深夜特急

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テンプレート:Sidebar テンプレート:Sidebar with collapsible lists深夜特急』(しんやとっきゅう)は、作家・沢木耕太郎による紀行小説である。

産経新聞に途中まで連載された後、1986年5月に1巻・2巻(第1便・第2便と称す)が、1992年10月に最終巻(第3便)が新潮社から刊行された。また、新潮文庫からは6冊に分冊化される形で単行本として出版されている。

概要

インドデリーから、イギリスロンドンまでを、バス(特に路線バス高速バスなどの乗り合いバス)だけを使って一人旅をするという目的で日本を飛び出した主人公「私」の物語であり、筆者自身の旅行体験に基づいている。

当初は日本からデリーまで直行してしまうつもりだったが、途中2か所のストップオーバーが認められる航空券を手にした私は香港バンコクを選び・・・、様々な人々と事件に出会いながらロンドンを目指す。

影響

刊行後は、バックパッカーの間でいわばバイブル的に扱われるようになり[1]、80年代と90年代における日本における個人旅行流行の一翼を担った。その後、台湾で中国語版、韓国で韓国語版の翻訳が出版された。あくまで個人の旅行体験記なので、旅行ガイドとしての使用には不向きだが、1970年代前半当時の交通事情、宿泊事情などを知ることもできる。さらには、途上国の貧困さの一端も巧まずして表されている。

2008年11月、作者の“一人でも多くの人にバックパッカーとなって欲しい”との願いによるエッセイ、『旅する力 ― 深夜特急ノート』が“最終便”として刊行された。

沢木耕太郎は1993年に『深夜特急 第三便』で第2回JTB紀行文学賞を受賞している。

行程

香港※1 - マカオ※2 - バンコクタイ) - マレーシアシンガポール - カルカッタインド)※3 - ブッダガヤ(インド) - ベナレス(インド) - カーブルアフガニスタン) - テヘランイラン) - アンカラトルコ) - イスタンブル(トルコ) - ギリシャイタリアスペインポルトガル - パリ(フランス) - ロンドンイギリス
※1 - 香港は当時イギリス領で1997年に中国返還。
※2 - マカオは当時ポルトガル領で1999年に中国返還。
※3 - 2001年にコルカタに改称。

出版

単行本

いずれも新潮社刊(1,2は産経新聞連載。3は新聞連載期間終了により未完となっていた部分を書き下ろしたもの)。

  • 深夜特急第1便 黄金宮殿(1986年5月) (ISBN 978-4-10-327505-3)
  • 深夜特急第2便 ペルシャの風(1986年5月) (ISBN 978-4-10-327506-0)
  • 深夜特急第3便 飛光よ、飛光よ(1992年10月) (ISBN 978-4-10-327507-7)
  • 旅する力 - 深夜特急ノート(2008年11月) (ISBN 978-4-10-327513-8)
文庫

いずれも新潮文庫に収められている。

  • 深夜特急1 香港・マカオ (ISBN 978-4-10-123505-9)
  • 深夜特急2 マレー半島・シンガポール (ISBN 978-4-10-123506-6)
  • 深夜特急3 インド・ネパール (ISBN 978-4-10-123507-3)
  • 深夜特急4 シルクロード (ISBN 978-4-10-123508-0)
  • 深夜特急5 トルコ・ギリシャ・地中海 (ISBN 978-4-10-123509-7)
  • 深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン (ISBN 978-4-10-123510-3)
  • 旅する力 - 深夜特急ノート (ISBN 978-4-10-123518-9)

タイトルの深夜特急はMidnight Expressの翻訳に由来しており、タイトルに悩んでいた時に沢木が見た同名の映画、Midnight Expressに由来する。映画内ではMidnight Expressは刑務所からの脱獄を示す隠語として扱われており、これを翻訳してタイトルに用いた。日本ではExpressは通例、「急行」と訳すが、特急の方が語感がいいことから「特急」にし、第一便、第二便というのも列車を意識してつけたという。他の候補として「飛光よ、飛光」というのも考えていたと回想している[2]。 新潮社版の表紙はフランスで運転されていたアドルフ・ムーロン・カッサンドルデザインの国際寝台列車北急行のポスターが用いられている。

