阿波踊り
阿波おどり(あわおどり)は徳島県(旧・阿波国)を発祥とする盆踊りである。日本三大盆踊りのひとつ。約400年の歴史があり、夏季になると徳島県内各地の市町村で開催される。なかでも徳島市阿波おどりは国内最大規模で最も有名であり、四国三大祭りに数えられる。近年では全国各地で行われるようになってきている。
目次
概要
三味線、太鼓、鉦鼓、篠笛などの2拍子の伴奏にのって踊り手の集団(「連」)が踊り歩く。「えらいやっちゃ、えらいやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らな損々…」と唄われるよしこので知られる。しかし、よしこのは大手の有名連以外はあまり使われず、主に「ヤットサーヤットサー」という掛け声のほうが多用されている。企業連などではこのほか商品名や会社名が入った独自のかけ声が使われたり、「1かけ2かけ3かけて、しかけた踊りはやめられぬ。5かけ6かけ7かけて、やっぱり踊りはやめられない」と言ったものも使われている。また、「ワッショイ踊り」のような邪道踊りでは「ソレソレソレ……」等と言った単にやかましいだけやバカ騒ぎをするためだけのものも存在している。
徳島県内の学校では体育祭や運動会などで「阿波おどり」を演目として採用している学校も多数あり、授業で阿波おどりを経験した地元住民も多数いる。地域住民の代表的な祭りである。
全国への広がり
阿波の国「徳島」が本場であり、「徳島市阿波おどり」(徳島県徳島市)で、毎年130万人以上の人出がある。県内の他の市町村各地でも開催されている。歴史的には本場徳島は江戸初期からの通説もあり、その他県外では、徳島県人会などが中心となり全国各地で踊られていた。また、亜流ではあるが、徳島県及び県人会などの指導により「東京高円寺阿波おどり」(東京都杉並区)の50数年をはじめ、三鷹、下北沢、初台、神楽坂などが40年超、中目黒、大塚、都立家政、中村橋、糀谷、経堂、小金井、神奈川大和、埼玉狭山ヶ丘、南越谷などが30年超の歴史を持っている。
「東京高円寺阿波おどり」は、高円寺の商店街の青年部が町おこしとして始めたものである。当初は隣町の阿佐ヶ谷七夕祭りに対抗して夏のイベント用に阿波おどりに似た踊りで開始され、やがて都内在住の徳島県出身者から指導を受ける形で発展した。例年120万人程度の人出があり、例年同日に行われる浅草サンバカーニバルと共に、東京の代表的な夏祭りの1つとなっている。現在は、地元商店街、町会が中心となって発足したNPO法人東京高円寺阿波おどり振興協会が主催している(詳細は東京高円寺阿波おどり#概要を参照)。
「南越谷阿波踊り」(埼玉県越谷市。詳細は南越谷阿波踊り#概要を参照)。「神奈川大和阿波おどり」(神奈川県大和市)も、元々は地元商店会の小規模な祭りだったものが発展・規模拡大したものである。いずれも高円寺ほどの規模ではないが、南越谷は例年60万人・神奈川大和は40万人程度の人出がある。
現在は徳島(例年8月中旬)以外の各地(特に関東地方)、高円寺(例年8月最終週)のほか、夏のイベントとして8月はほぼ毎日のように全国のどこかで阿波おどりが催されており、徳島の阿波おどり連がその指導に当たっている。これら全国各地で行われている阿波おどりについては後述の「各地の阿波おどり」を参照されたい。
一部雑誌・旅行誌では、高円寺や南越谷など、営業的に規模の大きな阿波おどりに対し「三大阿波踊り」と呼称していることもある[1]。
起源と名称
精霊踊りや念仏踊りが原形であるといわれるが、起源は明らかになっていない。徳島藩が成立して以後、盛んに踊られるようになったとされる(徳島市観光協会の説明より)。徳島城が竣工した際、当時の阿波守・蜂須賀家政が城下に「城の完成祝いとして、好きに踊れ」という触れを出したことが発祥という説もある。江戸時代には、一揆につながるとの理由で阿波おどりが禁止されていた時期もあった。その令を犯し、自宅で阿波おどりを行った家老がお家断絶になったという。また戦時中にも一時阿波おどりは禁止された。
阿波おどりという名称は徳島県内の各地で行われてきた盂蘭盆の踊りの通称であり、昭和初期からそう呼ばれるようになった。この名称は日本画家・林鼓浪が徳島商工会議所(当時は商業会議所)に提案したものとされる。尚、徳島市や高円寺の阿波おどりではポスターや看板等において専ら「阿波おどり」と表記される。また、徳島県が発行する印刷物等においても「阿波おどり」で統一されている。ちなみに、名称から徳島県阿波市が阿波おどりの本場と思われることがあるが、阿波市でも阿波おどりは行われるものの特別なことは特にない(そもそも阿波市の存在自体が近年まで無かった。市の歴史はまだ浅く、2005年の市町村合併で誕生した新しい市である)。なお、一部では「阿波踊り」と漢字表記している。
