自動列車停止装置
自動列車停止装置(じどうれっしゃていしそうち、ATS: Automatic Train Stop)は、鉄道での衝突防止や過速度防止の安全装置(=自動列車保安装置と呼ぶ)の日本での分類の1つ。列車や軌道車両が停止信号を越えて進行しようとした場合に警報を与えたり、列車のブレーキを自動的に動作させて停止させ、衝突や脱線などの事故を防ぐ装置である。
目次
- 1 定義
- 2 歴史
- 3 ATS動作・構造概要と分類
- 4 黎明期のATS
- 5 国鉄・JRのATS
- 6 私鉄のATS
- 7 軌道のATS
- 8 台湾のATS
- 9 中国のATS
- 10 韓国のATS
- 11 脚注
- 12 参考文献
- 13 関連項目
- 14 外部リンク
定義
日本工業規格のJIS E 3013(鉄道信号保安用語)では、以下のように定義されている。
- 自動列車停止装置
- 列車が停止信号に接近すると、列車を自動的に停止させる装置。ATSともいう。
- 自動列車制御装置
- 列車の速度を自動的に制限速度以下に制御する装置。ATCともいう。
ATSには停止信号による自動停止機能のほかに、停止信号また信号現示に関わりなく制限速度設定を超えた場合に警報・減速または停止させる機能がついたものもある。
日本の鉄道と軌道法において一般的な自動列車保安装置であるが、鉄道事業者や軌道経営者によってその内容は大きく異なり、機能自体はATCと遜色のないものを使っている事業者もある。しかしながら、ATSにおいて安全走行を確保する主体は運転士であり、ATS装置は運転士のヒューマンエラーに対するバックアップが目的であるのに対し、ATCにおいてはATC装置が安全走行を確保する主体となっている点が異なる。
日本以外の国においては、安全装置の考え方が違い区分法が違うので、ATCを含め直接の対応語はない。そのため同様の機能の装置に様々な命名があり、AWSと称しているところもある。
歴史
ATSの歴史は過去に発生した鉄道事故と、その教訓による改良の繰り返しの歴史とも言える[1]。
- 1921年(大正10年) : 東海道本線の汐留駅 - 品川駅間で磁気誘導式のATS試験。その後、横浜線や福知山線でも別方式の試験が行われる。
- 1927年(昭和2年) : 東京地下鉄道(現在の東京メトロ銀座線)が、日本で初めてのATS実用運用路線として開業。打子式。
- 1941年(昭和16年) : 山陽線網干駅列車衝突事故。この事故をきっかけに東海道・山陽・鹿児島線で連続コード速度照査式ATSの設置工事を開始したが、受信機が爆撃を受け全損したため頓挫する。また、戦後すぐに関門トンネルを挟む幡生駅 - 門司駅間9.8kmを部分完成させ、車上装置を4両に搭載し試験を開始したが占領軍命令で中止となった。
- 1954年(昭和29年) : 山手線・京浜東北線でB形(軌道電流式)車内警報装置を使用開始。B形車内警報装置はその後東京・大阪の国電区間に設置される。
- 1956年(昭和31年) : 参宮線六軒事故。国鉄が全線に車内警報装置を設置決定するきっかけとなる。
- 1960年(昭和35年) : 都営地下鉄1号線(現在の浅草線)開業。相互乗り入れの京成押上線とともに軌道電流式ATS(1号型ATS)を採用。
- 1962年(昭和37年) : 三河島事故。国鉄が全線に設置中の車内警報装置に非常制動タイマーを付加して「自動列車停止装置」=「ATS」とするきっかけとなる。
- 1964年(昭和39年) : 名古屋鉄道新名古屋駅構内で列車追突事故が発生し、これを機に私鉄では初となる速度照査機能付ATSが翌1965年に設置される。(後述)
- 1966年(昭和41年)
- 1967年(昭和42年)
- 運輸省が大手私鉄などにATS設置を指示(昭和42年鉄運第11号通達)。
- 新宿駅構内米軍燃料輸送列車事故。国鉄はこの事故をきっかけに場内信号直下にATS-S直下地上子を新設した。
- 1968年(昭和43年) : 御茶ノ水駅追突事故。警報維持装置設置=ATS確認扱い2段階化。確認扱い後の注意喚起機能(確認ボタン押下後もチャイム音が鳴り続ける)を追加。
- 1974年(昭和49年) : 関西本線でATS-Pを試験運用。多変周地上子式で現行とは異なる。
- 1984年(昭和59年) : 西明石駅過速度大破事故。現在のATS-Pの原型であるトランスポンダを用いたH-ATS開発を決定。
- 1986年(昭和61年) : 山陽本線西明石駅ほか3駅にトランスポンダ式H-ATS(現在のATS-P)が設置される。
- 1988年(昭和63年)
- 12月1日 - トランスポンダ方式の全面ATS-Pを京葉線で供用開始。関西線変周式ATS-Pは中断されており、H-ATS→ATS-P'と呼ばれていたのを正式にATS-Pとした。
- 12月5日 - 東中野駅列車追突事故発生。JR東日本、ATS-P換装計画拡大前倒しを表明。運輸省、国電区間(ATS-B区間)など錯綜区間のATS-P換装を指導。
- 1989年(平成元年)
- 飯田線北殿駅列車正面衝突事故・阪和線天王寺駅衝突事故と、既存のATSの弱点を突いた事故が多発する。
- JR東日本・東海がJR各社の委嘱を受けたATS-S改良のATS-SN開発。全JRに即時停止地上子123kHzを追加、警報直下地上子を換装。JR東海はさらに車上時素式速度照査108.5kHzを開発、ATS-STと呼ぶ。ST仕様はJR東海以西のJRとJR貨物(車上装置)に普及。
- 1990年(平成2年)
- 1997年(平成9年) : 中央線大月駅スーパーあずさ衝突転覆事故。ATS電源のハンドル投入式改造中に未改造車の誤出発を止められず
- 2000年(平成12年) : 京福電気鉄道越前本線列車衝突事故。京福は翌年も同様の事故を起こす。
- 2002年(平成14年) : 国土交通省から中小事業者に対し補助金を付けてATSの整備を指示。
- 2005年(平成17年)
- 土佐くろしお鉄道宿毛駅衝突事故。この事故を受け、国土交通省は終端防護用ATSの緊急整備を指示。
- JR福知山線脱線事故。この事故を受け、国土交通省は曲線等速度超過防止用ATSの緊急整備を指示。
- 2006年(平成18年)3月
- 国交省令鉄道技術基準改定。安全設備設置選択を各鉄道事業者自身の責任で行うことを明記し、不設置理由として「行政指導がなかった」とは言わさない規定に改め、基準も機能規定化を図った。
- 2006年(平成18年)6月:JR東海、ATS-STを総て、安全性の高い「停止位置基準車上演算型ATS」≡ATS-PTへの換装を発表。保安コードはJR7社共通仕様で、尼崎事故を機に、JR西日本特認コードだった車種別の「本則+α加算」や、新設「路線最高速度」などを7社共通コードに採用するなど補強を行い、数年で換装を完了した。
ATS動作・構造概要と分類
ATSの機能としては大別して信号現示に対して働く衝突防止のATSと、信号現示とは独立に進行信号で働く過速度に対するATSがある。また、運転上の取扱い方法は大きく2タイプに分けることができる。
- 停止信号に近づいたときに警報を発し、乗務員が警報に応じた所定の確認の取扱をしない場合に列車のブレーキを動作させる装置。(国鉄B型・S型)[2]
- 乗務員が信号に従った運転取扱いを行っている場合はその運転に介入せず、乗務員の(体調不良、錯誤、故意など理由を問わず)異常な取扱いが行われた場合にだけ介入して列車のブレーキを動作させる安全装置。(上以外のタイプ)
ATS装置には、様々な構造があり、メーカーから各事業者に納入されていて、同一路線で併用・機能分担されているものもあるので事業者毎の説明にはなじまない部分があり、構造・分類を概説する。
制御方式
ATSの制御情報を地上から車上に伝える方式とその装置にはいくつかの種類がある。
連続制御・点制御
ATSの制御情報を連続的に車上に伝えるものを「連続制御」、地上子など1点で情報を伝えるものを「点制御」としている。なお、この区別は、情報の伝達に関するものであり、受けた情報に基づく速度照査の方法とは異なる。「点制御」の場合にも、速度照査に関して、地上子から受けた情報を即時に照査する「点照査」の方式と、地上子からの情報を記憶して連続して照査する「連続照査」の方式がある。
地上装置・車上装置
ATSは、基本的には以下の装置によって構成される(詳細は後述「ATS動作・構造」参照)。
- 地上装置
- 地上に設置されている、信号機の現示や速度制限などの情報を列車に送る装置。
- 車上装置
- 車両に搭載されている、地上装置が送った情報を受け取り、条件によって自動的にブレーキを動作させる装置。特に、列車の速度がある値を超えた時に自動的にブレーキを動作させる機能を速度照査機能(速照)という。
地上装置と車上装置で情報を送受信する方式には、大まかに分けると以下の方式がある。
- 打子(うちこ)式
- 信号に連動する線路上のトリップアーム(可動打子)で、機械的に列車のブレーキコックを操作する方式。(点制御)
- 地上子式
- 線路上に置かれた「地上子」を用いて、電気的に点で列車へ情報を送る方式。(点制御)
- 軌道回路式
- レールに流した信号電流を用いて、電気的に列車へ情報を送る方式。(連続制御)
実際には、送受信の方式が同じ場合でも地上子やレールに流す信号の周波数や電文(コード)地上子の設置場所などが事業者によって異なるため、さらに細かく分けられている。地上、車上ともに信号の周波数などを含めた方式が一致して初めてATSがシステムとして有効になる。ATSの持つ「地上から列車にブレーキを動作させる」仕組みを利用したものとして、踏切防護装置、曲線速度制限装置、分岐器速度制限装置が存在する。
軌道回路
軌道回路とは左右の線路を電送線とし閉塞区間先端から入り口に向け信号電流を送り車軸が左右を短絡することで、閉塞入り口には信号電流が届かなくなって在線を検知して停止信号となり、一方車軸での短絡で1巻きのコイルを構成してこれを受電器で拾って地上から車上に情報を流す方式をいう。連続制御可能であり、信号現示の変化に対しての追従性が良い。ATS-B、1号型ATS、C-ATS、阪急ATS、ATCなどで使われている。
軌道回路に流す信号電流の種類により商用周波数軌道回路、分倍周軌道回路、AF軌道回路[3]、と分けられる。列車在線検出のための信号電流と、信号現示を列車に伝えるための信号電流があり、ATS-Bや新幹線ATCでは両者が兼用されているが、後日ATSを拡張設置した場合などは別の信号電流として重畳するものもある。
地上子
情報を受け渡すための地上装置一般。動作原理により変周式、トランスポンダ式などがあり、これを基準に制御する場合が「点制御」となる。ただし、「点制御」で受信した速度制限値などのデータを記憶して参照する場合には点制御でも「連続照査」「連続参照」となり、単純な「点照査」に比べ保安度は高まる。
変周式(単変周・多変周)地上子
変周式とは、車上受信器である車上子が、特定の共振周波数を持つLC回路で構成される地上子の上を通過すると、電磁結合により車上子の発振周波数が地上子の共振周波数に引き上げられるので(これを変周作用という)、この周波数をフィルタ回路で検出して地上情報を得る方式を指す。
国鉄のATS-S形では、車上側では、車上子は、増幅器による帰還回路に組み込まれており、常時発振周波数105kHzを発信している、その出力の一部はフィルター回路(105kHzのみしか通過できない)を経由してリレーを扛上させている。地上側では、地上子は、内部はコイルとコンデンサが直列接続されたLC回路で構成されており、そのコイルに、地上子制御用リレー箱に繋がっているケーブルが接続されており[4]、地上子制御用リレー箱内では、地上子制御リレー(QRリレーと呼ばれている)の接点がケーブルに接続されていて、地上子制御リレーの配線は制御ケーブルを経由して信号機に接続されている。地上子が不動作時(信号機が停止信号以外)には、地上子制御リレーが扛上して短絡され、地上子のLC回路は構成されないが、動作時(信号機が停止信号)には、地上子制御リレーが落下して、地上子のLC回路が構成されると、130kHzの共振周波数が地上子から発信され[5]、そこに車上子が通過すると、車上子の発振周波数が105kHzから130kHzに引き上げられ、それにより車上側ではフィルター回路を通過できず、リレーが落下して警報器を作動させ、表示器の白色ランプが消灯し赤色ランプが点灯して停止情報を伝える。これは1情報1共振周波数方式だったから、これを特に「単変周」と呼んだが、現在では車上からの地上子良否検査を可能にするため、地上子制御用リレー箱内の制御ケーブルにコンデンサ[6]を接続して、地上子制御リレーが扛上し短絡されている不動作時の共振周波数103kHzを発信して[7]、さらにこれを強制振り子制御の位置マーカーにしたから電気的に見れば純粋な単変周地上子はなくなった。ATS-Sx、ATS-Ps地上子はそうした有効 - 無効(取消 : 103kHz)2値型の単変周地上子である。多変周は地上子に複数の共振周波数を割り当てるもので、これに信号現示とその制限速度を割り当てたり、設置位置と併せ限界速度パターン発生に使用する。
