アイヌ語
テンプレート:Infobox Language テンプレート:JIS2004 アイヌ語(アイヌご、アイヌ語ラテン文字表記:Aynu itak、アイヌ語仮名表記:テンプレート:JIS2004フォント)は、現在、日本とロシア等に居住するアイヌ民族(アイヌ)の言語である。
話者は、アイヌ民族の主たる居住地域である北海道、樺太、千島列島に分布していたが、現在ではアイヌの移住に伴い日本の他の地方(主に首都圏)にも拡散している。「孤立した言語」とされている。ユネスコによって2009年2月に「極めて深刻」(critically endangered)な消滅の危機にあると分類された、危機に瀕する言語である[1][2]。危険な状況にある日本の8言語のうち唯一最悪の「極めて深刻」に分類された。他の7言語は与那国語、八重山語が「重大な危険(severely endangered)」、宮古語、沖縄語、国頭(くにがみ)語、奄美語、八丈語が「危険(definitely endangered)」に分類されている。
目次
概説
地理的に近い位置で話され、古くから互いに経済的、文化的な交流があったにも関わらず、大和民族の日本語との間には、語彙の借用(例、menoko)を除いてそれほど共通点(例、皮 kap 〜 kapa)が見いだせない。
アイヌ語の系統や語族に関しては、学術的に確実なことはいえない状況であり、孤立した言語であると考えられている。
北海道以北のアイヌの民には強力な支配者や中央政府が存在しなかったため、いわゆる共通語のようなものは無い(東北地方には sisam 倭人と組織的に戦闘を行った英雄叙事詩が残っている)。地方によって多くの方言がある。
アイヌ語の現状
消滅危機言語
現在アイヌ語を継承しているアイヌ民族の数が極めて少ないため、アイヌ語は近いうちに消滅してしまう消滅危機言語の一つとなっている。2007年の推定では、約1万5000人のアイヌの中で、アイヌ語を流暢に話せる母語話者は10人しかいなかった[3]。さらに別の推定ではアイヌ語を母語とする人は千島列島では既に消滅し、樺太でもおそらく消滅していて、残る北海道の母語話者も平均年齢が既に80歳を越え、数も10人以下となっている[4]。アイヌ語の消滅危惧のレベルは「おそらく消滅した言語」と「消滅の危機に厳しくさらされる言語」の間の「消滅に近い言語」となっている。2009年、ユネスコにより「危機に瀕する言語」として、最高ランクの「極めて深刻」の区分に分類される[5]。
保存活動
1980年代以降、萱野茂らアイヌ語を残そうとするアイヌ自身の努力の結果、アイヌ語教室が各地に開設され、2007年現在、北海道内14箇所にアイヌ語教室が設置され、多くの人がアイヌ語を学んでいる。また関東地方にも、関東在住のアイヌまたは和人がアイヌ語を学ぶ集まりがいくつか存在する。1987年にはSTVラジオが「アイヌ語講座 イランカラプテ」(現在の「アイヌ語ラジオ講座」)の放送を開始し、2013年現在も放送中である。
1986年には、田村すず子の教え子、北方言語研究会が上智大学学生などと共催で早稲田大学において第一回「アイヌ語祭」を開催し、日本人による全編アイヌ語による演劇などがアイヌ人や元北海道新聞社員でアイヌ語地名研究家などの前で披露された。
アイヌ文化振興財団主催のアイヌ語弁論大会(イタカンロー)には毎年多くの人が参加し、アイヌ語による弁論や、口承文芸の披露が行われている。
また、1990年代から、アイヌではない人の中にもアイヌ語を勉強しようとする人が増えてきている。アイヌ語の辞典も各種出版されている。特に東北地方では、アイヌとの歴史的連続性や地名研究の必要からアイヌ語への関心は伝統的に高い。
新語の創造
2000年代になり、北海道教育大学旭川校等でアイヌ語を刷新する兆しがある。実際「アイヌ語旭川方言会話辞典」では現代に不足している語彙の補完が試験的に行われており、imeru(神が放つ光。転じて電気の意)からimeru inaw またはimeru pasuy(2つとも携帯電話の意。inawはイナウ、pasuyは箸を意味する。アイヌの信仰では、イナウや箸は神と人間との仲立ちをすると考えられていた)、imeru kampi(電子メール。kampiは紙、または手紙を意味する。)等の造語を作り、現代生活で不足している語彙を補完し、「現代の言語として」使える様にする努力が行われている。2008年7月4日に開催された「先住民族サミット」アイヌモシリ2008では、「アイヌ語を公用語とし、義務教育でも学べる言語とすること」を日本政府に提言[6]している。
