無線呼び出し
無線呼び出し(むせんよびだし)とは、特定の手順によって、電波で小型受信機(通信機器)に合図を送るシステムである。主に連絡を取りたい相手が持っている通信機器に情報を知らせるために用いる。日本ではポケットベル、または略してポケベルとも呼ばれる。英語ではpager(ページャー)またはbeeper(ビーパー)という。ちなみに台湾ではBBCALLという。
電気通信事業者による電気通信サービス(公衆呼出し)(日本ではNTTドコモグループ及びテレメッセージ各社が提供していた。)と、特定の工場やビル内などを対象に設置されたもの(構内呼出し)がある。
警察無線や消防無線の受令機も広義の無線呼出しである。こちらは無線電話の音声を受信でき、全対象者に命令の一斉伝達が、また聴いているであろう特定の相手を名指しすることで簡単な伝言が出来る。
2008年10月以降、日本で電気通信事業者による無線呼出しサービスを提供しているのは同一ファンド傘下の東京テレメッセージ[1]と沖縄テレメッセージの2社だけである。
目次
概説
1958年に米国で世界初のサービス「ベルボーイ」が開始された[2]。当時は、交換手に呼出番号を伝えるものであった。やがて、特定の電話番号に電話をすることで呼び出すものとなり、DTMFで電話番号やメッセージを送信できるように多機能化が行われた。
1995年9月に米国でReFLEX方式による簡易双方向通信サービスが開始されている。
また、1990年代後半より、電子メールや事業者のホームページからの呼出しに対応したものも登場している。
米国では契約者が2002年末の1410万から2005年末には830万まで減少しており、中国でもサービスの停止が発表されており、世界的に無線呼出しサービスは消滅への流れを進めている。[3]
技術
単方向通信であるので受信の確認に別の手段が必要である。また、携帯電話などの双方向通信と比較して加入者の位置追跡が困難である。そのため、他のサービス地域で呼出しを受信するためには、利用者自身が位置登録を行う必要がある。
周波数帯域あたりの加入者収容能力は非常に大きい。しかし輻輳時は呼出しまでの時間遅れが大きくなる。また、小容量の電池で長時間の使用ができるように、受信機をグループ別に分け、通信時間を限定する間欠通信方式となっている。
高出力の複数の送信局から同期した信号を送信し、広いサービスエリアを確保しており、同報通信に威力を発揮する。また、高速化に伴い送信局間のより精密な同期が必要となっている。
制御装置から送信局への情報の伝送は、狭い範囲の場合有線通信や地上固定無線通信が用いられ、広域のものは通信衛星回線が用いられることがある。また、端末への伝送手段としてFM放送 (88-108MHz) に重畳するFM放送ページャーが一部の国で用いられている(日本(76-90MHz)でも行う こと[4] ができる。)ほか、通信衛星からの電波を直接受信し全世界で利用可能な衛星ページャーも提供されている。
使用周波数帯
- 150MHz帯 需要の少ない地域で用いられている。
- 250MHz帯 世界的に広く使用されている。日本のPOCSAG : 最大空中線電力250W
- 450MHz帯 一部地域で用いられている。欧州のPOCSAG
- 900MHz帯 建築物内への浸透性が悪いため中継設備が必要になる場合がある。欧州のERMES、北米のReFLEX : 最大空中線電力1kW
略称 | 規格名 | 搬送波 | テンプレート:Nowrap | 誤り訂正 | テンプレート:Nowrap | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
テンプレート:Nowrap kHz |
テンプレート:Nowrap kbps | ||||||
POCSAG | Post Office Code Standardi-zation Advisory Group | 12.5 25 |
2.4 1.2 0.512 |
2値 NRZ FSK |
BCH (31 21) パリティ |
主要局への従属同期 | 英国旧郵電公社を中心に開発、国際的に使用されている |
ERMES | European Radio Message System | 6.25 | 4値 NRZ FSK |
短縮巡回 (30 18) インタリーブ |
欧州の標準規格 | ||
NTT | 1.2 0.4 0.2 |
2値 NRZ FSK |
BCH (31 16) | 日本電信電話公社が開発, RCR STD-41 | |||
FLEX | 6.4 3.2 1.6 |
4値 2値 NRZ FSK |
BCH (31 21) パリティインタリーブ |
GPS | モトローラが開発 | ||
ReFLEX | 簡易双方向通信機能あり | ||||||