京王、小田急、東武などの信号ATSがこの多変周方式で、東武ATS (TSP) は周波数の一部をパターン発生地上子に割り当てている(信号ATSとは別に過速度・過走防止ATSがある)。
最近の分類では意味の薄れた「多変周 - 単変周」を避け「多情報 - (単情報)」と整理されている。またATSシステムとしては多数の変周周波数を使用しても、単機能地上子として1周波数ということもある。
最近、JR西日本が開発したATS車上装置であるATS-SW2形は脱変周式と呼ばれている共振周波数検出方式を採用しており、スペクトラム拡散方式により、車上装置から車上子にATS地上子で使用されている共振周波数帯域の複数の周波数を常に送信しており、車上子と地上子が電磁結合すると、地上子では共振電流が流れ、車上子では地上子から発信される共振周波数の信号スペクトルの受信レベルが上昇して、それをFFT方式によるスペクトル解析で共振周波数ごとの信号スペクトルの受信レベル変化によるピーク周波数を検知して共振周波数を検出している。
テンプレート:Double image aside テンプレート:-
トランスポンダ式地上子
トランスポンダ(地上子)とは、鉄道ではデジタル情報送受地上子のことで、送信機能のみのものも含めて呼んでいる。ATS-P形で知られる様になったが、それ以前にも新幹線には多数使われている。元々はトランスミッタ(送信機)とレスポンダ(応答機)で構成される通信機器のことであり、問い合わせに対して応答するもの、もしくは中継器を指していて、多くの情報を高品質と高速度で伝達する機能を有している。
トランスポンダ式地上子を使用している、ATS-P形の基本的な地上設備は、符号処理器 (EC) と中継器 (RP) と地上子で構成されており、地上子と車上子との間の送受信に使用される周波数(搬送波)は、有電源地上子又は無電源地上子から車上子に送信する際は1708kHz、車上子から有電源地上子に送信する際は3000kHz、車上子から無電源地上子に送信する際は245kHz[8]を使用しており、変調方式はFSK変調(Frequency Shift Keying : 周波数偏移)を使用している[9]。通信方式は双方向での情報伝達が可能なよう二重通信方式を使用しており、64kbpsの伝送速度で、ハイレベルデータリンクのフレーム構成に準拠した電文構成により、1フレームあたり88又は96ビットのデジタル信号が、繰り返し伝送されている。また、地上装置と車上装置の間では、そのデジタル信号を一旦変換(変調)してから、送受信を行う為、その変換手段としてモデムを使用しており、その変調器 (MOD) と復調器 (DEMO) を使用して、送信の際では、変調器にデジタル信号を入力して変調波を出力させ、受信の際では、復調器に変調波を入力してデジタル信号を復元させることにより、情報を得られるようになっている。
速度照査
列車の速度を計測し、その速度が許容された速度の範囲内であるか否かを照合する。これを速度照査(そくどしょうさ)と言い、速度照査の方法やその制御もいくつかに分類できる。
点照査・連続照査・パターン照査
速度照査には、ある地点でだけ照査する「点照査」と、連続して照査し続ける「連続照査」があり、さらに従前一定値だった照査速度を基準位置に対する列車の位置毎にリアルタイムで算出・照合する「パターン照査」がある。連続制御ではない点制御方式であっても速度制限コマンドを記憶して照査を続けることも「連続照査」方式という。
地上時素式過速度・過走防止装置
地上側に設置された列車検出のループコイルで地上子の地上タイマーを起動して一定時間停止地上子を有効にし、この間に列車が停止地上子に到達すると列車側に警報を鳴動させ、その後に非常停止させる(点照査型)方式。
時素式という照査の原理上絶対停止(0km/h(=時間差∞))を設定できないため、終点の駅などでは過走防止装置として狭い間隔で多数の地上子を配置することに加え、末尾に絶対停止地上子を置いて過走を抑えていることが多い。地上装置に電源が必要なため原則的に分岐器過速防止・警報装置として駅構内にのみ設置されていたが、2005年(平成17年)の曲線速照義務化通達で曲線にも利用されるようになった。
他の方式と併用して、低速で使用する例に小田急電鉄がある。京王電鉄も同様であったがATC化された。また、JRでは分岐器速度制限装置で使用されており、ATS-S形で使用されているループ式とATS-S改良形(ATS-SN形等)で使用されている地上子式があり、前者は、列車検出のループコイルとATS-S形の地上子を設置しており、列車通過時間が設定時間より短い場合は、警報が鳴動して、その後、5秒以内に確認ボタンによる確認扱いをしなければ非常ブレーキが掛かり、後者は、列車検知用地上子[10]と停止用地上子[11]の2つの地上子を10m間隔で設置しており、その間の列車通過時間が設定時間より短い場合には、警報が鳴動すると同時に非常ブレーキが掛かり、列車通過時間が設定時間より少し短い場合には、警報が鳴動して、その後、5秒以内に確認ボタンによる確認扱いをしなければ非常ブレーキが掛かる仕組となっている[12]。
京王電鉄の過走防止装置は時素0.5秒の速照地上子対を3 - 4対設置する方式の他に、1秒時素で15地上子を並べて地上タイマー起動コイルと停止コイルを兼用させて次々切り替える方式のものが行き止まり式の終端駅である、新宿駅・渋谷駅・高尾山口駅に設置されていた。ほぼ同等のものが小田急線新宿駅にも設置されている。 テンプレート:-
車上時素式過速度・過走防止装置
単変周点制御式(点照査型)
2基一対の地上子を車上子が通過する時間を計って速度を照査する方式。変周式の場合、地上電源が要らないので地上子を置くだけで動作でき、また地上子間隔を変えることにより、任意の速度を照査できる利点があり、線路終端部での過走防護や曲線と勾配での速度制限にも対応できる。ATS-Sの改良に際しJR東海がATS-STとして独自に開発しJR東海以西のJR各社に採用された。
私鉄ATSでは速度照査が義務付けられているのでATS-Sxとは違いこの過走防止装置で高速突入事故は起こらないが、過走に対する絶対停止機能は義務づけがない。その結果、新岐阜駅事故などの低速突入事故が繰り返されている。そのため終端駅などへの進入の際には、車止めへの衝突防止などのために用心深さ(人的用件)が特に要求される。
- ATS-ST chijyoushi.JPG
ATS-STの地上子、2基一対で地上子として機能する。
- ATS-STandPT chijyoushi.JPG
飯田線豊川駅でのATS-STとATS-PTの地上子の配置
黎明期のATS
ATSが導入される前は、「車内警報装置」(車警)という自動列車保安装置が使用されていた。この装置は文字通り「警報」を発生させるのみであり、自動的に列車を停止させる機能はなかった。
打子式ATS
国鉄・JRでは実用として使用されたことはないが、打子式ATSが1927年に東京地下鉄道(現在の東京メトロ銀座線)の開業時に採用された。実用的なATSとしては日本で最初に採用されたATSである。帝都高速度交通営団(現在の東京地下鉄)丸ノ内線・大阪市交通局(大阪市営地下鉄、御堂筋線・四ツ橋線・中央線)・名古屋市交通局(名古屋市営地下鉄)東山線でも採用されていた。
線路上に設置されたトリップアーム(可動打子)を地上子、車両床下に設置されたエアコックを車上子として用いる。重複式が特徴で、2個の信号機が連続して停止現示を示し、その間のアームが立ち上がり、その状態で列車が通過するとアームがエアコックに当たる。エアコックはブレーキ管に接続されており、これが開かれるため非常ブレーキがかかり2個目の停止信号手前で停止する仕組みである。
なお、停止信号現示以外に警戒信号現示でもトリップアームが立ち上がる路線もあった。その場合、警戒現示が続いていても、列車が手前のある地点を通過してから一定時間後にトリップアームが下がるように設定されていた。つまり、列車が警戒信号に従って徐行していれば、トリップアームは既に下がっていて、そのまま通過できる。トリップアームが下がる前に進入すれば速度超過と判定されて非常ブレーキがかかる。簡潔な方法ながら確実な速度照査を行なっていた[13]。
大阪市営地下鉄各線では1970年代ごろには早々と使われなくなったが、営団地下鉄(当時)銀座線・丸ノ内線では1990年代まで、名古屋市営地下鉄東山線では2000年に入ってからも使用が続けられていた。原始的な方式ゆえに列車密度の限界はあるが、単純な機構のため信頼性が高く、これら地下鉄での衝突事故は皆無である。しかし、物理的手法の限界から列車の増発による運行の複雑化に対応することができず、銀座線では1993年(平成5年)、丸ノ内線では1998年(平成10年)に使用を終了している。なお、名古屋市営地下鉄東山線が2004年(平成16年)で使用を終了したことにより、日本の鉄道事業法や軌道法に基づく鉄道で、この方式を用いたATSは全てATCに置き換えられ消滅した[14][15]。
国鉄・JRのATS
日本国有鉄道・JRグループで採用されたATSには、下記のような種類がある。また、これらの路線を引き継いだ第三セクター鉄道についても、多くの場合は同様のATSを使用している。
下述の「私鉄のATS」に比べ膨大なローカル線を抱えた旧国鉄・JRに対する政策的配慮から安全面で劣る状況が認められていた。
なお、かつてはA形という形式があったが、これは(車警以来の設備の老朽化により)1970年ごろまでに廃止されてS形に置き換えられている(使用実績が乏しいため、ここでは説明を省略する)。
B形(軌道電流形)・S形(地上子形)
いずれの方式も、ATS設置以前に使われていた車内警報装置に、5秒以内に確認操作をしなければ非常ブレーキがかかる機能を追加したものが元となっている。
B形は主に国電区間で用いられた方式で、商用周波数を利用した送電電流を2本の線路の間に流して軌道電流として用いる。B形は制御点に列車が到達したことを接近リレーで検知して、通常は流れ続けている軌道電流を一定時秒停電することにより、「停止信号接近」の情報が地上から車上へ伝達される。
S形は国電区間以外の線区で用いられた方式で、線路の線間に設置された「地上子」と、車両に設置された「車上子」の組み合わせによって構成されている。S形は「変周式」であり、車上の発振周波数が(車上子コイルを通じて)地上子の共振周波数に引き上げられることにより、「停止信号接近」の情報が地上から車上へ伝達される。国鉄が試験を行っていたC形の改良型だが機能の面での違いはなく、真空管を使った回路からトランジスタを使った回路に改良されている。
S形の場合、地上信号の停止現示に対応するロング地上子 (130kHzを発振する) を通過すると運転台において警告音(ベル)が鳴り、そこで運転士が5秒以内にブレーキをかけて(重なり位置にして)、確認ボタンを押すとチャイム(いわゆる「キンコン音」、一部の車両は電子音のタイプもある)に変わる(実際にはチャイム音はベル音とともに鳴り始める。ATS-S型の電源投入時やATCからATS-S型に切り替える時にもベル音とチャイム音が鳴動する)。
また、地上タイマー式の速度照査機能も存在する。これは、1つ目の地上子を通過と同時に地上装置のタイマーを起動、一定時間後に2つ目のロング地上子の電源が切れる。このため、一定時間以内に通過(=速度超過している)した場合には運転台の警報が鳴る。(ATS-SNではロング地上子を即時停止地上子に置き換えている)
B形の場合は、上記の「ロング地上子を通過」を「軌道電流停電を検知」と読み替えるのみで、あとはS形と同じである。
この確認作業をしない場合、列車は自動的に非常ブレーキがかかる。しかし、私鉄に出した運輸省通達では必須とされた速度照査機能がなく[16]、いったん確認作業をしてしまうと、それ以降は停止信号を通過しても非常ブレーキがかからないという欠点がある。実際、ATS確認作業後の運転扱い誤りが原因の重大事故が幾度も発生し、国鉄は何度かの改良を加えたが、根本的な改良はATS-Pまで持ち越すこととなった。
2009年(平成21年)現在では、B形の区間は全てATCまたはP形に換装され、S形の区間はP形を追設、あるいは即時停止地上子 (123kHz) や時素式速度照査地上子対 (108.5kHz) による非常制動を付加したSx形などに改善された。(旧来のS形をそのまま含んでSx形を構成している)
余談であるが、埼京線の赤羽 - 大宮間にATCが存在する理由として、建設当時はATS-Bが技術的に新しいものであり、かつ並行する東北新幹線の交流電気の影響を受け誤作動するおそれがあったためと言われている。 テンプレート:-
ATS-S改良形(ATS-Sx形)
警報機能のみのS形に、全JRが即時停止機能を追加し、さらにJR東海以西の各社とJR貨物で時素式速度照査の機能を追加した方式。
即時停止機能は、確認ボタンを押して警報を解除しても、停止現示の絶対信号機直下の地上子を通過(信号冒進)すると即座に非常ブレーキをかける機能である。車上時素式速度照査機能は、二対の地上子対通過時間を車上タイマーと比較して速度照査し、速度超過時には非常ブレーキをかける機能である。
