オオクチバス
テンプレート:生物分類表 オオクチバス(大口バス、ノーザン・ラージマウスバス、学名 テンプレート:Snamei) は、オオクチバス属に分類される淡水魚の一種。
目次
概要
本来は北アメリカ南東部の固有種だったが、釣り(スポーツフィッシング)や食用の対象魚として世界各地に移入された。コクチバス テンプレート:Snamei、フロリダバス(フロリダ・ラージマウスバス)テンプレート:Snamei などと共に、通称「ブラックバス」と呼ばれることが多い。また、単に「バス」と呼ばれることもある。日本に移入された当初はオオクチクロマスとも呼ばれたが、サケ科のマス類と混同されるためにこの呼称は現在では使用されていない。中国名で大口黒鱸と呼ばれる。
分布
ミシシッピ水系を中心とした北アメリカ南東部に分布するが、食用や釣りの対象として世界各地に移入されている。原産地のアメリカ合衆国では、アラバマ州・ジョージア州・ミシシッピ州・フロリダ州の州魚に指定されている。
特徴
成魚は全長30-50cmに達するが、最大でジョージア州のジョージ・ペリー氏が釣り上げた全長97.0cm・体重10.09kg・年齢23歳の記録がある。 日本でも琵琶湖で栗田学氏によって全長73.5cm、体重10.12kgの世界記録タイ(IGFAオールタックル世界記録では体重で大きさが決まるため)がブルーギルを餌にして捕獲されている。口が目の後ろまで裂ける点でコクチバスと区別できる。
湖、沼などの止水環境や流れの緩い河川に生息するが、汽水域でもしばしば漁獲される。食性は肉食性で、水生昆虫・魚類・甲殻類などを捕食する。自分の体長の半分程度の大きさの魚まで捕食し、カエルやネズミ、小型の鳥類まで丸飲みにする。春から秋には岸近くで活発に活動するが、冬は深みに移り物陰に群れを成して越冬する。
繁殖は水温15℃の条件が必要である。この水温は、北アメリカの生息地では北部で5-6月、南部で12-5月である。日本では6月を盛期に5-7月である。また、多くの動物に見られるように、産卵は満月か新月の日に行われるのが一般的である。オスは砂地に直径50cmほどの浅いすり鉢状の巣を作り、メスを呼びこんで産卵させる。複数のメスを呼びこんで産卵するため、巣の卵数は1万粒に達することもある。卵は10日ほどで孵化する。産卵後もオスは巣に残り、卵を狙う敵を追い払うなどして保護する。孵化した仔魚は全長2-3cmになるまでオスの保護下で群れを成して生活する。稚魚がある程度の大きさになると、オスは稚魚を食べることで巣からの自立を促す、この過程で卵から孵った幼魚の半分以上が淘汰されるという。成熟齢は2年から5年といわれ、一般には23cm前後で成熟する。
日本産ブラックバスの遺伝的知見
日本国内の19府県47地点から得られた(オオクチバス、コクチバス、フロリダバス)247個体のDNAハプロタイプを分析した。結果は、オオクチバスでは10のハプロタイプが知られているが、7タイプを確認した。山中湖には7タイプが生息しているが、ブラックバスに対し漁業権を設定しているため、資源量を維持する目的で全国各地から移植されている事が、ハプロタイプからも裏付けられた。琵琶湖ではフロリダバスとオオクチバスのハプロタイプが確認された[1]。
アメリカ国内のハプロタイプ分布は十分に解明されておらず、日本に移入された個体の系統の由来地域の解明も不十分である。アメリカ及び日本国内のハプロタイプ分布が十分に解明されると、日本への移入が既知の1925,1972年以外に行われていたのかの解明が行えると期待される。
外来種問題
導入
日本ではほとんどの都道府県で多くの湖・池に生息している淡水魚で人為的に移入された外来種である。日本に持ち込まれたのは、1925年に実業家の赤星鉄馬により芦ノ湖に放流されたのが最初である[2]。
1970年代以降、日本での分布が急速に拡大し、環境問題に発展している[2]。釣り人による密放流(ゲリラ放流)、琵琶湖産のアユ種苗やゲンゴロウブナへの混入などによりその生息域を広げたと考えられている。導入経路や非公式な違法放流についてはミトコンドリアDNAの解析によりその実態が明らかになっている[1][3][4]。
影響
捕食や競争により本来日本の湖・池に生息していた魚(在来魚)を減少させるとしてコクチバスやブルーギルと並び問題視されている[2]。メダカ、ゼニタナゴ、ジュズカケハゼ、シナイモツゴといった希少な魚を減少させるなど魚類相に大きな影響を与えている[2]。また、魚類だけでなく甲殻類や水生昆虫にも被害が発生しているほか、そうした生物を餌にする水鳥などの他の生物にも悪影響を及ぼす[2]。さらに、アカネズミなどの齧歯類やヒミズなどの食虫類といった小型哺乳類、アオジやオオジュリンといった鳥類の直接的な捕食事例も確認されている[5][6] 本種は日本生態学会により日本の侵略的外来種ワースト100に選定されているが、国際自然保護連合によって世界の侵略的外来種ワースト100のひとつにも選ばれており世界的に問題となっている[7]。
対策
