摩擦音テンプレート:IPA2、鼻音テンプレート:IPA2、流音テンプレート:IPA2が存在する。破裂音及び破擦音は平音/濃音/激音が対立し、摩擦音のsは平音/濃音が対立する。
語頭においてはテンプレート:IPA2が立つことができず、テンプレート:IPA2の前にテンプレート:IPA2が立つこともできない。音節末においては平音/濃音/激音の対立が中和され、また破擦音及び摩擦音がテンプレート:IPA2に中和されるため、テンプレート:IPA2しか現れることがない。また音節末の破裂音テンプレート:IPA2は内破音(無開放閉鎖音)として発音され、多くの日本語母語話者にとって聴き取りの難しいものである。
また、さまざまな同化規則が存在する。
表記
朝鮮半島に漢字が伝えられて以来、吏読や郷札、口訣など漢字の音や訓を用いて朝鮮語を表記する方法がいくつか試みられた。しかし朝鮮語と中国語の言語構造の違いや朝鮮語音韻の複雑さから普及度は小さかった。本格的な表記が始まったのは1443年の訓民正音制定以降である。最初期の表記法は一部の例外を除いて文字を発音通りに綴る表音主義的な表記法であった。16世紀からは形態主義的な表記法も徐々に取り入れられ始めたが、知識人の書く文章では形態主義的綴り、庶民の書く文章では表音主義的綴りが多く見られた。19世紀末期には日本語の漢字かな交じり表記と似た漢字ハングル交じりで書かれた朝鮮語が文言(漢文)と並ぶ行政語の地位を獲得し、正書法も徐々に固まりつつあったが、それらが根付く前に朝鮮は日本統治時代へと突入することになる。漢字ハングル交じり表記は後の時代にも新聞の見出しや書物の表題、序文などに見られるが、それによって本文が書かれた書物[4]はほとんど存在しない。
朝鮮総督府は併合地時代初期に「普通学校用諺文綴字法」(1912年)を定めたが、これはそれまでの民間の慣習的表記法を整理し成文化したものである。正書法は「朝鮮語綴字法統一案」(1933年)など更に数度の修正を経て、2008年現在、韓国では「ハングル正書法」(1988年)、北朝鮮では「朝鮮語規範集」(1966年制定、1987年改正)が用いられている。南北の正書法共通の最大の特徴は、形態主義を採ることと分かち書きをすることである。朝鮮語には連音や同化などの音韻規則が豊富であり、一つの形態素が音韻的な環境によって別々の音声として現れることが多々ある。音声が異なっていても同じ形態素であれば、可能な限り同じ文字で表記しようというのが形態主義である。分かち書きの単位は日本語における文節に近いが、南北の現行の正書法では分かち書きの規定が互いに若干異なる。概して南は分かち書きを多用する傾向にあり、北は分かち書きが少ない傾向にある。
また、朝鮮語をラテン文字で表記する方法については朝鮮語のローマ字表記法を参照。
文法
形態論
印欧語やセム語に見られる性・数の概念は無く、性・数・格の一致の概念もない。
- 名詞の格は格助詞によって表される。話し言葉では格を明示しなくても文脈上明らかであれば省略する。
- 1つの名詞が複数の格助詞をとることができる。2つの格助詞が組み合わさって新しい意味を持つこともある。
- 動詞は語幹のみでは文節を形成することができず、必ず終結語尾を必要とする。
- 動詞と終結語尾の間には時制やアスペクト、主体敬語を表す先語末語尾を挿入することができる。
- 形容詞は動詞とほぼ同じ活用をする。また、日本語と異なり形容詞と形容動詞の分化はない。
- 冠形詞は名詞を修飾する不変化詞で、日本語の連体詞に相当する。
- 敬語には対者敬語、主体敬語、客体敬語の三つがあり、日本語の丁寧語、謙譲語、尊敬語にほぼ相当する。
- 名詞、助詞、動詞には敬語を表す特別な語彙(補充形)があり、敬語を表す名詞接尾辞、敬語を表す動詞(主体敬語を表す語尾先語末語尾と対者敬語を表す終結語尾)がある。
- 対者敬語を表す終結語尾は敬意の程度が6段階に分かれるが、そのうちよく使われるのは4段階のみである。
- 日本語の敬語はウチとソトの概念に関して相対的であるが、朝鮮語の敬語は序列(血縁的なものも含む)に関して相対的である。
- (母に対して)아버지께서 오셨어요.(お父さんがいらっしゃいました)
- (祖父に対して)아버지가 왔어요.(お父さんが来ました)
語彙
朝鮮語の語彙は大きく分けて固有語、漢字語(古典中国語系語彙)、外来語の3つの階層から成り立っている。特に韓国における朝鮮語の外来語のほとんどは英語であり、固有語の上に漢字語(古典中国語系語彙)と英語などの欧米系借用語の2つの上層を持つという意味において日本語やベトナム語に似た語彙構造を持っているということができる。それぞれの階層の語が語彙全体の中で占める割合を日本語と比べた場合、固有語と外来語は割合がやや少なく、漢字語は割合がやや高い。
1層目の固有語は古来からの朝鮮語である。全ての品詞に広く分布しており、朝鮮語の語彙の核であるが、日本語と同様基本語彙の中にも漢字語に侵食されているものがあり、その比率は日本語よりも高めである。たとえば、山を表す산テンプレート:IPA2、川を表す강テンプレート:IPA2はそれぞれ「山」、「江」であり、元々あった山と川を表す固有語(뫼, 가람)は残存しているものの、意味の縮小と非日常語化を余儀なくされた。
