西鉄8000形電車
西鉄8000形電車(にしてつ8000けいでんしゃ)は、1989年(平成元年)3月10日に営業運転を開始した西日本鉄道(西鉄)天神大牟田線用の特急形車両。
目次
製造の背景
大牟田線(当時)の西鉄特急には、1973年(昭和48年)以来2000形が使用されていたが、1987年(昭和62年)に実施された国鉄分割民営化により九州旅客鉄道(JR九州)が発足し、大牟田線と並行する鹿児島本線の列車増発や新駅設置など積極的な営業政策が進められたため、西鉄としては競争力の強化が課題となっていた。また、福岡市では1989年3月からアジア太平洋博覧会を開催することが決定しており、これを機会として製造から15年が経過した2000形に代わる新形式特急形車両が製造されることとなった。
西鉄の歴代特急車、初代1000形、2代目2000形に対して3代目である本形が8000形と命名されたのは、登場前年の1988年(昭和63年)が前身の九州電気軌道時代を含む西鉄創業80周年だったことに由来する。
6両編成6本(36両)が製造された。1989年2月に8011F・8021F・8031F(F=編成)が落成し、続いて8041F・8051F・8061Fが同年4月に落成した。
構造
車体
普通鋼製車体で、両端に両開き式の乗降扉を設けた片側2扉構造である。本形式では2000形と異なり、先頭車前部が前面展望を考慮した設計となっており、前面運転室と乗降扉の間に眺望性を良くした区画を設けている。
前面は「く」の字形に傾斜させた非貫通形とし、前面窓は左右対称の大形曲面ガラスとして視界を確保している。前面下部に丸型の前照灯・尾灯を配置し、前面上部の窓の内側と側面中央上部に種別・行先表示器を設けている。前面運転室と乗降扉の間の窓は高さ1,050mm×幅2,660mmの大形固定窓となっており、他の窓に比べ高さ・幅ともに大きく、当時の鉄道車両としては最大級である。他の窓も2列ごとの固定窓としており2000形に比べ眺望性が向上している。なお扉寄りの窓1枚はどの位置でも止められるバランサ付きの1枚下降窓となっている。また、先頭車の運転台側の扉は後方にオフセットされている。
車体塗装は白色(ケープアイボリー)地に窓周りと車体裾が深みのある赤色(カーディナルレッド)としている。
台車・機器
台車・機器は5000形とほぼ同一で、台車は、西鉄初の車体連結のダイヤフラム型空気バネを採用し、軸箱支持は円筒ゴム軸箱支持方式としたKW-60A形(電動車)およびKW-61A形(制御車)が採用されている。
ブレーキは西鉄初の発電制動併用電気指令式電磁直通空気制動が採用されている。
制御方式は旧来の抵抗制御としている。導入時には抵抗制御に代わる制御方式の導入が検討されたが、結局見送られた[1]。主な理由としては以下の点が挙げられる。
- 当時他社局で採用されつつあったチョッパ制御や界磁添加励磁制御はVVVFインバータ制御へ移行するまでの一過性のものに過ぎない。
- 当時VVVFインバータ制御はまだ技術の革新途上にあり、制御装置の価格自体もきわめて高価である。
- 停車駅の少ない特急運用が主体であり回生ブレーキの使用効果が薄い。
車両別の設置機器については下記「編成」を参照。
運転室
全室式。2000形と異なり、一般的な左側配置の運転席となった(右側には方向幕設定機が埋め込まれている)。運転装置は西鉄初のT型ワンハンドルマスコンとしている。また、221系の運転席に似たモニタ装置も設置された。
警笛は従来の空気式のもののほか、電子式の警笛も併設された。本形式以降の西鉄の新形式車両はいずれも空気式と電子式の警笛を併設している。
車内設備
特急形車両ではあるが、通勤通学利用も考慮した設計である。乗降扉間の座席は900mm間隔で配置されたバケット式でワインレッドのチェック柄モケットを張った転換クロスシートとなっているが、乗降扉寄りの座席は固定式で、車端部連結面寄りの座席は青色モケットのロングシートとしている。カーテンは横引き式とし、開閉可能な窓の部分にはロールアップカーテン(上から引き出すカーテン)も設けている。連結面寄りの扉周りとロングシート部分には三角形のつり革を設置している。
