災害
災害(さいがい、英:disaster)とは、気象などの自然現象の変化、あるいは人為的な原因などによって、人命や社会生活に対する被害を生じる現象。
「災害」という用語は多くの場合、自然現象に起因する自然災害(天災)を指すが、人為的な原因による事故(人災)も災害に含むことがある。一般的には人災のうち、被害や社会的影響が大きく、救助や復旧に際して通常の事故よりも大きな困難が伴うような事態を災害と呼ぶが、「事故」と「災害」の使い分けは明確ではない部分がある。また、場面によっても定義が異なる。
「人災」はもともと「天災」に対して作られた言葉であるが、多くの自然災害においては、被害の直接的な原因が自然現象であっても、人為的な要因によって被害が大きく左右されることが多い。このため、災害の被害を軽減する方法が安全工学として研究されている。
1993年に採択された「ウィーン宣言及び行動計画」の第1部、第23節においては、難民の支援についての記述に続いて、自然災害と人的災害について言及し、国際連合憲章と国際人道法の原則に従って、被災者に人道支援を行うことの重要性を強調している。
災害により被害を受けた地域を被災地(ひさいち)、被害を受けたものを被災者(ひさいしゃ)という。
目次
災害の定義
災害の定義は、学術分野等によってもずれがある。政治や行政、社会学的観点からは、自然災害および社会的影響が大きな人的災害を災害と考えるが、労働安全の場面や安全工学の観点においてはその大小や原因に関わらず人的被害をもたらす事態を災害(労働安全においては労働災害)と考える。
また自然災害に関しても、例えば洪水や土砂崩れなどの現象が発生したとしても、被害や損失を受ける者がいなければそれは災害とは呼ばない。このことから、「災害」は被害を受ける者(脆弱性)が原因となる現象(危機)に遭遇して初めて成立すると考えられる(詳しくは自然災害の項を参照)。
日本の関係法律においては以下のように定義されており、法律により若干異なる。
災害対策基本法による定義
- 「災害」を「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」と定義している(災害対策基本法2条第1号)。ここでいう「これらに類する政令で定める原因」については、災害対策基本法施行令で「放射性物質の大量の放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没その他の大規模な事故」が定められている(同法施行令第1条)。したがって、災害対策基本法上の災害には自然災害以外の原因による災害も含まれる。
公立学校施設災害復旧費国庫負担法による定義
- 「災害」を「暴風、こう水、高潮、地震、大火その他の異常な現象により生ずる災害」と定義している(同法第2条)。
公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法による定義
- 「災害」を「暴風、こう水、高潮、地震その他の異常な天然現象に因り生ずる災害」と定義している(同法第2条)
災害弔慰金の支給等に関する法律による定義
- 「災害」を「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波その他の異常な自然現象により被害が生ずること」と定義している(同法第2条)。
被災者生活再建支援法による定義
- 「自然災害」を「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他の異常な自然現象により生ずる被害」と定義している(同法第2条)。
災害の程度に応じて「非常事態」「緊急事態」 (emergency) と言われる場合がある。又、一時に3人以上の労働者が業務上死傷又は罹病した災害労働災害を「重大災害」と称して区別している。
災害の類型
- 非常災害 - 日常的には発生しない突発的事象により引き起こされる災害。洪水、地震等の自然災害の多くがこれに該当する。
- 大規模災害 - 被害の程度やその広がりが著しい災害。立場や場面によって定義は異なる。広域災害ともいう。甚大な被害によって外部からの救援を必要とする場合が多い。
- テロ災害 - テロにより引き起こされる災害。
