貿易

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貿易(ぼうえき)とは、ある(またはそれに準ずる地域)と別の国(同)との間で行なわれる商品の売買のことをいう。

商品を外国に対して送り出す取引を輸出、外国から導入する取引を輸入という。

通常は、形のある商品(財貨)の取引を指すが、無形物の取引を含める場合もある(例:サービス貿易、技術貿易)。

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貿易の形態

直接貿易・間接貿易
直接貿易(直貿)とは、海外の輸入者、輸出者と直接貿易をすることをいい、間接貿易(間貿)とは商社などの仲介者を経由して貿易を行うことをいう。
順委託加工貿易
外国から原料、材料等を輸入しそれを国内で加工し製品として輸出する貿易。
逆委託加工貿易
外国に原材料とデザインやそれにまつわる資金等を提供して加工させ、加工された製品を輸入する方式。
中継貿易
A国からの貨物を、C国に輸入・加工し、B国に再輸出する貿易。
仲介貿易
A国からB国への輸出取引について、C国の商社が仲介する貿易取引。中継貿易と異なり、C国には通関行為がない。
企業内貿易
多国籍企業のA国の拠点からB国の拠点に向けて輸出が行われること。取引価格は企業内で決められるため、節税の目的で恣意的に価格を操作することによる移転価格の問題が起こる可能性がある。
求償貿易
輸入代金を通貨で支払うのではなく、等価値の貨物を輸出することで相殺する物々交換バーター貿易。冷戦時代、ソ連を中心とした社会主義ブロックで盛んに行われた。
サービス貿易
輸送・旅行・通信・建設・金融・保険・特許権使用料など、モノの動きではなく、サービスの提供によるカネの支払いまたは受け取りのこと。日本の旅行者が海外でホテル代を支払えばサービスの輸入、外国人旅行者が日本でホテル代を支払えばサービスの輸出となる。貿易統計ではなく国際収支統計で把握される。
技術貿易
国際的な技術提供契約によるカネの動きをいう。サービス貿易の一種。
個人輸入
消費者が、海外のカタログ販売業者などから国際郵便小包等で商品を直接取り寄せること。円高にもかかわらず円高差益があまり還元されなかった1980年代後半にブームとなる。
国境貿易
人の自由な移動が制限されている国家間において、ハンドキャリーで運ばれた商品を国境付近で取引すること。中越国境、中国・ロシア・北朝鮮国境のものが有名。
密輸
輸出入が禁止されている貨物を違法に取引すること。麻薬拳銃宝石ワシントン条約が規制する動植物などが主な密輸の品目となっている。

貿易の特徴(国内取引との相違点)

  • 通関制度、関税の賦課など、国家が介入する度合いが高い。この結果、関税などの直接的なコストのほか、通関書類などの作成にかかる間接コストも高い。
  • 取引相手が遠方にいるため、支払い、商品の納品を確実にすることが困難。このため、信用状D/PD/Aなどの特殊な決済方法が発達している。
  • 多くの場合、言葉が違う相手との取引となる。このため、国際的に通用する専門用語(インコタームズ等)が普及している。さらに、言葉に加え、取引相手との商習慣、文化の違いによるトラブルも多いほか、適用される法律(裁判管轄地)が異なるため、トラブルが起こると解決が難しい
  • 通貨の異なる相手との取引となることが多いため、為替レート変動によるリスクがある。
  • 遠距離の輸送となるため、運賃が上乗せコストとなるほか、商品が海上事故などに被災するリスクが高いため、保険料もコストとなる。

このように、国内取引と比べてコスト増要因となる点が多いが、国内に存在しない希少価値のある商品を輸入すれば(あるいは、その商品が希少価値を持つ市場に輸出すれば)貿易にかかるコストを上回る利益が得られる可能性があり、その場合に貿易が行われることになる。

貿易に関する論点

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貿易による価格変動

たとえば小麦があまり取れない(ので小麦の価格が高い)国Aが、 小麦が多く取れる(ので小麦の価格が安い)国Bから小麦を輸入する場合を考える。

A国では輸入により、小麦が以前よりも多く出回る事になるので、小麦の価格は下がる。 一方B国では輸出により小麦の量が減るので、小麦の価格は上がる。 しかしA国での小麦の価格とB国での小麦の価格が逆転する事はない。 B国のほうが小麦が安いからこそ輸出で利益を得られるのであるから、 価格が逆転する前に輸出が止まる為である。 (なお自由貿易で、かつ関税や輸出入のコストが無視できるほど小さければ、 輸出入により両国での小麦の価格が一致する。)

