産業技術総合研究所
独立行政法人産業技術総合研究所(さんぎょうぎじゅつそうごうけんきゅうしょ)は、日本の独立行政法人。略称は産総研(さんそうけん)、英語表記はAIST(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology)。
目次
概略
2001年1月6日の中央省庁再編に伴い、通商産業省工業技術院および全国15研究所群を統合再編し、通商産業省及びその後継の経済産業省から分離して発足した独立行政法人である(一部業務は経済産業省産業技術環境局へ移行)。独立行政法人産業技術総合研究所法により「鉱工業の科学技術に関する研究及び開発等の業務を総合的に行うことにより、産業技術の向上及びその成果の普及を図り、もって経済及び産業の発展並びに鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保に資すること」(第3条)を目的とする。所轄官庁は経済産業省(同法第13条)。
産総研の英文名称は、工業技術院(Agency of Industrial Science and Technology)の略称AISTと同じ英名を引き継ぐように考案されたものである。
前身の機関
2001年以前の通商産業省工業技術院時代の工業技術院傘下の研究所群は以下の通り。2001年1月6日-3月31日までは経済産業省に附属する総合研究所という暫定的な形態であったが、同年4月1日から独立の独立行政法人に移行した。
- つくばセンター:産総研最大の研究拠点で約7-8割の予算や研究者が集積する。
- 地域センター研究所
任務と構成
「世界の持続的発展への貢献」「日本の経済社会の新たな可能性を切り開き、新しい産業技術を提案してゆく」を使命として、産業技術分野におけるさまざまな研究開発を総合的に行う経済産業省所管の研究組織である。「環境・エネルギー」「ライフサイエンス」「情報通信・エレクトロニクス」「ナノテクノロジー・材料・製造」「地質」「標準・計測」の6分野を主軸に、日本の産業のほぼ全分野を網羅している。
茨城県つくば市および、霞ヶ関の経済産業省内に本部を置く。「つくばセンター」をはじめ、「北海道センター」(北海道札幌市)、「東北センター」(宮城県仙台市)、新設の「臨海副都心センター」(東京都江東区)、「中部センター」(愛知県名古屋市)、「関西センター」(大阪府池田市)、「中国センター」(広島県東広島市)、「四国センター」(香川県高松市)、「九州センター」(佐賀県鳥栖市)など、日本全国に展開して研究拠点を構えている。最大の研究拠点であるつくばセンターは筑波研究学園都市に位置し、産総研の約7割の研究者が集結している。
陣容は、研究職を中心とする常勤職員約2500名、事務系職員約700名に加え、企業・大学・外部研究機関等から約5200人(平成17年度受入延べ数)の外来研究者を受け入れている。
研究組織としては、時限プロジェクトを遂行する研究センターが約30組織、センターの卵である研究ラボが7組織、分野研究を行う研究部門が20組織ある。
日本最大規模の研究開発型独立行政法人であり、研究者評価制度、人事制度改革など様々な試行が行われており、その影響は他の研究系独立行政法人や大学での研究制度にも及んできた。
規模が匹敵する理化学研究所(略称は理研。文部科学省所管)とよく比較されるが、理研は基礎研究指向でライフサイエンス分野が強く、産総研は産業技術開発・工業化研究指向で材料開発研究分野が強い特徴を持つ。
研究成果と技術移転
これまでヒューマノイド・ロボット、次世代半導体技術開発、グリッド、情報セキュリティ、ナノテク、環境技術等で顕著な成果が上がっている。また、産総研は旧電子技術総合研究所の流れを汲むことから、オープンソース・ソフトウェア開発の拠点として知られており、Mule、DeleGate、HORB、KNOPPIXといったソフトウェアが公開されている。
研究成果は特許や著作権等の知的財産権として社会や企業に技術移転される。技術移転は技術移転機関(TLO)である産総研イノベーションズが担当する。さらに、産総研の研究成果を元にする商品化の支援のために共同研究、技術指導、技術相談、技術者が産総研に一時滞在する技術研修、ベンチャー設立支援、技術開発資金援助等の各種制度を有する。
進藤昭男博士によるPAN系炭素繊維の発明と技術移転や、グルコースイソメラーゼの開発など、工業化を実施するための材料開発系の基礎研究に高い能力を発揮する。
地質に関する研究成果は地質図・活断層図として公布されているほか、地震予知に役立てられており生活への関連が深い。標準に関する研究は、シリコンボールによる新しいキログラム原器の提案や、産業界における各種の計量標準として供給されている。