テンプレート:Nowrap | FLEX-Time Diversity | BCH (31 21) パリティインタリーブ 時間ダイバシティ |
同一空中線電力でサービスエリアを確保するため最大4回呼出信号を送出し誤りを補正 |
日本の無線呼出事業
課金方式
課金方式としては、次のものがある。
- 契約者が月額定額料を支払い、呼び出す人が呼出しに要した通話料を支払う。
- 契約者が月額定額料と呼出回数に応じた料金とを支払い、呼び出す人が呼出しに要した通話料を支払う。
- 月間呼出回数が一定回数を超えた場合、契約者に追加料金が発生する形が多い。機能が高度化され、女子高生でポケベルがブーム化した1990年代の全盛期に登場した料金体系。
- 020発信者課金 - 契約者には料金が発生せず、呼び出す人が呼出しに要した通話料に上乗せして呼出料を支払う。
- 日本ではポケットベル末期の1999年に登場した課金方式。契約者には基本料が発生しないのが最大の特徴。呼出し側に通話料以外の余計な料金が課金されてしまうことや、電子メールからのメッセージ送信ができない、一定期間呼出しがないと自動的に解約されてしまうため、契約者は少ない(NTTドコモ : 02DO(ゼロニード)、YOZAN : ゼロプラン、沖縄テレメッセージ : 020ポケットベル など)。
- 契約者が月額定額料金を支払い、電話から呼び出す人も通話料に上乗せして呼出料を支払う。電子メールからは、付加料金課金なしで呼出し可能。
- YOZAN : まるとくプラン など。
一般的には、完全な定額制である1.の契約形態が多い。これがポケベル会社の経営を圧迫した一因ともされる。
黎明
1968年 - 1985年頃まで
公衆サービスは1968年7月1日に、東京23区で日本電信電話公社により150Mc(メガサイクル、MHzに相当)帯の多周波信号方式で開始された。開始当初の契約は4,751加入で、1969年3月末では11,708件の加入申し込みがあった。1971年3月末では、申込数39,090件、契約数13,672加入。申込みに契約が追いつかなかった、当時の人気のほどが伺える。[5]
電波法令上は、信号報知業務と呼ばれ、「信号受信設備(陸上を移動中又はその特定しない地点に停止中に使用する無線設備であつて、もつぱらその携帯者に対する単なる合図としての信号を行なうためのものをいう。)と信号報知局との間の無線通信業務」とされ、単に音響を発する為の信号を送出するだけのものであった。また、送信局は信号報知局と呼ばれた。
1978年には、加入者の増加とともにより250MHz帯のFSK変調200b/sのNTT方式のサービスが開始された。
初期の利用者の多くは、業務上で外出の多い営業職・管理職・経営者であり、電子音による呼出音が鳴るだけであったため、呼び出されたら出先の公衆電話から事務所へ確認の電話を入れるという使用法であった。1978年には自動車電話がサービス開始されたが料金が非常に高額であったため、ポケットベルが唯一の個人向けの移動体通信であった。
隆盛
1985年頃 - 1996年頃まで
通信自由化
1985年の通信自由化により、電波法令上では、無線呼出業務と改称され、「携帯受信設備(陸上(河川、湖沼その他これらに準ずる水域を含む。)を移動中又はその特定しない地点に停止中に使用する無線設備であつて、専らその携帯者に対する単なる呼出し又はこれに付随する信号を受けるためのものをいう。)と信号報知局との間の無線通信業務」とされ、音響のみならず文字その他の情報も送出できるものとなった。また、信号報知局が無線呼出局と改称された。
高速化と低料金化
1986年には150MHz帯の割当ては全廃され、250MHz帯のみとなった。更に1987年に400b/s、1989年に1200b/sへと高速化が行われた。
1987年以降は、各地域に設立された地場資本中心の新規参入事業者がPOCSAG方式で事業を開始して競争が激しくなった。そのため、ポケベルの利用料金は安くなり、販売ルートもスーパーマーケットやコンビニエンスストア、鉄道駅の売店などに広がった。個人での契約も出現し、子供に持たせる親も現れるようになり、親子関係の希薄化・非行問題との関連が指摘され始めている。
また、電電公社のポケットベル事業は1985年成立のNTTを経て1991年にNTTドコモグループに移管された。
一方、1988年から1989年にかけては、日本移動通信やDDIセルラーグループ(いずれも現在のKDDIのau事業)の自動車電話や携帯電話への新規参入があったが、まだその料金は一般の市民には高額であり、依然として業務でポケットベルを携帯させられていた従業員も多かった。
数字送信の開始
