ループ線
ループ線(ループせん)とは、鉄道や道路において、山間部に隧道(トンネル)や橋梁を建設して螺旋状に線路もしくは道路を敷設することにより、急勾配を緩和してルートを形成する手法またはその線形のことである。
また、環状に線路(軌道・架線)を敷設して、車両の折り返しや方向転換のために使うものもある。路面電車やトロリーバス、新交通システムの起終点駅などに見られる。この形態を特にラケット状ループ線、ラケット型ループ線、などということがある。
なお、ここで扱う「ループ線」のうち、(日本語における)勾配緩和用のものは、英語ではSpiralと表現する。英語におけるLoopとは、日本語では「(単線区間における)行違い線(交換設備)」 (Passing loop) またはラケット型ループ線 (Balloon loop) を意味する。
目次
鉄道のループ線
勾配緩和目的
鉄道はその性質上急勾配には弱く、非力な蒸気機関車であればなおさらであるため、山間部に鉄道を建設する場合には急勾配を避ける必要がある。しかし、鉄道の創業期から第二次世界大戦後まもなくくらいまでは土木技術が未熟であり、高所構造物(特に橋梁)や長大トンネルの建設は難しく、なるべく自然の地形を利用したルートが選定された。ループ線はスイッチバックと並んで、勾配緩和として有効な方法であり、山間部を貫通する路線に採用された。
しかし、ループ線は必然的に曲線が多く、駅間距離も長くなる。したがって列車を速達させるためには不利であり、線路保守の手間もかかる。時代が下るにつれて、鉄道経営上のネックとなることが多くなった。
さらに、第二次世界大戦後の急速な土木技術の発達により、山間部における橋梁、高架橋、長大トンネルの建設が当たり前になり、ループ線を採用しなくてもルートが形成できるようになった。例えば単線のループ線で建設された区間を後に複線化した上越線では、新線側はループ線を採用せずに長距離トンネルでループ線の地下深くを直進している。ただ、北陸本線のように旅客列車より勾配制限のきつい貨物列車を運行する都合で、新線側へループ線を採用した事例も存在する。
また、環状になっておらず「Ω」や「S」の字状になっている物もあるが、これを広義のループ線に含めたり、「半ループ線」と呼ぶこともある。
勾配緩和以外の目的
勾配緩和以外のループ線の目的として、鉄道路線の一方の端側において、列車の折り返しの代わりに環状に敷かれた線路を一周して戻っていくためのものがある。埼玉新都市交通伊奈線の大宮駅のようにループ線の全体がある駅の構内に存在する場合と、山万ユーカリが丘線のようにループ線区間で複数の駅を経由する場合がある。
前者は日本では例が少ないが、ヨーロッパやアメリカなどの路面電車の起点・終点の電停で多く使われている。こうした区間で用いられる路面電車車両では常に一方向への運行を前提として、運転席や乗降扉は片側にしかないものが多い。後者は、環状線、あるいは環状運転の一形態とも取れる。 テンプレート:-
道路のループ線
道路については、鉄道よりも制約は少ないとはいえ、旧来は土木技術の点では同様であった。
また、土木技術が発達したことにより、むしろ近年にループ線で建設された道路もある。 これは、過去であればおよそ建設し得なかったような高低差のある区間に道路を建設する目的や、急カーブが可能な道路はループにすると用地を節約できるために用地上の制約がある場合にそれを克服する目的で、敢えてループを用いるのである。
例えばレインボーブリッジがそうであり、また後者に限って端的な例をあげると多層に渡る立体式駐車場の入出場路がそうである。
2010年には首都高速道路大橋ジャンクションが開通し、一周約400m、4層構造という大規模な二重ループ線となっている。
