南極海
テンプレート:五大洋 南極海(なんきょくかい、テンプレート:Lang-en)は、南極大陸のまわりを囲む南緯60度以南の海域である。南大洋(なんたいよう)や南氷洋(なんぴょうよう)、南極洋(なんきょくよう)とも呼ばれる。
概要
インド洋、太平洋、大西洋との明確な地理的境界はないが、南極前線が生物分布での境界線にあたる。地理上の南極圏は南緯66度33分から南であるため、南極海がすべて南極圏に属しているわけではない。
南極海が他の海洋から分かれたのは南極周回流ができた時だが、これは3000万年前に南極大陸と南アメリカ大陸が離れてドレーク海峡ができてからであり、極めて若い大洋である。それ以前は南極大陸まで暖流が届いていたので、今のような氷の大陸ではなかった。
南極海では南極周回流と呼ばれる大きな海流が流れており、この海流によって結ばれた海域を指すと言ってよい。南極周回流は寒流であり、上空の偏西風帯の影響を受けるために西から東へと流れる。流速は速くはないが、横幅も上下幅も広いため、流量は莫大なものになる。一方で、南極大陸沿岸には東から西へと風の吹く緯度帯があるため、海流もそれにつれて東から西へと流れる。これは東風皮流と呼ばれ、南極周回流とは逆方向に流れるため、この二つの海流の接点には潮目ができ、ここに深層から温かい水が上昇してくる。この水は栄養に富み、多くの植物プランクトンを繁殖させる。
南極海の水は、冷たい表層水、暖かい深層水、非常に冷たい底層水の3つに大きく分かれる。表層の水は海氷や空気によって冷やされ、マイナスの温度となっている。一方、深層の水はプラスの温度であり、暖かい。この二つの水とは別に、南極大陸の沿岸やロス棚氷、ウェッデル海などでは海水が氷によって激しく冷やされ、大陸のふちに沿って海底にまで沈んでゆく。これは南極底層水とよばれ、北大西洋で作られる北大西洋深層水とともに深海に沈み込む水塊として、熱塩循環(海洋大循環)の重要な要素となっている[1]。
南極海は南極前線以北の海域よりも水温は2〜3℃低く、塩分濃度も高いので、浅海に棲息する生物は南極海と北側の海との間を行き来することができない。そのため、南極海には独特な環境に適応し独自の進化を遂げた生物が多く、北側の海とは大きく異なる南極の生態系が形成されている。
地球上の海洋の中では非常に冷たい(海水の氷点より高い-1.9℃以上)が、陸上の気温と比べると遥かに暖かい。そのため、多様な生物の姿が見られる。南極の真冬の気温は-20〜30℃だが、水温は0℃近くなので、温度差は2、30℃にもなる。季節変化のサイクルに応じてプランクトンが増減する。
南極海の上空では、南緯60度付近に亜寒帯低圧帯が形成される。一方、南極大陸上空では氷床によって空気が冷やされるために極高圧帯が形成され、ここから強烈な寒気が北の亜寒帯低圧帯に向かって吹き込む。さらに南極海には北半球と違ってこの風を和らげるような巨大な陸地が存在しないため、南極海北部は絶叫する60度と呼ばれるほどの猛烈な嵐に見舞われることが多い。なお、この寒気は南極海以北にも影響を与え、狂う50度や吠える40度と呼ばれる暴風圏を作り出す。
南極海には多数の氷山が浮遊している。南極海の氷山は南極大陸の棚氷が割れて海へと流れ出たものであるため、多くはテーブル型の平らな形をしており、巨大なものが多い。南極の氷山の北上する限界点は、ごくまれにある巨大すぎて溶け切れなかったものを除けば南緯60度前後であり、南極海とほぼ一致する。また、南極大陸に近づくにしたがって海そのものが凍り始め、南極大陸沿岸やウェッデル海は年間を通じて結氷したままである。
人類史上初めて南極海を周航したのは、ジェームズ・クックである。彼は1772年から1775年にかけての第2回航海で南極海を周航し、1773年1月17日にはヨーロッパ人としてはじめて南極圏に突入し、南緯71度10分まで達したが、南極大陸を発見することはできなかった。しかし彼の航海によって、伝説の南方大陸(テラ・アウストラリス、メガラニカ)は存在しないことが明らかとなった[2]。
名前について
南極海という言葉は、長年、南極周辺の海を指す非公式な名だったが、国際水路機関 (IHO) が2000年に正式に大洋と認定した。これは、近年の海洋学において海流の重要性が確認され、南極周回流によって一つに結ばれている海域を他の大洋から独立させることに科学的根拠が生まれたからである。IHOの決議では、加盟68国のうち28国が投票し、アルゼンチンを除く27国が新しい大洋の設定に賛成した。18国が Southern Ocean に投票し、別名の Antarctic Ocean を破ったので、前者に決まった。
地理
南緯55度までの範囲の面積は約375万km²で、最大深度約8200m、平均深度は約4000mである。
南極大陸の周りを囲んでいる。時計回りにロス海、アムンゼン海、ベリングスハウゼン海、スコシア海の一部、ウェッデル海、ラザレフ海、リーセルラルセン海、デービス海を含む。南太平洋、南大西洋、インド洋南部とつながっている。
資源
南極海は鉱物資源・動物資源の豊富さが注目されている。石油、天然ガス、漂砂鉱床、マンガン団塊などのほか骨材となる砂利が海底に眠っている。またイカ(ダイオウイカ、ダイオウホウズキイカなど)、魚(ショウワギス、ライギョダマシ、コオリウオなど)、アザラシ、クジラ、オキアミ(ナンキョクオキアミなど7種)、ペンギン(18種中8種)などの生物も多く生息する。
