電子レンジ
電子レンジ(でんしレンジ、英:microwave oven )は、電磁波(電波)により、水分を含んだ食品などを加熱する調理機器である。
日本における「電子レンジ」という名前は、安全で素早いこの装置を東海道本線の電車特急「こだま」(151系電車)の食堂車に搭載する際、国鉄の担当者が適当に決めたのが最初とされる。その後市販品にも使われ、一般的な名称となっていった。
英語では microwave oven (マイクロウェーブ・オーブン、直訳すると「マイクロ波オーブン」)で、単にmicrowaveと略すこともできる。「electronic oven」を電子レンジと訳す場合もある[1]。
目次
概要
物の温度とはおおよそ分子の運動量のことであるが、電子レンジはマイクロ波を照射して、極性をもつ水分子を繋ぐ振動子に直接エネルギーを与え、分子を振動・回転させて温度を上げる。いわゆるマイクロ波加熱を利用している。
電力を消費して加熱する調理器具としては他に電気コンロがあるが、電気コンロはジュール熱で発熱体を熱して発生する赤外線で食品を加熱し、熱の発生原理がまず異なる。赤外線とマイクロ波は波長が異なるため、その性質も異なる。赤外線は主に物質の表面を加熱する(内部まで加熱されるのは熱伝導によるものである)。一方でマイクロ波を用いた電子レンジでは、物質の内部まで放射によって加熱されるものの、水分子を含まず電磁波が透過するガラスや陶磁器は加熱されない(同じく、加熱された部分からの熱伝導で間接的に温まることはある)。
電磁波の発生源としては、マグネトロンという真空管の一種が使われている。
出力は家庭用で500~1000W程度、コンビニエンスストアや厨房機器として用いられる業務用では1500~3000W程度である。電力を電磁波に変換する際のロスがあるため、インバータータイプの出力(温める力)が1000Wならば、電子レンジ自体の消費電力は1450W程度となる。
日本では家庭用品品質表示法の適用対象となっており電気機械器具品質表示規程に定めがある[2]。また、電波法にいう高周波利用設備に該当し、50Wを超える機器の為、型式確認制度の対象[3]となっている。電磁波の周波数は、2.45GHzでISMバンドのひとつであり、周波数を共用している無線LANや直下の2.4GHz帯アマチュア無線などは、電子レンジを動作させると影響を受ける場合が多いが、総務省告示周波数割当計画脚注に「容認しなければならない」とされている。
世帯普及率は、日本において1970年代中盤に10%を超え[4]、1980年代の中盤で40%台[4]から50%強[5]、その後半には60%台中盤[4]から70%台[5]となり、1990年代の中盤は80%台中盤[4]から90%前後[5]で、その後半には90%台中盤[4][5]となり、2000年代の中盤から後半では90%台中後半[4][5]を保っている。世界的には、経済的に発展し電力事情も良く家電製品の普及している先進国の多くの地域でも、安価な廉価版機種から多機能高性能な機種に至るまで幅広く流通し、その利便性が認められて広く使われている。
歴史
原理の発見
マイクロ波はレーダーなどで用いられてきたが、これを加熱に使用するという着想は、全くの偶然から生まれた。
発明者はアメリカ合衆国のレイセオン社で働いていたレーダー設置担当の技師パーシー・スペンサーで、偶然ポケットの中のチョコバーが溶けていたことから、この現象を調理に使う着想につながった。
最初に電子レンジで調理した食物は、慎重に選ばれた結果、ポップコーンであった。2番目は鶏卵だったが、これは卵の爆発により失敗した。
1944年(昭和19年)、大日本帝国海軍は海軍技術研究所と島田実験所(現島田理化工業の前身)にてマイクロ波を照射して航空機などを遠隔攻撃するための研究をおこなっていた[6]。初の実験対象はサツマイモで、焼芋となったという[7]。その後、5mの距離からウサギを殺すことにも成功したが、それ以上の大型化が困難となる[8]。大和型戦艦から撤去した副砲の旋回部分を利用してパラボラアンテナを設置する工事も行われたが、兵器として実用化されることなく終戦を迎えた[7]。開発者の一人、中島茂はマイクロ波でコーヒー豆を炒る機械を製作して東京のコーヒー店に納入し糊口をしのいだ[7]。だが、この電子レンジが商品化されることはなかった。
製品化