翻訳

本シリーズは、繁体字中国語(『深夜特急』)と韓国語(『나는 아직 도착하지 않았다』(私はまだ到着してない))にも翻訳されている。

テレビドラマ

概要

1996年 - 1998年には、『劇的紀行 深夜特急』として、名古屋テレビ制作・テレビ朝日系列テレビドラマ化。

これは、名古屋テレビ開局35周年記念番組として企画されたもので、ドキュメンタリーとドラマを複合させるという試みで、1996年から1998年にかけて一年ごとにドラマ制作と放映が行われたもので全3部作で構成される。主演は大沢たかお。主題歌は井上陽水の「積み荷のない船」。

主人公として若き日の沢木耕太郎を大沢が演じているが、ドキュメンタリーの要素を併せ持ったドラマとなっており、時代設定はドラマが撮影された1996年から1998年にかけてとなっているため「劇的紀行 深夜特急'96〜熱風アジア編〜」の中では香港がまもなく中国に返還されることが触れられている(香港は当時イギリス領で1997年の中国返還前であった)。また、「劇的紀行 深夜特急'98〜飛光よ!ヨーロッパ編〜」には日本人画家・千葉郁世がそのまま「千葉」として出演するなど、各回のドラマの本編最後には原作をもとにしたフィクションではあるものの一部実在の人物・団体の名称を使用していることが表示されている。 2000年に東宝よりVHSソフト化(全3巻)され、各巻の特典映像として「おまけ 深夜特急 撮影ノート」が収録されている(ただし、表示される通貨やレートなどは収録時点でのものとなっており、また、ユーロ圏においても通貨統合前のフランペセタなどの通貨単位で表示されている)。2002年3月20日にはソニー・ミュージックディストリビューションより、3枚組のDVDが発売されており、こちらは特典映像として沢木耕太郎のインタビューが収録されている。

なお、「劇的紀行 深夜特急」はチャンネルNECOファミリー劇場でも放送された。

作品データ

劇的紀行 深夜特急'96〜熱風アジア編〜

新東京国際空港※1 - (空路) - 香港※2 - 深圳 - 香港 - (空路) - バンコク(ドンムアン空港) - チュンポーンスラタニーハジャイパダンブサールバターワース - ベナンバターワースクアラルンプールマラッカシンガポール - (急行列車) - カルカッタ※3
※1 - 2004年に「成田国際空港」に改称。
※2 - 香港は当時イギリス領で1997年に中国返還。
※3 - 2001年にコルカタに改称。

インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合バスだけでいけるか友人と賭けをした主人公(僕)は、旅行代理店で香港に格安航空券が集まることを知り、まず香港へと飛び立つ。初めての海外に胸を躍らせ、香港の熱気に魅せられるが、長居しすぎたことに気づき、急いで香港からタイ王国・バンコクへ。列車でマレー半島を南下してマレーシア、シンガポール、そして未知なるインドへ。

劇的紀行 深夜特急'97〜西へ!ユーラシア編〜

  • 放送日:1997年7月3日
  • 主な出演:大沢たかお、渡辺哲、松嶋菜々子
  • タイトル(VHS):『劇的紀行 深夜特急 完全版 第2便』
  • タイトル(DVD):『劇的紀行 深夜特急 第二便・西へ!ユーラシア編』
  • 第35回ギャラクシー賞優秀賞受賞
  • 行程
カルカッタ - カトマンズビルガンジラクソールハジャプールパトナベナレスサトナカジュラーホージャーンシーデリーアムリトサルワガーラホールラワルピンディペシャワールカイバル・エージェンシー(アフガニスタンの通過を断念) - ラホール - ムルターンサッカルクエッタクイ・タフタンサヒダンアルゲバムケルマンシラーズイスファハンテヘランエルズルム