一般向けの展示室としては、つくばセンターに「サイエンス・スクエアつくば」「地質標本館」があり、常設展示を行っている。また、毎年7、8月を中心に全国各地の研究センターで一般公開を行っており、多数の見学者でにぎわっている。
就職
産総研の人材採用は、常勤職員と契約職員の2種類がある。常勤職員は試験採用と公募選考採用がある。2005年度から常勤職員については、事務系・研究系共に独自の能力評価採用試験を行っているが、事務系部門では国家公務員I種試験合格者は一次試験が免除される。また、2012年度からは試験採用による研究系は計測標準部門に限られることになった。
常勤研究職員(任期付きも含む)は公募し、大学等と同じように研究業績によって採用される。契約職員は博士研究員(ポスドク)の第1号契約職員、技術者・技能者の第2号契約職員、秘書・事務アシスタントの第3号契約職員、その他に幹部招聘型の第5号契約職員など6種類がある。
職制
以下は、独立行政法人産業技術総合研究所の内規に基づく。
役員
- 理事会メンバー(理事長・副理事長・理事・監事)
常勤職員
研究系
- 研究部門長
- 研究センター長
- 研究ラボ長
- 首席研究員
- 総括研究主幹
- 研究グループ長、研究チーム長
- 主任研究員
- 研究員
事務系
- 部長
- 次長、審議役
- 室長、総括主幹
- グループ長、チーム長
- 主幹
- 主査
- 職員
非常勤職員
- 産総研特別研究員(第1号契約職員)=ポスドク研究員
- テクニカルスタッフ(第2号契約職員)=プロパーや技術者、技能者
- アシスタント(第3号契約職員)=事務補助、秘書
- 技術専門職(第4号契約職員)=弁理士、産業医等の資格職
- 招聘研究員(第5号契約職員)
沿革
この研究所に関連した機関の沿革は次の通り[1]。
- 1882年、農商省地質調査所を設立
- 1891年、逓信省電務局電気試験所を設立
- 1890年、農商務省工業試験所を設立
- 1903年、中央度量衡器検定所を設立
- 1918年、農商務省大阪工業試験所を設立
- 1937年、商工省工務局機械試験所を設立
- 1948年、商工省工業技術庁を設立、4年後に工業技術院へ改称
- 1949年、商工省が通商産業省と改称し、所管試験所群は同省工業技術院傘下となる。
- 1952年、名古屋工業技術試験所を設立
- 1960年、北海道工業開発試験所(北海道札幌市)を設立
- 1964年、九州工業技術試験所(佐賀県鳥栖市)を設立
- 1967年、四国工業技術試験所(香川県高松市)および、東北工業技術試験所(宮城県仙台市)を設立
- 1970年、電気試験所を電子技術総合研究所(略称:電総研、英文略称:ETL(ElectroTechnical Laboratory))と改称し、在京試験所・研究所の筑波学園都市への移転準備開始。
- 1971年、中国工業技術試験所(広島県呉市)を設立
- 1980年、7つの在京試験所・研究所の筑波学園都市への移転が完了。
- 1993年、筑波研究学園都市に産業技術融合領域研究所を設立し、全国では工業技術院15研究所群となる。
- 2001年、1月に上記組織を経済産業省産業技術総合研究所(略称:産総研、英文略称:AIST)へ組織替えし、4月からは独立行政法人産業技術総合研究所を設立
人物(工業技術院時代も含む)
- 中鉢良治 現理事長、元ソニー副会長
- 野間口有 第2代理事長、元三菱電機会長
- 吉川弘之 初代理事長、元東京大学総長
- 中西準子 環境リスク学の提唱
- 近藤淳 近藤効果で有名
- 飯島澄男 カーボンナノチューブ研究、ナノチューブ応用研究センターセンター長
- 中島秀之 人工知能研究者、現公立はこだて未来大学学長
- 平野聡 ソフトウェア作家、HORB、htermの開発、Ring Serverの創設
- 関口智嗣 並列処理、グリッド・コンピューティング研究者
- 高木浩光 セキュリティ研究者
- 柴田崇徳 ロボット工学研究者、アザラシ型ロボット「パロ」の開発
- 半田剣一 多国語対応エディタMuleの開発
- 片浦弘道 ナノテクノロジー研究者、片浦プロットで知られる
- 湯田坂雅子 ナノカーボン材料
- 今村裕志 スピントロニクスナノデバイス研究
- 畠賢治 カーボンナノチューブ研究
- 進藤昭男 PAN系炭素繊維の発明者
- 高崎義幸 グルコースイソメラーゼ製造法の発明者、ブドウ糖から異性化糖を工業的に生産することに成功
- 松本元 脳科学者、イカの人工飼育に成功
- 十倉好紀 ナノテクノロジー研究
- 小川琢治 地質学者、湯川秀樹の実父。
- 新部裕 Linux開発者
- 菊池誠 半導体技術
- 海野十三 戦前のSF作家、科学解説家、電気試験所研究員
- 軽部征夫 バイオテクノロジー研究者、バイオ技術産業化センターセンター長、現東京工科大学学長