ATS-S改良形はJR各社で呼び名が異なり受信機が異なるものもあるが、北海道旅客鉄道(JR北海道)と東日本旅客鉄道(JR東日本)はSN(JR北海道の一部車体表記はS)、東海旅客鉄道(JR東海)はST、西日本旅客鉄道(JR西日本)はSW (SW2) (車体表記はS)、四国旅客鉄道(JR四国)はSS(SSⅡ[17])(一部車体表記はSS)、九州旅客鉄道(JR九州)はSK (車体表記はSKだが、「S」と「K」を四角でそれぞれ囲んである為、北海道・東日本や東海の様に一緒に記載されて居らず、独立して記載されている)、日本貨物鉄道(JR貨物)はSFと呼ばれている。SN形には即時停止機能のみが追加されているが、それ以外にはSNの即時停止機能に加え車上時素式速度照査機能(2つの地上子の間を0.5秒以内[18]で車上子が通過すると非常ブレーキが作動する)[19][20]が追加され、さらにST形には列車番号送出機能[21]が追加されている。また、SW形ではST形から列車番号送出機能を省略して車上装置を設計し直したもので、このSW形がほぼそのままSK形、SS形となった。SF形は当初はSN型機能だったが後日、車上に時素速照ボードを追加してST形に対応した。またロング地上子と絶対信号機直下の即時停止地上子の変周周波数は130kHzと123kHzで共通で互換性があり、車上子の常時発振周波数はSNの105kHzの他は103kHzとしている。これは車上時素式速度照査機能を追加した為の措置で、速度照査区間にSN形やS形の列車が乗り入れても、車上速度照査用の地上子の変周周波数[22]にST・SW・SS・SK・SF形は反応するが、SNやS形は常時発振周波数帯域[23]の為、反応しない。また、車上時素式速度照査機能は分岐器の速度制限にも対応できるようになっている。
車体表記は、北海道がSNまたはS、東日本がSN、東海がST、西日本と九州がS、四国がSSまたはS、貨物ではSFとなる。
JR東日本車のうち、JR東海管内へ直通運転をする運用を持つ車両には、ST形と同等の車上時素式速度照査機能を持つATS(SN●と表記)を搭載している。
JR東日本管内に直通運転をしている伊豆急行の車両にはSiの表記があるが、呼び名が異なるだけでSN形と同じものである。ただし、伊豆急線内では地上装置として速度照査機構を設置しており、信号の現示速度を守っていればロング地上子による警報ベルは鳴動しないようになっている。
それと同様に、かつてJR西日本管内からの直通運転があり、現在でもキヤ141系などJR西日本所属の検査車両などが入線する富山地方鉄道の鉄道線では、JR西日本と同じくSW形を採用している。JR東海との関係が深い愛知環状鉄道線・伊勢鉄道伊勢線・東海交通事業城北線・名古屋臨海高速鉄道では、JR東海と同じST形を採用している。また、JR貨物との関係が深い水島臨海鉄道では、ATS-SFとほぼ同形(確認扱い運転がないタイプ)のATS-SMを採用している。JR線からの直通運転を行わない第三セクター鉄道でもS形からSx形に更新する事業者が増えている。
なお現状では、改良機能に対応した地上子(即時停止地上子・時素式速度照査地上子)は原則として、絶対信号機(場内・出発信号機)・線路終端部・分岐部・急曲線部のみに設置する拠点設置であり、閉塞信号機には設置されていない。ただし、例外として、JR東海の一部駅・あおなみ線の全駅の場内相当閉塞信号機には、即時停止地上子が設置されている。愛知環状鉄道線ではすべての閉塞信号機にも時素式速度照査地上子が設置され、すべての信号でロング地上子をなくしている。
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絶対信号機直下にあるATS-Sn形の即時停止地上子
- ATS-STchijyuushi.JPG
ATS-ST形の地上子
- ATS-ST chijyoushi no2.JPG
絶対信号機直下にあるATS-ST形の即時停止地上子
ATS-P形(デジタル伝送パターン形)
ATS-Pは、確認ボタンを押すと後は制御が働かなくなるATS-S形の欠点を改善するために開発されたATSである。
システム概要
停止信号・速度制限の位置、勾配、距離などの情報を地上装置・地上子から列車へ伝送し、列車ではその情報に基づき、自車の制動性能と走行距離から刻々の上限速度すなわちパターン(その列車が制動開始から停止・減速するまでの速度変化を表す曲線)を作成し、その上限速度値を用いて速度照査を行う。JR東日本ではⅠ形、JR西日本では1形とも呼ばれている。
停止信号を基準位置として車上で刻々算出した制限速度値(パターン)と比較して、そこまでに徐々に減速できるため冒進は起こらず、安全のための余裕距離もほとんど不要な優れた方式である。停止信号に対する制限と、4種の速度制限を設定でき、それらのうちの最低値で速度照査を行う。ATS-S・ATS-B形とは異なり、警報ベル音がなったあとに行なう確認扱い動作は必要としない。
速度照査はATS-S改良型のような点照査ではなく、安全のための無駄がほとんど要らず列車の制動性能が正常ならば停止信号冒進は発生しないため、車間を詰めながら非常に安全性の高い方式である。
構成としては、信号機から600m手前(外方とも呼ばれる)にパターン発生地上子を設置しており、信号機が停止現示の場合に、列車が手前の信号機による注意現示による速度で、その地上子に接近すると、その信号機までの距離などの情報[24]を地上子から送信して、それを車上子が受信して車上に送られ、車上ではそれを元に信号機までのパターンを作成・記憶する。その後、列車がそのパターンの許容速度以下で列車を減速させ停止させれば良いが、列車の速度がパターンの許容速度に接近すると[25]警報器が作動し、運転台のATS-P車上表示器にて「パターン接近警告」を表示する。さらに列車の速度がパターン速度を超えると、直通ブレーキ系車両では常用最大ブレーキにて列車を停止させ(常用制動は緩解時間が短いので、動作しても遅延が発生しにくい、また車両によっては非常ブレーキをかけると一旦停車するまで緩解できないことがある)、自動ブレーキ車両では非常ブレーキにて停止させる。その後に復帰扱いするとブレーキが緩解する。その他にも信号機がR現示からY現示又はG現示となる現示アップの場合には、その情報を車上に送信してパターンの更新[26]を行う更進用地上子を信号機とパターン発生地上子の間に設置しており[27]、閉塞・出発信号機には3個設置[28]し場内信号機には6個設置[29]されている。またカーブや分岐器での速度制限の場合には、信号機がR現示の場合と同じく、パターン発生地上子からの情報により[30]、速度制限があるカーブや分岐器までとそれに続く速度制限区間のパターンを車上で作成・記憶して、列車をそのパターンに沿って減速させて速度制限区間での速度照査を実施する。
ATS-Pが優れている理由は、上述の通り車上演算パターン型照査方式の採用により冒進がなく、各列車のブレーキ性能による最適な照査パターンの作成が可能となることにより、安全かつ高密度運転が実現でき輸送容量を増やすことができる。これはトランスポンダ使用のデジタル方式採用によるものではない。変周型ATS-Sx上位互換でパターン照査を導入したATS-Psはデジタル方式ではないが、同じ点で優れている。
反面、降雪時など想定制動性能を保証できない環境下では、安全のための余裕距離がない分、適切な位置までに停止・減速できない恐れがある。現に特急「はるか」において琵琶湖線で降雪下に280mの冒進事故が発生したことがある。
地上子から情報を受信した列車は、停止現示の信号機やカーブなどの速度制限までの距離に応じてパターンを作成・記憶するが、下り勾配でR現示の信号機がある場合は、地上子から「信号パターン補正」情報[31]を送信してパターンを補正する。
信号関係の「保安コード(電文)」はJR各社共通で協議決定すると定められているため、JR各社間で互換性があるが、JR東日本とJR西日本で異なるコードとなっているのは「列番情報(JR東日本)」「列車選別情報(JR西日本)」「速度制限を許容不足カント量(110mm=振り子式、70mm=高速、60mm=普通、50mm=機関車列車)毎に加算するコード領域(JR西日本)」「架線電圧切替、交直切替(JR東日本)」などである。
「速度制限を許容不足カント量ごとに加算するコード領域」については一部の曲線に導入されていたが、1990年(平成2年)ごろの導入以来2005年(平成17年)まで、設定値の約2/3に誤設定があり、多くは間違って共通(=JR東日本)方式で設定していたことが尼崎事故調査委員会の指摘により判明した。共通方式設定なら制限速度がJR東日本同様に最低車種になるだけで危険はなかったが、設定作業部局がJR西日本方式として機能拡張されていたことを知らなかった。発表時には誤設定の多数が「共通方式設定」だったとは解明されず、適用ミスで35km/h超過といったミスもあって、全国の鉄道事業者に設定値の点検を求めるなど問題になった。
なお、このコード領域については、2005年(平成17年)のJR福知山線脱線事故を受けての曲線速度照査義務化に伴い、JR東日本にも採用されることとなった。
以上の位置基準型の車上演算型速度照査方式、いわゆるパターン型速度照査が(停止信号)冒進のない安全なATSとしてJR東日本を中心にATS-Pとして普及し、安全度を落とさずに列車間隔を詰め線路容量を増やすことに成功した。その照査方式が自動列車制御装置 (ATC) にも取り入れられDS-ATC/D-ATC/KS-ATC≒ATC-NSなどで採用されて線路容量を増やした。総武快速線 - 横須賀線の東京トンネルや埼京線池袋駅 - 新宿駅間など、在来線のATC区間をATS-Pに換装した例も現れている。また大手私鉄の相模鉄道でも採用が決定している(現在のATSを廃止して更新予定)。これは相鉄がJRと相互乗り入れを計画しているためである。
しかし、ATS-Pはこうした非常に精密で高価な機器であることから、他のATSとの互換性は無く、独立したATSとして扱わなければならない。ATS-Pを安全かつ正確に作動させるために、専用の電源装置が必要になるほか、車上子も独立して設置しなければならない。この例として、JR東日本が保有する電気機関車EF65 501は、ATS-P設置の際に機器室に同電源装置を設置するスペースが確保できなかったため、運転室の助手席を撤去して設置する工事が行われている。蒸気機関車としては、同じくJR東日本が保有する「C58 239」・「C61 20」・「D51 498」の3台にもATS-Pが追設されているが、車上子は先台車上部に設置したため、万一の事故に備えての防護も兼ねて、スノープラウでカモフラージュを行い、装置の存在が目立たないように配慮されている。なお、電源装置はテンダー(炭水車)に設置しているが、設置場所はそれぞれ異なっている。一方、ディーゼル機関車は一部の車両がそれらの防護策を施さず、車上子が見える状態になっている。いずれの車両も、車上子は判別化のため、緑色に塗られている。
車体表記は、いずれもPである。
開発当初の経歴
1973年(昭和48年)12月26日に関西本線平野駅において、分岐器の通過制限速度を超えて進入した列車が脱線する事故が発生した。これを受けて速度照査機能付きのATSの開発が行われ、1980年(昭和55年)から多変周点制御式のATS-Pが関西本線で試用を開始された。この際に113系の一部編成に変周式ATS-Pを取り付けた。
その後、1984年(昭和59年)10月19日に山陽本線西明石駅において、寝台特急が制限速度を超過して分岐器に進入してホームに衝突して大破する西明石駅列車脱線事故が発生した。これを受けて位置基準車上演算方式(=いわゆる「パターン式」デジタル符号伝送のできるトランスポンダ式)で冒進・過速度の起こらないATSがH-ATSという名前で開発された。1986年(昭和61年)末に西明石駅・大阪駅・京都駅・草津駅の4駅に地上設備が設置され、寝台特急牽引用のEF66形電気機関車16両に車上設備が搭載されて、ATS-Sと併用する形で運用が始まった。このH-ATSはATS-P'とも呼ばれていた。
初めて全線総ての信号機に設置されたのは、1988年(昭和63年)末に新規開業した京葉線で、これ以降H-ATSを正式にATS-Pと定め、関西線の変周式ATS-P運用は打ち切った。地上装置は1型ATS-Pとされた[32]。
エンコーダ方式 ATS-P 地上装置
情報伝達は従来方式のように地上→車上の一方向ではなく、地上←→車上の双方向に伝達・応答をするトランスポンダ式で開発されたものである。地上装置ではそれを利用して、列車からの列車番号や列車選別等の情報を、車上→地上へ伝達することにより、関係する信号機の現示を上げることができる現示アップ機能を設けたので[33]、その結果運転間隔をさらに短縮することができ(H-ATS、1型、PN型地上装置ではこのような現示アップ機能は不使用)、種別による踏切の定時間制御を可能とした。JR東日本ではⅡ形 - Ⅴ形[34]と機器室集約形、JR西日本では2形と3形がある。