アイヌ語の研究
明治時代になってから、アイヌ語は科学的に研究されるようになったが、最初期には外国からのしかも言語学者ではない人々による研究が先行したのが特徴的である。たとえば東洋学者のアウグスト・プフィッツマイアー、ロシアの医師であったミハイル・ドブロトウォルスキー、ポーランドの社会運動家で亡命者であったブロニスワフ・ピウスツキ、宣教師であったジョン・バチェラーなどがそれにあたる。
日本の言語学者たちがアイヌ語を研究し始めた頃にはアイヌ語の話者は非常に少なかったが、先にあげた外国の研究者とはほとんど交渉を持たず、活発に研究されてきた。金田一京助とその弟子である久保寺逸彦や、アイヌである知里幸恵・知里真志保姉弟らがまず挙げられる。
上に挙げた研究者のあと、田村すず子、浅井亨、村崎恭子、魚井一由、キーステン・レフシン(da:Kirsten Refsing デンマーク人)、中川裕、切替英雄、佐藤知己、奥田統己らの研究者がそれぞれ研究を進めてきた。
文字による記録
元来アイヌ語は音声による口承をもってのみ語り継がれてきたため、言語として特定の文字で表記する方法は定まってはいなかった。アイヌ語の文字による記録は、16世紀以降ヨーロッパ人によってラテン文字やキリル文字で書かれたものや、和人によってカナで記録されたものにはじまる。江戸時代の書籍「和漢三才図絵」(復刻版は明治時代)には50ほどの「日本語」(漢字表示)の単語と、それに対応する「アイヌ語の音」(平仮名表示)が記されている[7]。
明治以降は、ポーランドの文化人類学者ブロニスワフ・ピウスツキ、イギリス人宣教師のジョン・バチェラー、和人出身の研究者・金田一京助らによって、まとまった形で本格的に記録されるようになった。また、明確に記録をたどれる範囲では、大正時代にアイヌ自身がラテン文字(ローマ字)などを用いてアイヌ語を書き残したのが始めといわれている。
発音
アイヌ語の音節はCV(C)(すなわち義務的な声母と義務的ではない韻母)からなり、子音群は少数しかない。
母音
アイヌ語は五つの母音を持つ。樺太方言では開音節で長短を区別する。
前舌 | 中舌 | 後舌 | |
---|---|---|---|
狭 | [i] i | [u] u | |
中央 | [e] e | [o] o | |
広 | [a] a |
子音
子音は 「p」、「t」、「k」、「c」、「n」、「s」、「r」、「m」、「w」、「y」、「h」、「'」の12種が数えられる。無声音と有声音の区別は存在しない。
両唇 | 両唇軟口蓋 | 歯茎 | 硬口蓋 | 軟口蓋 | 声門 | |
---|---|---|---|---|---|---|
破裂 | [p] p | [t] t | [k] k | [ʔ] ' | ||
破擦 | [ts] c | |||||
鼻 | [m] m | [n] n | ||||
摩擦 | [s] s | [h] h | ||||
接近 | [w] w | [j] y | ||||
はじき | [ɾ] r |
日本語にはほとんど現れない閉音節が多く存在し、北海道方言では音節末にはc、h、' を除く任意の子音が立つことができる。いっぽう多来加を除く樺太の方言では音節末に立つ子音は限られ、音節末子音テンプレート:IPA2はテンプレート:IPA2との区別を失い、テンプレート:IPA2, テンプレート:IPA2, テンプレート:IPA2, およびテンプレート:IPA2の一部は摩擦音化しテンプレート:IPA2(xとも表記された)になる。例えば北海道のsések(「セセク」のように発音。「熱い」の意)は樺太ではsēseh(「セーセヘ」のように発音)となる。
u は、日本語の「ウ」と発音が異なり、日本語を母語とする者には「オ」のようにも聞こえることもある。そういったこともあり、かつてはaynuがアイノ、kamuyがカモイ、inawがイナオと書かれることが多かった。
cはチャ、チなどにあらわれる破擦音で濁って発音されることもある。
