トレンディドラマ
トレンディドラマ (Trendy Drama) は、1988年から1990年にかけてのバブル景気時代に制作された日本のテレビドラマの一部を指して使われるが、和製英語である上に明確な定義はない。
目次
概要
都会に生きる男女(ヤッピー)の恋愛やトレンドを描いた現代ドラマ(ゆえに「トレンディ――」)。配役はドラマ製作の時点で、演技や芸能活動が活発であり、美男美女、もしくは目立った個性が視聴者に高い好感を持たれている俳優・歌手・タレントが起用されることが多い。女優では浅野ゆう子、浅野温子の“W(ダブル)浅野”、中山美穂、山口智子、鈴木保奈美。男優では三上博史、柳葉敏郎、陣内孝則、石田純一、江口洋介などが特に活躍した。
現在ではトレンディドラマという用語自体はほとんど死語と化し、年月の経過と共に「トレンディ」と見られる価値観そのものも大きく変化しているが、トレンディドラマ同様の特徴を持つドラマは今もなお多数製作・放映され続けている。
先駆け
1985年には、それまでにパート2まで制作され女性・特に主婦層に絶大な人気で社会現象ともなった『金曜日の妻たちへIII 恋におちて』が放映されている。東急田園都市線沿線の閑静な住宅街に住まい、友人同士で集まってホームパーティーをしたり、女性が主婦業の傍ら映画翻訳、表具屋、レストラン経営などの仕事を持って自立している点など以後のトレンディドラマの先駆的作品である。しかし主人公たちは30代後半であり、物語は主婦と若い男性間そして妻子のある男性と昔の恋人の不倫を描いている。このドラマで脚本を書いた鎌田敏夫が、翌年の大ヒットドラマ『男女7人夏物語』をも脚本した。
ターゲット層
基本的に、バブル景気時代の女性の願望を具現化した作品群であり、恋愛主体の少女漫画の王道に準じた点もある。一時期、トレンディドラマ全盛の時期には主に男性から批判されることも多く、当時のドラマが極端にトレンディドラマへ偏っていた点は否めない。ただし、従来の多くのドラマが男性の願望主体に傾倒していた(バブル以前のメディアでは、このことは当然であったため、男性にはその自覚はない)のであり、テレビ番組に女性の視点が強く反映されるようになった過渡期に現れたため目立っただけだという意見もある。ゴールデンタイムに放送し、視聴者は最も視聴率の取れる主婦、OL層、社会人層をターゲットとした娯楽作品である。当時の「F1層」(20歳〜35歳であった新人類世代の女性)がターゲットで、低年齢者や高齢層はあまり対象とされていない。
登場人物
放送当時の旬な男優や女優が出演。主な登場人物は美男美女ばかり(ただし、三枚目の役としての布施博のような例外がある)。人物達の職業は流行の最先端。企業であれば広告代理店やテレビ局などのマスメディアや宣伝、企画部門。フリーランスであればデザイナーなどのいわゆる“カタカナ職業”。ただしいずれも仕事中の様子は描写されない。
主人公(または女性主人公の相手役)は、美男の上「優しい奴」で、周りの仲間に信頼されている。時にその優しさが揉めごとに発展する場合がある。ヒロイン(女性主人公)は「等身大の女性像」として積極的な性格に描かれ、がさつだったり、わがままだったり、おてんばであったりするが、あっけらかんとした明るい性格で、視聴者に親近感をもたせた描きかたをされる。主人公以外の脇役は、残り物同士で付き合ったり、主人公とヒロインのごたごたをやや離れたところから、援護射撃したり、見守ったりしている。
場所・製品
その当時の話題のスポット、ファッション、アイテム、ライフスタイルがドラマに反映されている。
主人公は主に眺望のいい高級マンションの、生活感に乏しい(雑誌に採り上げられるような)美しいインテリアの部屋に住む。主人公たちが待ち合わせや出会いに使う場所は「おしゃれなパブ系の店(クラブ系か?)」が多い。
