直行便
直行便(ちょっこうびん)とは、交通機関とりわけ船舶航路・航空路線・路線バス・高速バス等で、需要が多い遠方の区間を速達で運行するものを指す。直通便ともいう。また途中で全く停車・着陸・停泊しない場合は、ノンストップとも呼ばれる。
鉄道においては、日本や中国などの諸種路線で類型の列車が運行されている。また、空港連絡列車にも類型が多く存在する。
船舶航路における直行便
船舶航路の場合は、潮流などの自然条件が悪い場合でも需要が多い区間について運行される。
航空における直行便
航空路線の場合には、一般には遠方に行く航路ではあるが、需要が多い区間で航空機の乗り換えをしないで(直通で)運行する場合を指す。無寄航(ノンストップ)便は直行便の特別な場合であるとする定義、寄航便のみを直行便とする定義 (en:direct flight)、無寄航便のみを直行便(同義語)とする定義があり、書き・話す側と読み・聴く側で定義が違うと混乱の原因になる。
例えば、冷戦時代における日本発の場合、羽田(のちに成田)~ロンドン線などのヨーロッパ航路の場合、旧ソビエト連邦がロシア領内を通過させなかった事から、アラスカ州のアンカレッジに寄港して北極海を経由する北回りヨーロッパ線か、東南アジア・中近東を経由する南回りヨーロッパ線という2種類の航路であったため、モスクワ経由の航路をこう呼んだ。また、就航当時は航続距離が短く、途中で燃料の補給が必要といった航空機の技術的な問題もあり、北米路線ではアンカレッジやホノルル経由であったが、機体やエンジンなどの改良で1980年代までには解決したため、ほぼ政治的な要因のみとなった。1990年代以降はロシア領内が通過可能になったため、成田空港発着のヨーロッパ航路や北米航路では無寄港の直行便が一般的となった。
なお、近年は旅行の多様化や国際貨物の発達で、旅客や貨物の目的地が、各国の首都や経済中心都市とは限らなくなり、「直行便」よりも乗り継ぎが経済合理性にあう面も見られ、また、ハブ空港を設定し、乗り継ぎによる路線多様化の維持をする例も多いため、「直行便」の意味も変化しつつある。
現在では、寄港地の有無にかかわらず、同一の便名で運航されるものを直行便と呼ぶことが一般的である。寄港地では、一旦機内から出て待合室で待機することも多く、途中で機材が変わる場合もあるので、直行便とはいうものの、寄港地がある便の場合は、乗り継ぎをする場合と同様の手間がかかることも多い。
バスにおける直行便
路線バス・高速バスの場合には、速達性を重視する需要が多い区間について、一部のバス停留所・バスターミナルを通過して運行される。「ノンストップバス」・「ノンストップ便」などと称されたり、あるいは鉄道の列車種別を冠して「急行バス」・「快速バス」・「特急バス」などと称される場合もある(例:都営バスの急行05系統)。また、高速道路を経由しないものが「高速」を称する場合も同様の扱いである場合がある。
九州内の高速バス路線では、各停便の上に停車場所の少ない「ノンストップ」、さらに停車場所が少ない「スーパーノンストップ」が設定されていることがある。概ね発着都市間での停車地が少ないものを指して呼称されるもので、起点と終点の間が無停車なわけではない(とよのくに号、サンライト号、九州号、ひのくに号、なんぷう号、フェニックス号も参照)。
イベント会場などへ臨時で運行される連絡バスには、直行運転を行う場合が多い(例:都営バスの国展01系統)。また通学バスでも「直行便」と称する系統もある(例:京都京阪バスの立命館宇治中学校・高等学校への駅からの直通便)。
鉄道における直行便
鉄道の直行便は速達性を高めるため、しばしば看板列車として設定される。ただし、鉄道事業者にとっては同じ所要時間であれば停車駅が多いほうが乗客を増やせるため、特に近年は車両や施設の改良で余裕時間が生じた場合は停車駅を追加する傾向にあり、直行便の列車は減りつつある。
ここでは主に1990年代以降の直行便について詳説する。 それ以前に直行便が存在した路線・区間としては、以下のものがある。
- 阪和電気鉄道(現・JR阪和線) - 超特急が阪和天王寺駅~東和歌山駅間無停車。
- 高徳線(高徳本線) - 急行「阿波」「むろと」に高松駅~徳島駅無停車の便あり(1982年11月まで)。
