数学記号の表

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テンプレート:出典の明記 テンプレート:Redirect テンプレート:特殊文字 数学的な文章では、抽象的な概念を簡潔に記述するために様々な特殊な記号が用いられる。これは、しばしば用いられるそれらの記号とその慣用的な使われ方の一例を記した数学記号の一覧表である[1]。なお流儀や時代によって使用される記号やその意味が異なることがある。ここで示されるのはあくまで一例である。

記号論理の記号

以下の解説において、文字 P, Q, R はそれぞれ何らかの命題を表すものとする。

記号 意味 解説
論理積 PQ」は「命題 P と命題 Q がともに真」という命題を表す。
論理和 PQ」は「命題 P と命題 Q の少なくとも一方は真」という命題を表す。
¬ 否定 「¬P」は「命題 P が偽」という命題を表す。
論理包含導出 PQ」は、「命題 P が真なら必ず命題 Q も真」という命題を表す。P が偽の場合は PQ は真であることに注意が必要。
同値 PQ」は PQ の真偽が必ず一致することを意味する。

iffif and only ifの略である。

iff
全称限量記号 しばしば ∀xS; P(x) のように書かれ、集合 S の任意の x に対して命題 P(x) が成立することを表す。
存在限量記号 しばしば ∃ xS; P(x) のように書かれ、集合 S の中に命題 P(x) を成立させるような元 x が少なくとも1つ存在することを表す。
1 一意的に存在 しばしば ∃1 xS; P(x) のように書かれ、集合 S の中に命題 P(x) を成立させるような元 x唯1つ存在することを表す。
!
結論 文頭に記され、その文の主張が前述の内容を受けて述べられていることを示す。
理由根拠 文頭に記され、その文の内容が前述の内容の理由説明であることを示す。
:= 定義 A := X」は、A という記号の意味するところを、X と定義することである。「A :⇔ X」とも書く。また"="の上に"def"ないし"△"を書くこと(≜,≝)もある。
:⇔

集合論の記号

以下の解説において、S, T は任意の集合を表す。

記号 意味 解説
{xS : P(x)} - S の元のうち、命題 P(x) が真であるものすべてを集めた集合。必要がなければ「∈ S」は省略する。
集合に属すること xS」は、x が集合 S の元であることを意味する。必要に応じて「Sx」とも書くが、こちらには S が主語であるようなニュアンスを伴うこともある。
元として含むこと
∈の否定 「¬(xS)」を「xS」と書く。
= 集合の一致 S = T」は集合 S と集合 T が等しいことを示す。
= の否定 ST」は集合 S と集合 T が等しくないことを示す。
集合の包含関係 ST」は ST部分集合であることを意味する。必要に応じて「TS」とも書く。他も同じ。

⊆は ST が等しい場合を含むが、⊂ は真部分集合の場合のみを表す。 ただし、⊂ に「等しい場合」を含む流儀もあり、その場合、真部分集合であることを示すには ⊊ を用いる。
∈ と同様、⊄、⊊などの記号もある。

集合演算
記号 意味 解説
積集合 ST」は集合 S と集合 T の積集合を表す。また
<math>\bigcap_{\lambda\in\Lambda} S_\lambda</math>

は、集合族 {Sλ} のすべての積集合を表す。

和集合 ST」は集合 S と集合 T の和集合を表す。また、
<math>\bigcup_{\lambda\in\Lambda} S_\lambda</math>

は、集合族 {Sλ} のすべての和集合を表す。

+ 直和集合 S + T」は「ST」に同じであるが、ST空集合であることを暗黙に述べている。

この場合、集合族の和集合は次のように記す。

<math>\sum_{\lambda\in\Lambda} S_\lambda</math>
Σ
差集合 ST」は、集合 S から集合 T を除いた差集合を表す。「S - T」も同じ。
c 補集合 Sc は、集合 S の補集合を表す。「<math>\complement S</math>」も同じ。
C( • )
2 冪集合 2Sは、S の部分集合をすべて集めた集合を表す。<math>\mathfrak{P}(S)</math> とも書く。
<math>\mathfrak{P}(\bullet)</math>
(•, •, …) 順序対 元の順序付けられた組
× 直積集合 S × T」は ST の直積を表す。一般に、集合族 {Sλ} に属する集合の直積を
<math>\prod_{\lambda\in\Lambda} S_\lambda</math>

のように記す。

Π
/ 商集合 S/∼」は、集合 S同値関係 ∼ によって定まる S の商集合を表す。
Map(•, •) 写像の全体 Map(S,T) は S から T への写像をすべて集めた集合を表す。
対称差 対称差は、二つの集合に対し、一方には含まれるが他方には含まれない元をすべて集めた集合を表す。
<math>\begin{align}P \, \triangle \, Q &= ( P \cup Q ) \setminus ( P \cap Q ) \\
&= ( P \setminus Q ) \cup ( Q \setminus P )\end{align}</math></td></tr>
写像
記号 意味 解説
f: • 写像 f: ST」は、 fS から T への写像であることを示す。
元の対応 <math>x \,\stackrel{f}{\mapsto}\, y</math>は、x を写像 f によって写したものが y であることを意味する。文脈上明らかであれば f の記述は省略される。
合成写像 「<math>f\circ g</math>」は写像 f と写像 g の合成を表す。すなわち
<math>f\circ g(x) = f(g(x))</math>

