大西洋
テンプレート:五大洋 大西洋(たいせいよう、テンプレート:Lang-la-short、テンプレート:Lang-en-short)とは、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸、アメリカ大陸の間にある海である。 なお、大西洋は、南大西洋と北大西洋とに分けて考えることもある。おおまかに言うと、南大西洋はアフリカ大陸と南アメリカ大陸の分裂によって誕生した海洋であり、北大西洋は北アメリカ大陸とユーラシア大陸の分裂によって誕生した海洋である。これらの大陸の分裂は、ほぼ同時期に発生したと考えられており、したがって南大西洋と北大西洋もほぼ同時期に誕生したとされる。
目次
地理
大西洋の面積は約8660万平方km。これはユーラシア大陸とアフリカ大陸の合計面積よりわずかに広い面積である。大西洋と太平洋との境界は、南アメリカ大陸最南端のホーン岬から南極大陸を結ぶ、西経67度16分の経線と定められている。また、インド洋との境界は、アフリカ大陸最南端のアガラス岬から南極大陸を結ぶ、東経20度の経線と定められている。そして、南極海との境界は、南緯60度の緯線と定められている。大西洋の縁海としては、メキシコ湾やカリブ海を含むアメリカ地中海、地中海、黒海、バルト海があり、縁海との合計面積は約9430万平方kmである。
水深
他の大洋と比較した場合、大西洋の特徴は、水深の浅い部分の面積が多いことである。とは言っても大西洋に水深4000mから5000mの部分の面積が最も多いということは、他の大洋と変わらない。しかし、全海洋平均では31.7%がこの区分に属するが、大西洋の場合は30.4%である。そして、水深0mから200m、いわゆる大陸棚の面積が大西洋では8.7%を占める(太平洋5.6%)、0mから2000mの区分では19.8%(同12.9%)となる。このため、大西洋の平均深度は三大大洋(太平洋、大西洋、インド洋)のうち最も浅い3736mである。なお、大西洋での最大深度は8605m(プエルトリコ海溝)。
海底
海洋底の骨格となる構造は、アイスランドから南緯58度まで大西洋のほぼ中央部を南北に約16000kmに渡って連なる大西洋中央海嶺である。なお、海嶺(海底にある山脈)の頂部の平均水深は2700mである。地質時代にプレートの運動によって南北米大陸と欧州・アフリカ大陸が分裂し、大西洋海底が拡大していった。中央海嶺はマントルからマグマが噴き出た場所である。太平洋と比較すると、海嶺(大西洋中央海嶺を除く)や海山の発達に乏しい。
海底に泥や砂あるいは生物遺骸が堆積しているのは、他の大洋と同様だが、大西洋は他の大洋と比べて、水深の浅い場所が多い。大西洋の沿岸部では河川などによって陸から運ばれた物質が溜まって、厚く堆積している。そして沖合(遠洋)には、粒子の細かい赤色粘土、軟泥(プランクトン死骸など)が堆積している。こうした大西洋の堆積物は、最大で約3300m堆積している。大西洋の堆積物は、太平洋の堆積物と比べると非常に厚い。この理由としては、太平洋に比べ大西洋が狭く、堆積物の主な供給源である陸地からどこもあまり離れていないこと、太平洋に比べて注ぎ込む大河が多い上に、河川の流域面積も広く、河川が侵食して運搬してきた大量の土砂などが流れ込むこと、などが挙げられる [1] 。
海水
大西洋の平均水温は4℃、平均塩分濃度は35.3‰。この水温と塩分濃度は、ともに他の大洋とほぼ同じである。なお、海水の塩分濃度は均一ではなく、熱帯降雨が多い赤道の北や、極地方、川の流入がある沿岸部で低く、降雨が少なく蒸発量が大きい北緯25度付近と赤道の南で高い。また、水温は極地方での-2℃から赤道の北の29℃まで変化する。なお、大西洋の南緯50度付近には、表面付近の海水温が急に2度〜3度変化する潮境が存在し、ここは南極収束線と呼ばれる [2] 。 ちなみに、この南極収束線はインド洋や太平洋にも存在し、インド洋の場合も南緯50度付近だが、太平洋は南緯60度付近と位置が大きく異なっている [2] 。
海流
大西洋の表層に存在する主な海流は、北から、東グリーンランド海流(北部、寒流)、北大西洋海流(北部、暖流)、ラブラドル海流(北西部、寒流)、メキシコ湾流(西部、暖流)、カナリア海流(東部、寒流)、アンティル海流(西部、暖流)、北赤道海流(東部、暖流)、赤道を超えて、南赤道海流(西部、暖流)、ベンゲラ海流(東部、寒流)、ブラジル海流(西部、暖流)、フォークランド海流(南部、寒流)である。また、現在の地球の海には地球全体を巡る海水大循環があり、大西洋の極海で冷やされた海水は大西洋深層流として南下し、太平洋やインド洋で暖められ、アフリカ南部から北上して戻ってくる。一方、赤道を境にそれぞれ北大西洋と南大西洋の表層では海流が大きな渦として循環する。これらの海流(循環)は、地球全体の気候に影響を与えるくらいに、多くの熱を輸送している。