レイセオン社はマイクロ波による調理について1945年に特許をとり[10]、1947年に最初の製品を発売した。高さ180cm、重量340kg。消費電力は3000Wだった。この製品は非常に売れ行きがよく、他社も相次いで参入した。
日本
- 1951年(昭和26年)7月19日の新聞記事によると「南氷洋で捕鯨した冷凍クジラ肉を鮮度を損ぬまま解凍する技術」として東京水産大学が「冷凍したクジラ肉に超短波を照射し解凍する技術」について研究しているとの記事が掲載された。この記事によればクジラ肉の解凍技術について既に確立されたので同年8月29日よりイギリスのロンドンで開催される第八回国際冷凍食品会議でこの「クジラ肉の解凍方法」について発表する旨が記事になっている。この事から日本ではこの時点で業務用の冷凍肉解凍技術がある程度は確立していた事が伺える。
- 1959年(昭和34年)に東京芝浦電気(現 東芝)が国産初の電子レンジを開発[11]。1961年(昭和36年)には国際電気(現 日立国際電気)が国産初の業務用電子レンジを発売した[12]。
- 1962年(昭和37年)に早川電機工業(現 シャープ)が日本国内初の量産品電子レンジ「R-10」(54万円)を製造[13]。
- 1963年(昭和38年)に松下電器産業(現 パナソニック)が電子レンジ「NE-100F」(115万円)を製造、電子レンジ普及の先駆的商品となった[14]。
- 1964年(昭和39年)開通の東海道新幹線のビュッフェ車にも電子レンジが備え付けられた。
- 1965年(昭和40年)一般家庭向けに松下電器産業の「NE-500」[15]が初めて発売された。
- 1966年(昭和41年)には早川電機工業が国産初のターンテーブル方式を採用した電子レンジ「R-600」(198,000円)を発売した[16]。
- 1972年(昭和47年)に郵政省(現 総務省)の型式指定が制度化[17]された。製造業者又は輸入業者が電波法令の技術的条件に関する内容を郵政大臣(現 総務大臣)に申請し、審査結果が適合しているものについて郵政大臣が型式を告示することで、型式指定の表示は横径3cm、縦径1.5cmの楕円形とされた。
- 従前は設置にあたり個別に高周波利用設備許可状を要していた。
- 1985年(昭和60年)には型式確認制度に移行[18]した。製造業者又は輸入業者が技術的条件に適合しているかを自己確認した内容を届け出て、郵政大臣が型式を告示することである。
- 2006年(平成18年)型式確認の表示は横長径が2cm以上の楕円形又は横長辺が5mm以上の長方形[19]とされた。
市場の反応
当初は、冷めた料理を温めたり冷凍食品を解凍したりする程度の役にしか立たないとされる調理器に、なぜ高い金を出して購入する必要があるのか全く理解されず、消費者からすんなりと受け入れられたわけではなかった。
そのためメーカーは、電子レンジがあたかも「焼く」「煮る」「蒸す」「揚げる」「炒める」「茹でる」「漬ける」等、ありとあらゆる機能をこなす万能調理器であるかのように宣伝して売ろうとした。
これに対して雑誌『暮しの手帖』は1975年から1976年にかけて特集を組み、「電子レンジ―この奇妙にして愚劣なる商品」と題した記事を掲載、「メーカーはなにを売ってもよいのか」と酷評した。当時『暮しの手帖』の商品テストは消費者から高い信頼を得ていたため、「電子レンジは万能調理器ではない」という認識は消費者にも印象付けられた。『暮しの手帖』は同じ号で、蒸し器を使って冷めた料理をおいしく温めるコツについての記事を掲載した。このキャンペーンの影響で電子レンジに対してのネガティブなイメージは後年まで一部で残ることとなった。
しかし、ボタン一つの手間で料理を温めることができる便利さは、大きな利点であった。高度経済成長で暮らしが豊かになる半面、核家族化と個食に代表される、“家族が食卓を囲み、揃って食事する”文化が過去のものとなっていく過程で、簡単に料理を温められる手段へのニーズが増大していき、普及していった。
メーカー側も性能向上に努力し、食品の重量・温度などをセンサーで読み取って食味を損なわない最適な加熱を行えるようにするなど、今日では十分な性能を持つ調理器具としての製品を発売するに至っている。冷凍食品の普及と品質向上、冷凍食品を保存できる冷凍庫つきの冷蔵庫の普及進展、また電子レンジで調理することを前提とした半調理済み食品までが販売されるようになり、利便性の高まりと共に普及率も高まっていった。また、それに伴う大量生産とコモディティ化による価格の下落がさらなる普及を後押しした。
