悪臭

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テンプレート:出典の明記 悪臭(あくしゅう)とは、ヒトに知覚できる臭気のうち不快なものを指す。

公害対策基本法で規定された典型七公害のひとつであるが、「不快」の定義及び数値化が困難で騒音以上に個人差が大きい感覚公害である。このこともあり、法令による規制対象としての悪臭は、日常生活でいうのとはいくぶん異なるものとなっている。

嗅覚と悪臭

ヒトの嗅覚五感のうちでも特に鋭敏であり、本能的、原始的な感覚とされ、未解明の領域も多い。腐敗した有機物の発する物質を悪臭と感じるのは、進化の過程で死臭による危険の察知や、食物の状態を判断するため発達したものと考えられている。

臭気として知覚できる物質は数十万種はあるといわれ、日常的に「○○のにおい」と表されるものでも、その構成物質は数百に及ぶ。たとえばコーヒーの香りからは500種の物質が数えられている。また、ヒトが何らかの臭気を感じた時、それを不快に感じるかどうかは非常に幅が広く、様々な要素が影響すること。

  • 臭気の強さや構成:香水果物などのにおいは、強すぎると悪臭になることが知られている
  • 他の感覚との補完:魚の生臭さは通常不快だが、市場の映像を見せながらだと臨場感を高める効果となる(バーチャルリアリティ
  • 体調や状況:いわゆる「気になる」「気にならない」で、時刻や頻度、感じているストレスの大きさなど、身体的・心理的状態により感覚が左右される
  • 習慣や価値観:多くの文化が悪臭を放つ発酵食品などを利用しているように、有益なものの特徴に過ぎないことを知っていれば、不快感は大きく低減され、さらには好意的に受け止められもする(例えばブルーチーズ納豆など)
  • 嗅覚疲労、順応:同じ悪臭に曝露され続けるとやがて感じなくなり、これが長期間続くといったん無臭状態を経由しても感じにくくなる

このため、悪臭を定性的定量的にあらわすことは非常に困難であり、評価から人間の主観を排することができない。この問題の解決手段として期待されている臭気センサーの開発は、五感を代替するセンサーのなかでは最も遅れている。これまでに半導体や薄膜、細胞などを利用したものが考案され、製品も市販されているものの、ヒトの嗅覚、特に嗅ぎ分けには追いついておらず、用途は限られている。

主な発生源

発生源は多く、その状態に応じて対応策が講じられている。特に地域一帯に悪臭をもたらす規模の場合は公害とみなされる。

このほか、身近な臭気も規模は小さいが状況により悪臭となる。

規制

悪臭防止法により、特定悪臭物質の濃度による規制、及びヒトの嗅覚に基づく臭気指数による規制が行われているが、環境基準はない。このため、発生源を特定したうえで、その敷地境界線上での測定値に基づく発生源対策が中心となっている。

かつて、都市への人口集中を背景として、工場をはじめとする事業場等で使用される材料や製品、廃棄物などから発する臭気が問題となった。これに対し、測定可能な悪臭「物質」を定め、その濃度について設けた基準を用い、被害を評価する手法が採られた。規制されている物質には、有毒なものも無害なものもあるが、嗅覚刺激が強かったり、悪臭被害を招きやすい状況から共通して発生する物質のうち、定量的に測定できる物質が選ばれている。

これにより、悪臭に関する苦情件数は濃度規制導入時の年2万件弱から20年を経て年1万件まで減少したものの、複数または対象外の物質による複合臭気(原因物質が特定できない事も多い)、増加する都市型、生活型と表現されるタイプの臭気苦情への対応には限界があった。そこで、1996年から臭気判定士による測定から求めた臭気指数による規制を行うこととなった。

しかしながら、この改正を境に全国の悪臭苦情件数は急増し、2003年には過去最悪の年2万5千件に達した。その後減少し、2006年度実績は18805件となっている。なお、苦情が急増した背景には当時認識が広まった、野焼きによるダイオキシン類生成への警戒感があると見られる。

2000年に環境庁は「におい環境指針」を策定し、環境基準に準じるものとして、臭気環境目標(不快なにおいの低減と臭気に関する望ましい環境の維持・達成)として定性的目標(大部分の地域住民が日常生活において感知しない程度)を設定した。また、定量的目標の設定に必要な数値化手段の開発が産業技術総合研究所で行われている。