この頃、プッシュ信号 (DTMF) により数桁の数字を送れる機種のサービスが開始され、受信した方が表示された電話番号に電話をかけることが出来るようになり、業務での効率的な利用が可能となった。また、当時の主力ユーザーであった女子高生を中心に、例えば「14106」=「アイシテル(愛してる)」というように、数字の語呂合わせでメッセージを送る一種の言葉遊びが流行し、1990年代中盤には個人対個人で他愛ないメッセージを送りあう道具として急速に普及し、頻繁に利用された。
ポストバブル期の社会風俗の象徴
社会に与えた影響も大きく、1993年に製作されたテレビドラマ「ポケベルが鳴らなくて」や、同名の主題歌がヒットし、さらには特定時間帯の輻輳によるメッセージ配信の遅延、発信用公衆電話の酷使による故障が相次ぎ、事業者は対応に追われるようになった。この頃のテレビドラマや漫画などでも、女子高生などを象徴するアイテムとして頻繁に登場していた。
1996年(最盛期):文字送信も可能へ
1995年には無線呼出業務の定義が「携帯受信設備(陸上移動受信設備であつて、その携帯者に対する呼出し《これに付随する通報を含む。》を受けるためのものをいう。)の携帯者に対する呼出しを行う無線通信業務」となった。
数字だけでなく、アルファベット、カタカナやさらには漢字まで画面に表示できるタイプも発売され、1996年には加入者の増大に対応するためFLEX-TD方式の導入が開始された。最盛期の1996年6月末には、約1077万件の加入者があった。カナや漢字などの入力には、特殊なコードを打ち込む必要があり、「ポケベル打ち」という一種の特技として、電話機のテンキーで高速にこれができる人は崇められていたこともあった。
衰退・消滅
1996年 - 1999年
携帯電話機の買切り制導入、携帯電話の新規参入第二弾のデジタルホン(現ソフトバンクモバイル)とツーカー(現KDDI)両グループの事業開始、さらにPHS事業者も事業を開始した1996年以降、急速に携帯電話の料金が低下。携帯電話・PHSの普及と引き換えに、ポケベルの解約が増え始める。ただ、この時点(1999年まで)では携帯電話、PHSがつながりにくい(通話可能でも電波が弱い、通話が不可能なエリアも多かった)と言う弱点もあり、両方を持つと言う兼用の仕方も見られ、ポケベルと携帯電話、ポケベルとPHSの一体型も発売される。1996年にドコモが新人だった広末涼子をCMに起用して、てこ入れするも広末人気が爆発的に上がるわりには、ポケベルの販売は今ひとつだったとされる。(さらにポケベルの顔とも言うべき存在になった「広末」をそのまま携帯電話のCMに起用する皮肉な結果になる。)
1999年以降
さらに、電子メールやショートメッセージサービス機能が内蔵された携帯電話が普及してからはポケベルの存在意義がなくなり、1999年10月末には加入者が約280万件まで激減した。 1999年、新規参入事業者で最大手であった東京テレメッセージ(初代)がシステムの高度化の設備投資の資金を回収できず会社更生法の適用を申請して倒産した[6][7]。また、その他の各地に設立された新規参入事業者はNTTドコモに加入者を移管し、2001年までに首都圏1都3県および沖縄本島を除き事業を停止した。
この頃から、自動販売機やタクシー・バス車内に端末を設置し、配信されたニュース速報や緊急防災情報、広告等を電光表示板で表示するという使われ方も行われるようになった。そのため、NTTドコモでは、それまでのサービス名「ポケットベル」を、2001年1月に「クイックキャスト」(英単語クイック (Quick) とマルチキャストから作った造語)に変更した。
しかし、日本全国単位としては唯一ポケットベル事業を手がけるNTTドコモも、2004年6月30日に新規契約の受付を終了、2006年10月に解約金を無料にし、そして2007年3月31日でサービスを終了した。 500箇所までの同報用途の代替サービスとして、iモードメールを利用した「グループキャスト」[8]を提案している。
首都圏で唯一サービスを行っていたYOZANは、2008年10月1日に会社分割を行い、ポケットベル事業を行う新会社「東京テレメッセージ」を設立した。
今後
NTTドコモグループの営業最終日である2007年3月末時点では、無線呼出しの契約数は163,227契約となった。前年同期比63.7%の減で、事業撤退に向け、前述の2006年10月に解約料を無料にしたことが考えられる [9]。
2008年10月以降日本国内において無線呼出事業者は東京テレメッセージおよび沖縄テレメッセージのみとなり、そのサービスエリアも南関東1都3県および沖縄本島の各一部のみである。現在では前記地域の、医師や看護師など、職業上、携帯電話を使えない一部の人が持っているのみとなっている。 新たな用途として、同報系市町村防災行政無線の機能を安価に構築するシステムを提案している。