ネパール・カトマンズを発った主人公(僕)は、神秘のインドへ戻り、ガンジス川に身をゆだねる。さらに西走し、最初の目的地デリーにたどり着く。そこで日本人の中年男性と知り合い、共に旅を続けた。アフガニスタンの厳しさを目にし、乗合バスでパキスタンから砂漠を越えてイランへ。アルゲバム遺跡を目にした中年男性は突然帰国すると言い出す。彼から一冊の本を手渡されたが、そこに挟まれた200ドルに気づく。様々な出会いを胸に刻み、アジアの果て、トルコを目指す。

劇的紀行 深夜特急'98〜飛光よ!ヨーロッパ編〜

  • 放送日:1998年1月6日
  • 主な出演:大沢たかお、松嶋菜々子、千葉郁世
  • タイトル(VHS):『劇的紀行 深夜特急 完全版 第3便』
  • タイトル(DVD):『劇的紀行 深夜特急 第三便・飛光よ!ヨーロッパ編』
  • 行程
エルズルム - トラブゾンサムソンアンカライスタンブールテッサロニキアテネトリポリスパルタミストラ - スパルタ - トリポリ - オリンピアパトラス - (海路) - ブリンディジローマモナコニースカンヌマルセイユバルセロナバレンシアマラガジブラルタル(イギリス領) - セビリヤアヤモンテサントアントーニオサグレスサン・ヴィセンテ岬(ヨーロッパ最西端) - ロンドン

トルコに入った主人公(僕)は、ボスポラス海峡をわたってアジアからヨーロッパに移る。ギリシャからアドリア海を渡り、イタリア、モナコ、フランス、スペインを地中海沿いに走る。ジブラルタルアフリカ大陸を眺めると、旅の最終地ポルトガルのサン・ヴィセンテ岬を目指す。そしてゴールであるロンドンへ。しかし、郵便局で待ち受けていたのは…

スタッフ

  • 原作:沢木耕太郎『深夜特急』(新潮文庫)
  • 脚本:水谷龍二
  • 企画・構成:源高志
  • 音楽:ボブ佐久間
  • 主題歌:井上陽水「積荷のない船」
  • プロデューサー:松本国昭、松嶋俊輔、猪原達三、水口みゆき、小野鉄二郎(1998年)
  • 演出:小野鉄二郎(1996年、1997年)、竹村謙太郎(1998年)
  • 制作:名古屋テレビ、電通KANOX

関連商品

  • VHS
    • 劇的紀行 深夜特急 完全版 第1便(2000年3月24日、東宝ビデオ)
    • 劇的紀行 深夜特急 完全版 第2便(2000年3月24日、東宝ビデオ)
    • 劇的紀行 深夜特急 完全版 第3便(2000年3月24日、東宝ビデオ)
  • DVD
    • 劇的紀行 深夜特急 第一便・熱風アジア編(2002年3月20日、ソニー・ミュージックディストリビューション)
    • 劇的紀行 深夜特急 第二便・西へ!ユーラシア編(2002年3月20日、ソニー・ミュージックディストリビューション)
    • 劇的紀行 深夜特急 第三便・飛光よ!ヨーロッパ編(2002年3月20日、ソニー・ミュージックディストリビューション)
  • 単行本
    • 劇的紀行 深夜特急'97 西へ!ユーラシア編(1997年7月、朝日出版社
    • 劇的紀行 深夜特急'96 - '98 全記録(1998年1月、朝日出版社)