ところで、北大西洋の中央部にあるサルガッソ海には、目立った海流が無い。これは、南赤道海流・メキシコ湾流・北大西洋海流・カナリア海流によって構成される大循環の中心に位置し、これらの循環から取り残された位置に、このサルガッソ海が存在するからである。また、ちょうどこの場所は亜熱帯の無風帯に属するため風もほとんど吹かない。このため上記4海流から吹き寄せられた海藻類(いわゆる流れ藻)が多く、風がない上に海藻が船に絡みつくことから、航海に帆船を使用していた時代には難所として知られていた。なお、このサルガッソ海付近は、大西洋の中でも海水面が少し高くなっている場所であることでも知られている [3] 。
生物
大西洋は生物の種数が少ない。様々な分類群において太平洋やインド洋に比べて数分の1程度の種数しか持たない。これは、大西洋が大陸移動によって作られた新しい海であること、他の海洋とは南北の極地でしか繋がっていないために生物の移動が困難であることなどによると考えられる。ちなみに、大西洋の魚類の総種数より、アマゾン川の淡水魚の種数の方が多いとも言われるテンプレート:要出典。
大西洋の各地には漁場が点在するが、とくに大西洋北部はメキシコ湾流が寒冷な地方にまで流れ込むために海水の攪拌がおき、世界屈指の好漁場となっている。メキシコ湾流とラブラドル海流が出会う北アメリカ・ニューファンドランド沖のグランドバンクや、北海やアイスランド沖などの大西洋北東部が特に好漁場となっている。
歴史
大西洋沿岸のほぼすべての地域には有史以前から人類が居住していた。紀元前6世紀ごろからは、カルタゴが大西洋のヨーロッパ沿岸を北上してイギリスのコーンウォール地方と錫の交易を行っていた。その後もヨーロッパ近海では沿岸交易が行われていた。13世紀末には大西洋のヨーロッパ沿岸航路が活発化し、ハンザ同盟が力を持っていた北海・バルト海航路と、ヴェネツィアやジェノヴァが中心となる地中海航路が直接結びつくこととなった。これによって、それまでの内陸のシャンパーニュ大市に代わってフランドルのブリュージュが[4]、その後はアントウェルペンがヨーロッパ南北航路の結節点となり、ヨーロッパ商業の一中心地となった。
最も古い大西洋横断の記録は、西暦1000年のレイフ・エリクソンによるものである。これに先立つ9世紀ごろから、ヴァイキングの一派であるノース人が本拠地のノルウェーから北西に勢力を伸ばし始め、874年にはアイスランドに殖民し、985年には赤毛のエイリークがグリーンランドを発見した。そして、赤毛のエイリークの息子であるレイフ・エリクソンがヴィンランド(現在のニューファンドランドに比定される)に到達した。しかしこの到達は一時的なものに終わり、グリーンランド植民地も15世紀ごろには寒冷化により全滅してしまう。
一方そのころ、南のイベリア半島においてはポルトガルのエンリケ航海王子が1416年ごろからアフリカ大陸沿いに探検船を南下させるようになり、1434年にはそれまでヨーロッパでは世界の果てと考えられていたテンプレート:仮リンク(テンプレート:Lang-es テンプレート:Lang-ar ra's Būyadūr ラス・ブジュドゥール)を突破[5]。以後も探検船は南下し続け、1488年には、バルトロメウ・ディアスが喜望峰を発見し、アフリカ大陸沿いの南下は終止符を打った。
1492年にはスペインの後援を受けたクリストファー・コロンブスが大西洋中部を横断し、バハマ諸島の1つであるサン・サルバドル島に到着した。以後、スペインの植民者が次々とアメリカ大陸に侵攻し、16世紀初頭にはアメリカ大陸の中央部はほとんどがスペイン領となった。一方、コロンブスの報が伝わってすぐ、フランスの漁民たちは大挙して大西洋を渡り、メキシコ湾流とラブラドル海流が潮目を成すことで世界有数の好漁場となっているニューファンドランド沖にてタラをとるようになった。
16世紀には新大陸で取れた銀がスペインに運ばれ、スペインの隆盛の基盤となるが、やがてオランダやイギリスなどの新興国が大西洋交易を握るようになった。18世紀には、ヨーロッパの工業製品をアフリカに運んで奴隷と交換し、その奴隷を西インド諸島やアメリカ南部に運んで砂糖や綿花と交換し、それをヨーロッパへと運ぶ三角貿易が隆盛を極め、この貿易がイギリスが富を蓄える一因となった[6]。
19世紀に入り、アメリカ合衆国が大国となるにつれて、アメリカとヨーロッパを結ぶ北大西洋航路は世界でもっとも重要な航路となった。
大西洋に接する国と地域
ヨーロッパ
- テンプレート:Flagicon ベルギー
- テンプレート:DEN
- テンプレート:Flagicon ドイツ
- テンプレート:Flagicon スペイン
- テンプレート:Flagicon フランス
- テンプレート:Flagicon フェロー諸島
- テンプレート:GGY
- マン島
- テンプレート:Flagicon アイルランド
- テンプレート:Flagicon アイスランド
- テンプレート:JEY
- テンプレート:NED