総務省は、 2012年10月に「周波数再編アクションプラン(平成24年10月改定版)」の中で「280MHz帯電気通信事業用ページャーの帯域幅見直しとセンサーネットワーク用周波数として5MHz幅程度の確保を検討する。」と周波数帯の見直しを検討することを明らかにし、 2013年10月には、「周波数再編アクションプラン(平成25年10月改定版)」の中で前年公表の帯域幅見直しとセンサーネットワーク用周波数の確保について「平成25年度内に結論を得る」 [10] とした。
主な大口利用者
- 京王電鉄
- NEC製作の「IDS (Information Display System)」を導入。駅改札に設置された電光掲示板や、電車内のLED表示器にお知らせや運行情報を配信する。
- 神奈川都市交通
- タクシーチャンネル。クイックキャスト受信機を内蔵した小型LED表示器をタクシー車内に設置し、FM文字多重放送を利用して最新のニュースや広告を流している。
1995年頃の新規参入事業者一覧
- テレメッセージの項目を参照。
構内呼出し
鉄道事業、サービス事業などの事業者内での呼出用として26MHz帯に専用波4波がある。 また、60MHz帯、150MHz帯および400MHz帯では他業務との兼用波とされ、150MHz帯および400MHz帯で免許されたものがある。
工場内、ビル内など狭い範囲については、1986年に構内無線局が制度化された際に構内ページング用があった。 また、1989年に制度化された特定小電力無線局にも無線呼出用がある。 構内無線局構内ページング用は、2000年に廃止され、特定小電力無線局に統一された。 周波数は429.75~429.8MHz、12.5kHz間隔の5チャネルである。
台湾の無線呼出事業
- メッセージを表記機能をつけようとするが、言語が漢字の為苦労する。
- ポケベル用信号を使いニュースや株価などの情報をPDAで読み取る事業を行う。
日本国外の事業者一覧
- 大衆電信 (Fitel) - 台湾(現PHS事業)
- 聯華電信 - 台湾
- SKテレコム - 韓国
- ナレ移動通信 - 韓国(現: 原州東部プロミの元親会社)
- ソウル移動通信 - 韓国
- ブイル移動通信 - 韓国
- セリム移動通信 - 韓国
- 光州移動通信 - 韓国
- シンウォン・テレコム - 韓国
- セハン移動通信 - 韓国
- 全北移動通信 - 韓国
- 江原移動通信 - 韓国
- 済州移動通信 - 韓国
- ブキョン移動通信 - 韓国
ポケベルがモチーフになる作品一覧
テレビドラマ
漫画
- 17歳のリアル(原作・かわちゆかり。)
物語第2話で、主人公が恋人との連絡を取り合うために購入。
音楽
脚注
- ↑ 2008年10月、YOZANから会社分割した「2代目」。
- ↑ 移動通信システムガイド'97 -陸上移動通信のすべて- p.45
- ↑ YOMIURI ONLINE 2007年3月22日
- ↑ FM多重無線呼出しの制度化・事業化 平成8年版通信白書 第2章第4節3.(3) ア.(総務省情報通信統計データベース)
- ↑ ポケットベル成長の舞台裏緊急特集「さらばポケベル」:第2回 (IT media)
- ↑ 東京テレメッセージは、この後、日本テレコム主体で「東京ウェブリンク」に改称して再建した後、2001年に株式会社鷹山(現 YOZAN)が買収して「マジックメール」に再改称し、最終的に2002年に鷹山に吸収合併された。
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ グループキャスト docomo Business Online
- ↑ 電気通信サービスの加入契約数の状況(平成19年3月末)の(別紙)2.移動体通信(2)無線呼出し(ポケットベル)(総務省報道資料 2007年5月23日(国立国会図書館のアーカイブ:2011年12月6日収集)
- ↑ テンプレート:PDFlink(総務省 報道資料一覧:2013年10月9日)
関連項目
- 無線通信
- 移動体通信
- 無線呼出局
- 携帯電話
- PHS
- ポケベルが鳴らなくて - テレビドラマ、およびその主題歌
- 2タッチ入力
- アステル - テレメッセージ各社との間でポケベルとPHSの一体型の端末でサービスを行っていた。
- 日本移動通信 (IDO) - 東京テレメッセージとポケベルと携帯電話の一体型の端末でサービスを行っていた。
- 広末涼子 - ポケベルのCMで一躍有名になった。
- BlackBerry - 無線呼出しから派生したものであり、プッシュ型電子メール、プッシュ型メッセンジャーという形で名残を残す。
テンプレート:テレメッセージ テンプレート:日本の携帯電話事業者