事態を重くみた環境省は、2005年(平成17年)6月施行の「外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)」でコクチバスと共にオオクチバスの規制(輸入・飼養・運搬・移殖を規制する)を目指すことになった[8]。しかし、2004年10月から開始されたオオクチバスを特定外来生物に選定する是非を決める会議では、全国内水面漁業協同組合連合会や外来種問題を危惧する研究者などの指定賛成派と、日本釣振興会、全日本釣り団体協議会、釣魚議員連盟といった指定反対派との間で意見が大きく対立し議論は難航した[8]。結果、2005年1月19日の第4回小会合にてオオクチバスの指定については半年まで検討期間を延長することになった[8]。ところが、その2日後に当時の環境大臣がバスは指定されるべきとの発言をしたため急遽方針が転換され、結局オオクチバスは特定外来生物に1次指定されることが決定した[8]。こうした混乱や衝突はオオクチバスが大規模なバス釣り産業を形成しており経済的に重要な価値を有することが背景にあり、外来種問題の解決の難しさが窺える事例となった[8][9]。また、多くの都道府県でも、内水面漁業調整規則に基づき移殖放流が禁止されている[2]。1965年に移入された芦ノ湖の漁業権を管理する神奈川県は、オオクチバスを含めたブラックバスに関して移植をしてはならないとした[10]。さらに、日本国外ではイギリスや韓国などで国内への持ち込みが禁止されている[2]。
稚魚のすくい取り、産卵床の破壊、人工産卵床の設置、地引き網、池干しといった方法で防除が行われている[9][11]。環境省では2005年度から「オオクチバス等防除モデル事業」を伊豆沼・内沼、羽田沼、片野鴨池、犬山市内のため池群、琵琶湖、藺牟田池の6つの地域で実施した[12]。また、市民活動も盛んに行われており、2005年には「全国ブラックバス防除市民ネットワーク」が結成されている[12][13]。防除対策によって減少していた魚類の増加が確認され生態系の回復が実現している水域もある[11]。
漁業権と外来種問題
山梨県の河口湖、山中湖、西湖でのブラックバスの漁業権は1989-1994年に認められ、2005年施行の外来生物法でブラックバスの放流が禁じられた後も「特例」として許可されてきた。2014年1月の免許更新期を前に、地元漁協や自治体が継続を求め、日本魚類学会やNPOや自然保護団体などが反対していた。山梨県が地元漁協の免許の特例更新を認める方針を固めた。
食用
身は癖のない白身で、ムニエル、フライ、ポワレなどで食べられる。体表面の粘膜に生臭さがある場合が多いため、これを身につけないようにするのがコツとされる。表面に生臭みがある淡水魚は塩もみするか、濃い塩水中でタワシで洗うと落とせる。または、霜降りか泥抜きで臭みをとる。 小骨にも注意。また、生食では顎口虫症による健康被害が報告されており[14]寄生虫対策として加熱して食べる必要がある。水のきれいな水域の個体が美味で、汚染の危険性も低い。
オオクチバスを含めたサンフィッシュ科魚類は、原産地である北米では食用魚とされてきた。日本でも元々食用としての用途も意図されて移植されたが、専ら釣り(遊漁)の対象魚とされている。釣ったオオクチバスは再放流されることが多いが、一部ではオオクチバス料理を提供している店舗もある。80年代頃に全国的に生息域が拡大し、在来生物層の保護という観点から、1990年代初頭には沖縄県を除く全ての都道府県で無許可での放流が禁止された。
漁業権魚種
日本国内でオオクチバスを漁業権魚種として認定している水域は現在、神奈川県の芦ノ湖、山梨県の河口湖、山中湖、西湖の4湖のみ。 権利のない漁協権を行使して、料金をとっている漁協が多数あるようであるが、行政が長年の慣習から放置しているのが実情である。
関連項目
脚注
- ↑ 1.0 1.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 2.6 テンプレート:Cite book
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ 8.0 8.1 8.2 8.3 8.4 テンプレート:Cite journal
- ↑ 9.0 9.1 オオクチバス 国立環境研究所 侵入生物DB
- ↑ 神奈川県内水面漁業調整規則第30条の2
- ↑ 11.0 11.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ 12.0 12.1 テンプレート:Cite book
- ↑ 全国ブラックバス防除市民ネットワーク
- ↑ 日本顎口虫(がっこうちゅう)症 愛知県衛生研究所
参考文献
- テンプレート:Cite web
- テンプレート:Cite journal
- 川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編『山渓カラー名鑑 改訂版 日本の淡水魚』(オオクチバス解説 : 前畑政善)ISBN 4-635-09021-3
外部リンク
- バス問題の経緯と背景 (独)水産総合研究センター