貿易の利益

貿易は(完全競争の下では)それに関わった双方の国に利益(総余剰)をもたらす事が知られている。貿易の利益の発生メカニズムに見るように貿易の利益には、さまざまなタイプがある。以下はその一例である。[1]

これを再び小麦を例にして説明する。簡単の為、両国では同じ通貨を使っているものとして話をすすめるが、別の通貨を使っていたとしても、結論は同じである。

輸入によりA国では小麦の価格が下がる。仮に一袋あたり100円価格が下がったとする。するとA国の小麦農家の利益は1袋あたり100円少なくなってしまうが、この減少分は価格低下によりA国の消費者が小麦を100円安く買える分の利益で相殺される。しかも小麦の価格が下がったのであるから、A国の消費者は小麦を単に安く買えるだけでなく、 以前より多くの小麦を買えるという利益も得られる。よって国全体で見た場合、A国では貿易により利益が生じる。

B国では逆に小麦の値段が上がる。仮に一袋あたり50円価格が上がったとする。するとB国の消費者は一袋小麦を買うのに50円多く払わねばならず、損をする。しかしその分、B国の小麦農家の儲けは一袋あたり50円多くなるので、消費者の損は小麦農家の儲けにより相殺される。

また値段が上がったせいでB国内で小麦が売れる量が減少してしまうが、余った小麦は、より売れ行きがよいA国で売る事ができる。しかも前述のように、A国の方が小麦の値段はB国のそれを下回らない。よって小麦農家の利益は貿易により増加する。従って国全体で見た場合、B国でも貿易により利益が生じている。

以上のように、国全体で見た場合、貿易に関わったA国、B国の双方に利益が出る。しかし国内での利益には偏りが生じる。A国では、小麦農家は損しているが、消費者はそれを上回る得をしている。一方逆にB国では消費者は損をしているが、小麦農家はそれを上回る得をしている。

貿易の利益の発生メカニズム

テンプレート:Main 貿易の利益が発生するメカニズムには、次のようなものがある。これらは排他的なものではなく、同時に複数のメカニズムが作用している可能性がある。

技術の違い
国により持てる技術が違うことから、より有利な技術に特化することから得られる利益。リカード型貿易理論は、主としてこの利益を説明する。
要素賦存比率の違い
国ごとに存在すする生産要素の比率がことなることから、より豊富な生産要素を集約的に用いる財の生産をより大量に行なうことから得られる利益。ヘクシャー・オリーンの理論は、主としてこの利益を説明する。
収穫逓増の存在
生産に収穫逓増が存在することから、同じ費用関数をもつ複数企業がそれぞれ特定の仕様の財に特化することから得られる利益。新貿易理論は、主としてこの利益を説明する[2]
中間財貿易による利益
中間財あるいは投入財を世界的に貿易することから得られる利益。最終財のみの貿易をはるかに凌駕する利益が得られるとされる[3]。リカード・スラッファ貿易理論は、この利益を説明する[4]

国際貿易の影響

国際貿易は経済の大きな部分を占めており、近年のアメリカ、イギリス、日本では国民産出量のそれぞれ10%、26%、12%が輸出されている[5]

この為、貿易を完全に遮断してしまう事は破滅的な結末をもたらしかねない。 例えば、大恐慌の後、各国は自国の産業を守る為、ブロック経済へと移行したが、これは貿易による利益を捨てる事を意味し、かえって経済を悪化させてしまった。そしてその事が第二次世界大戦の遠因となった。

この苦い経験から、GATTWTOは自由貿易を活動の理念としている。

自由貿易の究極的な姿は、国内取引と同じように貿易が行われることである。市場統合が行われているEUにおいては、モノの移動に関して完全に障壁が撤廃されているので、EU域内においては自由貿易が行われているといえる。

保護貿易

前述したように、国全体としては自由貿易が経済上最も利益をもたらすが、自由貿易は利益を偏在化させ、一部の人々を損させる結果となる為、自由貿易は時としてこうした人たちからの反発を招く。

このため、一部産業における輸入を規制し、国内産業を保護しようとする政策(保護貿易保護主義)が台頭する。保護貿易の手段としては、関税の賦課(アンチ・ダンピング課税相殺関税等)や、輸入数量規制輸入割当制度セーフガード等)などが用いられる。