sはテンプレート:Smallerやテンプレート:Smallerの摩擦音。方言によってはシャと発音されることもある。また、有声で発音されることはない。
「'」は声門閉鎖音で、たとえばteetaで母音の連続を回避するために、はっきりと区切ってテエタと発音するときテとエの間に入る音である。
音節tiは存在せず、tとiが結びつくと必ずciに変わる (kot + -ihi → kocihi)。
音節wiはごく少数の擬音語・擬態語にしか現れない(siwiwatki風がビュウビュウ吹く。siw-iwは風の音を表す語根の反復)。
音節yi、「wu」を「'i」、「'u」と別の音節として認めるか否かは研究者によって異なる(yairayke/yayirayke、aun/awun、ya(y)inkarpirkare <yay-inkar-pirkare 自分の・見る(こと)・を良くする)。
開音節の「'i」や「'u」は他の母音の後に来たとき、母音の連続を回避するため軽く発音され、y、wとなることがある。表記としてはukoytakのようにy、wになる。閉音節の場合はこの変化は起きない。
母音iやuの後に他の母音が来たときは、母音の連続を回避するため渡り音y、wが挿入されることが多い。このy、wは表記される場合とされない場合がある。例えば、uepekerという語はしばしばuwepekerと書かれる。ただし、uの後にiが来た場合だけは*uwiとはならず、u'iまたはuyとなる。
音節末のt、p、kは朝鮮語の閉音節のp、t、k と同じく内破音であり、日本語のみを使う者にとっては聞き分けが難しい。たとえばpの場合、「アップ」と言った時の「プ」の直前の「ッ」のような感じの音になる。音節末tも同様に「ハット」の「ッ」、kも「メッカ」の「ッ」音である。
音節末sもシの前で詰まる音に近いが場合によりスの前で詰まる音のように聞こえる場合もある。
音節末のmは、日本語と異なりnと区別して発音しなければならない。
音節末のrについては直前の母音の音色が影響することが多く、日本語のラ行子音に近い歯茎はじき音で、且つ舌先が略平らで微妙にしか舌先が上がらない為、 arのrは口の中で発音されたあいまいなテンプレート:Smallerのように、irのrは軽いテンプレート:Smallerのような音となることが多い。樺太方言には音節末のrは無く、hかr+母音のいずれかで発音される。例えば北海道方言のutar(人々、〜たち)は樺太でutahまたはutaraと発音される。
アクセントは、語頭に閉音節があればここに付く。語頭の音節が開音節であれば、原則としてその次の音節に付く。例えばpírka(美しい)は最初の音節pirが閉音節なのでここにアクセントが付く。一方kamúy(神、ヒグマ)は最初の音節kaが開音節なので、次のmuyにアクセントが付く。
なお、アイヌ語では文法上他の母音の後のイ、ウも子音y、wと見なされ閉音節として扱われる。例えばáynu(人間)はイではなくアにアクセントが付く。
ただし例外的に最初の音節が開音節であってもそこにアクセントが付く単語もある。例えばyúkar(ユーカラ)がこれである。
なおアイヌ語のアクセントは高低アクセントで、アクセントのある音節は高く発音される。また、樺太方言で語頭の開音節にアクセントが付いた場合、その母音は長く発音される。例えば先の例のyukarは北海道方言では「ユカラ」に近いが樺太ではyūkara「ユーカラ」に近い。
文法
基本的な文型はSOV(主語・目的語・動詞)の順で、この点では日本語と同じである。しかし、形態論的には抱合語というイヌイットやアメリカ先住民族らの言語(エスキモー諸語、インディアン諸語など)と共通の特徴を持つ。これは、動詞に主語および目的語(授与動詞では間接目的語も)の人称および数を示す接辞が付けられ、さらにその他の意味を加える接辞(動詞の相や態、先行名詞との関係を示す関係詞的なものなど)が付加されて、動詞だけでも文に相当する表現が可能なためである。なお名詞でも、体の部分など、特に個人と切り離せない関係にあるものには、所有者を示す所有接辞が必須的に付加される。
たとえば1つの例として、
- usa-oruspe a-e-yay-ko-tuyma-si-ram-suy-pa
これを直訳すれば
- いろいろ-うわさ 私(主語)-について-自分-で-遠く-自分の-心-揺らす-繰り返し