冷房装置は天井形集中分散式になっており、ラインデリアによる冷風撹拌として車内温度の均一化を図っている。2001年から天神大牟田線で弱冷房車が導入されたことにより、本形式では下り寄り先頭車(番号末尾1)の冷房が弱冷房に設定されており、当該車両には弱冷房車を示すステッカーが貼付された。
大牟田寄りから3両目の車両(番号末尾3)連結部付近にはカード式の公衆電話を設けた。電話周囲は防音のため客室との間に仕切りが設けられており、この関係で定員が2名(座席1名)少なくなっている。通話料金が高額なこともあり、設置当初から利用者が少なく電光案内装置などで宣伝をしたが[2]その後の携帯電話の普及もあり、電話は2000年(平成12年)4月から2001年(平成13年)11月にかけて施工された重要部検査の際に順次撤去された。
落成後間もなく、車内の貫通路上部と運転室出入口上部にLED式の情報案内装置を設置した。この案内装置は次停車駅のほか営業案内も表示する。また自動車内放送装置も設置されている。営業運転開始時には車内放送用チャイムとして、地元ゆかりの民謡や童謡、あるいは福岡県出身もしくは福岡県にゆかりのある歌手の楽曲をオルゴール調にアレンジしたものを各駅到着前に流していたが、その後標準的なチャイムのみに変更された(JASRACに対する著作権料の支払いがネックだったとの説がある)後、チャイム自体がオルゴールに変更された。2012年3月24日改正前まで使用されていたチャイムは、発車前・発車後の案内については長崎電気軌道の始発業務放送に使われているもの、到着前のチャイムは京阪特急で使われていたものを、それぞれ短くしたものであった。なお、車内チャイムに使われた曲は後述する。
編成
編成は以下のようになっている。
テンプレート:TrainDirection | |||||
8011 | 8012 | 8013 | 8014 | 8015 | 8016 |
8021 | 8022 | 8023 | 8024 | 8025 | 8026 |
8031 | 8032 | 8033 | 8034 | 8035 | 8036 |
8041 | 8042 | 8043 | 8044 | 8045 | 8046 |
8051 | 8052 | 8053 | 8054 | 8055 | 8056 |
8061 | 8062 | 8063 | 8064 | 8065 | 8066 |
両端2両が制御車(ク8000形)、中間4両が電動車(モ8000形)のMT比4M2T編成となっている。
現況
運用
本形式は特急用として転換クロスシート主体の座席構造を有し、編成は6両固定、また乗降用扉は片側2か所であることから、通勤ラッシュ時の輸送には不向きな構造である。そのため、平日朝夕の混雑時間帯は太宰府線や天神大牟田線の普通列車など、比較的混雑度の低い列車の運用に就いており、その時間帯はロングシートの5000形などの他形式が特急運用に充当される。日中の特急運用は一部列車を除きすべて当形式が使用されているが、一日に「旅人」編成を除いた5編成全てを運用するため、検査や故障などで工場に入場している編成がある場合は主に5000形が特急に使用される。2010年10月に2000形が引退するまでは、主に2000形が特急に使用されていた。正月やゴールデンウィークの多客期は混雑緩和のため8000形に代わり3000形や5000形、6000形・6050形の7両編成が終日特急運用に入ることがある。
また、特急運用との関係で、極わずかであるが急行列車にも充当される。
車両整備
