琵琶湖

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琵琶湖(びわこ)は、滋賀県にある日本最大面積と貯水量を持つ[1]湖沼水質保全特別措置法指定湖沼。ラムサール条約登録湿地。河川法上は一級水系淀川水系」に属する一級河川であり、同法上の名称は「一級河川琵琶湖」である。

地理

滋賀県の面積の6分の1を占め、流れ出る瀬田川宇治川淀川と名前を変えて、大阪湾瀬戸内海)へ至る。また、湖水は淀川流域の上水道として利用され、京都市琵琶湖疏水から取水している。陸上から見た地形により最狭部に架かる琵琶湖大橋を挟んだ北側部分を北湖太湖)、南側部分を南湖と呼んでいる。一方、湖底地形から見ると、北湖盆(North Basin)、中湖盆(Central Basin)、南湖盆(South Basin)に分けられ、北湖盆と中湖盆の境界は沖島北方付近で鞍状の湖底地形が存在している[2]。北湖は面積623km2 平均水深41m、南湖面積58km2 平均水深4m[2]

琵琶湖を取り巻く各自治体は、大きく湖南湖東湖北湖西に分けられる。※区分については「滋賀県#地域」を参照。

湖を取り囲む山地からの流れが源流で、京阪神の水がめとしての機能も担っている。また、古くから水上交通路としても利用されており、明治時代鉄道が開通するまでは、大坂から東国北陸への物資輸送の中継地として利用されていた。

古代湖であり、魚類底生動物など50種以上の固有種を含む生物相に富む。明治から昭和の初期までは、琵琶湖の周囲に大小40数個の内湖が広がり、多くの生物を育んでいた。しかし琵琶湖の洪水防御のため、1943年から始まった河水統制事業により、事業が終了する1952年までに平均水位が数十cm低下したことや、これに前後して内湖の大半が干拓されたこともあって琵琶湖の自然は大きく変化し、固有の風致や生態系が大きく損なわれた。現在、滋賀県は一部の内湖を復元することを計画[3]しており、生態系の回復や水質浄化が各方面から期待されている[4]

東京湾中等潮位 (T.P.) 基準で+84.371 m、大阪湾平均干潮位 (O.P.) 基準で+85.614 mの高さが琵琶湖基準水位 (B.S.L.) と定められており、「琵琶湖の水位」とはB.S.L.を±0 mとした水位のことをいう。B.S.L.は、1874年(明治7年)に鳥居川観測点において「これ以上水位が下がることはない」と判断された点として定められたものであるが、その後、瀬田川の改修によって流出量が多くなったことなどにより、水位がB.S.L.以下になることが多くなった。現在では、B.S.L.の値がおおむね満水位となるように水位の調整が行われている。

急がば回れ」ということわざの語源である。湖を渡るには現在の草津大津の間を結んでいた「矢橋の渡し」という渡し舟があったが運休が多かったらしく「急ぎならば、瀬田の唐橋のほうに回れ。遠回りでもかえって近い」という意味の和歌が出典。

歴史

有史以前

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ファイル:Inoh taizu biwako.jpg
大日本沿海輿地全図大図 (レプリカ)。琵琶湖周辺。

琵琶湖が形成された時期は、約400万年~600万年前で、現在の三重県伊賀市平田に地殻変動によってできた構造湖であった(大山田湖)。湖は次第に北へ移動し、現在から約100~40万年前[5]比良山系によって止められる形で現在の琵琶湖の位置に至ったという。大山田湖以前、現在の琵琶湖の位置には山(古琵琶湖山脈)があり、鈴鹿山脈は未だ隆起せず、今日の琵琶湖東南部の河川は伊勢湾へ流れていた。それを裏付けるように、鈴鹿山脈の主要な地質は礫岩である。また、琵琶湖に流入する最大の川で、東南に位置する野洲川は、当時西方ではなく、東方へ流れていたという。なお、琵琶湖は世界の湖の中でも、バイカル湖タンガニーカ湖に次いで成立が古い古代湖であると考えられている[6]

西岸には、琵琶湖西岸断層帯が東北-南西方向に延び[2]、断層帯北部の最新活動時期は約2800年前から約2400年前頃とされ、活動時には断層の西側が東側に対して相対的に2mから5m程度隆起した可能性がある。断層帯南部の最新活動時期は1185年元暦2年)の文治地震であった可能性があり、活動時には断層の西側が東側に対して相対的に6mから8m程度隆起した可能性があるとされている[7]

有史以降

縄文時代弥生時代から交通路としても利用され、丸木舟なども出土している。古代には、都から近い淡水の海として近淡海(ちかつあわうみ、単に淡海とも。古事記では「淡海の湖」(あふみのうみ)と記載)と呼ばれた。近淡海に対し、都から遠い淡水の海として浜名湖遠淡海(とおつあわうみ)と呼ばれ、それぞれが「近江国(おうみのくに、現在の滋賀県)」と遠江国(とおとうみのくに、現在の静岡県西部)の語源になった。別名の鳰海(におのうみ)は、近江国の歌枕である。この鳰は、カイツブリのことを表す。

