火山灰
火山灰(かざんばい、テンプレート:Lang-en-short[1])とは、火山の噴出物(火山砕屑物)の一つで、主にマグマが発泡してできる細かい破片のこと。木や紙などを燃やしてできる灰とは成分も性質も異なる。
目次
地質学上の火山灰
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火山灰の光学顕微鏡写真(左)と電子顕微鏡写真(右) |
- 火山ガラス
- 火山が噴火する時にマグマが地下深部から上昇してくると圧力が下がるため、マグマに溶解していた水などの揮発成分がガスとなって発泡する(炭酸飲料の栓を抜いたのと同じ状態)。これにより残っていた液体のマグマが粉砕され微粒子となる。これが噴出されると結晶になる暇もなく急冷されるためガラスとなる。このガラスの成分は元のマグマの成分によっていろいろである。
- 鉱物結晶
- マグマが地下深部から上昇してくるまでに、マグマの中で既にいくらか鉱物の結晶ができていることが多い。マグマが上昇して発泡するときに結晶自体が粉砕されることは少なく、1個ずつ分離された状態で噴出される。
- 古い岩石の破片
- 噴火が始まる時は火口を塞いでいた土砂等が吹き飛ばされる。また爆発的な噴火(水蒸気爆発など)の場合、火口上だけでなく周辺の山体を形成する岩石も破砕され、噴火の際共に放出される。そうして放出された岩体の内、細かいものについては火山灰に含まれる。
巨大な噴火によって大量の火山灰が空高く噴出すると、その火山灰は広範囲に同時かつ均一に堆積する(広域テフラ)。そのため地層が形成された年代を特定する際の鍵層として利用される。例として、日本においては約6,000年前まで、噴出した火山灰が日本全土を覆うような大規模な噴火が度々発生しており、遺跡の発掘調査や活断層の活動時期の推定において重要な目安となっている。また、南極大陸などの氷床の中にも火山灰の層が薄く含まれており、氷床コアを利用した研究を行う際に、氷の形成年代決定の重要な役割を担っている。
火山豆石
主に火山ガラスからなる火山灰の噴出途中や降下途中で水が混ざると、火山ガラスの粒子どうしが凝集して直径1~2cm程度の豆状になることがある。これを火山豆石(かざんまめいし、テンプレート:Lang-en-short)という。火口湖などの水中で噴火が起こった場合や、噴火中に雨が降っていた場合に見られる。最近では、雲仙平成新山を形成した噴火の際、雨の日に火山豆石が降った記録がある。
特徴的な火山灰層を形成した火山活動
火山灰と人間
人間の生活圏に降る火山灰は、人間にとって困りものである。日常生活にも大きく影響し、火山灰が多く降り注ぐ日は視界も悪く洗濯物も外には干せない。多量に降ると農作物に被害が出る場合もある。ひどい場合は家が埋まってしまう場合もある。
桜島
都市への火山灰を噴出する活火山がある例として、世界的にも鹿児島市(2008年現在で人口約60万人[2])の桜島が有名である。夏季は東よりの風に乗って鹿児島市方面で降灰し、冬季は西よりの風に乗って大隅半島での降灰が多いと言われるが、風向きは変化し易いので、周辺地域では一年中降灰が見られる。そのため、鹿児島地方気象台では、桜島上空の風のデータをもとに降灰の予報も出している。
また、空気中に漂う火山灰もあるため、雨の日には灰混じりの雨が降り、色の薄い洋服を着ていると雨にあたった部分が黒ずんでしまう。このような地域性のため、鹿児島市の中心部商店街である天文館ではアーケードが非常に発達している。更に、鹿児島市内には「火山灰集積所」が随所にあり、降灰時は洗濯物を外に干さないのが一般的である。
火山灰の資源としての利用
古代ローマ時代、建材として使われていたコンクリートには、火山灰が使用されていたと言われるが、その方法は現代に伝わっていない。しかしながら、現在、コンクリートの骨材として火山灰を利用する方式が考案され、実用化に向けて研究が進められている。最近では、住宅用建材としてシラス壁といわれる壁材が火山灰を主原料としてつくられている。
また、日本では古来火山灰を磨き粉(クレンザー)として利用していたり、阪神甲子園球場のグランドの土に利用されたり、現代においてフェイシャルエステに火山灰を混入させたクリームを使用していたりする。まれではあるが、焼き物の釉薬として桜島の火山灰を利用している例もある。
航空機と火山灰
火山灰の雲のそばを飛行することは、航空機にとって大変危険である。ジェットエンジンに吸い込まれた極細粒の火山灰は、エンジン内部の熱によって融解しタービンブレードその他の部品に付着する。このことによって、部品の腐食や破損等が生じ、結果、推力の低下やエンジン停止をもたらす。レシプロエンジンでもシリンダーやピストンを傷める原因となる。また火山灰はとがっており、高速で飛行機、特に操縦席のガラス(アクリルが多い)を傷つけ、視界が悪くなる。離着陸時には、きわめて滑りやすい。
火山灰が航空機に影響を及ぼした事例としては、1982年にジャワ島のガルングン山の近くを飛行中のボーイング747が、火山灰の雲に入り、4基のジェットエンジンのすべてが一時的に停止するトラブルに見舞われた事例(ブリティッシュ・エアウェイズ9便エンジン故障事故)がある。この事故は高度37,000フィート(約11,300メートル)で起こったものである。1万m以上の噴煙は2、3年おきにあり、2000年前ではあるが推定高度51kmという噴煙もあったので、高々度だからといって安全だとは限らない。
2010年のエイヤフィヤトラヨークトル(アイスランド)の噴火によって発生した史上初の航空路の大混乱の結果として、「空気中1m³あたり2mg未満の火山灰」という飛行可能基準がCAA(イギリス民間航空局)によって制定された。それまでは火山灰があれば完全飛行禁止だった。ただし、飛行許可を得るには、事前に地上からのLIDAR(レーザー光レーダー)による計測を行う必要がある。
公式参考資料
- 火山灰への備えについて USGS資料の日本語訳(産業技術総合研究所 つくば中央第七事業所 宮城磯治の公式blog)
- 降灰への備え 事前の準備、事後の対応 IVHHN日本語版2007年11月1日 第1刷発行 独立行政法人 防災科学技術研究所
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
- 気象庁 各火山の活動状況
- 桜島について
- 桜島の火山活動度レベル(降灰の可能性も予報)
- 鹿児島地方気象台 業務の説明:天気予報
- 火山灰への備え(産総研)