特定悪臭物質

法令上は「不快なにおいの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質」とされているが、香料として食品添加物に利用されているものもある。

番号 法令での名称 別名 においの特徴 有害性、臭気に関係する利用法など
1 アンモニア   2 公衆便所 劇物、LC50 = 4200 ppm/1 h(ラット)、消臭剤(嗅覚を麻痺させる)
2 メチルメルカプタン メタンチオール 0.004 腐ったキャベツ、糞尿 LC50 = 670 ppm (ラット)
3 硫化水素   0.06 腐った卵 LC50 = 440 ppm/4 h (ラット)
4 硫化メチル ジメチルスルフィド 0.05 腐ったタマネギ LC50 = 40000 ppm/4 h (ラット)、香料(コーヒー、チョコレート)、
ガスの付臭
5 二硫化メチル ジメチルジスルフィド 0.03 腐った野菜、ニンニク LC50 = 800 ppm/4 h (ラット)、香料(タマネギ、キャベツ)
6 トリメチルアミン N,N-ジメチルメタンアミン 0.03 腐った魚、アンモニア LC50 = 7700 ppm (マウス)
7 アセトアルデヒド エタナール 0.1 青臭い刺激、ホルマリン LC50 = 13000 ppm/4 h (ラット)、香料(ヨーグルト、熟した果物)
8 プロピオンアルデヒド プロパナール 0.1 甘酸っぱい焦げた刺激 香料(新鮮な果物)
9 ノルマルブチルアルデヒド ブタナール 0.03 甘酸っぱい焦げた刺激 香料(リンゴ洋梨
10 イソブチルアルデヒド   0.07 甘酸っぱい焦げた刺激 香料(果物)
11 ノルマルバレルアルデヒド 1-ペンタナール 0.02 甘酸っぱい焦げた刺激 香料
12 イソバレルアルデヒド 3-メチルブタナール 0.006 リンゴ 香料(果物)
13 イソブタノール イソブチルアルコール 4 発酵した果実、バナナ様 香料(果物)
14 酢酸エチル   7 リンゴ接着剤 劇物(シンナーを取り締まるため指定)、
LC50 = 16000 ppm/6 h (ラット)、香料(イチゴ、熟したオレンジ
15 メチルイソブチルケトン 4-メチル-2-ペンタノン 3 シンナー、樟脳  
16 トルエン メチルベンゼン 30 ガソリンシンナー 劇物、LC50 = 4800 ppm/4 h (ラット)
17 スチレン   0.8 プラスチック LC50 = 2700 ppm/4 h (ラット)
18 キシレン ジメチルベンゼン 2 ガソリン 劇物、LC50 = 4300 ppm/4 h (ラット)
19 プロピオン酸 プロパン酸 0.07 酸味のある腐敗、嘔吐物 食品用香料
20 ノルマル酪酸 n-ブタン酸 0.002 汗臭い、馬糞  
21 ノルマル吉草酸 ペンタン酸 0.002 むれた靴下の裏  
22 イソ吉草酸 3-メチルブタン酸 0.004 発酵したチーズ、むれた足、爪の垢  
  • 注:臭気強度として3(規制基準の中央値)を与える物質濃度 (ppm)。
  • 2–5は敷地外の排出水も規制。1972年1–5追加、1976年6、7、17追加、1990年19–22追加、1994年8–16、18追加。
  • 19–22は、エステル化合物が香料として利用される。

臭気指数

法令では、人間の嗅覚でその臭気を感知することができなくなるまで希釈した倍数、から算出される。

臭気をヒトの嗅覚で評価しようとする試みは古く、20世紀初め、ドイツのヘンドリク・ツワーデマーカー (Hendrik Zwaardemaker) に遡る。日本では1975年、東京都が開発・使用していた三点比較式臭袋法が注目され、やがて全国展開された。

概要は、嗅覚検査に合格したパネル(被験者)に、3つの袋のうちどれかに希釈した臭気試料が入っているサンプルを渡し、どれに入っているか当ててもらう。パネルの正解率が3分の1まで低下した時点で、希釈により臭気が感じられなくなったと見なし、その希釈倍率を臭気濃度とする。

臭気指数は、臭気濃度の常用対数を10倍したもので、感覚的臭気強度と同程度の数値となるようにしたもの。

臭気指数 = log(臭気濃度) × 10

関連項目

外部リンク