松本元
松本 元(まつもと げん、1940年11月24日 - 2003年3月9日)は日本の脳科学者。神経細胞が巨大で観察しやすいヤリイカの人工飼育法の開発、神経細胞の研究、脳型コンピュータの開発を手掛けた。
略歴
- 高校の同期には、川口順子(元外務大臣)、畔柳信雄(元三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)、島村英紀(元国立極地研究所所長)、星出豊(昭和音楽大学教授)、横田洋三(国連大学学長特別顧問)などがいた。
- 1964年 - 東京大学理学部物理学科卒業
- 1969年 - 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了(理学博士)。東京大学理学部物理学科助手
- 1971年 - 電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)に出向
- 1997年 - 理化学研究所脳科学総合研究センター・グループディレクター
- 2003年 - 肝炎のため死去。62歳。正四位勲三等瑞宝章
歩みと功績
物性物理学(磁性体の研究)から、生物物理学へと研究を移し、日本生物物理学会会長も務めた。物理畑出身の生物学者として、電子技術総合研究所(現在の産総研)におけるライフサイエンス分野の研究の黎明期を担った。脳機能の解明に向けた研究で知られる。
研究テーマは、脳と同じ原理で情報処理を行う「脳型コンピュータ」の開発と、この研究を通じて「人間の脳」の仕組みを解明することにあった。まず松本は、電子技術総合研究所において、ヤリイカの人工飼育法の開発に着手した。巨大軸索をもつヤリイカは、モデル生物として最適であるが、生きたまま輸送し、人工飼育を実現することは不可能とされ、研究を進める上でのボトルネックとなっていた。動物行動学の権威で、ノーベル医学生理学賞を受賞したコンラッド・ローレンツから「人工的な飼育が不可能な唯一の動物」とすら言われていたが、本来、動物行動学とは無縁であった松本は周囲が「狂ったのではないか」と言うほどヤリイカに情熱を傾け、苦心の後、定常的に飼育する方法を開発するに至った。
巨大神経細胞が豊富に得られるようになった松本のグループは次々と研究成果を挙げ、脳・神経科学の分野で世界的な業績を生み出した。電総研の地下にはヤリイカの水槽がいくつもあり、見学者に「色がきれいだろう」と紹介したり、イカ焼きパーティーでヤリイカを振る舞ったりした。
その後、脳型コンピュータの開発を行うため理化学研究所に移り、脳科学総合研究センターのディレクターとして研究を行っていたが62歳でこの世を去った。日本政府はその功績を称え、正四位勲三等瑞宝章を贈った。
講演では決まって「脳を活性化するのは愛です」と話す松本は、明るい人柄で慕われた。