自動販売機への内蔵
1970年の日本万国博覧会の会場周辺には、電子レンジを組み込んだハンバーガーの自動販売機が登場して、話題になった。
この自動販売機は紙箱に収められたハンバーガーのみ販売し、購入すると自動的に内蔵の電子レンジに商品が投入、加熱されたうえで提供されるものであったが、「パンは蒸気でふやけ、肉はパサパサ」という、ハンバーガーチェーンの出来立てハンバーガーに比べるといささか味気ないものであった。また硬貨投入から商品受け取りまで加熱時間を含め1分程度待たなければならなかった。
しかし、自動であるため深夜でも簡便に暖かい食べ物を提供できることや、ストックを冷凍することで在庫リスクがほとんどなくなるという利点から、無人ドライブインや高速道路のサービスエリアなどを中心に設置が進んだ。
こういった電子レンジ内蔵自動販売機は、その後の設置数の増加や冷凍食品の発達にも助けられて着実に社会に浸透し、様々なバリエーションが登場した。現在では焼きおにぎりや唐揚げ、フライドポテト、たこ焼きなどを併売する機種もみられる。
2000年代以降の状況
2000年代の日本では、普及率は90%台後半を保ち、温める機能のみの単機能な電子レンジであれば1万円以下で購入可能で、レンジ・ヒーター・スチームを組み合わせて調理する複合型多機能タイプも登場している。
このような状況によって、電子レンジで温めればそのまま食べられる食品も数多く店頭に並ぶようになった。コンビニエンスストアを中心に、風味もよく簡便な冷凍食品や、出来上がった弁当や惣菜などが複数種類取り揃えられるようになり、スナックフードコーナーには電子レンジ対応メニューが定番商品として並び、その場で温められたり、持ち帰って温めたりして食べられている。また、スーパーマーケットなどの食品売り場でも弁当や惣菜など電子レンジを利用する商品の扱いが増したことで中食産業の市場も拡大している[20]。
シャープが2005年4月、世界累計生産台数が1億台を達成したことを発表した[21]。
種類
電子レンジに高付加価値をつけた製品も多く登場してきている。その代表的な例がオーブン機能のついた電子レンジ「オーブンレンジ」である。電子レンジには出来ない「焼く」という機能を、電熱線やガス燃焼を使ったオーブン機能で行い、オーブンと電子レンジの双方の利点をミックスしている。スチームを利用して加熱したり、あるいは食品の温度を計測しながら自動的に加熱時間を調整するなど、多機能化した電子レンジも登場している。
庫内の状態は、マイクロ波の照射・吸収にむらがないようにターンテーブルを設けた方式と、高出力・多機能製品を中心に採用している庫内がフラットになっている方式がある。このタイプはターンテーブルの代わりに内部でアンテナが回転している。業務用電子レンジでは出力を上げたり内部で乱反射させることで入れられた食品を回転させることなくムラ無く加熱させる製品も見られる。
電子レンジは基本構造上、商用電源周波数にその能力や出力が影響されうる。このため、より効率的な加熱を行ったりきめ細かな火力制御をするために、インバータなどで電源からの影響を回避する機能をもつ製品もある。そのような製品は、交流電源をいったん直流にしてから、商用電源周波数よりも高い所定の周波数で高圧に変換するため、電源周波数に影響されない(いわゆるヘルツフリー)。ただそういった機能の無い旧来の製品や「温め専用」など安価な製品にあってはその限りではなく、例えば日本国内でも西日本と東日本地域で異なる商用電源周波数に影響される製品もあり、ユーザーの引越しなどでネックとなる。この場合は有償メーカー修理などの形で、使用地域にあった部品への交換などの改修が行われる。また消費者側では「移転先の電源周波数に合わない」といった理由によって買い替えが行われる場合もある。
調理方法
電子レンジでの調理は一般に庫内中央に調理物を置きドアを閉めてスタートする。特に調理物の温度を赤外線センサーで確認しながら制御している機種などでは庫内中央に調理物が置かれていないと正常な調理ができないことがある。
