井上敏樹

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テンプレート:日本の脚本家 井上 敏樹(いのうえ としき、1959年11月28日 - )は日本脚本家埼玉県出身。特撮テレビドラマ作品やアニメ作品を多く手がけている。成蹊大学中退。父親は同じく脚本家の伊上勝(井上正喜)。

来歴

仮面の忍者赤影』『仮面ライダー』などの脚本で知られる伊上勝の子として生まれる。成蹊大学では幻想文学研究会に所属し、執筆した短編小説が東映動画の七條敬三プロデューサーの目に留まったことで、在学中の1981年に『Dr.スランプ アラレちゃん』第24話「アラレちゃん大変身!!」にてデビュー[1][2]。以降、アニメ作品を中心に脚本家として活動し、『ギャラクシーエンジェル』『』『DEATH NOTE』などでメインライターを務めている。

1985年に参加した『どきんちょ!ネムリン』を契機に父と同じく特撮作品にも本格的に関わるようになり、『鳥人戦隊ジェットマン』『超光戦士シャンゼリオン』などでシリーズ構成を経験した。両作では東映の白倉伸一郎(現・東映取締役)と出会っている。

2000年から展開された平成仮面ライダーシリーズでは『仮面ライダーアギト』『仮面ライダー龍騎』『仮面ライダー555』で多くの脚本を担当、親子二代で仮面ライダーシリーズに大きな影響を与える事になった。『アギト』は大半のエピソードを担当し、『555』に至っては全話50話を単独執筆という特撮界隈では異例の記録を残している。ちなみに父・伊上勝も『仮面の忍者 赤影』を全話(52話)執筆しており、この点でも親子2代で同じ記録を残している。三作品に関わっていた白倉がシリーズから離れた後も脚本参加を続け、『仮面ライダー響鬼』の後半や『仮面ライダーキバ』ではシリーズ構成に復帰している。2013年、『衝撃ゴウライガン!!』にメインライターとして起用された[3]

作風

特撮作品に関しては一般的な「完全無欠のヒーロー像」に懐疑的で、トラウマを抱えていたり、だらしない生活態度だったり、打算的だったりする者を主人公に、あるいは主人公周辺の重要人物に配する傾向がある。これらに限らず、登場人物には癖の強いキャラクターが多いと一般に評されている。井上自身は一般ドラマでは書けないような内容ができるから悪役のほうが好きだと述べており、悪には悪の美学があるべきであるとしている[2]。また現実とは違う世界を舞台に書きたいキャラクター、面白いキャラクターが書ければそれで良いというスタンスであり、ドラマに相応しい内容を自然と書いているだけでテーマ性などは意識していないとしている[2]

登場人物の破滅を描く際には、たとえその破滅が自業自得であったとしても、視聴者の共感を呼ぶ印象的な場面を用意するケースが多い[4]。シリアスな展開に加え、『鳥人戦隊ジェットマン』のトランザ、『シャンゼリオン』の黒岩省吾、『555』の草加雅人及び北崎など、自身の過剰な性格が災いし自業自得ではあるが壮絶な最期を遂げる者が多い(トランザと北崎はヒーローの攻撃で致命傷を受けたが死なずその後本来仲間であるはずの人物、黒岩に至っては子どもによって倒されるなど従来の「ヒーローが敵を倒す」という形式からは離脱している)。これについてはギリシャ神話イーカロスのような「滅びの美学」が英雄(ヒーロー)には必要という信念からであるという[5]

他に食事シーンが多いのも特徴で、平成仮面ライダーシリーズのように食品関係の関連商品が多い作品では顕著に表れている。小学校時代に読んだ『アルセーヌ・ルパンシリーズ』やアガサ・クリスティの小説などの影響から、ミステリータッチの話を書くことも多い[2]。音楽を嗜むキャラクターを登場させたり、音楽が重要な役割を果たすストーリーを書くことも多いが、井上自身は音楽が好きなわけではなく、ムードを高めるためとしている[2]

職域の徹底

脚本が映像化の過程で変更・改変されるのを嫌う作家も多い中、井上は「シナリオは映像のための設計図に過ぎない」を持論[6]としており、脚本ではそのシーンの大意を示すにとどめ、台詞の解釈(そこに込められた登場人物の感情の機微など)などの詳細は演出家や俳優・声優に委ねるという執筆スタイルを採る[7]。これには、脚本家という役割において作り上げたシナリオを、演出家と俳優・声優の手で完成させるばかりか、自身の想像を超えた映像になるのを望んでのことであるという[8]。このため、演技、演出する側にとっては「何を仕掛けてくるのか、読めば読むほど挑戦的」(『H〜i! Jack!』記者発表での佐藤健光の発言より[9])と言える。