つまり「いろいろのうわさについて、私は遠く自分の心を揺らし続ける=思いをめぐらす」という意味になる[8]。これは単語としては2つしか含まないが長い文に相当する意味を表している。2番目の動詞は語根suyに主語などを示す接辞、副詞、さらには目的語やそれを限定する接辞がついて1つの長い単語になっている。
アイヌ語の方言
アイヌ語の文章
文章化の試み
アイヌ語にはもともと書記言語がなかったが、近年はカタカナやラテン文字(ローマ字)による文章化の試みが浸透しつつある(例えばアイヌタイムズ)。
歴史上、強力な支配者が存在しなかった民族の言語であるアイヌ語には多くの方言が存在しており、文章の規範となる共通語がなく困難が伴っている。現在はアコテンプレート:Smaller イタテンプレート:Smaller(北海道ウタリ協会編アイヌ語テキスト)で範示されている文章表記に基づいた、各方言の文章化が多くなされている。
また、日本語に慣れ親しんでいる日本住民は、英語などを通じてローマ字に慣れ親しんでいる人たちを除いて、ローマ字よりはカタカナによるアイヌ語表記を好む。カタカナ表記は、出版物やワープロやパソコン上での表記で、音節末子音を表記するための小さいカタカナを表記する際、わざわざ活字の大きさを小さくしなければならないなど、大きな問題点があった。
文字(カナ表記)
アイヌ語の仮名による統一された正書法が存在するわけではないが、各方式が大きく異なるわけではない。日本語にない音を表記するために、いくつかの専用の文字を使用する。
「ca・cu・ce・co・ye・we・wo」などは日本語と同様に「チャ・チュ・チェ・チョ・イェ・ウェ・ウォ」と表記する。
tuは、「トゥ」、または「ト」に半濁点がついた「テンプレート:JIS2004フォント」(ト゜)、あるいは「ツ」に半濁点がついた「テンプレート:JIS2004フォント」(ツ゜)(括弧内は代用表記)で表記される。
音節末のt、k、p、m、nはそれぞれ、「ッ」、「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)、「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)、「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)、「ン」(括弧内は代用表記)で表記される。
音節末のsは多くの場合「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)と表記するが、発音の状態によって「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)と表記される。
音節末のrは直前の母音に則した書き分けをし、それぞれ「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)、「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)、「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)、「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)、「テンプレート:JIS2004フォント」(テンプレート:Smaller)(括弧内は代用表記)で表記される。
単語は分かち書きする。人称接辞は中黒「・」で区切って書かれることがある。それ以外の記号は日本語と同じつかい方をする。
2000年1月にJIS規格としてJIS第三水準漢字(記号類を含む)・JIS第四水準漢字が新規に制定され、このうちのJIS第三水準漢字にアイヌ語カナ表記用の拡張カタカナ(日本語の文章に通常使用される範囲外での小文字カタカナや半濁音付きカタカナ)も含まれている。
ISO規格に採り入れられている Unicode では、2002年3月に改定された Unicode 3.2 から JIS X 0213 に追随する形でアイヌ語カナ表記用の拡張カタカナが追加されており、同規格に対応したソフトウェアでアイヌ語カナ表記が扱える枠組みが整えられた。ただし、一部の文字は合成を用いないと表現できないという Unicode 特有の問題があり、ソフトウェアによってはきれいに表示できないことがある。
