海藻
海藻(かいそう、テンプレート:Lang-en-short)は、藻類のうち容易に肉眼で判別できる海産種群の総称[1]。
概説
藻類には海産のものと淡水産のものがあり、このうち海藻は海産種群を指す[1]。
これとは別にアマモのように海産植物ではあるが陸上植物と同様に根・茎・葉を有し花を咲かせる種子植物もあるが、これらには「海草」の字が当てられ海藻とは区別される[1]。海水域に生息する種子植物はアマモ類などの非常に限られた種類だけであり、その生息環境も沿岸部での限定的なものである。多くの海草が砂泥底に生育するのも海藻とは大きく異なる。
海産の藻類としてはプランクトンや共生藻類として生活する微視的なものも多いが、それらも海藻とは呼ばれない。
海藻は系統学的には異質な複数の分類群から成り立つ。これを反映して形態をはじめ生物学的な性質には大きな多様性が見られる。
食品・工業原料として重要な海藻も多い。
生態
潮間帯から数十mの海底にまで生息する。一般に、緑藻が浅いところに、紅藻がもっとも深いところまで生息すると言われる(補色適応説)。
1mを超えるような大型種は褐藻類に見られる。また、熱帯の海では大型の海藻は少なく、寒い地方に大型の海藻が多い。ほとんどの種が海底に根のような構造で固着しているが、ある時期が来ると根元から離れて海面を漂う種も存在する。そのようなものがかたまって流れているのを流れ藻と呼んでいる。
また、大部分は岩の上に張り付くように根を張っているので、海藻は圧倒的に岩礁海岸に多い。
温帯では一般に海藻の活動が盛んなのは春から初夏で、それ以降は不活発になる。これは肥料分が制限要因となっており、冬季に微生物の活動等で蓄積された肥料分が使いつくされるまでが活動のピークとなるからと言われる。
役割
沿岸海域においては重要な生産者であることは論を俟たない。しかし、それ以上に海底地形を複雑にし、生物環境を多様にする意味が大きい。海洋は均一な水の連続であり、多くの海底は比較的単純な地形をしている。その中でサンゴや海藻のように海底から細かく枝分かれした突出部を作る生物は、複雑な足場を提供することで環境の多様性を向上させ、小さな動物の住みかを多く提供するものである。岩礁海底の海藻の群落は藻場と呼ばれて、多くの魚類の稚魚のよりどころとなっている。
平成に入って、日本各地でこのような藻場の衰退が聞かれるようになった。このような現象を磯焼けと呼んでおり、沿岸漁業にとっても重要な問題と考えられ、現在その原因や解消法が研究されている。
利用
食用
日本では海藻は食材として重要で、特にだし取りや煮物の素材としてのコンブ、漉いて紙状に乾燥させたり佃煮や汁物の具材に用いる海苔、汁物や煮物の具材としてのワカメ、寒天や心太(ところてん)にして供されるテングサ、主に煮付けとして供されるヒジキ、酢の物として供されるモズク、あるいは褐藻・紅藻・緑藻の種を問わず鮮魚の刺身の盛り合わせのツマとして大根の千切りや大葉などとともに彩りとして用いられるなど、日本料理の体系で中心的な位置を占める。多種の人間に必要な栄養素を含んでいる。
海藻には水溶性食物繊維が豊富に含まれており[2]、水溶性食物繊維は食後の血糖値の急激な上昇を抑制する[3]。
日本以外では、スコットランド・アイルランドが突出した海藻食文化を持っており、ダルス・イボノリ・ヒバマタ・ツノマタ・トサカモドキ・アオサなど伝統的に多種の海藻を食していた。
また、チリ沿岸に生息するダービリアと呼ばれる海藻は、インディオの時代から汁物の具として盛んに食されていた。
欧米では海藻を食用にする習慣が少ないので、英語では海草と一緒に Seaweed(海の雑草)と呼ばれる。しかし、最近では欧米でもヘルシー志向が高まり、海藻を食材として利用する事例も増えており、Sea Vegetable(海の野菜)と呼ばれることも多い。
なお、一部の海藻はヨウ素を体内に蓄積する性質があり、かつて、ヨウ素は海藻を燃やすことによって抽出していた。現在は地下の化石海水からより安価に採取されているが、これも海藻が起源との説もある。
フランスの海洋生物学と海洋学の研究・教育機関「ロスコフ生物学研究所(Station Biologique de Roscoff)」の研究チームは、日本人の腸が海草に含まれる多糖類を分解できるのは、分解酵素を作る遺伝子を腸内に住む細菌が海洋性の微生物から取り込んでいるためだとする論文を発表し、2010年4月8日の英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された[4]。
科学技術分野
肥料
海岸付近の耕作地においては、古くから肥料として重用されてきた。海藻を肥料に用いるメリットとして有害な胞子や昆虫類の卵、雑草の種子等が混入しないこと、陸上の動植物起源の肥料よりもカリウムなどのミネラル成分、オーキシンなどの植物ホルモンに富むことが挙げられるため、農地への塩類集積等への懸念は残るものの有用性は高い。
歴史的に見てヨーロッパでは、2世紀に書かれたローマ時代の書物にも海藻の肥料利用が書かれているほか12世紀には、イギリスやアイルランド、フランス、スペインなどの諸国で肥料への利用のため海藻類の養殖も行われている。現代においても、 漂着した海藻を農地にすきこむ手法が地中海沿岸諸国、アフリカ諸国などで行われているほか、アメリカ合衆国などでは海藻から製造した液肥が広く販売されている。日本では、江戸時代に伊豆半島でテングサを肥料に利用が行われていたほか[5]、1950年代には北海道の襟裳岬の周辺で行われた公共事業(治山事業)において使用されている。
分類
代表的なものは以下の三つの群である。詳細については、各群の項を参照されたい。ここでは海藻として代表的なものを揚げる。
褐藻類:ウミトラノオ、コンブ、ヒジキ、ヒバマタ、ホンダワラ、モズク、ラッパモク、ワカメ
緑藻類:アオサ、アオノリ、カサノリ、サボテングサ、フサイワヅタ、ミル
脚注
- ↑ 1.0 1.1 1.2 杉田浩一編『日本食品大事典』医歯薬出版 p.285 2008年
- ↑ 海藻の食物繊維に関する食品栄養学的研究、吉江由美子、日本水産学会誌、Vol.67 (2001) No.4
- ↑ 食物繊維の構造と機能、中山行穂、生活衛生、Vol.35 (1991) No.1
- ↑ Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota
- ↑ http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsp/pdf-files/40Fertilizer.pdf 海藻肥料( 大野正夫)