電子レンジの調理方法について、高機能化した電子レンジではなく単機能の電子レンジであっても、「冷めた料理や素材を温める」「冷凍食品を解凍する」といった使い方のほかに、煮る・煮込むといった加熱調理器具としての位置づけもある。多機能レンジにおいて調理法は各食品・料理に適した機能を選択して行う必要がある。
電子レンジであたためを行う場合、通常は器にラップをかけて行う。これにより、食品をあたためた場合に発生する水蒸気を副次的に利用し、水分の蒸発による食材のパサつきも抑え、蒸すのに類似した効果も同時に得ることができる。ただし、水分量が多いとふやけてしまうような食材(パンや揚げ物など)は逆にラップをかけないで、食品の下にクッキングシートを敷いて余計な水蒸気を逃がし食品を皿の上で結露した水によってふやかさせないなどの工夫も行なわれる。
野菜、とくに火が通りづらい根菜類で、温野菜を作ることができる。これは食材のしたごしらえとしても行われる。サツマイモのような、水分の少ない食材を温める場合は、全体を霧吹きなどで濡らし、水分を補ってから新聞紙かラップにくるんでから温める。中華まんの場合は水をかけてからラップでくるんで加熱される。レンジパックなどの、より簡単に温野菜をつくれる調理グッズも出てきている。 揚げ物料理(フライ、カツレツ、コロッケ、天ぷらなど)を温めなおす場合、クッキングシートと呼ばれる特殊加工された紙を皿の上に敷いて加熱すると比較的揚げ立ての風味(食感)を保ったまま加熱することが可能である。余剰な水蒸気がクッキングシートを通り抜け、皿の表面で結露しても揚げ物をふやかせることないためである。これは冷凍したパンの解凍においても同様であるが、加熱時間が長過ぎるとパンが乾燥してしまう場合もある。
ケーキのようなものも、電子レンジを用いて作ることができる。食感は蒸しケーキに似る。パスタを適切な量の水と共に加熱すると、鍋で煮るよりも所要時間が短縮出来る。
加熱はできるが素材の表面が乾燥し焦げ目はつかないため、焼き料理はうまく作れない。ただし、電子レンジ用調理器具や冷凍食品の中には電子レンジの調理機能のみで「焦げ目がつくよう工夫されたもの」のような焼き物料理ができる冷凍食品や、焼き魚やから揚げの調理ができる包材も商品化されている。
注意点
電子レンジは使い勝手の良い調理機器であるが、大量の電力を消費することやその性質などから、誤った使い方による事故もあり、またその独特な加熱方法にもよって他の機器には見られない注意点も存在する。
設置に関する注意点
設置に際しては、一般に利用し易いよう、また加熱調理中の食品の状態が目で確認し易いよう、目の高さからやや低い位置に置かれる傾向がある。
一般の家電製品の中でも多く電力を消費する製品(1kW程度)なので、電源系統の過負荷には注意する必要がある。電源もたこ足配線のような高電気抵抗配線やトラッキング火災を誘発させかねない状態は避けたほうがよい。調理の際に水濡れなども起こりうるほか、高電圧を利用するため、漏電に伴う感電防止の観点からアースを取ることを、メーカーなどでも推奨している(無くても動くが正しい利用方法とは呼べない)。
調理容器に関する注意点
基本的に利用可能な食器は、陶磁器(いわゆる「せともの」)のうち金箔・銀箔などを使っていないものか、「MICROWAVABLE」のように電子レンジ用であることが明記された耐熱ガラス・プラスチック容器などである。見た目に金や銀が無くても、色彩・装飾された陶磁器は使えない場合がある。合成樹脂容器の中にも電子レンジ対応のものが見られるが、こちらは油を含む食品など内容物によっては、過度に熱すると融解・溶解する場合もある。所定の利用方法が説明書などに示されている電子レンジ対応プラスチック容器は、それに従うようにする。
なお、以下はレンジ加熱に限定した解説となっている(電子レンジを使用する場合にも、レンジ加熱、グリル加熱、オーブン加熱、スチーム加熱等では使用できる調理容器に差異がある)。
- 金属容器・金串・金網等
- マイクロ波を使うため、金属容器、金串、金網、装飾の金線・銀線などに金属粉を使った陶器、沈金を施した漆器などは、火花を生じる可能性があるためレンジ機能は使用できない。ただし、アルミ箔については電波を反射することを利用し酒のかんや解凍時などに限定的に使用可能であることを取扱説明書などに明記している機種もある[22]。また、電子レンジ専用の調理器具の中には本体等に金属部が含まれているものもあるが安全に調理できるよう特殊な設計になっている。なお、金串などはオーブン機能やグリル機能などでは使用可能な場合もある。
