イナウ
イナウ(inaw, inau)はアイヌの祭具のひとつ。カムイや先祖と人間の間を取り持つものとされた。強いて言えば日本における御幣に相当するが、それよりも供物としての性格が強い。
特徴
イナウの形状は御幣に酷似しているが、一本の木の棒からすべて削り出している点が御幣との違いである。イナウの用途は、神への供物である。アイヌの人々はカムイに祈り、願う際にイナウを捧げる。それによって人間側の意図するところがカムイに伝わり、カムイの側も力や徳を増すと考えられていた。また、新しくカムイを作る際、その衣や刀や槍などの材料とするといった用途もあった。
イナウはカムイ・モシリ (kamuy mosir 神の世界)には存在しないものとされる。このような細かい工芸品は手先の器用な人間のみが作成可能で、カムイは人間から捧げられる以外、入手方法が無いのである[1]。
作り方
イナウの材料は自然木である。材料となる木をイナウネニとよび、通常はスス(ヤナギ)が使われたが、ウトゥカンニ(ミズキ)やシケレペニ(キハダ)で作られたものが上等品とされていた。木肌が白いミズキのイナウは天界で銀に、木肌が黄色いキハダのイナウは金に変ると信じられていたからである。イナウ作りはアイヌの男の大切な仕事のひとつとされ、重要な祭礼などを控えた日には祭礼の行われる場所に泊りがけで集い、イナウを作成したという。特にイヨマンテ(クマ送り)やチセノミ(新築祝い)など重要な儀式には大量のイナウが必要となるため、準備期間のかなりの時間がイナウ削りに費やされた。
イナウをつくるには、直径が3cmほどの素性が良いヤナギやミズキの枝を採集し、大体70cmほどの長さに切る。そしてきれいに皮を剥ぎ、木肌をあらわにして乾燥させる。乾燥させるのは、木肌を薄く削る作業を容易にするためである。充分に原料の枝が乾燥したら、先に木片を刺した小刀を使い、木の端の方向に薄く削る。削る作業の繰り返しで、あたかも枝の先に木片の房が下がる形にするのである(完成)。イナウの種類によって造り方も異なるが、乾燥させた素材を小刀で削り、木片を下げさせる工程は変わりがない。
ちなみに、イナウを削った際に余った部分は、ユーカラを語る際に炉縁を打って拍子を取る棒「レプニ」として使われる。
種類
神の衣や刀にするイナウキケ、イヨマンテ(クマ送り)やチセノミ(新築祝い)に使用する、20個ほどのイナウを束にしたシロマイナウ、非常に簡単に作れる略式のチェホロカケプイナウなどがある。
出典
- ↑ 山田孝子『アイヌの世界観』
関連項目
外部リンク
- アイヌ文化振興・研究推進機構 - イナウの作り方
- (イヨマンテのためのイナウの作り方を解説している。写真入で詳細である)