- 函館本線(札幌駅~旭川駅) - 急行「さちかぜ」、特急「いしかり」。運転区間が千歳空港駅や苫小牧駅に延長された後(「ホワイトアロー」)にもこの区間はノンストップの便が存在した。→スーパーカムイ (列車)#電車エル特急「いしかり」登場以降も参照されたい。
- 東武鉄道(浅草駅~東武日光駅) - 1987年までノンストップ運行列車の設定があった。
- 京浜急行電鉄(品川駅〜浦賀駅) - 1953年まで一部のハイキング特急が途中駅ノンストップで運転されていた。
新幹線のノンストップ列車
JR東日本の運営する上越新幹線では、東京駅~新潟駅間をノンストップで走る「とき」が1往復(「Maxとき313号」・「Maxとき314号」)運行されていたが、2013年3月の改正で消滅した。また、長野新幹線(正式には北陸新幹線)の「あさま」で東京駅~長野駅間ノンストップのものが設定されていたが、2002年12月の改正で消滅した。
JR九州の運営する九州新幹線では、速達タイプの「つばめ」のうち、部分開業区間の新八代駅~鹿児島中央駅間を無停車で走るノンストップ列車が1往復(「つばめ1号」・「つばめ18号」)運行されていた。これは2011年3月、同路線の全線開業によって消滅した。
近鉄におけるノンストップ列車
近畿日本鉄道(近鉄)の特急には「甲特急」と「乙特急」の2タイプが存在する。後者は主要駅に停車するものであるのに対して、前者はここで言う直行便に近いものとなっている。
例えば、「名阪ノンストップ特急」と案内されていた大阪難波駅(大阪)~近鉄名古屋駅(名古屋)間を運行する「甲特急」の場合、基本的には大阪市内の大阪上本町駅・鶴橋駅にしか停車せず、中間の都市は全て通過する形態の運行であった。ただし、この系統の甲特急は2012年3月のダイヤ改正によって全便が津駅停車となり、ノンストップ運行ではなくなった。そのため「ノンストップ特急」と案内されることはなくなっている。
また大阪難波駅~賢島駅運転で途中鶴橋駅~宇治山田駅間無停車の「阪伊ノンストップ特急」や近鉄名古屋駅~賢島駅間運転で阪伊間同様宇治山田駅まで無停車の「名伊ノンストップ特急」が存在したが、前者は2010年3月のダイヤ改正以降土休日ダイヤのみの運転(下り2本・上り1本)となり、名伊ノンストップ特急については津駅の追加停車により呼称そのものが消滅している。
ただし、「甲特急」の中にも中間のいくつかの駅に停車するタイプのものがある。大和八木駅に停車する名阪甲特急が設定された当初は近鉄ではそれも含めて「甲特急」を「ノンストップ特急」として案内していた。しかし現在では名阪甲特急についてはノンストップであることよりも、専用車両である「アーバンライナー」で運転されることの方が売り文句となっているため、車両名を前面に打ち出した案内に切り替えられており、甲特急のうち鶴橋~名古屋間無停車の列車は「ノンストップ特急・アーバンライナー」、その他の甲特急は単に「アーバンライナー」と案内されるスタイルが取られている。
また特に「ノンストップ」とは案内されていないが、2011年3月16日のダイヤ変更までは南大阪線にてラッシュアワーが終わる頃に運行された大阪阿部野橋駅→古市駅間の急行、同日から平日の深夜に運行されている古市駅→大阪阿部野橋駅間の急行も、ノンストップ列車である(ただしこれは急行停車駅1駅間の運行である)。
その他、生駒鋼索線(山上線)でも日中や夜間に途中駅に停車しない便が設定される。「直行」を参照のこと。
京成におけるノンストップ列車
京成電鉄では過去に、本線の「開運号」が京成上野駅~京成成田駅間で青砥駅のみ停車の準ノンストップであった。
その後1973年12月30日より「スカイライナー」が設定され、青砥駅も通過となり完全なノンストップ列車となった。成田空港駅までの延長後は、一旦「スカイライナー」の全列車は京成成田駅を通過するようになったが、翌1979年に一部列車が停車することとなった。1983年には上り列車が日暮里駅停車となり、ノンストップは下りの約半数のみとなった。1991年に全列車日暮里駅停車となり、ノンストップ列車は無くなった。
小田急におけるノンストップ列車
小田急電鉄では、特急ロマンスカーのうち、「スーパーはこね号」(1996年3月の停車駅変更前ははこね号)が小田原線内を途中駅無停車で運転している。もともと特急ロマンスカーは全列車が途中駅無停車であった。
箱根登山鉄道におけるノンストップ列車