285系「サンライズエクスプレス」はJR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国の区間にまたがって運転されているが、車上子の設置位置がJR東海車は運転室直下であるのに対して、JR西日本車は中央だったため、入線試験時に停止定位の出発信号でパターンに当たることがあった。営業運転に際しては車上子を運転室直下に移設して本州3社のATS-P区間でトラブルが起こらないように対策した。営業運転に伴い以下のように運転することとなった。
- JR東日本・JR東海管内(東京駅 - 米原駅間) - ATS-Pを使用(手動の切替スイッチを「P」位置に設定=P/S自動切替)
- JR西日本・JR四国管内(米原駅以西) - ATS-P/Sxを併用して運転(切替スイッチを「S」位置=P/S併用 : 拠点Pモード)
取り扱いに関しては下り列車はJR東海の乗り継ぎ乗務員が、上り列車についてはJR東日本の乗り継ぎ乗務員がATS切替スイッチにて手動で切り替えていた。これは拠点P(=Sw扱い)の福知山線と全面Pの東西線直通列車が尼崎駅で行うP/S切替操作と同じである。後述しているが、JR東海が2010年度よりATS-PTを導入したため、熱海駅でのATS切り替えは行われなくなった。近年は団体輸送などでも同様の事象があるため米原駅以西を直通運転する列車についてはサンライズ同様の取り扱いをすることとなっている。
なおATS-PT導入以前、JR東日本と東海を跨ぐその他の定期列車については丹那トンネルの東京寄りにATSの切り替え地上子があり、そこで自動的に切り替わるようになっており、下り列車の場合はS型のチャイムが鳴動し、運転士が手動にてチャイムを止める(ATS-PT搭載車は電子チャイムのみ、S型チャイムは鳴動しない)。逆に上り列車の場合はP型のチン・ベル(ATS-PT搭載車は電子チャイム)が鳴動するが特段することはなくそのまま走行する(ATS-P/Sx自動切替は伊豆急行線伊東駅構内などで常時見られる。)JR東日本では「拠点P」方式を導入していないため、P/S手動切替は無用だが、切替を間違えてもそれぞれが動作し危険な状態にはならない。
地上装置設置区間
- JR東日本のATC導入線区をのぞく首都圏地域と、山形・秋田新幹線(山形新幹線は、奥羽本線(福島駅 - 新庄駅)。秋田新幹線は、田沢湖線全線、奥羽本線(大曲駅 - 秋田駅))
- JR西日本の大阪環状線・桜島線(JRゆめ咲線)・おおさか東線・JR東西線全線と、阪和線・関西空港線・関西本線(大和路線)・奈良線・嵯峨野線の一部
- 智頭急行智頭線
- 北越急行ほくほく線
- 東京臨海高速鉄道りんかい線
- 相模鉄道相鉄本線・相鉄いずみ野線
SN形などの変周式とは互換性がないため、P形が搭載されていない列車が入線する可能性がある線区では、ATS-S改良形 (=Sx) を併用している[35]。関西空港線(りんくうタウン駅 - 関西空港駅間)は南海電気鉄道との共用区間であるため、南海ATSを併用している。また相模鉄道においてもJR乗り入れ工事によりJR首都圏地域と全く同じ ATS-P の設置が計画され、全線において地上機器の設置が完了し、試運転が行われていたが、2014年3月30日より全線で使用を開始した。
ATS-PN(無電源地上子方式ATS-P)地上装置
比較的列車密度の低い線区に導入されているATS-P形の地上装置。地上設備費用を低減するためエンコーダを使わずに無電源地上子の現示によるリレー切替としたもので、それにより車上→地上への情報伝達機能を省略したものである。
当初無電源地上子は1コマンドだったが、これを最大5現示対応に拡張して「電文」=コードを複数持たせている。Sx地上子と同様に現示条件だけで制御できるので非常に安価に設置でき、2001年初頭から2010年にかけて、首都圏周辺部の現示アップ機能の必要ない線区約600kmに導入されている。
省略されて存在しない機能は、符号処理器 (EC) 間通信、車上列番受信、光電送、現示アップ、踏切定時間機能。車上装置はすべて共通である。
車両表記はP。
設置区間
- 川越線
- 武蔵野線
- 日光線
- 烏山線
- 中央本線 : 高尾駅 - 塩尻駅間(中央東線)
- 成田線
- 外房線
- 内房線
- 東金線
- 久留里線
- 八高線
- 五日市線
- 相模線
- 鶴見線
- 両毛線
- 上越線 : 高崎駅 - 水上駅間
- 信越本線 : 高崎駅 - 横川駅間、篠ノ井駅 - 長野駅間
- 篠ノ井線(姨捨駅および桑ノ原信号場構内を除く)
- 大糸線 : 松本駅 - 北松本駅間
ATS-PT形(JR東海ATS-P)
JR東海がATS-STの取り替えにより、2010年度から順次導入している方式。2012年2月に全ての在来線において更新が完了した[36]。
基本的構造はJR他社で導入されているATS-Pと同様であるが、常用ブレーキは使用しない。すなわち、他社のATS-Pの車上装置(自動空気ブレーキ方式の車両を除く)では常用ブレーキと非常ブレーキに基づくパターンをそれぞれ生成し、前者を超過した場合には常用最大ブレーキが作動して停止するのに対し、ATS-PTの車上装置では非常制動に基づく照査パターンのみを生成し、それを超過した場合には非常ブレーキが作動し停止する。これは自動空気ブレーキ方式である従前の機関車、ディーゼルカー用ATS-Pと同機能である。ATSの目的はあくまで安全確保と考え、運転支援のための機能を省略してコスト削減を実現したものと言える。また停止後に復帰扱いすれば緩解して運転を続行できるのはATS-Pと同じである。
ATS-STの地上設備はPTが動作できない場合に備えてST絶対停止を残して撤去された。なおJR西日本管内(新宮駅、米原駅[37]、猪谷駅構内を含む「ATS-SW」、「P・S併用」)と篠ノ井線のスイッチバック構造で後退運転する姨捨駅・桑ノ原信号場(構内のみATS-SN[38])、中央本線辰野支線内・辰野駅構内・大糸線の一部区間 (ATS-Ps)、関西本線亀山駅・伊勢鉄道・愛知環状鉄道(ATS-STのまま)、駅構内の一部の貨物発着線、貨物線内 (ATS-SF) などで車両側にATS-STが必要である。
運転席を立ち上げる時はATS-STで起動され、ATS-Pの地上子を通過してATS-PTに切り替わる点は、他社のATS-Pと同様である。
地上子は閉塞や単純の駅は最大5電文式の無電源地上子(東日本のATS-PNと同じ)、曲線等の速度制限は電文固定式の無電源地上子、駅構内などの複雑な箇所はエンコーダ式(フルP)地上子を設置する。
車両表記は、東海ではPT。
車両別の対応状況
()内は引退またはJR東海エリアからの定期運用撤退車両、「」内は導入予定車両
- JR東海が保有する車両
- 211系、213系、311系、313系、371系、383系、キハ11形、キハ25形、キハ40系、キハ75形、キハ85系、キヤ95系、キヤ97系、(117系、119系)
(JR東海全車両)- ATS-PTの車上装置を新たに設置する。2008年以降に製造された車両には、製造時から設置されている。
- (119系は2012年3月改正で、117系は2013年3月改正で引退)
- 285系
- 他社区間で使用するために設置されているATS-P車上装置をそのまま使用する。
- 373系
- ATS-P(東日本仕様)からATS-PT(東海仕様)に換装している。
- (DE15形)
- 211系、213系、311系、313系、371系、383系、キハ11形、キハ25形、キハ40系、キハ75形、キハ85系、キヤ95系、キヤ97系、(117系、119系)
- JR東日本が保有する車両
- JR西日本が保有する車両
- JR貨物が保有する車両
- 名古屋鉄道が保有する車両
- 小坂井駅 - 豊橋駅間に乗り入れる全ての形式(名鉄全車両)
- 併設されているM式ATSを使用するため、ATS-PTには対応しない。
- 小坂井駅 - 豊橋駅間に乗り入れる全ての形式(名鉄全車両)
- 小田急電鉄が保有する車両
- 伊勢鉄道が保有する車両
- イセIII形
- ATS-PTの車上装置を新たに設置する。
- イセIII形
- 衣浦臨海鉄道が保有する車両
- KE65形
- ATS-PFの車上装置を新たに設置する[40]。
- KE65形
- 名古屋臨海高速鉄道が保有する車両
- 1000形
- ATS-PTの車上装置を新たに設置する[41]。
- 愛知環状鉄道が保有する車両
- 2000系
- ATS-PTの車上装置を新たに設置する。
- 2000系
- 東海交通事業が保有する車両
- キハ11形
- ATS-PTの車上装置を新たに設置する。
- キハ11形
このほか、西濃鉄道DD40形およびDE10形、樽見鉄道ハイモ230形およびハイモ295形、名古屋臨海鉄道ND60形およびND552形が、駅構内においてJR東海の管理する線路に乗り入れているが、これらの扱いに関しては不明である。
設置区間
- 2010年度導入線区(すでに、搭載している車両では使用開始している)
- 2011年度導入線区
ATS運転方向設定
ATS-Pの車上装置は、車上で設定する運転方向スイッチの方向とATS-P地上子から発信される制御情報の中の運転方向ビット(情報)を受信して、車上で両者の運転方向条件が一致した場合のみ、その制御情報を採用する方式を取っている。運転方向設定の方式としては2種類あり、車上に運転方向条件を切替える運転方向スイッチを設置してA線とB線の切替を行ない、地上側のATS-P地上子にはA線用とB線用を設置して、A線用にはA線用の運転方向ビット(情報)が発信され、B線用にはB線用の運転方向ビット(情報)が発信される方式と車上の運転方向条件をA線又はB線に固定して、A線の方向に進路が開通した時には、地上側はA線用地上子からAB線用の運転方向ビット(情報)を発信して、B線用地上子からは無制御の運転方向ビット(情報)を発信し、逆にB線の方向に進路が開通した時には、地上側はB線用地上子からAB線用の運転方向ビット(情報)を発信して、A線用地上子からは無制御の運転方向ビット(情報)を発信する方式がある。下にJR東海での各路線のA線・B線の運転方向を示す。
JR東海管内とあおなみ線のみ記載()内は他社の行先
路線名 | A線 | B線 |
---|---|---|
東海道本線 | 熱海(東京)向き (JR東日本管内はAB線どちらでも走行可能) |
米原(大阪)向き (JR西日本管内もAB線関係同様) |
御殿場線 | 国府津(小田急新宿)向き | 沼津向き |
身延線 | 富士向き | 甲府向き |
飯田線 | 豊橋向き | 辰野(岡谷・茅野)向き (中央東線はAB線どちらでも走行可能) |
武豊線 | 武豊向き | 大府向き |
中央本線 | 塩尻(松本・長野「塩尻駅のホーム経由」・愛環岡崎)向き (篠ノ井線はAB線どちらでも走行可能) |
名古屋向き |
稲沢線 | 名古屋向き | 尾張一宮向き |
高山本線 | 猪谷(富山)向き | 岐阜向き |
太多線 | 多治見向き | 美濃太田向き |
東海道本線 美濃赤坂支線 |
大垣向き | 美濃赤坂向き |
垂井線 | 垂井向き (逆走する関ヶ原→垂井間のみ) |
関ヶ原向き |
関西本線 | 亀山(奈良)向き | 名古屋向き |
紀勢本線 | 新宮(紀伊勝浦)向き (JR西日本管内もAB線関係同様) |
亀山向き |
名松線 | 松阪向き | 伊勢奥津向き |
参宮線 | 鳥羽向き | 多気向き |
あおなみ線 | 金城ふ頭向き | 名古屋向き |
- デルタ線構造の四日市駅 - (A線→)- 亀山駅 - (A線→) - 津駅 - (伊勢鉄道PT整備外・←A線) - 四日市駅間の方向設定、また方向切り替え駅は亀山駅で、伊勢鉄道経由の列車は方向切り替えは不要。
- 名古屋駅 - (A線→) - 塩尻駅(旅客用ホーム) - (辰野経由・みどり湖経由共←A線) - 岡谷駅 - (A線→) - 豊橋駅 - (←A線)- 名古屋駅はデルタ線構造ではないので方向切り替えは不要。
- 2011年の身延線不通の時身延線-甲府駅-塩尻駅-名古屋駅-静岡車両区の回送では車両の向きとAB線関係で塩尻駅構内の貨物用東西連絡線を使用して回送された。
- ターンテーブルがある名古屋車両区内も方向切替(キハ85形など)を行う、車両基地を出て名古屋駅に行く場合はB線で出る。
- 例として311系の場合、クモハ311形はA線に、クハ310形はB線に方向設定スイッチがピンで固定されている(不正操作防止のため)。
ATS-PF形(貨物用ATS-P車上装置)
JR貨物の機関車にはATS-PF形車上装置が搭載されているものがあり、PFと表記されている。ATS-Pコードが貨物の速度制限に対応しておらず、さらに貨物用の車両にはブレーキは強める一方のブレーキ操作しかできないものも多くあり、減速特性が異なるため車上装置を旅客と共用できない。そのため貨物用のATS-P車上装置として開発されたものである。