天智天皇により、一時は琵琶湖西岸に大津宮が置かれた。測量技術が発達し湖の形が琵琶に似ていることがわかった江戸時代中期以降、琵琶湖という名称が定着した。

琵琶湖は、若狭湾沿岸からの年貢の輸送路としても利用されており、湖上で賊に襲撃された記録なども残されている。湖西には、大津から若狭国へ向かう西近江路若狭街道京都から琵琶湖などを経て今庄から北陸道につながる[8]北国街道などの各種交通路が整備された。湖上交通による荷物の輸送も行われており、大津や堅田などは港湾都市として発達した。

安土桃山時代には、豊臣秀吉は大津の船持に大津百艘船を整備し、観音寺の船奉行の支配下に置かれ、特権を与えられて保護された。近世になると、大津は松原や米原など他の港と対立し、江戸時代には松原・米原・長浜が「彦根三湊」として井伊氏の保護を受けた。

琵琶湖が淀川となって大阪湾に流れる位置から、若狭湾で陸揚げされた物資が琵琶湖上の水運を介して京都や大坂に輸送された。こうした輸送は明治以降もしばらく隆盛であったが、陸上交通の発達によって次第に斜陽となった。一方、高度経済成長期には琵琶湖から運河を掘削して日本海太平洋瀬戸内海を結ぶ運河構想が持ち上がった。当初は、琵琶湖から日本海と瀬戸内海を結ぶ阪敦運河構想を福井県知事の北栄造が調整し始めたが、特に四日市市長の平田佐矩が熱心だったこともあり、福井県・滋賀県・岐阜県愛知県・三重県および名古屋市敦賀市・四日市市の間で、総工費2500億円~3500億円をかけ若狭湾~琵琶湖~伊勢湾を結ぶ中部横断運河建設期成同盟が結成され、自民党副総裁の大野伴睦が会長に就任した。しかし、大野や平田が相次いで死去したことや、北および敦賀市長の畑守が相次いで落選するなど推進の中心人物を失い、1970年には中部圏開発整備本部が調査の打ち切りを発表した[9]

生物相

琵琶湖の生態系は多様で、1,000種類を超える動・植物が生息している。長い期間自立したためその中には琵琶湖(およびその水系)にのみ生息する固有種も数多く確認されている。その規模も大きく、独特の漁業が発達した。

その一方で、オオクチバスブルーギルをはじめとする外来種の侵入や1992年の琵琶湖水位操作規則の改訂、内湖[注 1]の消失、水田とのネットワークの分断等によって固有の生物相が大きく攪乱を受け、漁獲高が激減した種も多い。それらへの対抗策も講じられ、外来種駆除や生態系に配慮した水位操作、内湖の再生など様々な取り組みが行われているが、まだ十分な効果をあげられていない。また、琵琶湖産の稚アユは日本各地へ放流され、そのために琵琶湖固有種だけでなく稚アユと共に混獲され放流されたハスなどの種が各地で繁殖するという、移入種を生み出す元ともなっている。

魚貝類

ビワコオオナマズイワトコナマズナマズ科
ホンモロコビワヒガイアブラヒガイハスワタカコイ科
イサザハゼ科

無脊椎動物

水草

その他

流入する主な河川

琵琶湖には119本の一級河川が流入している[10]

(自治体名は主な流域)

流出する主な河川

琵琶湖から流出する河川は瀬田川の1本のみである。河川以外では琵琶湖疎水があり、琵琶湖からの流出経路は2つしかない。

  • 瀬田川(せたがわ、滋賀県)→宇治川(京都府)→淀川(大阪府)

主な港

湖面の島

竹生島(面積0.14km²)・沖島(面積1.5km²)・多景島沖の白石矢橋帰帆島がある。矢橋帰帆島は、下水処理場のために埋め立てて造った人工島である。

琵琶湖八景

1945年6月に公募によって選ばれた。

  • 暁霧 - 海津大崎の岩礁(高島市)
  • 涼風 - 雄松崎の白汀(大津市)
  • 煙雨 - 比叡の樹林(大津市)
  • 夕陽 - 瀬田・石山の清流(大津市)
  • 新雪 - 賤ヶ岳の大観(長浜市)
  • 深緑 - 竹生島の沈影(長浜市)
  • 月明 - 彦根の古城(彦根市)- 彦根八景でも選定されている。
  • 春色 - 安土・八幡の水郷(近江八幡市)

湖水

湖全体を循環する大規模な水流(海洋での海流に相当)は、2つから3つ程度ありコリオリの力や気象条件により複雑に変動している。また、振動周期 30分以上の振動として主に240.9分、71.9分、65.0分、39.8分、32.3分の5種類存在している[11]。全ての水が入れ替わるまでの時間(滞留時間)は5年程度[12]

平均透明度は、6mとされているが、水深の浅い南湖では2m程度、水深の深い北湖では6m程度である[13]が、気象条件によっては16mを超える透明度を観測することもある[14]

