グローバリゼーション
グローバリゼーション(テンプレート:Lang-en-short)とは、社会的あるいは経済的な関連が、旧来の国家や地域などの境界を越えて、地球規模に拡大して様々な変化を引き起こす現象である[1][2]。グローバル化ともいう。
「グローバリゼーション」という言葉は、様々な社会的、文化的、経済的活動において用いられる。使われる文脈によって、例えば世界の異なる地域での産業を構成する要素間の関係が増えている事態(産業の地球規模化)など、世界の異なる部分間の緊密な繋がり(世界の地球規模化)を意味する場合もある。
異義語
「グローバル」と「インターナショナル」、「グローバリゼーション」と「インターナショナリゼーション(国際化)」という語は、意味する範囲が異なる。「インターナショナリゼーション」は「国家間」で生じる現象であるのに対して、「グローバリゼーション」は「地球規模」で生じるものであり、国境の存在の有無という点で区別される。
具体的に言えば、世界地図を見て国境を意識しながら国家間の問題を考えれば、「インターナショナル」な問題を考えている事になる。対して、地球儀を見ながら地球全体の問題を考えれば「グローバル」な問題を考えている事になる。即ち、「グローバリゼーション」の方が「インターナショナリゼーション」よりも範囲は広くなる。
訳語
大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所の「外来語」言い換え提案では「地球規模化」を挙げている。「グローバリゼーション」「グローバル化」といった言葉も使われている。中国語では、「全球化」と訳される。
歴史
世界史的に見れば、何らかの現象の「グローバリゼーション」は、大航海時代に起源を発する。大航海時代により、ヨーロッパ諸国が植民地を世界各地に作り始め、これによりヨーロッパの政治体制や経済体制の「グローバリゼーション」が始まり、物流の「グローバリゼーション」が起こった。これが本格化し始めた時期は19世紀で、ナポレオン戦争による国民国家の形成や、産業革命による資本主義の勃興が、近代の「グローバリゼーション」を引き起こした。
第二次世界大戦が終わると、アメリカ合衆国を筆頭に冷戦の西側諸国で多国籍企業が急成長し、現代の「グローバリゼーション」が始まった。
1970年代から「グローバリゼーション」という語は使われるようになったが、より一層広まった時期は、アメリカ合衆国が湾岸戦争に勝利し、ソビエト連邦が崩壊したことにより、アメリカ合衆国の単独覇権が確立された1991年以後である。
ソビエト連邦が崩壊すると、経済面では、「運輸と通信技術の爆発的な発展や、冷戦終結後の自由貿易圏の拡大によって、文化と経済の枠に囚われない貿易が促進する事態」も指すようになった。グローバリゼーションの負の現象、例えば工業や農業といった産業が世界規模での競争(メガコンペティション)や、多国籍企業による搾取の強化と、それに伴う国内産業の衰退とプレカリアートの世界的増大という事態を指す場合もある。そのため、否定的な語として用いられる例も多くなった。
1991年以後、グローバリゼーションの負の現象を非難する人々は、主要国首脳会議の開催地などで反グローバリゼーションを訴えている。
2010年代に入る前後からは、かつてコスト削減や利益を増やすために中国企業に積極的にノウハウを教えた日本の企業が、逆に中国企業に買収される動きも出ている[3]。
徴候
グローバリゼーションの傾向が認められる現象は多くあるが、現代の「グローバリゼーション」では、
の3つの流れがある。これらの現象には、ヒト・モノ・カネと情報の国際的な流動化が含まれる。また科学技術、組織、法体系、インフラストラクチャーの発展がこの流動化を促すのに貢献した。一方で、様々な社会問題が国家の枠を超越し、一国では解決できなくなりつつある。より明確にいうと、地球規模化が認められるものには、
- 世界経済の融合と連携深化。
- 異文化交流の機会増加。
- 増大する国際的な文化の交換。文化の同化、融合、欧米化、アメリカ化(アメリカナイゼーション)、日本化及び中華化を通じての文化差異の減少。
- 増加する海外旅行、観光。