貨物列車はけん引する貨物の種類によって最高速度が定められているため、車上装置側の「列車種別設定スイッチ」により最高頭打ち照査速度を設定する。最高頭打ち照査速度は45・55・65・75・85・95・100・110km/hのほか、入換時の最高速度である25km/hから選択する。ただし空転・滑走が頻発する関係上、実際には設定より10km/h高い速度で照査し、列車の速度が照査パターンを超えた場合には機関車の非常ブレーキが作動して停止する。運転台には、バーグラフ表示により現在の列車の速度と発生しているパターンの照査速度を表示する運転台表示器、電源投入時の操作・パターン発生や消去・パターン接近・復帰扱いでのブレーキ開放の時にチャイム又は女性の声でアナウンスを流す為の大型スピーカーが設置され、機関車が重連運転の補機又は後押し補機での場合には、ATSの機能を停止させる[42]。また、本州3社(JR東日本、JR東海、JR西日本)管内ではATS-Pの仕様に一部相違があることを考慮し、ATS電源投入時や運転台交換時にどちらの仕様でATS-Pを作用させるかを設定する「会社間切換スイッチ」も設けているほか、走行中にATS-P地上子からの会社間切替情報を受信して、列車がどの会社の管内で走行してるかを自動的に識別し、本州3社での異なる仕様に対応する機能も有する[43]。
車両表記は、PFである、
拠点P
ATS-P地上装置を、絶対信号機付近や、一部の踏切、分岐器の箇所に拠点設置する方法。JR西日本で採用されている。
絶対信号機(場内・出発信号機)や、ホームに近い踏切(停車列車が行き過ぎる恐れがある時の踏切防護)、分岐器付近にATS-P地上子を設置し、基本的には閉塞信号機には設置しない。
この方式を採用した区間では、全ての信号に対してATS-SW地上子が設置してあるため、ATS-Sx(Ps)のみを搭載した列車も拠点P区間へ入線可能(ATS-SWが機能)である。また、ATS-P (PT・PF) を設置した列車も、ATS-SxとATS-Pを同時に作動させて運転する(扱いは「ATS-S」となるが、ATS-PのP電源を投入状態にすることで同時作動状態にさせている)。
この方式を採用した区間では、ATS-P地上子の設置されていない閉塞信号機は最高速度のまま冒進可能という危険性は変わらないが、列車間隔の詰まる駅周辺では、ATS-P自体の位置基準速度照査方式(パターン方式)と現示アップ動作により列車間隔を詰められるので線区全体としての線路容量を増やすことができる。
閉塞信号機の区間内での曲線に対する速度照査はATS-SWの車上時素速照機能で可能だが、閉塞区間が短い路線ではATS-P速度照査地上子も設置されている。
なお、ATS-P2、ATS-P3はJR西日本の設計した車上装置の形式であり、拠点Pを示すものではない。
設置区間
- 東海道本線・山陽本線・北陸本線(琵琶湖線・JR京都線・JR神戸線) : 長浜駅 - 上郡駅間
- 片町線(学研都市線) : 木津駅 - 京橋駅間
- 福知山線(JR宝塚線) : 尼崎駅 - 篠山口駅間
- 関西本線(大和路線) : 王寺駅 - 加茂駅間
- 阪和線 : 日根野駅 - 和歌山駅間
- 奈良線 : 全線
- 山陰本線(嵯峨野線) : 京都駅 - 園部駅間
- 湖西線 : 全線
名古屋鉄道拠点P方式
名古屋鉄道常滑線・空港線のATS-Pは ミュースカイ用2000系専用で一部の曲線(制限速度が異なる(高くなっている))と中部国際空港駅に拠点P方式で設置されている。(一般車と一般区間はM式ATSを使用)
ATS-Ps形(変周地上子組合せパターン型)
SN形・Sx形(ST・SW・SF形など)に新たな地上子の変周周波数を追加して[44]その設置位置規則を車上に記憶させておくことで速度照査パターンを生成させる機能を追加し、P形に近い機能を持たせたものでSx型の上位互換であり相互乗り入れ可能である。構造・機能で分類すれば車上演算照査機能(パターン照査)が加わったSx型である。
従って、停止信号の他、カーブや分岐器や勾配などの速度制限情報やパターンによる速度照査を行うことが可能であるが、列車の速度がパターン速度を超過(=ブレーキ動作)すると[45]、非常制動をかけて列車を停止させる。停車後は手動でブレーキを開放させるようになっている。また、Sx形の速度照査機能もそのまま使用できる。地上子は3個あり、信号機がR現示の場合は、信号機から655m手前の第1パターン発生地上子で65km/h(機関車では55km/h)までの速度照査パターンを生成させた後、次の390m手前の2個で一対の地上子による第2パターン発生地上子で15km/hまでの速度照査パターンを車上側に生成させる「Paパターン」と閉塞区間が短い所で、場内信号機と出発信号機の間の距離が短く、出発信号機に従属するPs形の地上子が場内信号機の外方に設置されている場合、場内信号機に従属する手前の各3個の地上子の2m手前に、マーカ地上子[46]とよばれる識別用地上子を設置して、出発信号機が停止現示の時に、これらの地上子により前者と同じパターンを車上側に生成させる「Pbパターン」の2種類がある。両者とも、最後に15km/hパターン速度以下で信号機に接近する際には、信号機の手前20mの直下地上子によって非常ブレーキが作動する。また信号機がR現示で車上側で速度照査パターンを生成させた後に信号機がG現示となった場合(現示アップと呼ばれる)、3個の地上子の変周周波数は103kHzになり、その変周周波数を車上側が受信すると速度照査パターンは消去される[47]。
速度制限の場合は、カーブ・分岐器・勾配・臨時の4種類の速度照査パターンを発生させ、カーブ・勾配・臨時の速度制限と分岐器速度制限の場合、前者は速度制限区間の始点から555m手前に2個のマーカ地上子を制限速度に応じて地上子間隔を変えて設置し、速度制限区間の終点に同じく2mの間隔で設置する。車上側には速度制限区間までの速度照査パターンを発生させた後に速度制限区間の終点でパターンを消去する。後者は分岐器の速度制限区間の始点から555m手前に2個のマーカ地上子を制限速度に応じて地上子間隔を変えて設置し、分岐器までの速度照査パターンを発生させた後に分岐器速度制限区間の最大長である50mの距離を通過後、自動的にパターンを消去する。
マーカ地上子は、エンコーダ方式のATS-Pと同じく、下り勾配で信号機が停止現示である場合、車上側に速度照査パターンの補正を行うことも兼ねており[48]、これはY現示速度以下しか対応しないATS-ST・Sx系過走防止装置とは際だった違いになっている。さらにPs形は入換信号機の地上子にも使用されており、入換信号機の停車位置に直下地上子とその手前20 - 40m以内に変周周波数の異なる2個のマーカ地上子[49]が3m以内の間隔で設置されており、停止現示で接近した際には、車上側に30km/hの頭打ちパターンが発生して、その後、直下地上子で非常ブレーキが動作して入換信号機を冒進できないようになっている。
Ps形はSN形・Sx形と同じく変周式のため、Ps形の各パターン生成と速度制限情報は、地上子の変周周波数・設置間隔の組み合わせにより行う。Ps形はSN形・ST形等と上位互換性が確保されているため、SN形・ST形等を搭載した車両はPs設置区間へ入線可能であり、Ps形を搭載した車両はSN・ST形等設置区間に入線可能となっている。
運転席に設置の動作モニタはP形のものとは異なり、現在の速度とパターン速度が表示できるよう改良されている(これらの速度は、2色のカラーバーLEDにより表示。P型でもモニタが信号を得てATS-Pコマンドを表示するものがある)
SN形・ST形等を搭載した車両は、信号機がR現示の場合、その手前に設置された専用のロング地上子によりS形と同じく警報を受け、警報確認後に信号機に接近すると、同じ信号機の手前20mの直下地上子に反応し非常ブレーキがかかる。さらにST形等を搭載した車両は、信号機390m手前の第2パターン発生地上子を時素式速度照査地上子として使用することにより50km/hの速度照査を列車にかけることができる、またY現示速度超過時には非常制動がかかる。
以上のことから、Ps形はSN形・Sx形との互換性があり、P形のように特別な電源装置及び車上子の設置も必要が無いことから、安価で容易に導入できる新しいATSとして確立された。
車両表記は、Ps。
設置区間
仙台地区で設置が始まり、盛岡・秋田・新潟・長野地区においても導入が進んでいる。運用されている区間は以下の通り。
- 仙山線(仙台駅 - 愛子駅間 : 2001年12月1日使用開始)
- ※このほか、楯山駅 - 陸前白沢駅間では曲線に対する速度制限のみが設置されている。
- 東北本線(白石駅 - 小牛田駅間)
- 仙石線(東塩釜駅 - 石巻駅間)
- 奥羽本線(大曲駅 - 青森駅間の一部箇所)
- 羽越本線(新発田駅 - 酒田駅間の一部箇所)
- 信越本線(宮内駅 - 新潟駅間)
- 上越線(水上駅 - 宮内駅間の一部箇所)
- 越後線(内野駅 - 新潟駅間)
- 白新線(全線)
- 常磐線(いわき駅 - 岩沼駅間)
- 仙台空港鉄道仙台空港線(全線)
- 飯山線(全線)
- 小海線(曲線に対する速度制限のみ)
- 中央本線(辰野駅 - 塩尻駅間)
- 大糸線(北松本駅 - 南小谷駅間)
なお、仙台・新潟地区において、設置当初は絶対信号機(場内・出発信号機)に対してのみPs形地上子が設置されており、閉塞信号機に対しては設置されていない。曲線に対する速度照査は、仙山線において先行して速度照査が行われていたが、他の路線においても速度照査が行われている。
今後の予定として、東北・信越地区の主要駅(23駅)への導入が発表されているが、一定距離の区間へ連続的に設置するのではなく、中心駅の出入口へのピンポイント的な設置にとどまる。
当該地区における車両はもちろんのこと、この他にも関東の一部の車両(ジョイフルトレインなど)にもPs形が設置されている。また、JR西日本京都総合運転所所属の583系についても、夜行急行列車きたぐににて信越本線宮内駅 - 新潟駅間に乗り入れるため、2010年にPs形が取り付けられた(なお、同車は2012年3月のダイヤ改正をもって定期運用終了。同年度の冬の臨時運転をもって乗り入れが終了している)。2006年(平成18年)12月より、JR東日本高崎車両センターに在籍し、P形を装備している蒸気機関車D51 498にも追加装備がなされた。さらに2007年(平成19年)4月に大宮総合車両センターを全検出場した蒸気機関車C57 180も、新潟県内在籍のため追加装備がされた。2011年(平成23年)3月に復活した蒸気機関車C61 20もPs形を取り付けたが、復元工事段階より設置された蒸気機関車としては初めてである。続けて2014年(平成26年)1月に復元が完了する予定の「C58 239」にも、岩手県内での運行になるため復元段階より設置されている。なお、Ps形を取り付けたこれらの蒸気機関車には、炭水車の前側台車に速度検知を追設し、2011年春以降に検査に合わせて順次、伝統ある機械式速度計から国鉄型電気機関車の速度計を模した電気式速度計に変更されている。またJR貨物仙台総合鉄道部所属のDE10形の一部にも搭載されているのが確認されている。
ATS-Dx (DN・DK) 形
ATS-Sxとの機能交換性を確保しつつ、車上にて速度照査パターンを発生させる新しい車上速度照査式ATS-Xを鉄道総研が開発を行ってきたが、このATS-Xを基本に線路条件に応じた速度制限機能に対応し、低コスト化と地上装置の省略を実現するため、車上データベース(車上DB)を導入したのがATS-Dxである。ATS-Sxと互換性があり車上速度照査機能を付加したものだが、線路条件に応じた速度照査パターンや速度制限機能を発生させるのに車上DBを使用している。
ATS-Dxは車上装置にATS-Sxの車上子を使用し[50]、地上装置は従来のATS-Sxと同様の変周周波数[51]のほか、デジタル信号を同時送信できるD形地上子を使用しており、種類としては、S形地上子の機能に加えて信号機までの距離等をデジタル情報として送信する有電源地上子、固定のデジタル情報を送信できる電源ケーブルレス地上子、現示追随性に応じて設置される速度照査パターン消去用(中間・直下)地上子、補足機能や付加機能を使用する為に必要な個所に設置される制御用地上子の4種類がある。
機能としては、信号機が停止現示の場合には、有電源地上子が距離情報を送信し、車上側で受信後、そこまでの速度照査パターンを発生させる「一発パターン制御方式」と一発パターン制御方式に加えて、信号機が停止信号以外の場合には、有電源地上子が車上に次の信号機までの距離情報を送信し、車上側で受信後、そこまでの速度照査パターンを順次更新しながら発生させる「常時パターン制御方式」があり、また、同じ方式で駅手前での分岐器速度制限機能(分岐器までの速度照査パターンを発生させる)を有しており、駅での3つ以上の進路がある場合には、駅場内にある分岐器や場内での速度照査を残すために、駅手前の地上側に進入番線確定用地上子を設置して車両側に送信する。また、曲線・分岐・下り勾配・臨時徐行箇所などの速度制限箇所では、電源ケーブルレス地上子から速度制限情報を送信し、車上側で受信後、車上DBのからの情報を元に、速度制限箇所までの速度照査パターン[52]と速度制限箇所での速度制限を行う。