水利用

京阪神の水利用において、琵琶湖は非常に重要である。流出する淀川は京都・大阪を貫いて流れ、また琵琶湖が調節池の役割を果たすことから、年間を通して水量が安定している。1895年、大阪市において近代的な水道が近畿で初めて引かれて以来、琵琶湖淀川水系の水は上水道をはじめとしてこの地域の水利用を支えてきた。1998年時点で約1,400万人がこの水系の水で生活をしている[15]

琵琶湖の環境保全

高度成長にともなって湖水の水質汚濁富栄養化が進んだ。このため滋賀県は独自に工業排水家庭用排水を規制する、いわゆる琵琶湖条例(滋賀県琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例)を制定した。このほか琵琶湖に関する滋賀県独自の条例としては、「滋賀県琵琶湖のレジャー利用の適正化に関する条例」や「滋賀県琵琶湖のヨシ群落の保全に関する条例」、景観を守るための「ふるさと滋賀の風景を守り育てる条例」などがある。

琵琶湖を始めとする温帯湖沼では、冬季の湖面冷却によって湖水の鉛直混合が起こり、湖中下層へ酸素が供給される(鉛直循環)。近年の琵琶湖では、暖冬によって鉛直循環が不完全となり、酸素濃度の低下で生物が大量死滅する異常事態が発生している。地球温暖化が琵琶湖固有種の生態系に影響を及ぼす事例として、研究が進められている[16]

また、琵琶湖の北方に位置する福井県には、敦賀原発美浜原発など多数の原発が立地する。琵琶湖との最短距離は20キロ程度であるため、原発事故で汚染されれば水の供給に影響する可能性があると指摘されている[17]

琵琶湖の蜃気楼

条件が合致すれば初夏には上位蜃気楼が、秋冬には下位蜃気楼が観測できることがある[18][19][20]

沿岸自治体

琵琶湖に接する自治体は以下の通り(北から時計回り)。右記は、市町村ごとの面積(単位:km²)[21]

境界の設定

琵琶湖の市町境界については、今までどの市町にも組み入れられていなかったが、沿岸の各自治体で行う共同会議において2007年5月8日に境界の設定に合意し、各自治体の議会の同意を得た上で総務省に届け出を行い、9月28日付で官報に確定が公示された[22]

境界確定の目的は主に地方交付税交付金の増額である。また、増額された交付金の半分は琵琶湖の保全に使われることが発表されている[23]

その他

表記

「琵」「琶」が当用漢字常用漢字外であることから、滋賀県内ではひらがな書きにした「びわこ」「びわ湖」という表記も数多く見られる。かつては「びわ町」という自治体も存在した。

キャッチコピー

  • 滋賀県庁は琵琶湖を別称としてMother Lakeと呼んでおり[24]、「Mother Lake 母なる湖、琵琶湖。預かっているのは滋賀県です。」キャッチコピーを封筒などに記載している。

脚注

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注釈

  1. 琵琶湖周辺にあり、水路によって琵琶湖と接続している池沼群のこと。

出典

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参考文献

関連項目

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湖沼に関する記事
琵琶湖および周辺の地勢に関する記事
芸能・文化・イベント
交通
その他

外部リンク

  • 滋賀県の紹介 - 滋賀県公式サイト
  • 2.0 2.1 2.2 植村善博、太井子宏和:琵琶湖湖底の活構造と湖盆の変遷 地理学評論 Ser. A Vol.63 (1990) No.11 P722-740
  • 琵琶湖の総合保全について(平成20年度政府への政策提案について) - 滋賀県
  • 期待の一例:手をつなぐ、未来へつなぐ 内湖の記憶 - 早崎ビオトープネットワーキング
  • 太田弘・斉藤忠光『地球診断』講談社、2010年、p49
  • 琵琶湖の概要 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター
  • 琵琶湖西岸断層帯 地震調査研究推進本部
  • 福井県庁 北國街道と宿場町 2008年3月18日閲覧
  • 日本横断運河構想 - 『福井県史』通史編6 近現代二 第五章(福井県文書館)
  • 琵琶湖ハンドブック 6-1琵琶湖と河川 - 滋賀県
  • {{PDFlink|琵琶湖の水理・水質特性 国土交通省 湖沼における水理・水質管理の技術
  • テンプレート:PDFlink
  • 琵琶湖・淀川流域の水環境の現状 琵琶湖・淀川水質保全機構
  • 『琵琶湖の環境問題の現状と課題対策について』滋賀の生協 No.142 (2007.10.6)
  • 琵琶湖博物館(1998)、p.68-69
  • 温暖化が大型淡水湖の循環と生態系に及ぼす影響評価に関する研究、京都大学生態学研究センター奥田昇、2010年12月16日閲覧。
  • テンプレート:Cite web
  • 琵琶湖、知られざる蜃気楼の名所
  • 厳寒、波上ゆらめく琵琶湖に蜃気楼
  • 琵琶湖の蜃気楼
  • 琵琶湖における市町境界の確定に伴う市町別面積の公表について
  • 琵琶湖における市町の境界確定(PDF) - 総務省
  • 琵琶湖における市町境界の確定について(PDF) - 滋賀県
  • 滋賀県庁ホームページ左上部に琵琶湖の地形ロゴとして掲示されている。