- 原子力災害 - 原子力災害対策特別措置法第2条では「原子力緊急事態により国民の生命、身体又は財産に生ずる被害をいう」と定義されている。
- 武力攻撃災害 - 災害対策基本法における災害の概念には、いわゆる武力攻撃やテロによる被害は概念の中に含まれないことから、有事法制の整備に際して設けられた定義である。武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(以下「国民保護法)第2条第4号において「武力攻撃により直接又は間接に生ずる人の死亡又は負傷、火事、爆発、放射性物質の放出その他の人的又は物的災害」として定義されている(日本は日本国憲法第9条により、政府が戦争をする事、及び交戦権を認めないので、「戦争に備える」とは定義出来ない)。
- NBC災害 - 核兵器、生物兵器、化学兵器による攻撃をいう。2000年代以降は左記に放射性物質と爆発物を加え、不慮の事故までを含めたより広いCBRNE(シーバーン)災害という考え方が浸透している。上記「武力攻撃災害」の一類型。
- 武力攻撃原子力災害 - 国民保護法第105条第7号の一において「武力攻撃に伴って原子力事業所外へ放出される放射性物質又は放射線による被害」として定義されている。原子力発電所や原子力施設への攻撃により起きる災害。
災害時対応と防災
古くより、災害(天災)が発生した時には「自助」と「共助」、つまり自分でできる範囲で負傷の手当てや復旧を行うとともにコミュニティの中で助け合うという考え方があった。災害時の助け合いは自治の1つとなっていて、その流れは現在の日本における消防団・水防団や自主防災組織に至る。
近代法が成立した国家では(日本では明治以降)、政府や行政による「公助」の考え方が浸透した。救急や消防、警察、軍(自衛隊)、あるいは専門機関(日本の災害対策本部、アメリカのFEMA、ロシアの非常事態省など)の役割が明確化され、それぞれが責任を負っている。大規模災害においても、政府や行政が復旧・復興の責任を負うのが普通となっている。一方で、有志による「公助」の考え方も進化してきており、企業やNPOによる援助、ボランティア(災害ボランティア)活動も行われる。
災害を未然に防ぐための施策、行為を総称して防災と呼ぶ。災害対策基本法第2条第2号では、「災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ、及び災害の復旧を図ることをいう」とされている。さらに2000年代より、自然災害においては発生が免れない現象の被害を皆無にすることは不可能であり、対策により被害を最小限に抑えることに注力するという、減災の考え方が登場した。
一般に、防災においては「脆弱性を低減する」ために、生活環境自体を災害に強くするハード面の対策と、災害の分析を行った上で、適切な対処方法を事前に考えて周知徹底するソフト面の対策の両面からアプローチが行われる。
ハード面では
- 水害や土砂災害に対する治水構造物の設置、斜面改良
- 建築物や土木構造物における、耐震化(制震、免震を含む)、防火化、消防設備の設置
- 防災拠点(防災倉庫、避難場所など)の整備や防災実働機関の設備整備
- 防災無線の整備、通信設備の耐災害化
- 災害医療設備の整備
ソフト面では
- 建築物や土木構造物における法的規制(耐震基準設定、防火基準設定、避難設備基準設定など)
- 防災を考慮した都市計画の設定
- 地域主体での防災まちづくり活動
- 水害や土砂災害における危険箇所への法的規制(建築制限、危険箇所指定など)
- 水害・土砂災害・風害・雪害に対する保安林の設定
- 災害時の行政から住民への周知体制の整備(広報車、サイレンなど)
- 災害時の防災担当機関から報道機関への連絡体制、報道体制の整備
- 災害医療体制の整備
- 災害を想定した体制の整備、防災訓練(避難訓練による避難経路の確認など)
- 行政によるハザードマップ作成、公表
- 学校教育や地域・行政・企業での防災教育
どちらの面においても、自らの経験や先人から蓄積されてきた経験的・科学的知識に基づき、どのような災害が発生しうるか、そして災害時にどのような事態が発生するかを想定することが第一に行われる。一方で、災害時には「想定外」の事態が発生することはつきものであり、「想定外」に対応できるようにしておくことも求められる。