である。合成の順序を逆に定義する(つまり、g(f(x)) と定義する)流儀もある。

Image 写像 φ に対して、Image φ はその写像の像全体の集合(値域)を表す。
二項関係演算
記号 意味 解説
= 相等 x = yxy が等しいことを表す。
不一致 xyxy が等しくないことを表す。
ほぼ等しい xy」または「xy」は xy がほぼ等しいことを表す。記号≒は日本でのみ通用し、国際的には ≈ を使う。その他にも∼, ≃, ≅ などを同様の意味で用いることもある。近似においてどのくらい違いを容認するかは文脈による。
順序構造
記号 意味 解説
< 大小関係, 順序 x < y」は xy の間に何らかの順序が定まっていて、x の方が「先」であることを示す。必要に応じて「y > x」とも書く。
>
大小関係, 順序 xy」とは「x < y または x = y」のことである。「xy」も同様に定義される。
(•, •) 開区間 (a, b) は {x : a < x < b} を表す
]•, •[
[•, •] 閉区間 [a, b] は {x : axb} を表す
(•, •] 半開区間 (a, b] は {x : a < xb} を表す
]•, •]
[•, •) [a, b) は {x : ax < b} を表す
[•, •[
sup 上限 集合 S に対し、sup SS の上限を表す。また、写像 f に対し、f(S) の上限を次のようにも書く。
<math>\sup_{x\in S} f(x)</math>

その他、幾つかの記法のバリエーションがある。

inf 下限 上限と同様。
max 最大値 記法は上限と同様
min 最小値 記法は上限と同様
特定の集合
記号 意味
空集合
P 素数 (Prime number)の全体、射影空間など
N 自然数 (Natural number)の全体
Z 整数 (独: Zahlen)の全体
Q 有理数 (Quotient)の全体
R 実数 (Real number)の全体
A 代数的数 (Algebraic number)の全体、アフィン空間、アデールなど
<math>\mathbb{A}</math>
C 複素数 (Complex number)の全体
H 四元数 (Hamilton number)の全体
O 八元数 (Octonion)の全体
<math>\mathbb{O}</math>
S 十六元数 (Sedenion)の全体
<math>\mathbb{S}</math>
濃度
記号 意味 解説
|•| 濃度 |S| は集合 S の濃度を表す。card S や #S も同じ。
card
#
<math>\aleph_0</math> 可算濃度 自然数で番号付けのできる濃度。これは最小の無限濃度である。
<math>\mathfrak{a}</math>
<math>\aleph</math> 連続体濃度 実数の濃度。これが可算濃度の次の濃度かどうかというのが連続体仮説である。
<math>\mathfrak{c}</math>

定数

テンプレート:Main ある数学定数を表すために広く習慣的に使われる記号がいくつかある。

記号 意味 解説
0 0 加法における単位元、乗法の零元などを指す。
1 1 乗法の単位元、加法の零元などを指す。
[[Π|テンプレート:Π]] 円周率 円周の直径に対する比
e ネイピア数(自然対数の底) リンク先参照。定義の一例として<math>\frac{d}{dx} a^x =a^x</math> なる a
i 虚数単位 自乗して −1 となる数。電気工学系ではしばしば j を用いる。
j, k 1, i と共に四元数体の、R上のベクトル空間としての基底をなす。

幾何学の記号

初等幾何
記号 意味 解説
合同 適当な方法で一致させることができる図形の間の関係
相似
(•, •, …) 座標
 ∠bでbの角を示す、∠ABCでBの角を示す。また複素数の複素平面上におけるベクトルが実軸となす角度
直角 ∟ABCでBの角が直角であることを示す
垂直 AB⊥CDで直線ABと直線CDが垂直であることを示す
平行 AB∥CDで直線ABと直線CDが平行であることを示す
⌒ABでABの弧を示す
距離空間
記号 意味 解説
d(•, •) 距離関数 d(x, y) は xy' との距離
diam(•) diam(X) は d(x, y) (x, yX) の上限
記号 意味 解説
H(•) コホモロジー
H(•) ホモロジー
π(•) ホモトピー

解析学の記号

極限操作
記号 意味 解説
非常に小 xy」は xy に比べて非常に小さいことを表す。「どれくらい」小さいかは文脈による。
非常に大 xy」は xy に比べて非常に大きいことを表す。「どれくらい」大きいかは文脈による。
lim 極限値 数列 an に対し、<math>\lim_{n\to\infty} a_n</math> はその数列の極限値を表す。