連
阿波おどりでは一つの踊りのグループの事を「連(れん)」または「輦(れん)」という。徳島県には有名連と呼ばれる連が多数あり、主に各協会などに所属している連が多い。もちろんいずれの協会にも属していない連もある。大抵の徳島県民には個人個人に贔屓の連があり、「あっこの連がええ」とか「ほらやっぱりここの連やろ」といった具合に話題になることもある。
こうした有名連以外にも踊りが好きな者同士が集まって結成した連、企業が企業名を売り込む目的で結成した企業連、大学のサークルなどで結成した大学連、気の合う仲間で結成した連、商店街で結成した連等、徳島県内には大小さまざまの数多くの連が存在する。殆どの連は先頭に連名を書いた巨大な提灯を掲げて浴衣などに名前を入れて踊っている(よって、当然提灯係のような者も毎年選定されている)。また徳島県外には徳島県出身者が主体となって結成した連もあり、関西を本拠地とする阿波おどりの連の中には徳島県出身者が始めたものが多い。
徳島県内の有名連
- 本家大名連
高円寺阿波おどり連協会所属連
その他地域の阿波おどり連(五十音順)
- かぐら連(東京都新宿区)
- かせい連(東京都中野区)
- 新粋連(東京都豊島区)
- 南粋連(東京都町田市)
- なにわ連(大阪府寝屋川市)
- むさし南連(東京都小金井市)
- 創作舞踊集団 寶船([1])(東京都)
- 笑星連(ゑぼし)(神奈川県大和市)
- 神戸楠公連(兵庫県神戸市)
- さっぽろ五郎連(北海道 札幌市 北区あいの里)
- いなせ連(南越谷阿波踊り)(埼玉県草加市)
踊りの種類と衣装
男踊り
- 半天(法被)を着て踊る半天踊りと、男物の浴衣をしりからげに着て踊る浴衣踊りがある。
- 踊りの所作の振りは大きく時には勇猛に、時には滑稽に躍る。うちわや手ぬぐいなどを使っていることも多い。
- なお、この男踊りを女性の踊り手や少女が踊る場合もある。
女踊り
- 女物の浴衣に網笠を深く被り、草履ではなく下駄を履くのが特徴。
- 艶っぽく、上品に踊るのが良いとされる。
- 一般の浴衣と異なりじゅばん、裾除け、手甲を付け黒繻子の半幅帯をお太鼓のように結ぶ場合が多い。
- 性同一性障害、性別変更可能、ジェンダーフリーの現在では男女性別関係なく、女踊りを踊ることも可能となっている。
その他
- 青少年は男踊り・女踊りのいずれをも踊っているが、どちらかと言えば男踊り(半天踊り)の方が多い。少女の女踊りは大人の女踊りの衣装を子供サイズに縮小しただけなので、妖艶さに可憐さを兼ね備えた印象をあたえる。
- 女役は厚化粧する場合が多い。
- 踊りの派生型として一人が凧を操る役、そしてもう一人がやっこ凧として操られる様を表現したアクロバティックな「やっこ踊り」があるが、淡路島には同踊りの原型がある。
- 足袋裸足の状態で踊る際、足底がゴム引き加工された足袋を着用する事がある。
囃子
鳴り物
阿波おどりに用いられる楽器は「鳴り物」と総称される。鳴り物は、踊り子の引き立て役として阿波おどりに欠かせない存在である。演舞場を通り抜ける際は、踊り子の後方にポジションをとる。基本的には以下の6つの楽器とその演奏者で構成される。近年の大学連などの少数連では鉦と太鼓が中心となっており、難易度の高い笛や三味線のようなメロディ部分が存在しないことも多い。また、尺八のような独自の楽器を取り入れる連も少なからず存在する。
- 笛
- 主旋律を奏でる。演奏に使用される笛は、篠竹で作られた篠笛が最も多い。笛はドレミ調に調律された唄用の六本調子(B♭)が標準であり、徳島や関東における複数連での合同演舞においても六本調子が用いられる。三味線と音を合わせることから、調律されていないお囃子用の笛は一般的に用いない。徳島では、より完全な調律を目指した裏穴があるみさと笛があるが、一般的な笛と運指が異なることから、阿波おどり以外で用いられることは少ない。連のスタイルによって六本調子よりも高音の七本調子(B)または八本調子(C)を使用する場合がある。三味線の調子は使用する笛の調子に合わせる。演奏曲はぞめき囃子の他、吉野川や祖谷の粉挽き唄、鳴門節、阿波小唄などの徳島を起源とする曲が演奏される。近年では、連独自の演出として、第九や童謡のメロディなど様々な曲が用いられるようになってきている。合同演奏用に基本となるメロディのぞめき囃子があるが、メロディは連によって微妙に異る。高い音を出すまでの難易度が高く、演奏者が減りつつある。
- 三味線