箱根登山鉄道では、前述した小田急電鉄の特急ロマンスカーのうち、「スーパーはこね号」を含む一部特急列車が箱根登山鉄道鉄道線の箱根湯本駅まで乗り入れているが、途中駅無停車で運転される。但し単線区間のため、一部列車は交換待ちのため運転停車することもある。
阪神におけるノンストップ列車
阪神電気鉄道では本線において、阪神甲子園球場で高校野球大会やプロ野球の試合が実施される際、観客輸送のため梅田駅と甲子園駅の間にノンストップの臨時特急を設定することがある。
なお同区間においては、特急よりも尼崎駅を通過するだけ通過駅が一つ多い。しかし平行ダイヤを組むことが多いため、ノンストップといえども尼崎駅に停車する定期の特急より所要時間を要する場合もある。
2009年3月改正で上りの臨時特急は阪神なんば線と接続を取るため尼崎駅に停車するようになり、現在では下りの臨時特急のみがノンストップ列車となっている。
西鉄におけるノンストップ列車
西日本鉄道の天神大牟田線では、朝ラッシュ時の上り列車に用いた車両を車庫に送り込むための下り回送列車を「直行」として営業列車にしていた。運行開始当初は西鉄福岡(天神)駅から車庫のある駅(春日原駅ないし西鉄二日市駅)まで完全なノンストップ運行としていたが、1995年3月25日改正では種別は存続したものの薬院駅に全列車が停車するようになり、完全なノンストップではなくなった。2010年3月27日改正で廃止された。
空港連絡におけるノンストップ列車
空港連絡鉄道においては、都市と空港を直結するのが主たる目的であるため、その間は停車しない優等列車が設定されることがよくある。日本においては、下記のような例がある。
- 「成田エクスプレス」(JR東日本) 東京駅~空港第2ビル駅間で時間帯を区切って無停車。
- 「スカイライナー」(京成電鉄) 日暮里駅~空港第2ビル駅間無停車。
- 「空港快速」(東京モノレール) 浜松町駅~羽田空港国際線ビル駅間無停車。
- 「エアポート快特」(京浜急行電鉄) 品川駅~羽田空港国際線ターミナル駅間無停車。
- 「はるか」(JR西日本) 天王寺駅~関西空港駅間で時間帯を区切って無停車。
- 空港特急ミュースカイ(快速特急)(名古屋鉄道) 神宮前駅~中部国際空港駅間で時間帯を区切って無停車。
また、南海電気鉄道の「ラピート」のうち「ラピートα」は1994年の運行開始当時は難波駅~関西空港駅間無停車であったが、1996年に新今宮駅と天下茶屋駅を停車駅に追加し、ノンストップ運転ではなくなった。その後泉佐野駅・りんくうタウン駅も停車駅に加わり、現在では直行便の性格は失われている。
仙山線のノンストップ列車
上越新幹線と同じくJR東日本の運営する仙山線では、山形新幹線建設時の奥羽本線運休に伴い、「つばさ」(在来線特急)を含む多数の列車が仙山線経由で運行されることになった。この際、仙台駅~山形駅間をノンストップで走る特別快速「仙山」が何往復か設定された。
この快速列車は当時の仙山線では最速達列車で、東京方面から山形駅へ向かうには、福島駅で特急「つばさ」に乗り継ぐよりも、仙台駅で当列車に乗り継いだ方が速いことで話題になった。
その後ノンストップの特快「仙山」は廃止され、しばらくの間北仙台駅・山寺駅のみ停車の特別快速「ホリデー仙山」として運行されていたが、2003年に廃止された。
函館本線・室蘭本線・千歳線におけるノンストップ列車
仙石線のノンストップ列車
仙石線の快速列車(当時は列車愛称として「うみかぜ」が付けられていた)のうち、一部が特別快速として仙台駅~石巻駅間をノンストップで運転していた。詳細は「仙石線」のページを参照。
京葉線のノンストップ列車
中国鉄路におけるノンストップ列車
2004年4月18日より中華人民共和国の鉄道(中国鉄路)では、北京~上海間など主要都市間に「直達特快」という直行列車の運行を始めた。列車番号が「Z」で始まることから「Z列車」とも日本では呼ばれる。
これは国内航空路線との競争が激しくなり、中国鉄路はそれまで「汚い・乗務員の態度が悪い・遅い・治安が悪い」など悪評が多かったため、このままでは乗客をみすみす奪われてしまうと考え、ノンストップで質の高い列車を運行する事にしたからである。航空機と同様、あるいはそれもを上回るサービスの列車を運転するという観点や、防犯上の理由などから、途中無停車となった。編成も軟臥(上等寝台)が基本とされるなど、現在の中国では最上格の長距離列車といえる。
但し、北京~上海間ではそれ以前からノンストップの特快は運行されていた。