和製英語
和製英語(わせいえいご)とは、日本で作られた英語風の日本語語彙のことである[1]。英語圏では別の言い方をするため、全く意味が通じない、もしくは別の意味でとらえられてしまう場合があり、使用には留意を要する。
目次
定義
定義・外延は人によって異なる。狭い解釈では外来語を使った造語を指し、「フォアボール」「ベースアップ」「レベルダウン」「ファンタジック」のようなものを指す[2]。これらは英語ではそれぞれ「base on balls」「pay raise」「level decrease」「fantastic」という[3]。次に既存の語形を省略して作ったものを含めることもある。「ワープロ (word processor)」「パソコン (personal computer)」「エンゲージリング (engagement ring)」のようなものである。広い解釈では、形はほぼ同じものが英語にあっても、意味が英語と明らかに異なるものを含めることがある。これは和製であってたまたま同語形が英語にある場合もあるが、日本で意味変化しただけであって語形そのものは和製ではないものも含まれる。例えば「デッドヒート」(dead heat)の英語の意味は「同着、単独の勝者のいないこと」をいうが、日本語における外来語としては「激しい競り合い」の意味である[2]。ほかに「デッドボール」「ムーディ」「フェミニスト」などがある。
問題
広義の和製漢語を認定するに当たって、原語の意味からどの程度異なっていれば認定してよいかは難しい問題である[2]。小規模な意味のずれはほぼ全ての外来語に見られ[2]、外来語の意味が原語と異なるのは必然[4]だからである。また日本製であることを証明するのは非常に難しい。例えば「ナイター」は和製英語として非常に有名である[5]が、AP通信の電文に用いられていたとする説もあり[6]、また野球解説者である伊東一雄も米国の野球関係者の間で使われていたとする[7]。
和製漢語の造語力については肯定的に語られることが多いが、和製英語の場合は否定的に語られることが多い。和製英語は無学に由来する外国語の誤用・濫用であって、本来あるべきでない病理的現象であるとの見方がある[8]。しかし、和製英語は英語語彙ではなく、日本語の語彙である。従って英語と語形や意味が異なっているのは不思議なことではなく、またそれを組み合わせて新しく造語することは人間の言語創造力として当然のことであり、外国人にはわからなくてもよいという考え方もある[4][8]。しかし英作文の際にも、英語とは違うことを知らずに使用してしまうために問題となる。また反対に、日本語文脈で使われていた「誤った」外来語に対し、原語の語形・意味に回帰しようという圧力が働き、その結果、既存の語形・意味と衝突して混乱を生じることがある[2]。例えば「洋装で腰につける帯紐」のことを「バンド」というのは明治時代からあるが、英語の「band」は「物を束ねて縛る帯紐」という意味であって「腰につける帯紐」という意味はない。この意味で言う場合には「belt」が用いられる。そのため現在は日本語でも「ベルト」ということが多くなっており[9]、「バンド」という世代と「ベルト」という世代の間で衝突がある。
和製英語の例
ここでは「和製英語」とされているものの一例を掲げる。但し全てを掲げることは不可能である。なお辞書・研究によって和製英語であるか否かの定義や判断が異なる場合がある。和製英語に関する諸問題については上記を参照のこと。
凡例
- 日本語(「相当する英単語」この英単語に相当する「和製英語」であると指摘している出典)
のように示す。単に日本語単語に対する英訳語を掲げるのみ、或いは英単語に対する日本語訳語を掲げるのみで、「和製英語である」という指摘のない出典は対象としない。また単に「(現在の)英語圏では使わない」というだけのものも除外する。なお相当する英単語が指摘されないものは出典だけを示す。
和製英語ではないという指摘のある出典があれば併せて掲げる。
出典略号
- CLHJ
- 小島義郎・竹林滋・中尾啓介(編)『カレッジライトハウス和英辞典』研究社、1995年
- CLHJ和
- 同書「和製英語」コラム
- CLHE
- 竹林滋・小島義郎・東信行(編)『カレッジライトハウス英和辞典』研究社、1995年
- NJED
- 渡邉敏郎・E. Skrzypczak・P. Snowden(編)『新英和大辞典 第5版』研究社、2003年
- GJED
- 小西友七(編)『ジーニアス 和英辞典』大修館書店、1998年1月10日、1930-1933頁、ISBN4-469-04150-5
- RHE2
- 小学館ランダムハウス英和大辞典第二版編集委員会(編)『ランダムハウス英和大辞典 第2版』小学館、1994年
- 日国2
- 『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000-2002年
一般語彙の例
ア行
- アイドル - teenage star(NJED)、(teen) pop star(NJED)
- アイスキャンデー - 米:Popsicle(商標、CLHJ)。英:ice lolly(CLHJ)
- アウトコース - outside(CLHJ)
- アドバルーン - advertising balloon(CLHJ和)。ただし英語圏でも「ad balloon」で通じる(CLHJ)。
- アフターサービス - service(CLHJ和)