- アイヌ語カナ表記用の拡張カタカナ(Unicode 3.2準拠)
- 代用表記に関しては、小文字カタカナは通常サイズのカタカナの縮小表示、半濁音は通常の全角半濁音記号を付与。
文字 | 代用表記 | 文字 | 代用表記 | 文字 | 代用表記 | 文字 | 代用表記 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ㇰ | テンプレート:Smaller | ㇵ | テンプレート:Smaller | ㇻ | テンプレート:Smaller | ㇺ | テンプレート:Smaller | |||
ㇱ | テンプレート:Smaller | ㇶ | テンプレート:Smaller | ㇼ | テンプレート:Smaller | ㇷ゚ | テンプレート:Smaller | |||
ㇲ | テンプレート:Smaller | ㇷ | テンプレート:Smaller | ㇽ | テンプレート:Smaller | セ゚ | セ゜ | |||
ㇳ | テンプレート:Smaller | ㇸ | テンプレート:Smaller | ㇾ | テンプレート:Smaller | ツ゚ | ツ゜ | |||
ㇴ | テンプレート:Smaller | ㇹ | テンプレート:Smaller | ㇿ | テンプレート:Smaller | ト゚ | ト゜ |
テンプレート:See also パソコンでアイヌ語カナ表記(Unicode 3.2準拠)を扱う場合、
- Macintosh では、2001年の Mac OS X 10.1 Puma 以降でのOS標準フォントはアイヌ語カナ表記用の拡張カタカナにも対応している他、2003年の Mac OS X 10.3 Panther 以降でのOS標準文字入力システムのことえり4からはアイヌ語入力モードも採用された。
- Windowsでは、2007年のWindows Vista以降のOS標準フォントはアイヌ語カナ表記用の拡張カタカナにも対応しており、2001年のWindows XPと2003年のWindows Server 2003については標準では対応しないものの対応版フォントを無償でダウンロードできる。(JIS2004対応フォント(KB927489))
文字(ローマ字表記)
「発音」の節を参照。アクセント表記にはアキュート・アクセント付きラテン文字の「á」「í」「ú」「é」「ó」を使用する。
通常アクセントを省略して例外アクセントのみ表記したり、全てのアクセントを省略してアルファベットのみで表記したりすることもある。
文学
アイヌ語で文字使用が試みられる以前のアイヌの文学は全て口承のもので、民話・神話には非常に富んでいる。アイヌ語の叙事詩は[[ユーカラ|ユカテンプレート:Smaller]]または[[ユーカラ|ユーカテンプレート:Smaller]]と呼ばれる。ユーカテンプレート:Smallerの内容は、動物の神があらわれて体験を語るものや、人間の世界の恋愛や戦いを歌うものなど多様である。叙事詩のほかに、いわゆる昔話のような散文による伝承文学もある。
アイヌ語の語彙
アイヌ語に起源を持つ地名
北海道島には、アイヌ語由来の日本語地名が多い。大別して、(1) アイヌ語の発音を写し取ってカタカナで表記するものと、(2) それに漢字をあてたものがある。漢字の読みにうまく当てはまらない地名も多く、(3) 漢字にあわせて元の読みを変更してしまったものや、(4) アイヌ語の語義をそのまま日本語名にあてた(意訳)ものもある。
型 | アイヌ語での地名 | 変化 | 日本語での地名 |
---|---|---|---|
(1) | ニセコ | そのままカナ文字で表記。 | ニセコ |
(2) | サッ・ポロ・ペッ | 「ペッ」が脱落し、残りの部分に漢字をあてた。 | テンプレート:ルビ |
(3) | チキサプ | →ツキサップ→ツキサム | テンプレート:ルビ |
(4) | タンネトー | 「細長い沼」という意味を日本語訳。 | テンプレート:ルビ |