脚本執筆の前段階であるプロットや箱書きの完成度を重視する。鈴木武幸(のち東映専務取締役)は『超新星フラッシュマン』で初めて井上と仕事をすることになった時、初稿の完成度の高さに驚いたとインタビュー[10]で答えている。そうした丁寧な仕事ぶりの一方、締め切りを厳守する速筆ぶりでも有名で、作品の制作スケジュールが遅れた際に「助っ人」として呼ばれることがしばしばある[11]

人物

エピソード

  • 豪快な人柄で知られており、その手のエピソードには事欠かない。井上自身は豪快と評されることについて、周りが話を大きくして勝手にイメージを作っているだけとしている[2]
    • 伊藤和典の推薦で金子修介監督作品『みんなあげちゃう』の脚本に起用されたが、最初の打ち合わせで日活の重役につっかかって喧嘩になった[12]
    • 『鳥人戦隊ジェットマン』では若年ながら戦隊シリーズのシリーズ構成に抜擢される一方、テレビ局側のプロデューサーから(経験不足などではなく)「態度がでかい」という理由で反対されている[13]。しかし東映の鈴木武幸プロデューサー(当時)が「飲んで話せば悪い奴じゃないから」と間に入って事なきを得たという[14]
    • 『鳥人戦隊ジェットマン』で演技に悩んでいた若松俊秀に、「俺は1年間通して考えて書いている。俺の書いた(結城)凱をベースにやればいい」とアドバイス。吹っ切れた若松は『スーパー戦隊』史上に残る名演を見せた[15]
    • 『シャンゼリオン』で第2話タイトルを暁の人物像を出したタイトルにするか、シャンゼリオンの造型を示すタイトルにするかで意見が対立していたが、無理やり「ノーテンキラキラ」(シナリオのタイトルは「戦士はノーテンキ」)にまとめてしまった[16]
    • 仮面ライダーカブト』には第11話から参加したが、プロデューサーの白倉伸一郎・武部直美、メインライターの米村正二は共に井上と仕事をした経験があり、主人公・天道総司のキャラクターを造形する過程で、図らずも性格設定の一部に井上の人となりが投影される結果になった。明確なモデルではないものの、米村は井上に了解を取ったという[17]
    • 仮面ライダーディケイド』の主人公・門矢士の「だいたいわかった」という口癖も、井上の口癖から採られたものである[18]
    • マッドハウスの社内は全面禁煙だが、井上の周囲のみ喫煙可能』という伝説を持っている[19]

交友

  • 父親の伊上勝との関係については「著名な脚本家の息子」という認識はなかったと語っており、仮面ライダー関連の商品を東映スタッフからの土産物として貰ってきてくれた時に『仮面ライダー』の関係者が父親だという事を実感したという[5]
  • 脚本家の小山高生は『Dr.スランプ アラレちゃん』の時に初めて仕事したとき生意気な奴と評したが、しかしその生意気さがなければただのつまらない中年男でしかないと高く評価している[20]
  • 伊上勝の実子であり、また小山高生門下の脚本家との協業が多いせいか、両者が脚本家としての実質的な師匠と見られることがあるが、井上自身は「雪室俊一さんの系譜の上にいる」と語っている[19]
  • ボンズ南雅彦とは仲が深く、會川昇から井上を『鋼の錬金術師』のライター陣に加えるよう提案された際、「俺が井上さんと一晩飲めば何とかなるだろう」と答えている[21]