- 鳴り物の中では最前列で演奏される。笛の調子に合わせて調律し、一般的に笛の六本調子に対して三味線の六本調子三下がり(三弦を本調子から一音下げる)で調律され、やや暗い音調で演奏される。徳島以外のテレビ番組で阿波おどりを表すメロディとして使われている旋律はこの三味線が奏でているメロディが殆どであり、本来主旋律として演奏している笛のメロディは全国的には知名度が低い。これはお鯉さんのような全国区でよしこのを奏でた人物が三味線で弾き語りを行ったことにも起因している。
- 締太鼓
- 一般的には大太鼓と同じリズムで演奏され、大太鼓よりも軽快なリズムで囃し立てる。締め具合で調律できる太鼓であることから、笛や三味線の調子に合わせ、三味線の二弦または三弦(三下がり)の音に合わせて締めるのが基本になっている。
- 大太鼓、大胴
- 重低音が踊り子や観客を高揚させる。重量は約10kg。締太鼓と大太鼓は基本的に平胴太鼓と呼ばれる和太鼓を用いるのが一般的。連のスタイルにより洋太鼓を使用する場合もある。
- 大皮、鼓
- ぞめき囃子の曲に合わせた合いの手、裏打ちと表打ちを使い分ける演奏などから、難易度が高いとされる。
- 鉦
- 指揮者の役目を果たす重要なポジション。撞木(しゅもく:鉦を鳴らす棒)を用いて鳴らす。近年では笛、三味線の調子に合わせた調律鉦が発売されており、鳴り物全体の和音を目指す演奏が行われるようになってきている。
リズム
阿波おどりは2拍子で、テンポは、早い連、遅い連と様々である。これらが連の個性を演出する重要な要素となっている。
各地の阿波おどり
- 徳島県内
- 関東地方
- 東京高円寺阿波おどり([2])(東京都杉並区高円寺)
- 糀谷阿波おどり(東京都大田区糀谷)
- 下北沢一番街 阿波おどり([3])(東京都世田谷区下北沢)
- 神楽坂阿波おどり([4])(東京都新宿区神楽坂)
- 東京大塚阿波おどり([5])(東京都豊島区)
- 中村橋阿波おどり(東京都練馬区)
- きたまち阿波おどり([6])(東京都練馬区)
- 都立家政阿波おどり(東京都中野区)
- 三鷹阿波おどり(東京都三鷹市)
- かわさき阿波おどり([7])(神奈川県川崎市川崎区)
- 小金井阿波おどり(東京都小金井市)
- 神奈川大和阿波おどり([8])(神奈川県大和市)
- 相模原東林間サマーわぁ!ニバル(神奈川県相模原市南区)
- 南越谷阿波踊り(埼玉県越谷市)
- みさと阿波おどり(埼玉県三郷市)
- 新座阿波おどり(埼玉県新座市)
- 狭山入間川七夕まつり(埼玉県狭山市)
- もばら阿波おどり(千葉県茂原市)
- 小金宿まつり(千葉県松戸市)
- 阿波おどり@高崎まつり(群馬県高崎市)
- 近畿地方
- 中部地方
- 中国地方
- 東北地方
- その他
関連文献
阿波おどりが登場する作品
- 眉山
- 阿波DANCE
- クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険
- 平成狸合戦ぽんぽこ
- バブルガム・ブラザーズ『WON'T BE LONG』プロモーションビデオ(いろは連(東京都杉並区))
- ゆらゆら帝国『夜行性の生き物3匹』プロモーションビデオ(ひょっとこ連(東京都杉並区))
- V6『バリバリBUDDY!』プロモーションビデオ(新粋連(東京都豊島区))
- 平井堅『告白』プロモーションビデオ(天翔連(東京都杉並区))
- ミライダガッキ・REFLEC BEAT colette
脚注
関連項目
- 多田小餘綾 - 「お鯉さん」の名で親しまれた、「阿波よしこの」の第一人者。
- よさこい祭り(高知市) - 毎年8月9日から12日まで開催。阿波おどりに対抗して始めた祭り。阿波おどりをモデルにしている。
- バブルガム・ブラザーズ『WON'T BE LONG』 - 阿波おどりをモチーフに制作された。
- シクロアワオドリン - 阿波おどりが名前の由来となっている環状オリゴ糖の一種。
- 阿波の踊子 - 1941年に阿波おどりを題材として東宝より公開された長谷川一夫主演の映画。
- 藤本主税(ロアッソ熊本所属のプロサッカー選手) - 中学・高校時代を徳島で過ごす。ゴールを決めたあとの阿波おどりが有名。
- 平井将生(アビスパ福岡所属のプロサッカー選手) - 徳島県出身。ゴール後のパフォーマンスが阿波おどり。
- とくしま88景 - 徳島新聞社と徳島県観光協会が選定した徳島県内にある88箇所の名所。
- 阿波歴史文化道 - 四国歴史文化道に指定されている徳島県の観光道。
- やっさいもっさい - 別名「房総版阿波おどり」といわれる踊り。踊り手の集団を「連」と呼ぶ等共通点も多い。