日本の本州島以南にも、アイヌ語を起源とする地名が、かつて多数住んでいたアイヌの痕跡として残っているという説がある。本州以南のアイヌ語地名については、山田秀三をはじめ、在野の地名研究家によって研究が進められてきた。山田らによれば仙台付近以北(太平洋側)・秋田県以北(日本海側)には明らかにアイヌ語と解釈できる地名が分布し、この地域については続縄文文化の後北式土器の分布と重なるとの指摘もある[11]。しかし、これより以南については根拠が乏しい。
北海道島の地名
本州島の地名
本州島の地名については、アイヌ語が起源、あるいは(狭義の)アイヌ語と祖先を同じにする(「アイヌ語族」「縄文人の言語」と表現する人もいる)、という説が存在する地名である。テンプレート:要出典
青森県
相内(あいない)、浅瀬石(あせいし)、赤保内(あかぼない)、荒熊内(あらくまない)、今別(いまべつ)、兎内(うさぎない、とない)、宇鉄(うてつ)、老部(おいっぺ)、大深内(おおふかない)、大別内(おおべつない)、奥内(おくない)、大沢内(おおざわない、おおさわない)、奥戸(おこっぺ)、遅毛内(おそけない)、尾太(おっぷ)、尾別(おっぺつ)、折腰内(おりこしない)、影津内(かげつない)、蟹田(かにた)、木内内(きないない)、木野部(きのっぷ)、切谷内(きりやない)、笹内、佐羽内(さばない)、小比内(さんぴない)、三内(さんない)、獅々内、下風呂(しもふろ)、尻労(しつかり)、車力村(しゃりき)、瀬辺地(せべち、せへじ)、千厩(せんまや)、田子(たっこ-まち、tapkop)、竜飛(龍飛、たっぴ)、田光(たっぴ)、蓼内(たでない、たてない)、丹内、鳥舌内(ちょうしたない)、十腰内(とこしない)、十枝内(としない)、飛内(とびない)、苫米地(とまべち)、豊間内(とよまない)、入内(にゅうない)[12]、野辺地(のべち、のへじ)、野内(のない)、原別(はらべつ)、平内(ひらない-まち)、洞内(ほらない)、三厩(みんまや)、目内(めない)、類家(るいけ)[13]
岩手県
相去(あいさり)、浅内(あさない)、安家(あっか)、安比(あっぴ)、安庭(あにわ)、宇霊羅(うれいら、うれら)、伊保内、江刺(えさし)、江釣子(えづりこ)、越喜来(おきらい)、オショウナイ、女遊部(おなつぺ・おなっぺ、釜石市)、女遊戸(おなつぺ・おなっぺ、宮古市)、釜石 (?)、上米内(かみよない)、金田一、久慈 (?)、気仙 (?)、夏油(げとう)、花露辺(けろべ)、佐比内、死骨崎(しこつざき、唐丹町)、タイマグラ、達谷(たっこく, tapkop)、立根(たっこん、tapkop)、束稲山(たばしね[14])、土淵(つちぶち)、唐丹(とうに)、遠野 (とぬぷ)、泊里(とまり)、西根(にしね)、似田貝、似内(にたない)、沼宮内(ぬまくない)、日頃市(ひころいち)、平泉(? ひらいずみ[15])、馬渕(まべち、まぶち)、目屋、綾里(りょうり)、和井内(わいない)
秋田県
浅見内(あさみない)川、阿仁(あに)、阿仁合(あにあい)、天内(あまない)、板見内(いたみない)、打当内(うっとない)、笑内(おかしない)、小猿部川(おさるべ)、生保内(おぼない)、毛馬内(けまない)、斉内川(さいない)、狙半内川(さるはんない)、鹿内(しかない)、下山内(しも-さんない)、岱野(?, たいの)、田子内(たごない、tapkop)、辰子潟(たつこがた、田沢湖、tapkop)、達子森(たっこもり、tapkop)、土目内(どめね)、十和田(とわだ)、西馬音内(にしもない)、羽見内(はみない)、比立内(ひたちない)、比内(ひない)、桧木内(ひのきない)、堀見内(ほりみない)、マンタラメ、役内(やくない)、鑓見内(やりみない)、米内(よない)
宮城県
歌津(うたつ)、達居森(たっこもり、tapkop)、登米(とよま)、保呂内
福島県
新潟県
※下越地方(北越方言圏)は東北方言の地域に分類される 新発田(しばた)、胎内(たいない)、沼垂(ぬったり)、粟島テンプレート:Smaller、大平(おおひら)、釜谷(かまや)、カムラ、等[16]
富山県
黒部(くろべ)、魚津?(うおづ)、毛勝(けかち)、砺波(となみ)
北東北3県、その他各地に点在
長内[17]、折壁(おりかべ)、鬼壁(おにかべ)、折戸 (?)、釜谷、釜屋、蒲谷、鎌谷(かまや)、目名、目名川、~岱、~台(臺)、~平(たい、tay、「森」)
茨城県
東京都
江戸 (?)、世田谷 (?)、福生(ふっさ)、羽村(はむら)、武蔵野(むさしの)
神奈川県
石川県
能登 (?)