作品

テレビアニメ

シリーズ構成

その他

OVA

特撮作品

シリーズ構成・メインライター

※「シリーズ構成」と「メインライター」の違いについては記事「八手三郎」を参照。

その他

その他テレビドラマ

映画

戯曲

ゲーム

脚本以外の執筆作品

小説

テレビドラマのノベライズは全て自身が関わった物。

  • 超時空要塞マクロス TV版 上・中・下(小学館文庫 1983年、小学館スーパークエスト文庫として復刊)
  • 超時空世紀オーガス TV版 上・下(小学館文庫 1984年、小学館スーパークエスト文庫として復刊)
  • ジェットマン VOL.1〜3(小学館スーパークエスト文庫、1992年
  • 仮面ライダー555 正伝 ―異形の花々―(講談社2004年
  • アルテミス・コード (メガミ文庫2008年) - 原作のみ。執筆は古怒田健志
  • 美少女戦隊デュエルーゼ (メガミ文庫、2008年) - 原作のみ。執筆は平林佐和子。
  • 美少女戦隊デュエルーゼ スカーレット・ソルジャー・ソリテュード (メガミ文庫、2009年) - 原作のみ。執筆は平林佐和子
  • 仮面ライダー龍騎(講談社、2013年
  • 仮面ライダー555(講談社、2013年) - 基本的には『異形の花々』の再録だが、新たにエピローグが加筆されている。
  • 仮面ライダーアギト(講談社、2013年) - 監修のみ。執筆は岡村直宏。
  • 仮面ライダーキバ(講談社、2013年) - 監修のみ。執筆は古怒田健志。
  • 仮面ライダーディケイド(講談社、2013年) - 監修のみ。執筆は鐘弘亜樹。
  • 海の底のピアノ(朝日新聞出版、2014年)

漫画原作

作詞

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

テンプレート:Reflist
  1. インタビューでは同年に制作された映画版である「Dr.スランプ アラレちゃん ハロー!不思議島」と述べている
  2. 2.0 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 テンプレート:Cite book
  3. http://animeanime.jp/article/2013/08/13/15168.html
  4. 『仮面ライダー龍騎』第44話の佐野満、『仮面ライダー555』第48話の草加雅人、『仮面ライダー剣』第19話の桐生豪。
  5. 5.0 5.1 平成ライダー研究読本『語れ!平成仮面ライダー (ベストムックシリーズ・32)』
  6. (脚本家の共通認識ではあるが)『仮面ライダー555正伝 異形の花々』(講談社 2004年8月)あとがきより。『ギャラクシーエンジェル エンジェル隊お仕事ファイル2』(メディアワークス 2002年2月)のインタビューでも「アニメは監督のもの。脚本家は脚本を書くだけ。シナリオ以外にはあまりこだわりはない」と語っている。
  7. 例えば『ギャラクシーエンジェル』第1期第24話「闇鍋お笑いペッパー」では寡黙なヴァニラ・Hを笑わせるべくお笑い芸人が奮闘する場面があるが、井上は『GALAXY ANGEL RECIPE BOOK』(徳間書店 2002年12月)のインタビューにて「シナリオでは“笑いの絨毯爆撃”とか書いただけ。芸人の部分は演出だよ」と明かしている。
  8. 劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト』公開時にテレビ朝日の『555』公式サイトのインタビューでの「脚本家にとって、キャラクターの自立は一番嬉しいことだが、そのためには演出や役者の力が必要。僕が関われる部分では、責任を持って全てのキャラクターを描いていく」という発言はこのことを端的に示している
  9. 東映ヒーローネット・レギュラーアーカイブ「レギュラー・ヒーロー秘宝館 ワンダールーム」記事『松田悟志さんが、天野さん村上さん、原田さん、窪寺さんらヒーロー俳優とも初挑戦!!』より
  10. 「東映ヒーロー偉人伝」第1回 『東映ヒーローMAX』Vol.1(辰巳出版 2002年5月)
  11. 劇場版『仮面ライダー響鬼』の脚本は2 - 3日で完成させたという(角川書店刊「仮面ライダー響鬼」ムック)。
  12. Shusuke Kaneko Information Website
  13. シャンゼリオン・メモリアル(東映公式)
  14. シャンゼリオン・メモリアル
  15. 『東映ヒーローMAX』Vol.6(辰巳出版 2003年8月)
  16. 「脚本表紙ギャラリー」コメント『シャンゼリオン・メモリアル』
  17. 「お前は井上だよ!」『仮面ライダーカブト』東映公式サイト 2006年4月30日付
  18. 特撮ニュータイプ2009年7月号
  19. 19.0 19.1 のら犬兄弟のギョーカイ時事放談』2009年4月2・9日放送分にて
  20. 月刊ドラマ1月号■エッセイ井上敏樹 だからアニメ脚本はやめられない(31)「プロの脚本家志望のあなたのために」 『ダーティペア』、平成『仮面ライダー』シリーズの脚本家の忌憚のないメッセージ
  21. 「寒中お見舞い特別対談Part2 脚本家篇 井上敏樹×會川昇」 『アニメージュ』2007年3月号