2層目の漢字語は概して中国語由来の語彙である。まず伝統的な語彙に見られる漢語は中国との長い間の接触によって時々の中国語から直接に借用され、または国内で韓国製漢語として造語された。近代以降は日本留学生が和製漢語を取り入れ始め、和製漢語に翻訳された西洋の近代用語を中心に漢字表記語の借用が行われた。日本語から流入した漢字表記語には、日本語においても音読みの「漢語」として存在したものだけでなく、「取扱」(とりあつかい)→취급テンプレート:IPA2、「引下(げ)」(ひきさげ)→인하テンプレート:IPA2のように日本語では訓読みをしたものも含まれる。
漢字語は名詞、動詞、形容詞に見られる。名詞はそのまま取り込まれたが、動詞、形容詞は朝鮮語の活用体系に合わせるため、-하다テンプレート:IPA2を付けて取り込まれた。これは日本語におけるサ変動詞、形容動詞がそれぞれ語幹に「~する」、「〜だ・な」を付けて活用するのと同じである。
漢字の読音は日本語の場合とは異なり、1字に対してほぼ1つに統一されている。稀に1つの漢字が複数の音を持つ場合があるが、それは日本語の漢音・呉音のように複数の時代の中国音を反映しているのではなく、中国語における一字多音を反映していることが多い。たとえば、悪には악テンプレート:IPA2と오テンプレート:IPA2の2つの読音があるが、악テンプレート:IPA2は「悪い」という意味であり、오テンプレート:IPA2は「憎む」という意味であり、もともと中国語において存在した区別を反映している。なおこの場合、日本語ではアク・オ、普通話では è ・ wù に、それぞれ対応する。
三層目は(漢字語以外の)外来語である。韓国においては英語、北朝鮮においてはロシア語が主な輸入源となった。外来語を取り込む方法は漢字語に準ずる(名詞はそのまま、動詞、形容詞は하다を付ける)。
その他の外来要素としては、主に植民地時代に流入した日本語と高麗末期に元朝から流入したモンゴル語がある。ここでいう日本語とは、朝鮮漢字音読みで取り入れられた和製漢語を除き、和語および日本語読みの漢語、外来語を日本語の発音に近い形で受け入れたものである。たとえば「勝負」は古典中国語由来の朝鮮漢字音で読む승부テンプレート:IPA2という形で朝鮮語に定着している単語であるが、日本漢字音「ショウブ」に由来する쇼부テンプレート:IPA2という形でも流入した。このようにして日本語から取り込まれた語彙には、「弁当」벤또テンプレート:IPA2、「うどん」우동テンプレート:IPA2、「バケツ」바께쓰テンプレート:IPA2などがあるが、韓国・北朝鮮の両政府はこのような日本語からの借用語を排除する政策を採ったため、現在では高齢者を中心に限られた範囲で俗語として扱われていることが多い。品詞は名詞、副詞が多く、副詞は本来の日本語が持っているニュアンスとは微妙に異なることが多い。これらの語彙は朝鮮語の語彙全体からして非常に低い割合でしかないが、日本統治時代の残滓と考えられたため問題視されたのである。モンゴル語は当時はかなりの影響力があったとする学説もあるが、現代ではごく僅かな特殊語彙に痕跡をとどめるのみである。
韓国と北朝鮮ではそれぞれ別々に言語政策を取ったため、2つの地域では語彙にも差が見られる。詳しくは朝鮮語の南北間差異を参照のこと。中国の朝鮮語の語彙も中国語の強い影響を受けている。中国語を朝鮮語音で読んで取り入れる場合もあれば、中国語音をそのまま取り入れる場合もある。たとえば、「卒業」は韓国においては同じ漢字を朝鮮語読みで졸업テンプレート:IPA2というが、中国では「毕业(畢業)」を朝鮮語読みして필업テンプレート:IPA2という。また、「コンピューター」は韓国では英語に由来する컴퓨터テンプレート:IPA2だが、中国では「电脑(電脳)」の中国語音に由来する띠엔나오テンプレート:IPA2である。中央アジアにおいてもロシア語の動詞 стрейть(建てる)から不定詞語尾-тьを取って代わりに-하다を付けて 스트레이하다テンプレート:IPA2とするなどのロシア語流入が行われている。
また、朝鮮語が輸入した英語であるコングリッシュには元の英語にない独自の英語の語彙も存在する。
朝鮮語に関する資格試験
現在行われている試験
- 「ハングル」能力検定試験
- 韓国語能力試験(通称:TOPIK)
- 韓国語能力評価試験(通称:KLAT)
- KBS 韓国語能力試験
- 韓国放送公社が実施・認定する韓国語の高級使用者を対象とした韓国語の試験
過去に行われた試験
ここで掲載した4つの語学試験のうち、日本でよく知られているのは『「ハングル」能力検定試験』と『韓国語能力試験』である。「ハングル」能力検定試験を除く試験は全て“韓国語”の試験とされているため、韓国における正書法以外(例:北朝鮮での正書法など)では不正解となる。
脚注
文献情報
- 「言語名称「朝鮮語」および「韓国語」の言語学的考察」内山政春(法政大学学術機関リポジトリ2004.4.1)[1]
関連項目
外部リンク
- 辞典
- かずお韓国語辞典 オンライン版 - フリーのオンライン韓国語辞典
- 韓国語辞典-ケイペディア
- 韓国語学習広場 - フリーの朝鮮語学習サイト
- 各種資格試験