- 「保証期間中のサービス」はservice under warranty(CLHJ)。「販売後のサービス」はafter-sale(s) service(CLHJ)。「修理サービス」はrepair service(CLHJ)。「顧客サービス」はcustomer service(CLHJ)
- アバウト - (対訳例)lackadaisical、perfunctory、rough(NJED)
- アフレコ - postrecording、dubbing(GJED)
- アルバイト - part-time(GJED)
- インコース - inside(CLHJ)
- オーダーメイド - made-to-order(CLHJ和)。custom-made(CLHJ和)
- オフィスレディー(OL) - (female) office worker(NJED)、company employee
カ行
- ガードマン - (security) guard(CLHJ)
- ガソリンスタンド - 米:gas station(CLHJ和)。英:petrol station(CLHJ和)。filling station(CLHJ和)。service station(CLHJ和)
- ガッツポーズ - fist pump、victory pose
- キーホルダー - key case(ring)(NJED)
- キャッチコピー - tagline
- キャッチボール - (「キャッチボールをする」の意で)play catch(CLHJ和)
- キャンピングカー - camper(GJED)。英語版Wikipediaの記事ではw:Campervanと表記されており、「Camping car」で検索するとw:Travel trailerにリンクする。
- グレードアップ - upgrade(CLHJ)
- ゲームセンター - Amusement(video) arcade
- コインランドリー - 米:Laundromat(商標、NJED)、英:launderette(NJED)
- ゴールデンアワー(ゴールデンタイム) - prime time(NJED)
- コンセント - 米:(electrical) outlet(CLHJ)。英:(power) point(CLHJ)。(plug) receptacle(CLHJ和)
サ行
- サイダー - (soda) pop(CLHJ和)
- サイドブレーキ - hand brake(CLHJ)
- サラリーマン - white-collar worker(CLHJ和)。
- 「事務職員」の場合はoffice worker(CLHJ)。主に「高給職」の場合はsalaried worker(CLHJ)。「salaryman」は英語圏で「(日本の)サラリーマン」という意味で用いられる事がある(RHE2)。
- サンドバッグ - punching bag(CLHE)
- ジェットコースター - 米:roller coaster(NJED)、英:big dipper(NJED)
- シートノック - fielding practice(CLHJ)
- ジーパン - jeans(CLJE)。「jeans」と「pants」の組み合わせ(RHJ2、日国2)。
- スキンシップ - 「close physical contact(CLHJ)。physical contact(GJED)。
- 英語版WikipediaでPhysical contactはSomatosensory system記事にリンクされており、SkinshipはPhysical intimacy記事で解説されている。
- スタンドプレー - grandstand play(CLHJ)
- ストーブ - heater(CHLJ)
タ行
- タオルケット - blanket made of toweling(NJED)
- ダンプカー - dump truck(CLHJ)。英:dumper(CLHJ)
- チアガール - cheerleader(CLHJ)
- チェンジレバー - gearshift(CLHJ)。英:gear lever、gear stick(CLHJ)
- デコレーションケーキ - decorated cake(CLHJ)。fancy cake(CLHE)。
- ほか状況やイベントに応じてround cake、birthday cake、Christmas cakeなど(CLHJ和)。
- ドライブイン - roadside restaurant(CLHJ和)。「drive-in」はドライブインシアターやファーストフードのレストランなどを指す(CLHJ和)。
- デリバリーヘルス - call girl、escort service
ナ行
ハ行
- ハイタッチ - high five(NJED)
- バカンス - vacation(GJED)。バカンスそのものはフランス語で長期休暇を指すが、英語の「vacation」とは定義が微妙に異なる。
- バスジャック - a bus hijacking、carjack
- バックナンバー - back issue(NJED)
- バックネット - backstop(CLHJ)
- バックミラー - rearview mirror(CLHJ)
- バラード - ballad(CLHJ)
- パンティストッキング - pantyhose(GJED)
- (自動車などの)ハンドル - steering wheel(GJED)