かつては名古屋高速2号東山線に吹上連絡路という終端用ループ線が設けられていた。5号万場線方面から3号大高線方面への通行は、現在は都心環状線を用いるが、都心環状線が完成するまでの間は暫定的な措置としてループ線を設けていた。
ループ橋は、道路橋がループ状のものであるが、山地の高低差を克服する場合以外に、川や海で船舶の通航を可能にするために、両端の陸地部分をループ状にして水面からの高さを確保する場合がある。千本松大橋など。 テンプレート:-
日本国内の鉄道における採用路線・区間
完全な環状になっている箇所
勾配緩和を目的としたもの
- 豊真線(1945年8月、旧樺太へのソビエト連邦軍侵攻に伴い喪失、ロシア国内では1995年頃より休止中。)
- 上越線
- ゆりかもめ東京臨海新交通臨海線
- 北陸本線
- 土佐くろしお鉄道中村線
- 肥薩線
- 山野線(1988年2月1日廃止)
勾配緩和を目的としないもの
- 山万ユーカリが丘線
- 神戸新交通ポートアイランド線
- 埼玉新都市交通伊奈線
- 大宮駅(終端駅での折り返し)
- かつては、小牧駅・桃花台東駅(桃花台新交通桃花台線)、大森停車場駅(京浜電気鉄道大森支線)、大師駅(現 川崎大師駅・京急大師線)、京都駅前電停(京都市電)、宮益坂上-渋谷駅前間(東京都電青山線)、箕面駅(阪急箕面線、設置時は箕面有馬電気軌道)などにも存在していた。
それ以外の形状
勾配緩和を目的としたもの
日本国内の道路における主な採用区間
- 国道9号 兵庫県養父市(関宮ループ)
- 国道30号 岡山県玉野市(西谷橋)
- 国道33号 愛媛県松山市~砥部町境界付近(三坂峠北麓<ループ橋ではなく、山腹を縫う勾配路自体がループになっている>)
- 国道53号 岡山県奈義町(馬桑橋)
- 国道140号 埼玉県秩父市(雷電廿六木橋)
- 国道158号 岐阜県郡上市(白鳥ループ橋)、福井県大野市、岐阜県郡上市(油坂峠道路)
- 国道169号 奈良県川上村(伯母谷ループ)
- 国道221号 熊本県人吉市(人吉ループ橋)、宮崎県えびの市(えびのループ橋)
- 国道263号 福岡県福岡市早良区(2008年8月12日開通・三瀬トンネル第2期工事)
- 国道266号・国道324号 熊本県天草市(天草瀬戸大橋)
- 国道283号 岩手県釜石市(仙人大橋)
- 国道292号 長野県山ノ内町(十二沢橋)
- 国道314号 島根県奥出雲町(奥出雲おろちループ)
- 国道325号 熊本県上益城郡山都町、宮崎県西臼杵郡高千穂町(寧静ループ橋)
- 国道343号 岩手県陸前高田市(笹ノ田大橋)
- 国道414号 静岡県河津町(河津七滝ループ橋)
- 国道442号 福岡県筑後市(筑後ループ橋)
- 国道484号 岡山県高梁市(あたごループ)
- 国道487号 広島県呉市(音戸大橋)
- 名阪国道 奈良県奈良市、天理市(福住IC - 天理東IC間、Ωカーブ<完全なループではない>)
- 長野県道506号戸隠高原浅川線 長野県長野市(浅川ループライン)真光寺ループ橋と中曽根大橋の2箇所
- レインボーブリッジ一般道路部分 東京都港区
- 千本松大橋 (大阪市大正区 - 西成区)、新木津川大橋 (大正区 - 住之江区)
- ヴィーナスブリッジ
- 桃花橋 山梨県南アルプス市曲輪田
- 青海跨線橋 新潟県糸魚川市
- 千葉県道81号 千葉県鴨川市(天津ループ橋・部分開通)
- すずらん大橋 山梨県北杜市小淵沢町
- 首都高速道路 加平出入口、大橋ジャンクション、大黒パーキングエリアなど
- 名古屋高速1号楠線 黒川出入口(ツインループ構造のランプ)
- 阪神高速3号神戸線 武庫川出入口(西行き出口のみ)
- 福井県道16号坂本高浜線 福井県大飯郡おおい町佐分利地区石山坂峠
- 瀬戸中央自動車道 与島パーキングエリア