- 漆器
- 漆器自体も塗装面が傷んだりひび割れを起こすため電子レンジの調理では避けたほうがよい。
- 合成樹脂
- フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などのマイクロ波を吸収する樹脂は、発熱して100℃以上になるため耐熱温度が高くとも避けた方が良い。
- プラスチック容器で耐熱性の無いものを用いると、高温により変形することもある。特に油物を入れた発泡スチロール製のトレーでは溶解する場合がある。また、容器の材質によっては高温により可塑剤などの人体に有害な成分が食品に溶出する恐れもあるので、極力電子レンジ用の容器に移し替えて調理することが望ましい。
- 食品用ラップフィルムでも成分が溶出する製品も存在するので、電子レンジ対応品を選ぶ必要性がある。また耐熱性の面から、ほとんどの製品には「油分の強い食品を直接包んで電子レンジに入れないでください」という注意書きがある。耐熱限度を超えたラップフィルムは溶融して食品に付着してしまう場合もある。
- 耐熱性のないガラス容器
- 耐熱ガラス容器と混同され易い強化ガラス容器は、これに入れられた料理の加熱後にステンレス流し台の上に置くと、容器の底面接触部分だけが急速冷却された形になり、粉々に破砕することもある。2000年代に肉じゃがを加熱したガラス器がひとりでに粉砕したとしてニュースで取り上げられた。
- 耐熱性のない紙容器や木製容器
- 耐熱性のない紙容器や木製容器は異常な高温になるため使用できない。
調理物に関する注意点
電子レンジ調理は通常の加熱調理などとは異なり、特定部分だけが加熱されたり、食材の内部から加熱されるような動作をする。この点は火が通りにくい食材を加熱する場合のメリットともなる反面、その特性を理解しない利用によりトラブルの原因となることもある。また、電子レンジ加熱に不向きな食品や、過剰な加熱でトラブルを起こす食品もある。
- 容器自体は加熱されないが、食品から熱が伝達して容器が熱くなる場合があるので、容器の耐熱性や取り扱いには十分注意する。必要に応じて鍋掴みを用いたり、あら熱を取ってから食品を取り出すようにすることも火傷の事故を防ぐ手段となる。
- 密封された冷凍食品や透明袋入りのレトルト食品を加熱する場合は、パッケージの指示に従って、一部を切るなど、蒸気の逃げ場を作る必要があり、これを怠ると容器が破裂する場合もある。スナックフードなどプラスチック袋で包装されたものなども同様で、パンパンに膨れたパッケージを破る際には蒸気でやけどする場合があるため、加熱前に穴を空ける。
- レトルトカレーなど遮光性を目的としたアルミ蒸着フィルム(不透明なもの)のレトルトパウチに入った食品は加熱できないため、事前に陶器などの容器に移して加熱する必要がある。
- 液体を加熱すると、沸点にある液体が外部からの振動などの刺激により、突然爆発的に沸騰する現象「突沸」が発生する可能性があり、加熱直後の取り出し中や取り出し後に突沸が発生して火傷する危険性がある[23]。
- 膜や殻で覆われているもの(鶏卵、銀杏、栗、ソーセージ、飴など)を調理すると破裂する危険がある。一部は蒸気を逃がす穴や切れ目を作れば調理可能な場合もある。殻が無くてもおでんの卵・スコッチエッグなど調理済みの卵料理など加熱されたところほど固くなる性質をもったものや、大きな塊の肉料理も過度に加熱すると破裂することがある(豚の角煮やラフテイなど)。ただし、電子レンジ用のゆで卵調理器具のように特殊な設計を有する電子レンジ専用の製品も販売されており、これらを利用することで安全に調理できる食品もある。
- 炭化した物(焦げのあるもの・焼き芋など)を長い時間温めると、スパークを起こして発火し調理中に燃え出す可能性がある。
用途外の利用
食品の加熱・解凍以外に、湿布・カイロ・湯たんぽ・おしぼりなど食品以外の加熱に電子レンジを用いることを原則的にメーカーは認めておらず、保証対象外である。そのような利用法の中には、一定限度を超えて加熱すると不具合発生の可能性があり、加熱時間は電子レンジ側の出力により変わることを知らないままに表示されている時間通りに加熱して、破裂・内容物の漏出・発火といった事故事例も報告されている。また、ドライフラワーを作るのに電子レンジを利用する方法もあるが、こちらもメーカーではそのような用法を想定していない。