- ハンドルネーム - handle、screen name
- ビジネスホテル - budget hotel(NJED)
- ビニールテープ - plastic tape(NJED)
- ファンタジック - fantastic(NJED)
- ブックカバー - book wrapper(NJED)、dust jacket(NJED)
- フライング - false start、breakaway(NJED)
- プラスドライバー - Phillips screwdriver(NJED)
- マイナスドライバーは「(flathead) screwdriver」。
- フリーサイズ - one-size-fits-all(CLHJ)
- フリーダイヤル - toll-free call(NJED)
- フリートーキング - free conversation(CLHJ)
- フライドポテト - 米:french fries(CLHJ)。英:chips。ただし、「fried potato(es)」でも通用することはある。
- プレイガイド - ticket agency(CLHJ和)
- フロントガラス - 米:windshield(CLHJ)、英:windscreen(CLHJ)
- ペアルック - matching outfits
- ペーパーカンパニー - shell company、dummy company
- ペーパーテスト - written examination、written test(CLHJ)
- ペーパードライバー - driver on paper only(CLHJ和)
- ベッドタウン - commuter town、bedroom suburbs(CLHJ)
- ベビーカー - baby carriage、stroller(CLHE)
- ヘルスメーター - bathroom scale(CLHE)
- ポエマー - poet
- ボールペン - ballpoint pen(CLHE)。ただし、英語でも「ball pen」と呼ぶという説もある。
- ホットケーキ - pancake(NJED)。ただし、英語でも「hot cake」と呼ぶことはある。
- ポップス - pop(ular) music[10][11](NJED)。英語で「pops」は「セミクラシックやポピュラー音楽専門の管弦楽団」や「ポップスのコンサート」を意味する。
- ホワイトデー
マ行
- マグカップ - mug(NJED)
- マジックテープ - Velcro(商標、NJED)
- メールマガジン - e-mail newsletter(magazine)(NJED)、e-zine
- モーニングコール - wake-up-call(CLHE)
ヤ行
ラ行
- ライブハウス - music pub(NJED)
- ランニングホームラン - inside-the-park home run(CLHE)
- リストアップ - list(CLHJ)
ワ行
- ワイシャツ - shirt(CHLJ)
アルファベット・記号その他
- TPO(CLHJ)
由来の特定できる造語とそれに由来するもの
- オートバイ - motorcycle(CLHJ和)
- キックボクシング - kickboxing。英語としても定着[12] )
- キャッチホン - call waiting(CLHJ)
- クラクション - horn」CLHJ和。由来は警笛を参照。
- グループサウンズ
- ゴールデンウィーク
- コミカライズ - 「comic(漫画)」と「alize(英語で「具現化する」の意味を持つrealizeから)」を合わせた造語で、「小説(特にライトノベルなど)等の媒体を漫画化したもの」を表す。
- サインペン - felt(-tipped) pen(商標、CLHJ)
- シャープペンシル - mechanical pencil(CLHE)
- スモークハラスメント
- テレポート - 「tele(遠方の)」と「port(港)」を合わせた造語で、「高度な情報通信機能を有したオフィス街」を表す概念として作られた言葉(例:東京テレポートセンター」)。
- ナンバーディスプレイ (由来はナンバーディスプレイ参照)
- ピアニカ
- プッシュホン - push-button telephone(CLHJ)。touch telephone(CLHJ)。由来は[1]参照。
- ボウガン
- ポケットベル - beeper(CLHJ)。pager(CLHJ)。英:bleeper(CLHJ)。由来は[2]参照)
- ホチキス - stapler(CLHJ和)、由来はステープラー参照。
- マジックインキ - felt-tip marker
脚注
関連項目
- 借用語
- Engrish - 日本語話者の使う奇妙な英語のことを揶揄するスラング。
- 和製外来語
- 和製漢語
- 略語
- 横文字
- 外来語(カタカナ語)
- 長嶋茂雄 - 元巨人軍監督の長嶋茂雄が使う奇妙な英語を指して、長嶋語とも呼ばれる。
- コングリッシュ(韓製英語)、デングリッシュ(ドイツ製英語)
- en:List of English words of Japanese origin(日本語起源の英米語、日本語から英語への借用) tycoon、kamikazeなどは指すものが本物の日本語と異なっている。仏僧を指すのに(誤って他の語義の表現を当てて)bonzeと呼んでしまっている。de:Gairaigo#Wasei-Eigo