世界の主要国も自由貿易を標榜しているものの(保護主義を標榜する主要国はないが)、現実には、国内の有力産業、衰退産業を保護する政治的な目的での何らかの規制を行っている。

政府による貿易促進政策

貿易は、外貨の獲得を通じて直接に国富の増大につながると同時に、安価な輸入品の流入による物価の抑制、食料やエネルギー等必需品の安定的確保などの観点から、各国政府が国の政策として促進を行っている。貿易促進のあり方は国によって異なる。

具体的には、以下のような施策が行われる。

  • 国の外郭団体として、貿易促進を専門に行う機関を設立し、市場調査、引合、貿易相談などの業務を一貫して行わせる。日本の日本貿易振興機構(ジェトロ)、韓国大韓貿易振興公社(KOTRA)、オーストラリアAUSTRADEニュージーランドTRADENZなどの例がある。
  • 国または国の機関が、当該国の輸出品及び文化的背景についてのPRを海外で行い、輸出品のブランドイメージを高める。
  • 信用危険、戦争危険などの貿易に関連するリスクについて、国または国の機関が貿易保険サービスを提供する。日本では独立行政法人日本貿易保険が実施。
  • 見本市メッセ)産業を振興することにより、貿易の商談成立を促進する。ドイツの例が有名。
  • 特定分野の輸出品について、国が品質検査を行い、輸出品の品質レベルを保証することによって輸出促進を図る。戦後しばらくの間日本でも行われていた。
  • 港湾施設を整備し、貿易関連業者のコスト低減を図る。

輸出品に対して直接に補助金を付与することは、WTOルールで禁止されている。

貿易に関する誤解

競争力

  • 誤解:他国との競争に耐えられるときのみ、自由貿易は有益である。

実際には他国との競争に「負けて」も、国全体で見れば自由貿易は利益を生む。 たとえば小麦の輸出入で日本が「負けて」、海外の小麦が日本に入ってこれば、日本国内の小麦の値段が下がるので、日本の小麦業者はもちろん損をする。しかしこの損失は、小麦の値段が下がった結果消費者が安く小麦を買える事による利益で相殺される。しかも小麦の値段が安くなった分消費者は以前より多くの小麦を買える事になるので、国全体で見れば自由貿易は利益(総余剰)を生む事になる。[6]

生産性

  • 誤解:効率的に製品を作れる国が、そうでない国にその製品を輸出する。従って生産効率がよい国だけが、貿易で利益が上げられる。

実際には、どの国がどの製品を輸入するか、どの国が貿易により利益をえるかといった事柄は絶対的な生産効率の優劣とは無関係である。(本当は比較優位性により決まる[7]。)

これは日本が中国より遥かに効率的に製品を作れるにもかかわらず、中国から数多くの製品を輸入している事からも分かる。両国の生産性だけではなく、賃金にも考慮を入れる必要があるのである。

従って実際には、他国より生産性が優れている財がひとつもなかったとしても、自由貿易は利益をもたらす。

労働者搾取説

  • 誤解:途上国が劣悪な労働条件下で作った製品を先進国が輸入しているので、途上国の人々の生活が悪化している。

実際にはむしろ改善する。一見貿易が悪影響を与えているように見えるのは、貿易によって途上国への関心が高まった為に途上国の悲惨な環境に気づかされただけの事である[8]。貿易が開始される以前から、途上国の労働者は過酷な環境を強いられているのであり、貿易が始まったから労働環境が過酷になったわけではない。

途上国では先進国に比べると、労働条件のよい仕事は少なく、ホームレスの数もはるかに多い。こうした中で先進国との取り引きは、あらたな労働機会を創出するので、生活が改善する事になる。

実際、(国内で売るより)利益がでるからこそ、途上国の人々は先進国に製品を輸出しているのである。 したがって貿易をやめれば、さらに生活が悪化する事になる[7]

ただし貿易により社会構造が変わるので、短期的には途上国の生活が悪化する事もあり得る[8]

貧民労働論

  • 誤解:発展途上国の企業は労働者に低い給料しか払わないから安い製品を作れるのである。したがって自由貿易でこうした国々と競争を強いられるのは不公平であり、害がある。

前半の「発展途上国は労働者に低い給料しか払わないから安い製品を作れる」は正しい。しかし途上国の企業が労働者に低い給料しか支払わないのは、先進国より生産性の低い途上国ではそれが適正賃金だからである。