カバンや待ち合わせなどで使う場所(デパートなど)の名前を堂々と映し、主人公たちは企業の「広告塔」になっていた。なお、これらに登場する製品、場所の多くが、広告代理店が仕込んだアパレルや自動車会社、飲料会社やレストランとのタイアップで成り立っていた。
設定・その他
様々な人間関係の中で恋愛模様を構成するストーリーである。物語はあくまでお洒落で、軽いタッチで描かれ、表面上は決してドロドロしないことが多い。
主人公は、お洒落な夜景の見える場所で「好きだ」と告白する。ビールよりもワインやシャンパンで盛り上がる。記念日(クリスマスや誕生日など)を大切にする。
通勤路線は東急田園都市線や京王線など、都心から南西方面にのびる路線に設定される傾向にある。
使われる音楽は、電子楽器を多用したもの、若しくはリズム体が強調されたポップスが多い。
歴史
1980年代
- 『金曜日の妻たちへIII 〜恋におちて〜』(1985年)出演: 古谷一行、いしだあゆみ、篠ひろ子、小川知子、森山良子、板東英二
- 『男女7人夏物語』(1986年)出演: 明石家さんま、大竹しのぶ、奥田瑛二、池上季実子、片岡鶴太郎、賀来千香子
- 『男女7人秋物語』(1987年)出演: 明石家さんま、大竹しのぶ、片岡鶴太郎、岩崎宏美、山下真司、手塚理美
- 『君の瞳をタイホする!』(1988年)出演: 陣内孝則、浅野ゆう子、柳葉敏郎、三上博史、三田寛子、工藤静香
- 『海岸物語 昔みたいに…』(1988年) 出演: 奥田瑛二、麻生祐未、賀来千香子、渡辺裕之、島田紳助、山口美江
- 『抱きしめたい!』(1988年)出演: 浅野ゆう子、浅野温子、岩城滉一、石田純一、本木雅弘
- 『晴海コンパニオン物語』(1988年)出演: 浅野ゆう子、賀来千香子、室井滋
- 『君が嘘をついた』(1988年)出演: 三上博史、麻生祐未、工藤静香、大江千里、鈴木保奈美
- 『君の瞳に恋してる!』(1989年)出演: 中山美穂、前田耕陽、菊池桃子、大鶴義丹、藤田朋子
- 『ハートに火をつけて!』(1989年)出演: 浅野ゆう子、柳葉敏郎、田中美佐子、かとうかず子、布施博
- 『同・級・生』(1989年)出演: 緒形直人、安田成美、菊池桃子、石田純一、山口智子
- 『愛しあってるかい!』(1989年)出演: 陣内孝則、小泉今日子、柳葉敏郎、近藤敦、藤田朋子、田中律子
- 『オイシーのが好き!』(1989年)出演: 松下由樹、藤井郁弥、石田純一
この当時、浅野ゆう子と浅野温子は、上記のように度々起用され、“W浅野”の別名で呼ばれるようになった。
1990年代(前半)
- 『世界で一番君が好き!』(1990年)出演: 浅野温子、三上博史、工藤静香、布施博、石野真子
- 『卒業』(1990年)出演: 中山美穂、織田裕二、仙道敦子、河合美智子
- 『想い出にかわるまで』(1990年)出演: 今井美樹、石田純一、財津和夫、松下由樹
- 『恋のパラダイス』(1990年)出演: 浅野ゆう子、本木雅弘、鈴木保奈美、菊池桃子
- 『キモチいい恋したい!』(1990年)出演: 安田成美、田中美奈子、吉田栄作、森尾由美、嶋大輔
- 『すてきな片想い』(1990年)出演: 中山美穂、柳葉敏郎、相原勇、和久井映見
- 『東京ラブストーリー』(1991年)出演: 鈴木保奈美、織田裕二、有森也実、江口洋介、千堂あきほ
- 『逢いたい時にあなたはいない…』(1991年)出演: 中山美穂、大鶴義丹、設楽りさ子、藤井郁弥、風間トオル、森脇健児
- 『もう誰も愛さない』(1991年)出演: 吉田栄作、田中美奈子、山口智子、伊藤かずえ
- 『学校へ行こう!』(1991年)出演: 浅野ゆう子、加勢大周、高木美保、布施博
- 『101回目のプロポーズ』(1991年)出演: 浅野温子、武田鉄矢、江口洋介、田中律子、石田ゆり子