- 不法入国者・不法滞在者を含んだ移住者の増加。
- 政治主体の一元化
- 世界貿易機関(WTO)などの組織への国際的取り決めを通じての国家支配権と国境(の重要さ)の衰退。
- 国民国家の枠組みにとらわれないNGOなどの組織拡大。
- WTO、WIPO、IMFなどの国際的組織の役割の増大。
- 経済的格差の世界化
- 社会問題の世界化
などが挙げられるが、すべての項目に地球規模化が認められるかどうかについては議論の余地がある。
経済学者のダニ・ロドリックは著書『グローバリゼーション・パラドクス』で、グローバル化の今後の選択肢として、
- 民主主義を犠牲にしてでもグローバル化を進める
- グローバル化を進めるとともに政治統合を推進させ、グローバル民主主義を実現させる
- 各国の政策的自律性を保証し、国家レベルでも民主主義を維持する代わりに、グローバル化に一定の制限を加える
という三つの道があると指摘している[4]。
議論
グローバリゼーションの進展については、肯定的に推進しようとする意見もある一方で、批判的意見もあり、様々な立場から撤廃しようとする意見が提示されている(反グローバリゼーション・脱グローバリゼーション)。様々な分野においてその功罪につき議論されている。
経済学者の竹中平蔵は「グローバル化の進展で起きることは、財政制度・金融制度などの制度の競争である。制度の均一化が起きてくることが、グローバリゼーションである」と指摘している[5]。また竹中は「グローバリゼーションという流れの中で、人の移動は活発となっているが、実際問題として普通の人が国境を越えて移動することは容易ではない。重要なのは、普通の人が国内でも所得価値を生み出せる仕組みをつくることである」と指摘している[6]。
国際政治学者のサミュエル・P・ハンティントンは著書『文明の衝突』で、世界がグローバル化していくと最終的にイデオロギーの対立はなくなるが、東西の対立(東洋の文明と西洋の文明の対立)が浮き彫りになってくると指摘していた[7]。
経済学者のタイラー・コーエンは著書『創造的破壊』で「グローバル化によって文化の多様性が失われる」という通説について、社会間の多様性は減少する可能性もあるが、個々の社会の中ではむしろ多様性は促進されるとしている[8]。
経済学者のジョセフ・E・スティグリッツは、グローバリゼーションそれ自体は評価しつつ、そのプロセスは正しい政策の組み合わせ・順序を踏まえるべきとしている[9]。
経済学者のポール・クルーグマンは主に覇権国家や多国籍企業の利益追求を肯定・促進する(新自由主義)ために広められるドグマの一種であるとしているテンプレート:要出典。ただし、クルーグマンはグローバリゼーションそのものに反対しているわけではない[10]。
肯定的見解
- 国際的分業(特化)が進展し、最適の国・場所において生産活動が行われるため、より効率的な、低コストでの生産が可能となり、物の価格が低下して社会が豊かになる(比較優位)。
- 投資活動においても、多くの選択肢から最も良いものを選択することができ、各企業・個人のニーズに応じた効率的な投資が可能となる。
- 全世界の様々な物資、人材、知識、技術が交換・流通されるため、科学や技術、文化などがより発展する可能性がある。また、各個人がそれを享受する可能性がある。
- 各個人がより幅広い自由(居住場所、労働場所、職種などの決定や観光旅行、映画鑑賞などの娯楽活動に至るまで)を得る可能性がある。
- 密接に各国が結びつくことによって、戦争が抑制される可能性がある。
- 環境問題や不況・貧困・金融危機などの大きな経済上の問題、人権問題などの解決には、国際的な取り組みが必要でありこれらに対する関心を高め、各国の協力、問題の解決を促す可能性がある。
批判的見解
- 安い輸入品の増加や多国籍企業の進出などで競争が激化すると、競争に負けた国内産業は衰退し、労働者の賃金の低下や失業がもたらされる。
- 投機資金の短期間での流入・流出によって、為替市場や株式市場が混乱し、経済に悪影響を与える。
- 他国・他地域の企業の進出や、投資家による投資によって、国内・地域内で得られた利益が他地域・国外へと流出する。