日本語に溶け込んだアイヌ語
日本語 | アイヌ語 | 備考 |
---|---|---|
エトピリカ | エトゥピリカ(etu pirka) | 嘴・美しい |
オットセイ | オンネプ(onnep) | 中国語を経由、オットに変化した後、漢方薬としての陰茎の婉曲表現の臍がつきオットセイとなって入ったものであると言われている。 |
ケイマフリ | ケマフレ(kema hure) | 足・赤い(熟語 kema-pase 足・重い→年老いた) |
コマイ | コマイ(komay) カンカイ(kankay) |
|
シシャモ | スサム(susam) | 語源はsusu-ham「柳の葉」とされる。 |
トナカイ | トゥナカイ(tunakay) | |
ノンノ | ノンノ(nonno) | 花(ファッション雑誌の名称) |
ハスカップ | ハシカプ(haskap) | 語源は has-ka-o-p で「枝の上にたくさんなるもの」の意。 |
ホッキ貝 | ポク(pok) セイ(sey) |
|
ラッコ | ラッコ(rakko) | |
ルイベ | ルイペ(ruype) | 溶ける食べ物の意 |
雑学
2004年から北海道で開催されている世界的モータースポーツイベント、世界ラリー選手権のイベントの一つラリージャパンにおいて、コース(SS、スペシャルステージ)の名前は、キムンカムイ、ヤムワッカなど、原則的にアイヌ語で付けられている。 2000年代中盤から、アイドルのライブコンサートの際に、アイヌ語の掛け声(mix)を入れる場合がある。「チャペ・アペ・カラ・キナ・ララ・トゥスケ・ミョーホントゥスケ」と叫ぶのがそれである。
脚注
参考文献
入門書
- 中川裕・中本ムツ子 『CDエクスプレス アイヌ語』 白水社 ISBN 4560005990 2004年
- 1997年刊の『エクスプレス アイヌ語』にCDが付いた新装版。
- 『アコテンプレート:Smaller イタテンプレート:Smaller』北海道ウタリ協会 ISBN 4905756219 C0086 1994年
- 田村すず子 『アイヌ語入門』『アイヌ語基礎語彙』『アイヌ語入門解説』 早稲田大学語学研究所、1983年
- カムイトラノ協会、片山言語文化研究所などがビデオ教材やテキストを作成している。
- 大修館書店1981年刊、講座言語第六巻『世界の言語』413-445pp 田村すゞ子「アイヌ語」
辞書
- 萱野茂 『萱野茂のアイヌ語辞典』 三省堂 ISBN 4385170509 1996年(初版)・ISBN 4385170525 2002年(増補版)
- 『萱野茂のアイヌ語辞典 CD-ROM』三省堂 ISBN 4385613060 1999年。
- 上記(初版)のCD-ROM版。全例文に著者自身の発音による音声が付いている。
- 田村すず子 『アイヌ語沙流方言辞典』 草風館 ISBN 4883230937 1996年
- 中川裕 『アイヌ語千歳方言辞典』 草風館(普及版) ISBN 4883230783・(机上版) ISBN 4883230775 1995年
- 知里高央・横山孝雄 『アイヌ語イラスト辞典』
- 知里高央・横山孝雄 『アイヌ語絵入り辞典』
- 知里真志保 『分類アイヌ語辞典』
- 服部四郎 『アイヌ語方言辞典』
- ジョン・バチェラー『アイヌ・英・和辞典 第四版』(岩波書店、ISBN 4000800558、1981年)
解説書、特定分野の辞典
- 亀井孝・河野六郎・千野栄一編 『日本列島の言語』 三省堂 ISBN 4385152071
- 『言語学大辞典』(三省堂、1988年)からアイヌ語、日本語、琉球列島の言語の3項目を抜き出して編集。アイヌ語全般に関する詳しい解説を含む。アイヌ語の解説は田村すず子が担当。
- 知里真志保 『アイヌ語入門 - 特に地名研究者のために』
- 知里真志保 『地名アイヌ語小辞典』 北海道出版企画センター ISBN 4832888021
- 原本は1956年に発行された。地名に出てくるアイヌ語の解説書。
読み物
関連項目
- アイヌ用語一覧
- アイヌ語方言
- アイヌ語仮名
- アイヌ文化
- アイヌ文化振興法
- 人名#アイヌの名前
- アイヌ語ラジオ講座
- アイヌタイムズ
- 蝦夷
- 苫小牧駒澤大学
- 危機に瀕する言語
- 北海道の地名・駅名
- 消滅危機言語の一覧
外部リンク
- アイヌ語学習者のためのアイヌ語基本文献・音声資料リスト 田村すず子(早稲田大学語学教育研究所)編、奥田統己(札幌学院大学人文学部)増補
- 初心者のためのアイヌ語文法解説
- 白老のアイヌ語単語集
- 北海道のアイヌ語地名
- アイヌ語ラジオ講座(札幌テレビ放送 STV)
- アイヌ文化振興・研究推進機構
- 北海道立アイヌ民族文化研究センター
- 千葉大学文学部ユーラシア言語文化論講座(アイヌ語やニヴフ語などを含む北方諸民族の言語や文化を研究)
- ROM作成物サポートページ(Windows用のアイヌ語カナ表記用拡張カタカナ対応化拡張フォントやアイヌ語カナ表記入力/変換ユーティリティ)
- 日本古代史とアイヌ語
- 季刊紙『アイヌタイムズ』のホームページ
- NPO法人「地球ことば村・世界言語博物館」による2010年1月のことばのサロン シリーズ「よみがえることばたち」7「アイヌに生まれて」