災害の想定・対策を行うに当たって知識や技術が必要であるし、対策を行うに当たっては資金や利害関係の調整が必要であり、経営管理(マネジメント)的な視点が重要である。経営学・政治学において、防災は危機管理・リスクマネジメントの一部として認識されている。
日本の災害対策
テンプレート:節stub 日本では、災害対策基本法(災対法、1961年制定)を主軸とする関係法令によって規定されている。
法令 | 組織・対象 | 役割 |
消防組織法 | 消防庁、消防本部、消防団 | 災害時における警防、救急、救助および、建築物等への防災指導・査察などの災害予防活動 |
水防法 | 水防団 | 水害時における防御、治水施設における水害予防活動 |
警察法 | 警察庁、警察本部 | 災害時における警備、捜索、治安維持 |
国土交通省設置法 | 国土交通省 | 道路、鉄道、橋梁、港湾、ダム、堤防、空港などの社会資本の管理復旧 |
防衛省設置法、自衛隊法 | 防衛省・自衛隊 | 救助・復旧支援を目的とした災害派遣など |
海上保安庁法 | 海上保安庁 | 水難・海難時における救助、災害時における航行支援 |
災対法 | 内閣府、防災担当大臣、中央防災会議 | 防災基本計画などの防災に関する政府方針の策定、大規模災害への対処 |
気象業務法 | 気象庁 | 天気予報、気象災害・土砂災害の警報、火山・地震の監視 |
建築基準法、消防法 | 建築物 | 建築物の耐震基準(構造耐力)設定、地盤強度(地耐力)基準設定、消防用設備設置基準や防火性能の設定、都市計画上の建築制限 |
都市計画法、都市再開発法、土地区画整理法 | 建築物、土木構造物、土地利用 | 都市計画や再開発事業、土地区画整理事業における防災用途地域の設定、防災機能の強化 |
宅地造成等規制法、砂防法、急傾斜地法、地すべり等防止法、土砂災害防止法、森林法 | 建築物、土木構造物、土地利用 | 土砂災害防止施設の設置基準設定、危険区域の設定、危険区域における造成規制、保安林の設定 |
大震法・東南海・南海地震特措法、日本海溝・千島海溝地震特措法 | 対象地域の関係機関、住民 | 大規模地震発生が予想される地域における対策の強化、(東海地震の)地震予知時の対応設定 |
消防法 | 自衛消防組織 | 一定規模以上の危険物を扱う事業所における消防組織編成 |
石油コンビナート等災害防止法 | 自衛防災組織 | 石油コンビナートなどの大量の石油を扱う事業所における消防組織編成 |
原子力災害対策特別措置法 | 原子力防災組織 | 原子力施設における消防組織編成 |
災対法 | 自主防災組織 | 地域単位で自主的に編成される防災組織 |
災対法 | 地方自治体(都道府県・市町村) | 建築確認、条例による都市計画上・建築上の規制、防災施設の設置管理、災害発生時の状況把握・救援・災害復旧、防災情報の発表周知 |
災害救助法 | 都道府県 | 災害時の救助・救援活動の補助。自衛隊の災害派遣、日本赤十字社の救護班派遣、国への費用負担などの要請を含む。 |
激甚災害法 | 地方自治体(都道府県・市町村) | 被害が甚大な災害における国の費用負担の拡大 |
被災者生活再建支援法、災害弔慰金支給法 | 被災者 | 被災者に対する金銭的支援 |
- 災害時の警報システム
土砂災害、洪水、噴火、火災、爆発、その他の災害が発生する可能性がある場合、自治体は対象となる居住者に避難を呼びかける。レベルの低い順から避難準備情報、避難勧告、避難指示、警戒区域設定、災害緊急事態発布となる。これらの情報は主に防災無線を経由して、広報車、屋外スピーカー、個別受信機、また自治体のウェブサイトなどで告知される。突発的な災害や災害意識の薄い場合には、この情報伝達が不十分となり避難が遅れる場合があり、問題となっている。なお、日本では住民に対して強制力を持つ「避難命令」は存在しないほか、事実上の国家非常事態宣言である災害緊急事態は災対法上規定されているものの実際に発動された事はない。
- 災害時の情報インフラ