- 従来は特定地域に留まっていたテロリズムや武力紛争が全世界化し、各地域の安全が脅かされる。
- 多国籍企業の進出や人的交流の活発化によって、生活と文化が世界規模で均質化し、地域固有の産業や文化が消滅する。
- 地域間競争の活発化によって、投資・経済活動の巨大都市(世界都市)への集中が進み、農山村や中小都市が切り捨てられ衰退する。
- 多国籍企業の影響力増大によって、各国の国家主権や地方自治が破壊される。
- 投資家やエリート官僚が政治を牛耳るようになり、各国・各地域の民主主義はグローバルな寡頭制に置き換えられる恐れがある。
- 厳しい競争の中で企業を誘致したり国内産業を育成しようとするため、労働環境は悪化し、環境基準が緩められ、社会福祉が切り捨てられるようになる(底辺への競争)。
日本
森永卓郎は「日本人がグローバル化と言う場合、それは間違いなくアメリカ化という意味である。アメリカが世界標準であると言う根拠はどこにもなく、当のアメリカだけが、自分たちのことを世界であると思い込んでいる」と指摘している[11]。また森永は「日本にとって本当のグローバル化とは、アメリカを相対化することであり、アメリカを追従せず、アメリカ化を拒絶することが本当の意味でのグローバル化である」と指摘している[12]。
脚注
参考文献
- Manfred B. Steger (2003), Globalization: A Very Short Introduction, Oxford University Press.(マンフレッド・B・スティーガー/櫻井公人・櫻井純理・高嶋正晴[訳](2005)『グローバリゼーション』岩波書店。
- 正村俊之(2009)『グローバリゼーション:現代はいかなる時代なのか』有斐閣。
- ポール・クルーグマン 『グローバル経済を動かす愚かな人々』 三上義一訳、早川書房、1999年。
- ジョセフ・E・スティグリッツ 『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』 楡井浩一訳、徳間書店、2006年。
関連項目
- グローバル化の陥穽
- グローバル資本主義
- グローバリズム
- 反グローバリゼーション
- ディグローバリゼーション
- 世界の一体化
- ウィンブルドン現象
- グローバル都市
- アルテルモンディアリスム
- 共産主義
- 国際主義
- インターナショナル
- 第四インターナショナル
- 一極体制
- アメリカナイゼーション
- 新保守主義 (アメリカ合衆国)
- 日米社会20年遅延説
- 中国化
- 国際関係論
外部リンク
テンプレート:Link GA- ↑ 『知恵蔵2007』朝日新聞出版
- ↑ 『広辞苑第六版』岩波書店
- ↑ 「真相報道バンキシャ」2010-5-2放送分 日本テレビ
- ↑ 日本経済新聞社編 『経済学の巨人 危機と闘う-達人が読み解く先人の知恵』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2012年、81-82頁。
- ↑ 竹中平蔵 『竹中教授のみんなの経済学』 幻冬舎、2000年、218頁。
- ↑ 竹中平蔵 『竹中教授のみんなの経済学』 幻冬舎、2000年、87頁。
- ↑ 佐藤雅彦・竹中平蔵 『経済ってそういうことだったのか会議』 日本経済新聞社学〈日経ビジネス人文庫〉、2002年、214-2155頁。
- ↑ 若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、34頁。
- ↑ 田中秀臣・野口旭・若田部昌澄編 『エコノミスト・ミシュラン』 太田出版、2003年、201頁。
- ↑ ポール・クルーグマン 『グローバル経済を動かす愚かな人々』テンプレート:要ページ番号
- ↑ 森永卓郎 『「騙されない!」ための経済学 モリタク流・経済ニュースのウラ読み術』 PHP研究所〈PHPビジネス新書〉、2008年、169-170頁。
- ↑ 森永卓郎 『「騙されない!」ための経済学 モリタク流・経済ニュースのウラ読み術』 PHP研究所〈PHPビジネス新書〉、2008年、171頁。