トピック
電子レンジによる調理の表現
- 日本では調理完了を知らせる合図音として、「チーン」という音が出る仕組み(機械式タイマーとベル)を一時期は多数の製品に組み込んでいた要因から、「チンする」と表現することもある[24][25][26]。電子レンジが登場した時、調理する行為には特に名前が付けられなかったが、前述の合図音が由来となり全国的規模で自然発生的に生まれた言い方である[25][26]。
- 調理完了を知らせる合図音を出す装置は、日本の初期型に付いていなかったため、「調理が終わったのに気がつかず、せっかく温めた料理が冷めてしまう」という意見が購入者から出ており、早川電機(現・シャープ)電子レンジ開発チームのメンバーにも届いていた[27]。
- そのメンバーが労働組合主催のサイクリングに参加した時にベルの音が印象に残っていたことがヒントとなり、電磁石とバネで合図音のベルが鳴る仕組みを搭載した改良型が開発された[27]。また「研究室の近所に自転車店が多かったため、当時の研究者が自ら店に出向いてベルを買い、アルミを絞ったベルでコストダウンし、バネを使って音の強弱を調整して電子レンジに取り付けたのが発端」で「タイマーは当初ゼンマイ式で、ベルを一体化してチーンと音が鳴る構造」といった、シャープ広報室の説明もあった[28]。
- 1970年代後半、松下電器(現 パナソニック)は当時発売していた電子レンジ「エレックさん」にちなみ、調理する行為を「エレックする」と名付け普及・定着を試みたが、結局極一部の範囲に留まった[25][29]。
- 食品業界から発生した業界用語に「レンジアップ」というのがある。電子レンジで温めるの意であり、例えば「焼く前にレンジアップして解凍する」というように使われる。英語圏ではから見て「Range Up.」とスペルするとすると全く意味不明であり、ここからも和製であることが分かる。
- 中国語では、類似の擬音語による表現もあるが、「回す」を意味する「轉 / 转(転) ジュアン zhuǎn」という動詞が電子レンジで加熱するという意味にも使われている。
- 英語では「Let's microwave some ○○(訳:○○をチンしよう)」が使用される[30]。
現代において、合図音で「チン」を用いているのは普及価格帯の単機能タイプが主体で、高出力化・多機能化した製品では電子音を用いることが一般的となっている。
電子レンジに関する事件
テンプレート:Sister 2005年8月、アメリカオハイオ州デイトンで当時25歳の母親が電子レンジに自分の赤ん坊の娘を入れてスイッチを押し2分以上加熱したと見られる。このため、高温の熱による内臓損傷により死亡。殺人罪で逮捕・起訴され、2008年9月8日、終身刑を言い渡された[31]。また、同じくアメリカで2007年5月、アーカンソー州ジョシュア・モールディンで当時19歳の父親が電子レンジに2歳の娘を入れてスイッチを押し、全身に三度の火傷の重傷を負わせたとして逮捕された。
なお、製造物責任法に関する都市伝説として「飼い猫を電子レンジで乾燥」というものがあった(俗称「猫レンジ」)。内容は、アメリカである主婦が飼っている猫を洗った後、毛を乾燥させるために電子レンジを使用したところその猫が死んでしまい、主婦は「電子レンジの取扱説明書に『ネコを乾燥させてはいけません』とは書かれていない」と主張、メーカーの落ち度であると裁判になり、企業側が敗訴し多額の賠償金を支払うことになり、結果として電子レンジの取扱説明書に「ペットを入れないで下さい」という注意書きを書くに至ったという話である。ただし実際にこのような訴訟があったという記録は無く、アメリカの訴訟社会を揶揄したものだと思われる。日本やアメリカの法律においても電子レンジにそのような注意書きを添える義務も無い。
脚注
参考文献
関連項目
外部リンク
- テンプレート:PDFlink - 国民生活センター
- 快適にくらすための家電選び・電子レンジ - 東京電力くらしのラボ
- テンプレート:PDFlink - Percy Spencerによる米国特許原文(1945年10月8日出願)テンプレート:En icon
トップインタビュー / 新日本通商 - 寺岡精工・From New Balance 61号 2008/4月1日発行