また途上国との貿易は、実際には途上国と先進国の双方に利益をもたらす[7]。 先進国は途上国の低賃金によってある財(たとえば小麦)を安上がりに購入することで貿易の利益を得ている。一方途上国は賃金の低さにより先進国に比較優位になるので、小麦を輸出する事で利益を得る。

自由貿易により先進国の小麦業者はもちろん損する事になるが、前述のようにこの損は小麦を安上がりに購入できる分の利益で相殺されるので、全体としては得である。

不等価交換説

  • 誤解:ある国が、その国が輸入する財に他の国が投入する労働以上に輸出する財の生産に労働を投入するならば、その国は貧しくなる。

輸出財に投入される労働量と輸入財に投入される労働量を比較するのは間違いである。これは輸入財を国内で生産した場合と比較すべきものである。輸入される財は国内で生産されるより安上がりになり、利益になるから輸入が行われる。生産方法は違えど貿易とは間接的に輸出財の投入で輸入財を生産している。貿易に利益があるのは輸入であって、輸出ではないということである。

貿易赤字

  • 誤解:貿易赤字は常に損である。

輸入が輸出を上回る場合を貿易赤字という。貿易赤字が経済に好影響を及ぼすか悪影響を及ぼすかは状況による。

日本が貿易赤字になっている場合、製品への対価として円が海外に流出する事になるが、流出した円は、投資として日本へと戻ってくる[9]。 したがって、日本がこの投資をうまく活用する事ができれば、貿易赤字は経済に好影響を及ぼす事になる[10]。 しかし一方、投資に対しては利子を支払わねばならないので、利子に見合うほど投資を活用できなければ逆に経済は悪化する事になる[10]

日本の貿易

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現状

2007年の日本の貿易

2007年の日本の貿易額は、輸出が7127億3496万ドル、輸入が6210億8409万ドル。

(参考:ジェトロ「日本のドル建て貿易概況」)

世界の貿易

歴史

現状

2007年の世界の貿易

2007年の世界の貿易額(ドル建て輸出ベース)は13兆7477億ドル。

  • 主要な輸出国・地域:EU(世界の輸出額全体の38.7%)、アメリカ(8.5%)、中国(8.9%)、日本(5.1%) 等
  • 主要な輸入国・地域:EU(世界の輸入額全体の39.3%)、アメリカ(13.5%)、中国(6.4%)、日本(4.1%) 等

(参考:ジェトロ世界貿易マトリクス)

貿易に関する経済理論

(他の参照項目)

その他

日本語の「貿易」は、外国との取引について用いられる言葉であり、国内で完結する取引には用いられない。このため、「外国貿易」という表現は、同義語反復であるが、公式文書などでもあえてこの表現が用いられる場合がある(例:外国為替及び外国貿易法)。

貿易と国内取引の両方を含む日本語としては「取引」のほか「交易」がある。「交易」は、第二次大戦中の占領地と本土の間の取引や、江戸時代のの間の財の動きなど、「貿易」とも「国内取引」とも言い難いものを表現する場合にも用いられる。

英語で「trade」という場合は、国内取引と貿易の両方を含むため、特に貿易のことを表現する場合はexternal trade, international tradeなどとするが、trade一語でも貿易の意味で用いられることが多い(例:U.S. Trade Representative(アメリカ合衆国通商代表部)、World Trade Organization(世界貿易機関))。 米国の場合は商法が州別にあるため、州際取引と州内取引を区別する実利がある(州際取引(interstate trade)、州内取引(domestic trade))。

中国語の「貿易」は、日本語と異なり、外国・国内取引双方を含むため、注意が必要である。

関連項目

出典・参考文献

脚注

  1. 『クルーグマン マクロ経済学』の第8章を参考にした。
  2. Krugman, P. (1980). Scale economies, product differentiation, and the pattern of trade. The American Economic Review, 70(5): 950-959.
  3. Samuelson, P. A. (2001). A Ricardo-Sraffa paradigm comparing gains from trade in inputs and finished goods. Journal of Economic Literature, 39(4), 1204-1214.
  4. 塩沢由典『リカード貿易問題の最終解決』岩波書店、2014年。
  5. 『スティグリッツ 入門経済学 第三版』p429
  6. 『クルーグマン マクロ経済学』の第18章
  7. 7.0 7.1 7.2 クルーグマン、オブストフェルド『国際経済学』p30-34
  8. 8.0 8.1 スティグリッツ『入門経済学』p108-109
  9. 『スティグリッツ マクロ経済学 第三版』p261
  10. 10.0 10.1 『スティグリッツ マクロ経済学 第三版』p269


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