- テンプレート:Flagicon ノルウェー
- テンプレート:POR
- テンプレート:Flagicon スウェーデン
- テンプレート:UK
アフリカ
- テンプレート:Flagicon モロッコ
- テンプレート:Flagicon アンゴラ
- テンプレート:BEN
- テンプレート:BVT
- テンプレート:Flagicon コートジボワール
- テンプレート:Flagicon カメルーン
- テンプレート:Flagicon コンゴ民主共和国
- テンプレート:Flagicon コンゴ共和国
- テンプレート:CPV
- テンプレート:ESH (モロッコ占領中)
- テンプレート:Flagicon スペイン (カナリア諸島)
- テンプレート:GAB
- テンプレート:Flagicon ガーナ
- テンプレート:GIN
- テンプレート:GMB
- テンプレート:GNB
- テンプレート:GNQ
- テンプレート:LBR
- テンプレート:MRT
- テンプレート:NAM
- テンプレート:Flagicon ナイジェリア
- テンプレート:Flagicon セネガル
- テンプレート:SHN
- テンプレート:SLE
- テンプレート:STP
- テンプレート:Flagicon トーゴ
- テンプレート:Flagicon 南アフリカ共和国
南アメリカ
- テンプレート:Flagicon アルゼンチン
- テンプレート:Flagicon ブラジル
- テンプレート:CHI
- テンプレート:Flagicon コロンビア
- テンプレート:FLK
- テンプレート:Flagicon フランス (フランス領ギアナ)
- テンプレート:Flagicon ガイアナ
- テンプレート:SGS
- テンプレート:Flagicon スリナム
- テンプレート:URU
- テンプレート:Flagicon ベネズエラ
カリブ海
- テンプレート:ABW
- テンプレート:AIA
- テンプレート:ATG
- テンプレート:Flagicon バハマ
- テンプレート:BLM
- テンプレート:BRB
- テンプレート:Flagicon キューバ
- テンプレート:CUR
- テンプレート:CYM
- テンプレート:Flagicon ドミニカ国
- テンプレート:Flagicon ドミニカ共和国
- テンプレート:Flagicon フランス (マルティニークおよびグアドループ)
- テンプレート:GRD
- テンプレート:Flagicon ハイチ
- テンプレート:Flagicon ジャマイカ
- テンプレート:LCA
- テンプレート:MAF
- テンプレート:MSR
- テンプレート:Flagicon オランダ (BES諸島)
- テンプレート:PRI
- テンプレート:SKN
- テンプレート:SXM
- テンプレート:TCA
- テンプレート:Flagicon トリニダード・トバゴ
- テンプレート:VCT
- テンプレート:VGB
- テンプレート:VIR
北アメリカ、中央アメリカ
- テンプレート:Flagicon ベリーズ
- テンプレート:BMU
- テンプレート:Flagicon カナダ
- テンプレート:Flagicon コスタリカ
- テンプレート:GRL
- テンプレート:Flagicon グアテマラ
- テンプレート:HON
- テンプレート:Flagicon メキシコ
- テンプレート:Flagicon ニカラグア
- テンプレート:Flagicon パナマ
- テンプレート:SPM
- テンプレート:Flagicon アメリカ合衆国
大西洋ニーニョ
数年に一度の頻度で発生する現象で、太平洋のエルニーニョ現象ほど水温偏差は大きくない。周辺地域の南アメリカやアフリカの気候への影響は大きく、熱帯域で洪水や干魃を発生させる要因となっているほか、エルニーニョにも影響を与えていることも示唆されている。発生のメカニズムはエルニーニョ現象と同様に、「数年に一度、弱まった貿易風の影響で、西側の暖水が東へと張り出す」タイプと「赤道の北側で海洋表層の水温が通常よりも暖められ、暖められた海水が赤道域に輸送される[7]」があると考えられている。
関連項目
出典
- ↑ 「世界地理12 両極・海洋」p196 福井英一郎編 朝倉書店 昭和58年9月10日
- ↑ 2.0 2.1 和達 清夫 監修 『海洋の事典』 p.431 東京堂出版 1960年4月20日発行
- ↑ 和達 清夫 監修 『海洋の事典』 p.594 東京堂出版 1960年4月20日発行
- ↑ 「商業史」p27-28 石坂昭雄、壽永欣三郎、諸田實、山下幸夫著 有斐閣 1980年11月20日初版第1刷
- ↑ 「大帆船時代」p7 杉浦昭典 昭和54年6月26日印刷 中央公論社
- ↑ 「略奪の海カリブ」p162-164 増田義郎 岩波書店 1989年6月20日第1刷
- ↑ 大西洋赤道域の新たな気候変動メカニズム海洋研究開発機構 JAMSTEC