漁業
2012年現在、南極海における主な漁獲種類は、ナンキョクオキアミおよびマジェランアイナメ、ライギョダマシの3種である。このうち、マジェランアイナメ(かつては銀ムツと呼ばれた)とライギョダマシは近縁で、メロ類として統計では一括される。マジェランアイナメ・ライギョダマシは一時乱獲による資源の枯渇が心配され、漁獲制限が行われたが、現在は横ばいの状態にある。2009年から2010年にかけての漁獲高は16,133トンである[3]。ナンキョクオキアミは南極海にのみ生息するが、1種属としては世界最大のバイオマス量を持つとされ、南極海のキーストーン種となっている。現在の推定総資源量は1億トン以上、主漁場であるスコシア海域だけでも6030万トン(2010年)と推定され、2010年から2011年の漁獲高は179,132トンであり、増加傾向にはあるものの総資源量に影響を及ぼすには遠く及ばないため、現在の漁獲レベルにおいては枯渇の心配はそれほどないとされる。しかし、ナンキョクオキアミの資源量は大きな増減が認められ、また南極海の生物層に非常に重要な役割を果たしている種であるため、予防的に漁獲量の制限は設けられている[4]。ナンキョクオキアミの漁獲国としてはノルウェーが102,815トン(2010-2011年)で最大で半数以上を占めており、ついで韓国、日本と続く。
交通
南極海には人類の定住する地区が存在しないため、港も非常に少ない。各地の南極基地に港はあるものの、氷の溶ける夏季にしか使用できず、それも砕氷船を就航させなければならない。また港湾設備がないためはしけによる通船を余儀なくされる。唯一の例外は南極大陸沿岸のロス島にあるアメリカのマクマード基地であり、ここには1973年に港湾設備が建設され、以後は船がそのまま接岸できる世界最南の埠頭となっている[5]。この桟橋は氷によって建造され、氷の桟橋となっている。
オーストラリアが主張する海域
テンプレート:See also オーストラリアがIHO原案に反対しているため、海図上の南極海の範囲は公式には未確定である。IHO原案が南緯60度以南と定義しているのに対して、オーストラリアは自国領土のマクドナルド諸島(東経72°36′04″)とオーストラリア大陸最西端のテンプレート:仮リンクを結ぶ線、および、マッコーリー島(東経158° 51′)とタスマニア島南端のサウス・イースト岬を結ぶ線の範囲内で南緯60度以北からオーストラリア大陸までを南極海の範囲に含めるよう要求している[6]。
日本と南極海
テンプレート:See also 日本の場合、同海域およびその周辺海域で母船式の商業捕鯨が行われていた時代(1934年-1941年、1947年-1987年)には、南極観測もあいまって、一般の日本人の関心も深く、鯨、ペンギン、氷山などのイメージが広くあった。これは、当時の児童画などに上記のイメージの上で南極海が多く描かれたことなどでも窺える。しかし、商業捕鯨終了後はホエールウォッチングなどで、鯨の生息域といえば温暖な海域や、ベーリング海などの北半球の高緯度海域であるというイメージが強まり、南極海と鯨を結びつけるイメージは薄れた。加えて南極観測への関心も薄れ、南極海はかつてほど注目されていない。
ギャラリー
- Location Southern Ocean.svg
南極海
- Antarctica ice shelves.svg
南極海の主要な棚氷
関連項目
参考文献・注
- Matthias Tomczak and J. Stuart Godfrey. 2003. Regional Oceanography: an Introduction. (サイト参照)
外部リンク
- The Fifth Ocean (Geography.About.com)
テンプレート:Navbox with collapsible groups テンプレート:海 テンプレート:南極
テンプレート:Polar-stub- ↑ 「南極海 極限の海から」p47-50 永延幹男 集英社 2003年4月22日第1刷
- ↑ 「世界探検全史 下巻 道の発見者たち」p177 フェリペ・フェルナンデス-アルメスト著 関口篤訳 青土社 2009年10月15日第1刷発行
- ↑ 国際漁業資源の現況-平成23年度現況- 70 マジェランアイナメ・ライギョダマシ 南極海 独立行政法人水産総合研究センター
- ↑ http://kokushi.job.affrc.go.jp/H23/H23_69.html 国際漁業資源の現況-平成23年度現況- 69 ナンキョクオキアミ 南極海 独立行政法人水産総合研究センター]
- ↑ "Unique ice pier provides harbor for ships," Antarctic Sun. January 8, 2006; McMurdo Station, Antarctica.
- ↑ www.theage.com.au "Canberra all at sea over position of Southern Ocean" December 22, 2003