原作との主な相違

  • ドラマで松嶋が演じる女性(手塚真理子)は、原作には登場しないオリジナルキャスト。主人公の恋人役でデザイン事務所勤務という設定であり、本編中で主人公は「真理子」と呼んでいる。「劇的紀行 深夜特急'96〜熱風アジア編〜」では日本を出発する前日に主人公と電話で会話するシーンがあるが、その電話のシーンは自分の部屋から電話している主人公側からの様子のみとなっているため声の出演となっている。一方、「劇的紀行 深夜特急'97〜西へ!ユーラシア編〜」と「劇的紀行 深夜特急'98〜飛光よ!ヨーロッパ編〜」には実際に登場している。なお、本作品のクレジットではキャストの名前のみで役名は表示されておらず、シリーズ本編中の会話からも真理子の名字は明らかでないが、「劇的紀行 深夜特急'97〜西へ!ユーラシア編〜」での主人公の出発前日の回想シーンでは、真理子が電話で主人公と話している会社側からの様子となっており、その際、会社で「手塚真理子様」という宛名の封筒を同僚から受け取っている。
  • ドラマの中では煙草を吸っているが、原作ではその習慣はないとの記述がある。
  • 日本から香港へ向かう航空機のエピソードがドラマでは省かれている。
  • ドラマではマカオに行っていない(香港から空路でドンムアン空港に直行している)。原作における、マカオのカジノでの大小の勝負は、ドラマでは香港の宿で行われている。
  • 原作では、チュムポーン売春宿に宿泊するくだりがあるが、ドラマでは原作にあるヒモの男は登場するものの、売春宿および売春婦という描写は出てこない。
  • ドラマのうち「劇的紀行 深夜特急'97〜西へ!ユーラシア編〜」で登場する渡辺哲が演じる中年日本人男性(土屋)は原作には登場しないオリジナルキャスト。ドラマではインドからパキスタン(デリー~アムリトサル間及びメザンチョークバザール~ケルマン間)にかけて主人公と行動を共にする。
  • 原作では、パキスタンからアフガニスタンを経てイランに入る。一方、ドラマでも主人公はラホールからアフガニスタンへ通過するルートを当初考えていたものの、内戦の影響で外国人の越境・入国が制限されていたためアフガニスタンの通過を断念してラホールへと引き返したという設定となっており、その後、パキスタンからイランへ砂漠越えをした。
  • 原作では、テヘラン建築家磯崎新夫妻と会い、その後、アンカラでは磯崎夫人知人のトルコ人女性のゲンチャイに会って観光をし、さらに、ローマでゲンチャイの先生の未亡人である日本人女性に出会うという設定となっている。一方、ドラマでは主人公は磯崎夫妻にではなくテヘランに出張中の友人に会いに向かうという設定となっており、また、実際には先述の中年男性・土屋の発病もあってテヘランに出張中の友人と会えずじまいになっており、その後、ドラマではアンカラを通過してイスタンブールに直行するような形になっており原作にある磯崎夫妻やゲンチャイに関連する人物は登場しない。
  • ドラマでは主人公がブリンディジ滞在時に所持金が少なくなってきた事実に気づかされ、その後、イタリアから日本に国際電話をかけ金の無心をするシーンがあるが、原作にこのくだりはない。
  • ドラマではローマ滞在時にポルタ・ポルテーゼの蚤の市でパスポートケースごと盗難被害に遭ってしまい、以前、イスタンブール滞在時に街の案内をしてくれた「ハナモチ氏」から渡されていたメモを手掛かりに、「ハナモチ氏」の知人である現地在住の日本人女性(千葉)に助けられているが、原作にはローマでパスポートを盗まれるというくだりはない。
  • ドラマではモナコのグランカジノで一勝負しているが、原作ではジャケットを着用していなかったため入場を断られ、またペンションでのジャケットレンタルも断念している。

ラジオドラマ

TBSラジオの「ラジオ図書館」で「深夜特急第一便」及び「深夜特急第二便」が放送された。主人公役は高橋長英テンプレート:節スタブ

ムック

2005年にスイッチパブリッシングから「coyote No.8 特集・沢木耕太郎「深夜特急ノート」旅がはじまる時」が刊行された。

関連項目

脚注

  1. 新潮社 おすすめの一冊『旅する力』 および、『旅する力』文庫版帯、新潮文庫*今月の新刊案内2011年5月版
  2. 沢木耕太郎(2008)深夜特急ノート. 新潮社