また、車上DBには車両性能DBと線路DBの2つのDBがあり、線路DBには、各線区の地上子と信号機の位置情報、路線の勾配・曲線・分岐・線区最高速度などの速度制限基本情報、駅構内の各番線と駅の停止位置目標の情報、勾配区間でのパターン補正情報などの情報を列車進行順に配置した「線路データ」と地上側に設置された、絶対位置確定用地上子から受信したデジタル情報による絶対位置データから、線路データから一致する線区の線路データを検索して、一致した線路データを参照する為の情報を列車進行順に配置した「絶対位置データ」があり、線路DBは電源ケーブルレス地上子の速度制限箇所までの速度照査パターンを発生させる際に使用される。その他にも、速度発電機と絶対位置確定用地上子により、距離積算と自列車位置補正なども行なっている[53]。
これらの仕様に基づいたATSが、JR北海道ではATS-SNの機能も持ち合わせるATS-DNとして、JR九州ではATS-SKの機能も持ち合わせるATS-DKとして開発されている。今後、上記の機能のほか、ダイヤ情報に基づく駅誤通過防止機能、踏切無遮断時のパターン発生機能などを追加する構想がある[54][55]。
車両表記は、北海道ではN、九州ではK。
ATS-M形
JR西日本が2012年12月末に山陽本線横川 - 五日市間に試験導入した新型ATSである。既存のATSの機能に様々な運転支援機能が追加されており、車上側に搭載されている車上データベースに登録された、路線の信号機の位置・速度制限箇所・速度制限の情報、地上子から送信される地上側の変動する情報(信号機の現示と列車の進行ルートの状況)、車輪の回転数による走行距離を元に得られる列車の位置を照合して、停止信号に対する防護、曲線・分岐器などの線路条件に対する速度制限防護、線区の最高速度に対する防護を行う。運転支援機能としては、車上データベースに登録された駅のホーム形状(ホームの左右など)と列車の両数によって異なる駅の停止位置についての情報、地上子から送信される駅の進入番線を照合してホームのない側のドアの誤操作を防いだり、停車駅での停止位置まで速度照査を行い、停車位置を越えた場合には、自動的にブレーキが掛かる機能を有する。その他にも、線路工事に伴う徐行区間に対する防護や車上無線機の切替時に対する音声での注意喚起などがある[56]。
2012年度末まで広島支社に貸し出されていた223系(6000番台MA21編成中間2両抜き)で運用試験された。2014年度よりATS-SW線区である白市 - 岩国間に導入され[57]、これに対応した新型車両である227系が投入される予定[58]。以後、ATS-P型が導入されている近畿エリアへの展開も想定しているという。
私鉄のATS
大手私鉄各社で採用されているATSには、1967年(昭和42年)1月に運輸省(現在の国土交通省)通達[59]により「速度照査機能」の付加と「常時自動投入」が義務づけられたが、詳細な仕様は各社の裁量に任されたため、多くの種類が存在する。機能が強化された背景には、日本の大手私鉄の実状として、都市部を除く平均的な国鉄線区と比べ、駅間距離が短い、分岐器を含め急曲線が多い、高頻度運転を行う、乗車率が高いことなどがある。
設置が義務付けられた速度照査機能は、最終的な冒進速度照査を20km/h以下としているため、確認扱いさえすれば最高速度(ATS-Sx区間の運転最高速度は130km/h)で冒進可能な国鉄・JRのATS-B、ATS-S、後の改良型ATS-Sxと比較して、衝突事故に対する安全性が高い。運輸省通達ATS設置後の区間においては、運転士の停止信号見落としを原因とする重大事故が発生していない。
地方私鉄においては、JRや大手私鉄と同一・類似方式のATSが採用されていることが多い。また、独自のパターン照査を導入した例もある。しかしながら、通達の基準に該当しない中小事業者ではATS整備が遅れた所も多く、ATS未整備の路線において停止信号冒進による衝突事故が発生し、事故後にATSを導入するという後手の対策となりがちであった。1987年(昭和62年)4月に運輸省省令で全国の鉄道会社にATSの原則設置義務付けを行ない、1990年(平成2年)には全国の地方運輸局を通じて早期設置の申し入れをおこなったが、2001年(平成13年)の京福電気鉄道(現在のえちぜん鉄道)の正面衝突事故を契機に、国土交通省から中小事業者に対し、ATS整備の指示と、補助金が支給されたことにより、未設置路線へのATS設置が促進された。
1967年(昭和42年)運輸省通達は当時の国鉄には適用されず、JR発足の前日である1987年(昭和62年)3月31日付けで廃止されたため、JR各社に適用されることはなかった。一方、鉄道に関する技術上の基準を定める省令[60]が2002年(平成14年)3月31日から施行され、ATS設置の判断が従来の認可制から届出制に変わった。また、2006年(平成18年)3月の技術基準改定で、曲線、分岐器、線路終端などの線路の条件に応じた速度照査機能が必須となったため、安全性の向上と現行ダイヤの維持を目的としたATSの改良やATC化を発表した私鉄もある。
変周式(単変周・多変周)地上子
国鉄のATS-S型に近いが、地上子を2つ並べて、その2つの地上子を通過する時間によって速照する方式である。国鉄のATS-Sの改良型に似ている。地上子の間隔により照査速度を任意に設定可能で、地上との相対速度で計測するので速度計と関与がない。名古屋鉄道、京阪電気鉄道、南海電気鉄道で採用。
名古屋鉄道式自動列車停止装置
テンプレート:Main 名古屋鉄道で使用されている変周式の車上タイマー方式の自動列車停止装置である。
2つの地上子の間を0.5秒以内で通過すると動作するようになっている。
名鉄式ATS・M式ATSと略す場合が多い。
1965年(昭和40年)に須ヶ口駅 - 鳴海駅間に設置されたのを皮切りに1968年(昭和43年)までに鉄道線全線(軌道法適用区間である豊川線を含む)で設置を完了した。
地上子は共振周波数130kHzでATS-Sロング地上子と同じだが、2基1対の速度照査を構成して冒進速度を20km/h - 5km/hに押さえており、Sxなど他の多くの変周式地上子とは異なり進行方向に向かって右側に設置されているため豊橋駅 - 平井信号場間のJRと共用区間にもATS-Sx・ATS-Pとともに設置されている。
グループの豊橋鉄道渥美線も1500V昇圧後の1997年(平成9年)に同型のATSを採用した。
京阪型速度照査ATS
京阪電気鉄道で使用されている自動列車停止装置の一種である。前述の名古屋鉄道方式とは速度照査などの基本的な構造はほぼ同一であるものの、速度制限などの取り扱い方法は異なる。
京阪電車の信号による速度制限は、絶対停止0km/h・警戒25km/h・注意45km/h・減速65km/h、進行の5種類である。警戒・注意・減速の現示による速度制限を5km/h上回ると直ちにATSによる非常ブレーキがかかり、完全停止するまで復旧できない。同社は、JR福知山線事故後、枚方公園駅・淀駅 - 中書島駅・深草駅・鳥羽街道駅 - 東福寺駅間に存在する急カーブに速度照査ATSを直ちに設置した。これらの急カーブの曲線通過速度は直前の走行速度に比べ25 - 40km/hの差がある。カーブにおける速度照査の方法はパターン照査の原理に似ている。たとえば、制限速度60km/hカーブに対し、制限開始地点200m手前で100km/h以上であれば直ちに非常ブレーキ、150m手前で90km/h以上であれば非常ブレーキ、100mで…、50mで…というように順を追って速度照査と非常ブレーキ管理をしており、制限開始地点までに「絶対減速」を試みている。オレンジのカバーがかけられているATS地上子がこれに該当する。
なお、京阪は2008年(平成20年)11月に発表したプレスリリースで、2014年(平成26年)度より多情報連続制御式への切り替えを進め、2016年(平成28年)度に京阪線全線で新システムを稼働させるとしている[61]。
多変周式信号ATS(多変周式(点制御、連続照査型))
地上子で車両側が信号機の現示に対応する信号を受信・記憶し、その信号に合わせた一定の速度で連続的に照査する。信号機の現示アップなどで照査速度が上がっても、次の地上子を通過して信号を受信するまでは照査を続けるか、確認ボタンを押して照査を解除する。確認ボタンが不可な会社・路線では、たとえば、警戒信号の速度制限を受けた場合、現示アップしているのにもかかわらず、長時間の低速を余儀なくされることから、タイミングによっては列車の遅延につながるという欠点がある。
近鉄には速度超過防止用(曲線区間、分岐器など)や終点用の他、転動防止用のATSもあり、これらも多変周式である。西鉄の地上子は永久磁石とコイルを設置したもので、コイルが無信号の状態でも照査が行われる。
点制御式の多くの場合では、地上子制御リレーに異常があり制御線が断線状態となれば、地上子のLC共振回路の作用だけで特定の一意の共振周波数(多くの場合最下位現示)に自然と固定され、故障状態でフェイルセーフになる長所がある[62]。
東武鉄道TSP式(多変周式・パターン照査型)・東京都交通局T形ATS
多変周・点制御式ATSだが、速度照査を他の方式のように信号現示に応じて階段的に行うのではなく、車上装置で発生する2段階のパターンを用いて連続的に行う、東武鉄道独自のATS。JRのATS-Pと異なる点は、トランスポンダのように停止信号までの距離を伝送して1段階の減速パターンを発生するのではなく、信号機の現示に応じて2段階のパターン(電車の場合60km/hまで減速、15km/hまで減速の2パターン)を用いて速度照査を行う点。なお、運転台上に減速パターンの速度照査発生時の照査速度を表示する表示灯があり、ATSによる減速パターンの速度照査が行なわれていることを確認できる。8000系の初期修繕車までは、運転台の表示灯部に60と15と書かれた表示灯があったが、6050系や8000系の1987年以降の修繕車、9000系以降では、運転台の速度計の60kmと15km付近にATCの車内信号の表示に類似した表示灯があり、丸囲みの15と60の表示 または 60kmと15kmの指針の部分に青色の▲(T-DATC搭載車[63])で表示される。
東武鉄道や後述の西武鉄道においてパターン式を必要としていたのは、導入当時電車列車に比べて制動性能の劣る貨物列車が多数設定されていたことに対応するため。
JR東日本のATS-Psは多変周ではなく、単機能変周式地上子を組み合わせたもの。
AF軌道回路方式(連続照査型)
後に国鉄ATCでも採用されたAF軌道回路を使ってレール又は添線に連続的にある信号の現示に対応した照査速度信号を流し、列車側はATCでも使用されている受電器でこの信号を受信して連続的にこの照査速度で照査される。信号の現示がアップした際はすぐにアップした照査速度の信号を受信することができる。ただし、地上子を併用している場合は多変周式と同様次の地上子まで照査を続ける。
このうち西武と阪急(神戸本線・京都本線全線)はパターン式ATSとなっている。西鉄と相鉄は磁石式の地上子と併用している。また、阪神は運行時に「危険域」・「有コード」でランプ表示している。なお、相鉄は神奈川東部方面線開業およびJR東日本との直通運転に備えて、2014年3月30日に磁石式地上子方式のATSからJR東日本と同一の機能のATS-P型に更新された。
軌道電流式(半連続照査型・点照査型)
国鉄ATSのB型と同様にレールに常に電流を流し、電流を切ることによって信号を送っている。この電流を切る時間で照査速度を車両側に伝えている、また車上子はATCと同様の受電器を使用する。
- 採用例
- 東京急行電鉄
- 1号型ATS
東急型ATS
東京急行電鉄がS42通達にあわせて導入した、信号機直下に軌道に並行したキャンセルループ(添線)を備え、このキャンセルループに軌道回路による軌道電流の逆位相の電流を流すことで擬似的に軌道電流を停止した状態をつくる。そこに車上装置がそのキャンセルループを通過した際に、その時間を計測し、1秒以下であれば速度超過と判断して非常ブレーキを動作させる。速度照査は閉塞区間進入時毎に行われる点照査となる。ただし、次の信号機がR現示の場合には、警報が鳴り始め信号機直下のキャンセルループでは速度照査ができないので(0km/h照査となるので)、信号機から60 - 80m前方にキャンセルループが設置されていて(運転士に分かるように線路脇に黄色四角の標識が設置されている)、そこで15km/h照査を行うようになっており、信号機手前で安全に停止できるようになっている。
軌道線を除く東急のほぼ全線で使用されていたが、後に運転速度が95km/h以上になる路線(東横線・田園都市線・目黒線、大井町線)は新CS-ATC(田園都市線)あるいはATC-P(東横線・目黒線・大井町線)に変更され、現在は多摩川線・池上線のみで使用されている。