本形式は特急運用主体のため他形式より走行距離が長いことから、西鉄の車両の中では唯一重要部検査サイクルの「60万km以内」に該当している。そのため、平均検査周期は前回の検査出場から2年5か月から2年10か月の範囲で入場している。8年周期の全般検査では次回の全般検査までの間に2回重要部検査を受けていることになる。また、車体の検査票はかつては白地に白文字表記だったが、2002年(平成14年)7月から2004年(平成16年)4月にかけて実施された全般検査の際、順次赤地に白文字表記へ改められた。
ラッピング
2003年6月の8011編成での『ウルトラマン号』、2004年12月の映画『ポーラー・エクスプレス』とのタイアップ、2007年3月の福岡ソフトバンクホークスなど、時々キャンペーンなどに伴うラッピングが施されている。
2007年1月末には、8061編成が純真短期大学のフルラッピング編成とされており2009年7月の検査入場まで続けられた。原塗装を完全に覆い隠す(ただし、連結面はラッピング塗装なし)フルラッピングは今回が初めてである。
2009年3月27日から、8021編成が福岡ソフトバンクホークスのラッピング編成とされている。
2008年6月2日から西鉄創立100周年記念企画の一環として、8011編成が100周年記念ラッピング電車として同年12月31日まで運行された。
2008年9月11日より2009年1月10日まで、8031編成がCoca Colaラッピングとして運用されていた。フルラッピングではなくnimocaラッピングの8041編成と同様に客用扉周りのみのラッピングである。ただし8041編成にある前頭部のラッピングはない。
このほか一時期毎年人権週間にあわせたラッピングがされていたが、これは両先頭車のみで、側面にカラフルな鳥の絵柄とシールタイプのヘッドマークだけのシンプルなものとされていた。
車内チャイムに使われた曲
現在は全駅統一された車内チャイムを使用しているが、かつては以下のような駅別に異なったチャイムを使用していた。
- 西鉄福岡、薬院
- 『黒田節』※西鉄福岡のみ→『わたしの城下町』(小柳ルミ子)→『乾杯』(長渕剛)
- 西鉄二日市
- 『通りゃんせ』→『贈る言葉』(海援隊)→『SAY YES』(CHAGE and ASKA)
- 西鉄久留米
- 『久留米そろばん踊り』→『赤いスイートピー』(松田聖子)→『涙のリクエスト』(チェッカーズ)
- 西鉄柳川
- 『からたちの花』(作詞:北原白秋、作曲:山田耕筰)→『輝きながら…』(徳永英明)
- 新栄町、大牟田
- 『炭坑節』→『夢の中へ』(井上陽水)→『少年時代』(井上陽水)
観光列車「旅人」
8051編成は2014年に太宰府観光活性化を目的として約3500万円をかけて観光列車「旅人(たびと)」に改造された。改造内容として、
- 外部塗装は淡いピンク色の麻の葉文様地に太宰府の様々な風物のイラストの組み合わせに変更。
- 車内の化粧板を各車ごとに異なる和文様柄に変更。
- 両端の先頭車の最前部(運転台と運転台後部の扉の間)にある座席のモケットをダークブラウン地の梅模様の柄に張り替え。
- 8053の座席の一部を撤去し、太宰府の土産物などを展示するカウンター、観光リーフレット・チラシ用ラック、記念スタンプ台を設置。
などが実施されている。
「旅人」の愛称は、奈良時代に大宰帥として大宰府で多くの和歌を詠んだとされる歌人・大伴旅人にちなんでおり、第39代太宰府天満宮宮司の西高辻信良により命名された。
2014年3月22日のダイヤ改正で運行を開始。9時台始発の福岡(天神)発太宰府行き下り急行の運用に就いたあと、普通列車として夕ラッシュ時前まで太宰府線を往復する。
参考文献
- 『鉄道DATA FILE』FILE 2-170 (デアゴスティーニ・ジャパン)
- 『鉄道ピクトリアル』1989年9月・1999年4月臨時増刊号(電気車研究会)
- 『鉄道ダイヤ情報』2004年2月号(交通新聞社)
脚注・出典元
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Cite news90年当時、通話料は当時の自動車電話などと同じ料金体系で午前8時から午後7時までの場合だと、市内通話でも3分間280円かかった。