防災関係機関は自前の通信網(専用線)を持っているが、それ以外の公衆通信に関しても非常通報などの重要通信確保のために電話の通話規制などが行われる場合がある。その代替として災害用伝言ダイヤル、災害用伝言板が提供される。大規模災害により安否確認が困難になった場合は、テレビ放送により安否情報が放送されたり、有志により設立されるFM臨時災害放送局から災害や生活に関する情報が放送されたりする。
自然災害の例
気象現象
- 風水害
- 土砂災害 - 土石流、がけ崩れ、地すべり、天然ダムなど
- 雪害 - 吹雪、ブリザード、雪崩、大雪による交通機関のマヒなど
- 着氷害 - 船や航空機への着氷による航行障害
- 凍結害・霜害 - 農産物や植物への影響
- 雹 - 大きな雹の落下による建物の破損、農産物への被害
- 雷 - 落雷による構造物の破損、火災、電撃・誘導雷による電気的被害
- 高温(熱波、猛暑、暖冬)、低温(厳冬、冷夏) - 異常な高温・低温による動植物・人間への影響、農・海産物への被害
- 少雨(干ばつ)、空梅雨 - 水不足による生活・産業への被害、生態系への影響、乾燥による山火事
- 寡照(日照不足) - 農・海産物への被害
地質現象
生物
天文現象
- 隕石の落下
- 地表への衝突による土砂の飛散、構造物への衝突による被害
- 巨大隕石落下による津波、粉塵による太陽光の遮断(隕石の冬Impact winter)、地殻津波
事故・人災の例
- 戦争(戦災)
- テロ
- 暴動
- 犯罪被害(強奪、放火、暴力など)
- 日常における不慮の事故(交通事故、列車事故、飛行機事故、海難事故、水難事故、遭難、製品欠陥に伴う製品事故、食品事故、医療事故)
- 爆発、毒物拡散、大気汚染、水質汚染、土壌汚染、騒音、振動、悪臭、地盤沈下
- 社会的被害(報道被害、風評被害、取り付け騒ぎ)
近年の災害
日本国内
- 阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)(1995年1月17日)
- 東海村JCO臨界事故(1999年9月30日)
- 三宅島の噴火(2000年 - 現在)
- 有珠山の噴火(2000年3月31日 - 2000年8月17日にほぼ停止) - 約30年に1度の割合で噴火している。
- 平成16年7月新潟・福島豪雨(2004年7月13日)、平成16年7月福井豪雨(2004年7月18日)
- 関西電力美浜発電所3号機の蒸気噴出(2004年8月9日) - 労働災害上の重大災害。死者は5人で日本の原発事故史上最悪の被害。事故を回避する事が可能であった為、災害よりも人害の方が近い。なお、高温の水蒸気による労働災害であり、放射線・放射能によるものではない。
- 愛媛県東予地方の水害(2004年8月18日)
- 浅間山の噴火(2004年9月1日 - 現在)
- 2004年の台風集中上陸
- 新潟県中越地震(2004年10月23日)
- 福岡県西方沖地震(2005年3月20日)
- JR福知山線脱線事故(2005年4月25日)
- 能登半島地震(2007年3月25日)
- 新潟県中越沖地震(2007年7月16日) - 新潟県では前の大地震から、僅か3年での地震再来となった。
- 新燃岳の噴火(2011年1月26日 - 現在)
- 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)(2011年3月11日)
- 福島第一原子力発電所事故(2011年3月11日 - 現在) - 上記の東日本大震災によって引き起こされた世界最悪レベルの原子力事故。
- つくば市を始め関東北部を襲った竜巻(2012年5月6日)
日本国外
- スリーマイル島原子力発電所事故(1979年3月28日)
- チェルノブイリ原子力発電所事故(1986年4月26日) - 人類史上最悪の原発事故。多くのヒューマンエラーが重なった
- スマトラ島沖地震(2004年12月26日)
甚大な被害が予想される災害・特殊災害
関連項目
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- 安全工学
- 二次災害
- 防災
- 災害弱者
- 災害復旧
- 救急医療
- 災害心理学
- 消防
- 赤十字
- 災害ボランティア、災害ボランティアセンター、恩送り
- 損害保険
- 確率年
- 事業継続計画
- マルチハザード
- モラルハザード
- 雑損控除