1号型自動列車停止装置(1号型ATS)
京成電鉄・北総鉄道・芝山鉄道および新京成電鉄で使用されている。また、かつては京浜急行電鉄および東京都交通局(都営地下鉄浅草線)でも使用されていた。
1960年(昭和35年)12月、都営地下鉄1号線(現在の浅草線)が京成電鉄押上線との相互乗り入れで開業するに際して採用され、1967年(昭和42年)1月の私鉄ATS通達(S42鉄運第11号)で速度照査段を増やす改良をされた方式。打子式ATS以外では日本で最初のATSでもある。ATSに関しては、上記のうち新京成以外の6者の中では、どの事業者の車両がどの事業者の線路を走っても問題なく作動する(新京成の車上装置は「絶対停止」機能があるため、京成線乗り入れ対応車には切替装置が付加されている)。古い規格ながら、保安度としてはATS-Pに準ずる優れたものである。無閉塞運転中も信号電流がなければ15km/hの速度照査が行われることが他ATSには見られない特徴。ただし、現行のC-ATS兼用の装置と新京成電鉄で採用された車上装置を除き「絶対停止」機能はない。
交流50Hzの軌道電流を常時流しておき、それを0.8秒間遮断することで45km/h速度照査を、3秒間遮断することで非常制動停止と15km/h速度照査を車上装置に伝達し、車上装置では、速度超過している場合に自動的にブレーキをかけ、0.8秒断では45km/h減速した時点で緩解し、3秒断では非常制動で停止し、以降15km/hで速度照査する。それ以外の速度で照査する場合には、レールに設置した2箇所1対の検知子(その間隔は照査する速度によって調整する)を列車が通過する時間差が基準以下の場合に速度超過と判定して、上記のように軌道電流を遮断する。検知子は任意の場所に設置できるので、点照査であっても連続照査と同等の機能を有する。しかし、車上装置側では、地上での照査速度が45km/h以上の場合には一律45km/h、45km/h未満の場合には一律非常制動と15km/hの速度照査がかかってしまうので、地上装置で照査した速度に比べて必要以上に減速させてしまうことになる。そのため、下記のC-ATSの導入が進められている。
デジタルATCの技術を応用したもの
C-ATS/i-ATS
新京成電鉄(予定)・京成電鉄(一部区間)・北総鉄道(一部区間)・芝山鉄道(予定)・東京都交通局(都営地下鉄浅草線)・京浜急行電鉄および、静岡鉄道[64]で使用されるATSである。基本仕様が相互直通運転の各社局で共通 (Common) であること、1号型ATSと同じく連続 (Continuous) 制御式速度制御 (Control) であることから、頭文字をCとしている[65]。軌道回路からデジタル伝送(MSK変調を使用)を用いて1号型ATSより詳細な情報(無段階の速度照査、社局識別コード、上下線識別情報、勾配など)を伝達でき、パターン信号を軌道に設置した短小添線から送る機能も持つ。従来の1号型ATSと異なり、無信号の場合は瞬時に非常制動が動作することで、絶対停止機能を有する。車上装置については、地上側からの信号で1号型ATSとC-ATSを自動的に切り替え可能なものに更新済みである。
注意・減速などの信号現示に対する制御は、信号機を通過した時点から現示に応じた速度照査を連続的に行い(緑色の数字表示)超過時は常用最大制動で照査速度まで減速させる(京急では、注意信号外方のパターン信号発生点(B点)で、68km/hの速度照査を行う)。停止現示に対しては、信号機外方のパターン信号発生点(B点)進入から絶対停止パターンによる照査を行い(地上からパターン制御信号を送信、橙色の数字表示)、パターンを抵触した場合は非常制動で停止させる。閉塞信号機停止現示の場合は、停止してから1分経過すると車上で自動的に15km/h照査に切り替わり、無閉塞運転が可能になる[66]。なお、信号現示が変化すると地上装置から新しい情報が送信され、上位現示の場合は確認スイッチを操作する必要がない。また出発信号機の停止現示においては、絶対停止パターンの照査範囲内で停止すると自動的に7.5km/h照査(誤出発防護機能)に切り替わる。このほか、曲線における制御は、曲線手前にパターン信号発生点(CB点)を新たに設け、パターン制御信号を送信する。発生点通過後は速度制限パターンによる照査が行われ、「都営 : 緑色 (L)、京急 : 橙色(L表示と照査速度の交互表示)」速度超過時は非常制動又は常用最大制動が動作する。いずれのケースでも、非常制動が動作した場合は新設した非常ブレーキリセットスイッチを操作して解除する。また新たに、ノッチカット機能も搭載した。これは、制限速度以上の力行(加速)および、停止信号直下(絶対停止)では、力行操作が自動的に切られる機能である。具体的には、制限速度以上に力行した場合、チン・ベル鳴動とともに緑色の「NC」表示点滅と同時に力行が強制的に遮断される。また絶対信号機停止現示で停車した場合は、赤色の「NC」表示とともに常用最大制動が動作し、信号が上位に切り替わらない限り、力行操作が不能となる。なお京成は、信号が上位・下位に切り替わった場合、パターン信号発生・解除した場合、それぞれチン・ベルが鳴動する。また、ホームドアを使用している羽田空港国際線ターミナル駅では、ホームドア開扉時に自動的にノッチカットとなる機能が付いている。
また、京浜急行電鉄では2011年6月より踏切道防護システムの使用開始に伴い、同ATSの改修を行った。これは、停車駅直近に踏切道がある箇所において、オーバーランや停車駅誤通過により無閉鎖の踏切道へ列車が進入する事を防ぐためのものである。この条件にあてはまる停車駅においては、停車駅に接近すると停車位置までの停車パターンが発生し、停車パターン抵触の際は常用最大制動又は非常制動にて停止する。停車パターンが発生した際は、表示器に緑色で「停P」が表示され、パターンに接近した際はこの表示の点滅とチン・ベル3回の鳴動が発生する。さらにパターンに最接近した際はこの表示が橙色に変化し、表示の点滅とチン・ベル3回の鳴動が再度発生する。この停車パターンは5km/h以下になると解除される。この踏切道防護システムの導入以降、C-ATS表示器には自列車の種別が表示されるようになった(エアポート急行とエアポート快特については、それぞれ航空機のマークに「急」または「快」で表現)。この種別表示については、信号扱所が設置されている主要駅を発車する際に、信号扱所からの発車指示合図と共にC-ATS地上装置から種別情報が伝送されることによって、初めに種別表示の点滅がATS表示灯下部に表示され、発車後5km/hを超えると表示の点滅が点灯に変わり、種別が確定する(なお種別情報は、停車場での植付時に異なる列車種別へ上書きが可能である)。次の信号扱所が設置されている主要駅までは、この種別情報を保持して、停車パターンが発生する。
2007年(平成19年)3月17日より都営浅草線で一部の機能が使用開始されており、全線で常時70km/h照査を行なっているが、車上装置に「C-ATS」と表示されるのは分岐設備を有する駅(押上・浅草橋・新橋・泉岳寺・西馬込駅構内)のみであり、他の区間では上段に「ATS」・下段に「70」と表示される。また、停止信号手前では車上装置に「パターン接近」(都営・京成 : P接近、京急 : P)表示が出てベルが2連打する他、停止した際も「NB」表示とともにマスコン・ブレーキハンドル位置に関わらずにブレーキがかかっている。また、2009年(平成21年)2月14日ダイヤ改正より、京浜急行電鉄全線で使用を開始した。これに伴い、曲線部や信号機(閉塞・場内・出発・入換)の一部に、C-ATSの速度制限標識(白地に赤抜きの数字)が線路脇や信号機およびまくら木に、一部の急曲線部には、パターン信号・列車位置補正を行うための地上子(白色の長方形)が設置されている[67]。2009年(平成21年)3月21日からは京成電鉄でも京成上野駅構内および京成高砂駅構内下り線において使用開始され、続いて2010年(平成22年)7月3日からは京成本線(京成上野駅 - 京成高砂駅間)および京成金町線、同月17日からは同日開業の京成成田空港線(成田スカイアクセス)および一部区間で線路を共用する北総鉄道北総線でも使用開始された。2011年(平成23年)2月26日からは都営浅草線の全区間にて運用が開始された[68]。2014年(平成26年)6月7日からは京成本線の全区間にて運用が開始された。
D-ATS-P(デジタルATS-P)形
小田急電鉄の各路線で導入が進められているATSであり、JRのATS-Pとは互換性がない。
これまでの地上子による情報伝送のほかにレール上に流した信号も制御に用いるもので、地上子とレール上の双方からの情報で制御する。これまで地上子で伝送していた信号現示についてはレールからの伝送とし、地上子からは2つ先の閉塞区間の距離を伝送する。信号現示による最高速度はこれまで通り(注意現示=45km/hなど)となるほか、信号機が下位現示である場合はその現示が示す最高速度まで減速する速度パターンが車両側で生成される。そのため速度パターンは多段制御の速度パターンとなる。また踏切支障・ホーム上の非常スイッチ操作が生じた場合も自動で非常ブレーキが作動できるようになるほか、現在よりも信号現示を増やすことも検討されている。
整備が完了したことから、第1期区間として2012年(平成24年)3月31日より多摩線において使用が開始されている[69] 。今後は第2期区間として江ノ島線を、第3 - 5期区間(3期に分割)として小田原線においての使用開始に向けて整備を進めている[69]。なお、2013年度までに全線で運用を開始する計画である[70][71]。 乗り入れ先の箱根登山鉄道線(小田原-箱根湯本)は従来のATSのままか換装するかは不明。
トランスポンダ地上子によるデジタル情報の技術を使用したもの
T-ATS-P
東武鉄道(ATCを導入予定の東上本線と越生線を除く)で導入が予定されているATSであり、JRのATS-Pとは互換性がない。2013年9月現在、導入予定等の発表は行われていないが、業界誌で解説が行われている。[72]
ATS-P形と同じく、トランスポンダ地上子により、当該する信号機や次の信号機の信号現示・信号機までの距離・勾配などの情報を車両側に送信して、車両側ではそれを元に信号機までの速度照査パターンを発生させる方式であるが、ATS-P形と異なり減速 - 警戒信号に対してもパターンが発生する。また曲線や分岐器での速度制限でも、同様にトランスポンダ地上子から曲線区間や分岐器までの距離とそこでの速度制限の情報が送信されて、車両側で曲線区間や分岐器までの距離に応じた速度照査パターンと曲線区間や分岐器での速度制限を発生させ速度照査を実施する。トランスポンダ地上子から線路情報が送信される為、他社線からの相互直通運転を容易にできる。また車両側の車上子は従来の変周式とトランスポンダ式を一体化した車上子を搭載している。
ATS-SP
従来の地上子により、車両側で信号機の現示に対応する信号を受信・記憶し、その信号機に合わせた一定の速度で連続的に照査する機能の他に、分岐器・曲線区間での速度制限を実施する為、新たにトランスポンダ地上子を設置して、この地上子から分岐器・曲線区間までの距離情報とそこでの速度制限情報を車両側が受信・記憶して、分岐器・曲線区間までの速度照査パターンと分岐器・曲線区間での速度制限を発生させ速度照査を実施する。また車両側の車上子は、従来の変周式とトランスポンダ式とを一体化した車上子を搭載している。
ATS-PN
南海電気鉄道で導入が進められているATSである。
従来の地上子により、車両側で信号機の現示に対応する信号を受信・記憶し、その信号機に合わせた一定の速度で連続的に照査する機能の他に、分岐器・曲線区間での速度制限を実施する為、新たに変周周波数の数を増やした地上子とトランスポンダ地上子を設置して、それらによって発信される分岐器・曲線区間までの距離情報とそこでの速度制限情報を車両側で受信・記憶することにより、分岐器・曲線区間までの速度照査パターンと分岐器・曲線区間での速度制限を発生させ速度照査を実施する。また車両側の車上子は、従来の変周式車上子とは別に分離する形で新たにトランスポンダ式車上子を搭載している。
軌道のATS
軌道法による軌道の場合には、新設軌道と併用軌道が混在している軌道と道路の路面以外の併用軌道については、続行運転や道路上にある交通信号や、海上や河川での運行上、閉塞方式自体が不要か簡略化されており、ATSなどの警報装置自体の設置が完全に義務化されていない。
ただし、過去において軌道法適用の路線・区間でも、事実上鉄道として運用されていた路線・区間において「鉄道の信号・ATS」を運用していた(京王電鉄京王線・京阪電鉄本線など多数)。
台湾のATS
台湾の中長距離鉄道を運営する台湾鉄路管理局の一部路線に、1970年代後半に導入されたもので[74]、スウェーデンのエリクソン(当時)製であった。注意信号の現示箇所を90km/hを超えて進行した場合、または停止信号の600m外方で警報が鳴動し、5秒以内にブレーキ操作をしない場合には非常ブレーキが動作する方式であった。1990年代末に、ボンバルディア製のATPが導入され、発展的解消をとげた。