- 『愛という名のもとに』(1992年)出演: 鈴木保奈美、唐沢寿明、江口洋介、洞口依子、石橋保、中野英雄、中島宏海
- 『素顔のままで』(1992年)出演: 安田成美、中森明菜、東幹久、的場浩司
- 『あすなろ白書』(1993年)出演: 石田ひかり、筒井道隆、木村拓哉、鈴木杏樹、西島秀俊
- 『もしも願いが叶うなら』(1994年)出演: 中山美穂、浜田雅功、浜崎貴司、岡田浩暉
- 『29歳のクリスマス』(1994年)出演: 山口智子、松下由樹、水野真紀、柳葉敏郎、仲村トオル
- 『若者のすべて』(1994年)出演: 萩原聖人、木村拓哉、武田真治
- 『君といた夏』(1994年)出演: 筒井道隆、いしだ壱成、瀬戸朝香、松下由樹、大沢たかお
- 『いつかまた逢える』(1995年)出演: 福山雅治、桜井幸子、今田耕司、大塚寧々、椎名桔平
主題歌
人気作品の主題歌は放送時に繰り返しオンエアされ(タイアップ)、視聴者の心に刻まれ大ヒットする場合が多い。特にアイドルや音楽番組が低迷した1990年代以降、日本国内ではヒット曲の多くをドラマ主題歌が占め、シングル売上が200万枚に迫ったり、それを突破する楽曲が相次いだ。また各ドラマの最終回のサブタイトルに主題歌の題名がそのまま使われることも多い。
- 『恋におちて -Fall in love-』(小林明子、『金曜日の妻たちへIII 恋におちて』)(1985年)
- 『CHA-CHA-CHA』(石井明美、『男女7人夏物語』)(1986年)
- 『SHOW ME』(森川由加里、『男女7人秋物語』)(1987年)
- 『GET BACK IN LOVE』(山下達郎、『海岸物語 昔みたいに…』)(1988年)
- 『ラブストーリーは突然に』(小田和正、『東京ラブストーリー』)(1991年)
- 『SAY YES』(CHAGE&ASKA、『101回目のプロポーズ』)(1991年)
- 『君がいるだけで』(米米CLUB、『素顔のままで』)(1992年)
- 『悲しみは雪のように』(浜田省吾、『愛という名のもとに』)(1992年)
- 『TRUE LOVE』(藤井フミヤ、『あすなろ白書』)(1993年)
- 『Tomorrow never knows』(Mr.Children、『若者のすべて』)(1994年)
- 『HELLO』(福山雅治、『最高の片想い』)(1995年)
- 『TOMORROW』(岡本真夜、『セカンド・チャンス』)(1995年)
- 『LOVE LOVE LOVE』(DREAMS COME TRUE、『愛していると言ってくれ』)(1995年)
- 『名もなき詩』(Mr.Children、『ピュア』)(1996年)
- 『LA・LA・LA LOVE SONG』(久保田利伸、『ロングバケーション』)(1996年)
- 『CAN YOU CELEBRATE?』(安室奈美恵、『バージンロード』)(1997年)
- 『First Love』(宇多田ヒカル、『魔女の条件』)(1999年)
- 『Everything』(MISIA、『やまとなでしこ』)(2000年)
- 『世界に一つだけの花』(SMAP、『僕の生きる道』)(2003年)
ほか。
参考文献
- ホイチョイ・プロダクションズ「OTV」(ダイヤモンド社、1985年)
関連項目
- 日本のテレビドラマ一覧
- フジテレビ月曜9時枠の連続ドラマ(月9)
- 大多亮
- プロダクトプレイスメント
- 鳥人戦隊ジェットマン - 東映製作の「スーパー戦隊シリーズ」第15作(1991年放映)。ヒーロー番組でありながら主人公たちの恋愛模様を描き「戦うトレンディドラマ」「トレンディ戦隊」と呼ばれた。
外部リンク
- トレンディドラマの系譜Dra-Navi