中国のATS
中国の中長距離鉄道を運営する中国鉄路総公司の路線に、1980年代後半に導入されたもので、主に幹線区間を中心に導入された。規格は日本のATS-PやATCに準じている。曲線・勾配の速度照査は、ICカードに記録されている情報に基づいて行われる。
韓国のATS
韓国では1969年から鉄道庁の主要路線に、日本国有鉄道のATS-Sと同格の装置が順次導入された。さらに1974年の[75]首都圏電化に伴い運行されるようになった電車には、多変周点制御車上連続速度照査式ATSが搭載された。ブレーキ弁ハンドル挿入による電源自動投入、警報後5秒以内に常用全ブレーキにより確認扱いが可能、などの機能を有しているが[76]、減速信号現示に対する照査はない。ソウルの首都圏電鉄1号線、2号線に地上設備が設けられているが、2号線はATO化される予定である。1980年代に、鉄道庁の幹線である京釜線に、5現示自動閉そく信号化に併せて、首都圏電鉄と同等の速度照査式ATSが設けられた。照査速度は高速寄りに読み替えて使用されていた。また、曲線の速度制限に対する速度照査機能も併設された。なお、京釜線、湖南線はユーロバリスを用いたATP化の途上にある。
脚注
参考文献
関連項目
- 閉塞方式
- 鉄道信号機
- 日本の鉄道信号
- 自動列車保安装置
- 速度照査
- デッドマン装置
- 緊急列車停止装置(EB装置)
- 緊急列車防護装置(TE装置)
- ATP
- 自動列車警報装置 (AWS)
- 自動列車制御装置 (ATC)
- 自動列車運転装置 (ATO)
- 定位置停止装置 (TASC)
- 列車選別装置
- 踏切
- 新交通システム
ATS関連の鉄道事故
- 鉄道事故
- 列車衝突事故
- 列車脱線事故
- 六軒事故(1956年)
- 三河島事故(1962年)
- 近鉄大阪線列車衝突事故(1971年)
- 西明石駅列車脱線事故(1984年)
- 東中野駅列車追突事故(1988年)
- 京福電気鉄道越前本線列車衝突事故(2000年・2001年)
- 土佐くろしお鉄道宿毛駅衝突事故(2005年)
- JR福知山線脱線事故(2005年)
外部リンク
- ↑ 新井英樹「ATCとATSで列車を安全に走らせる」Railway Research Review 2008年7月号 p.22 - 23。
- ↑ 場内信号機のない終端駅でもATS地上子があるため如何を問わず確認扱いは必ずある。
- ↑ 鉄道の場合のAF (Audio frequency) とは慣行的に電話・通信と同様300Hz - 3000Hz余の周波数を指しているが、元々は可聴周波数 (16Hz - 20,000Hz) を指すもの。分倍周は交流電化区間などノイズの多い区間に採用されて当初は電動発電機などの機械装置で供給されていてAFとは区別された。
- ↑ ケーブルは2本あり、地上子の中のLC回路のコイルの端末と中間に接続される。
- ↑ この回路に130kHzの周波数を流すと、LとCの抵抗成分が打消し合って無くなり、Rだけの抵抗となって、回路に最大の電流が流れるようになっており、この現象はLC回路の直列共振現象と呼ばれており、地上子から130kHzの共振周波数が発信される。
- ↑ 外付コンデンサと呼ばれている。
- ↑ 地上子制御リレーが扛上して、LC回路が構成されるため、この回路に103kHzの周波数を流すと、LC回路の直列共振現象により、回路に最大の電流が流れ、地上子から103kHzの共振周波数が発信される。
- ↑ 電力波と呼ばれ、電力供給の無い無電源地上子から情報の供給を受ける際、車上子から電力波を無電源地上子に送信して、無電源地上子はそれをエネルギー源にして定められた内容のデジタル情報を返送する。
- ↑ 変調後の周波数は、地上→車上1708kHz±32kHz、車上→地上(情報)3000kHz±32kHzとなる。
- ↑ Sd形地上子と呼ばれる
- ↑ Ss形地上子と呼ばれる
- ↑ 作動原理としては、Sd形地上子に車両側の車上子からの常時発信周波数105kHzかそれに高減速性能車であること示す67kHzを重畳した電波を受信して、それらを速度照査装置に送り、そこで、分岐器の速度制限から高減速車か又は低減速車かの減速曲線を求めて、地上子の設置位置での速度制限を決める。
- ↑ これは、通常は停止信号を2つ重ねるべき箇所で、1つ目の信号機を警戒現示することで少しでも列車の間隔を詰められるようにするために行なわれた(クロージング・イン)。
- ↑ 製鉄所の構内鉄道などでは現存する。
- ↑ 鉄道事業法適用路線として上野動物園モノレールが打子式ATSを採用している。(2012年11月現在)
- ↑ S形では地上タイマー方式の速度照査機能があった可能性がある
- ↑ SW2形と同様にスペクトラム拡散方式でのFFT方式によるスペクトル解析で共振周波数を検知する脱変周方式を採用しており、ATS機能のみとその機能に加えて振り子制御を行う為に地上子を検知して地点信号を出力する機能の2種類がある。
- ↑ 電車の場合は0.50秒、機関車の場合は0.55秒で設定されており、車上で予め設定されている。
- ↑ 列車を設定された速度以上になると非常ブレーキにより停止できるように地上側の地上子間隔を、設定された速度で車両側が0.5秒で通過できる間隔に設定して設置する。
- ↑ SN形にもS形同様の地上タイマー方式の速度照査機能がある可能性がある
- ↑ 駅付近の踏切において、列車番号情報により駅に停車するか又は通過するかを判断して踏切の警報時間の均一化を図る機能であり、車上側から車上子の常時発振周波数にその情報である360±12kHzの周波数のMSK変調波を重畳(重ねて)して地上側の地上子に送信され、地上側ではその情報を地上子で受け取り、その後、信号回路の電源ケーブルを通り電子踏切装置に送られて、駅での通過又は停車を判別して踏切の警報時間を制御する。
- ↑ 108.5kHz。
- ↑ 100kHz - 110kHzとの間。
- ↑ 信号機までの距離の他に、現示コード(その時の信号機の現示)・地上子情報(有電源地上子又は無電現地上子かの情報)・信号機種別(出発・場内・閉塞などの信号機の種類)・次の地上子までの距離の情報を送信するとともに、信号機がG現示の場合は、2つ先の信号機がR現示として仮定して(必ずしもR現示では無いのだが)、そこまでの距離情報を車上に送信する。
- ↑ 車上で作成・記憶されたパターンで使用される列車の速度検知と距離積算は、速度発電機からの出力パルスを使用する。
- ↑ Y現示は1つ前の信号機まで、G現示は2つ前の信号機までの距離情報を送信して、速度照査パターンの更新を行う。
- ↑ 現示アップが発生しない場合には信号機までの距離情報又は即時停止情報か送信されるが、R現示の信号機から外方(手前)50mで停車した列車が、信号機が現示アップして運転を開始した場合には、照査パターンの更新を列車に送信する。
- ↑ 信号機から手前180m・85m・20m。
- ↑ 信号機から手前280m・180m・130m・85m・20m。
- ↑ カーブでの速度制限の場合、制限速度・制限区間長・カーブまでの距離などの情報を車上に送信する。
- ↑ 下り勾配では、勾配の大きさに応じて列車の減速度にマイナスが発生する為、その値を補正値として車上に送信する。
- ↑ 『信号シリーズ7 ATS・ATC』p.5
- ↑ 信号機に繋がっている符号処理器 (EC) の間を接続して結ぶことにより、その情報が各符号処理器間で伝送されることにより可能となった
- ↑ この間にⅢ形・Ⅳ形・Ⅳ (N) 形・Ⅳ (W) 形がある
- ↑ ただし、2011年7月1日の鉄道に関する技術上の基準を定める省令の改正に伴い、営業運転での使用は全面禁止となった。回送列車と試運転列車は事前の申請を行った上での特例が出される。
- ↑ 在来線に新型ATS完了読売新聞 2012年2月16日
- ↑ 導入当初は醒ヶ井駅を出て下り第2閉塞を通過後ATS-Sxに切り替わりJR西日本エリアの入口の下り第1閉塞通過後再びATS-Pに切り替わっていたが、現在は地上子の増設・交換が行われATS-Pのまま通過する
- ↑ ATS-Pでは大幅な後退運転すると誤動作をしてしまうので、構内でATS-Sxに切り替える必要がある
- ↑ 2012年3月17日(土) ダイヤ改正を実施します小田急電鉄、テンプレート:PDFlinkJR東海
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ 最高頭打ち照査速度だけは機能している。
- ↑ JR、民鉄のATS (5) JR貨物のATS - 『鉄道と電気技術』2011年3月号 p.62 - p.66
- ↑ 車上子の常時発信周波数を103kHzから73kHzに変更し、従来の108.5kHzと123kHzと130kHzの他に、新たに80kHz・85kHz・90kHz・95kHzを地上子の変周周波数として追加。その他にも踏切鳴動開始用のバックアップ列車検知器と分岐器速度照査装置を作動させる為に、100.5kHzの周波数を73kHzに加えて地上子から送信している。
- ↑ 車上で生成されたパターンで使用される列車の速度検知と距離積算は、ATS-P形と同じく、速度発電機からの出力パルスを用いるが、2台の速度発電機を使用することにより、より精度を上げている。
- ↑ 90kHz又は95kHzの変周周波数を発振させる地上子。
- ↑ Pbパターンにおいては、マーカ地上子から95kHzを受信後に走行距離3m以内で103kHzを受信後に消去される。
- ↑ 速度照査パターンの補正は、第2パターンだけを補正する。
- ↑ 108.5kHzと95kHzの地上子。
- ↑ 検知方式は、車上送受信器から車上子にスペクトラム拡散信号を送信して地上子の変周周波数を検知する、脱変周方式を使用する。
- ↑ 発振される変周周波数は、103kHz・108.5kHz・123kHz・130kHzの4種類。
- ↑ 頭打ちパターンとよばれている。
- ↑ テンプレート:PDFlink テンプレート:リンク切れ - 鉄道総研
- ↑ JR、民鉄のATS (1) JR北海道のATS - 『鉄道と電気技術』 2010年11月号 p.69 - p.73
- ↑ JR、民鉄のATS (4) JR九州のATS - 『鉄道と電気技術』2011年2月号 p.70 - p.75
- ↑ テンプレート:Cite press release
- ↑ JRに列車制御新システム - NHKニュース(2013年3月14日)2013年3月14日閲覧。
- ↑ テンプレート:Cite press release
- ↑ 通達 : 「自動列車停止装置の設置について」 昭和42年鉄運第11号 (1967/01発)「自動列車停止装置の構造基準」
- ↑ JR各社を含む全鉄道事業者を対象としている。また、この省令の施行により従来の普通鉄道構造規則、鉄道運転規則、新幹線鉄道構造規則、新幹線鉄道運転規則は廃止された。
- ↑ テンプレート:PDFlink 平成20年11月17日
- ↑ 変周式の基本構造は、故障状態でも不動作が無い(車上側が反応する)ことを第一の設計要件とし、地上子の電子回路に故障しやすい電源および能動素子(トランジスタやリレーなど)を必要とせず、受動素子(RLC等)のみを使用しかつ無電源で動作する方式として、旧国鉄の技術陣が発明した
- ↑ t-DATCの車内信号表示灯の一部をATS表示灯として兼用している。
- ↑ 静岡新聞の報道(Web魚拓)によると「都営地下鉄の一部でも導入されている」とあり、都営地下鉄でATSが使用されている路線は浅草線のみであるため、「i-ATS」はC-ATSと一部を除き同型と判断できる。
- ↑ 「多情報パターン制御式ATS『C-ATS』装置 - 相互直通運転に対応した地上データベース方式 - 」『鉄道と電気技術』 2008/10 日本鉄道電気技術協会
- ↑ 丸山晃司 「多情報パターン制御式ATS『C-ATS』の概要」『鉄道車両と技術』125号、レールアンドテック出版、2007年。
- ↑ 標識の設置は変更前の数日に行われた。
- ↑ 浅草線C-ATS全線運用開始について テンプレート:リンク切れ 東京都交通局 2011年2月23日
- ↑ 69.0 69.1 日本鉄道運転協会「運転協会誌」2012年4月号30頁記事参照。
- ↑ 私鉄 より安全で効率的な列車運行を追求(2009年10月16日付け 交通新聞)
- ↑ 信号・通信設備の概要(鉄道ピクトリアル 2010年1月臨時増刊号 p.76 - 77。
- ↑ JR、民鉄のATS (6) ―東武鉄道のATS―(「鉄道と電気技術」2011年4月号)
- ↑ 対応した編成の運転台に設置されている注意喚起などの音声が発せられるスピーカーに、ATS-SPと印字されてあるテプラが貼りつけられている。
- ↑ アジアの鉄道18か国(吉井書店)
- ↑ 鉄道ピクトリアル 282号
- ↑ ATS装置 (Yookyung Control Co.,Ltd) テンプレート:Ko icon