また、関数 f(x) に対し、<math>\lim_{x\to c} f(x)</math> は f(x) の c における極限値を表す。

o(•) ランダウの記号 函数の漸近挙動を表す
O(•)
Θ(•)
Ω(•)
• ∼ •
微分積分
記号 意味 解説
導関数, 微分 関数 f(x) に対し、f '(x) は f の導関数を表す。

また、次のようにも表記される。

<math>\frac{d}{dx}f(x),\ \frac{df}{dx}(x)</math>
<math>\frac{d}{dx}</math>
偏微分 <math>\frac{\partial v}{\partial t}</math>
積分 <math>\int_{a}^b f(x) dx</math> : 関数 f(x) の区間 [a,b] における積分
<math>\int_D \,f(x) dx</math> : f(x) の領域 D における積分
<math>\int f(x) dx</math> : f(x) の不定積分。または、積分域が明らかな場合の略記
∇• ナブラ 各成分を微分するベクトル微分作用素
△• ラプラシアン 2つの ∇ の内積になるラプラスの微分作用素
Δ•
div• 発散
rot• 回転
grad• 傾き

代数学の記号

算術記号
記号 意味 解説
+ 正符号 x の加法に関する逆元を表すために負符号を用いて −x と記す。これとのバランスのため、x 自身のことを +x と書くこともある。
負符号
+ 加法 x + y」は xy の和を表す
Σ 総和 sumsummation Σ=S
<math>\sum_{k=1}^n a_k := a_1 + a_2 + \dots + a_{n-1} + a_n.</math>

と定義され、その極限として定まる無限和を

<math>\sum_{k=1}^\infty a_k \equiv \lim_{n \to \infty} \sum_{k=1}^{n} a_k</math>

と書く。またある命題 P(x) があるとき、P(x) を満たすような各 k についての和を取ることを

<math>\sum_{P(k)} \,a_k</math>

と書く。

減法 xy」は xy の差を表す。通常、「x + (−y)」と定義されている。
± 加法と減法 x ± y」は xy の和と差を表す。
× 乗法 x × y」は xy の積を表す。「x · y」や「x * y 」とも書く。
·
*
-1 乗法逆元
Π 総乗 Σ はたくさんの加法を一挙に表すものであったが、Π はたくさんの乗法を一挙に表すものである。
<math>\prod_{k=1}^n a_k = a_1\times a_2\times \dots\times a_n.</math>

他の記法のバリエーションも ∑ に同じ。

÷ 除法 x ÷ y」は xy で割った商を表す。
/
! 階乗 n! は n の階乗を表す。
$ 超階乗 n$ は

'n! の n! 乗を n! 回入れ子した数を表す。<math>3$=3!\uparrow\uparrow3!</math>

合同算術・初等数論
記号 意味 解説
mod 剰余 x mod y」は整数 x の属する法 y剰余類や、xy で割った余りを表す。「x % y」はコンピュータ寄りの分野でよく用いられる記法である。
%
| 割り切る x | y」は、xy を割り切る、つまり xy約数であることを表す。
</math> </math> の否定 -
• ≡ • (mod •) 合同 nm (mod d)」は nmd を法として合同であることを示す。
ord(•) 位数 ある群の元の個数を群の位数という。また群の元 x に対し、ord xx の生成する巡回群の位数を表す。
(•, •) 最大公約数 (a, b) は ab の最大公約数を表す
記号 意味 解説
0 零元 加法的代数系の単位元を 0 あるいは 0S と書く。
O
1 乗法単位元 乗法的代数系の単位元を 1 あるいは 1S と書く。
e 冪等元 環の冪等元をしばしば e で表す。
記号 意味 解説
| • | 絶対値 |x| は x の絶対値である。
abs(•)
‖ • ‖ ノルム x‖ は x のノルムである。
<math>\Re\bullet</math> 実部 複素数 z に対し、Re(z) はその実部を、Im(z) はその虚部を表す。z = Re(z) + i Im(z)
Re
<math>\Im\bullet</math> 虚部
Im
<math>\overline{\bullet}</math> 共役複素数 複素数 z に対し、<math>\bar z</math> はその共役複素数を表す。
deg • 次数 多項式 f に対して、deg f はその次数を表す。
冪根根基 nxxn 乗根を表す。n が 2 であるときには単に √x と書くことが多い。イデアルの根基をあらわす。
<•, •> 内積 <x, y> は xy の内積を表す
(•, •)
記号 意味 解説
dim • 次元 ベクトル空間 V に対し、「dim V」は V の次元を表す。
|•| 行列式 |X| は行列 X の行列式である。
det(•)
rank • 階数 線形写像 φ に対して、rank φ は dim Image(φ) を表す。また、行列 A に対して、rank AA の階数を表す。
Ker • , 零空間 準同型、ベクトル空間の間の線形写像 φ に対して、Ker φ はその準同型の核を表す。
Hom(•, •) 準同型の集合 HomK(F, G) は、作用域 K のある代数系 F, G の間の作用準同型 (homomorphism) 全体からなる集合を表す。
Aut(•) 自己同型群 Aut(G) は、G のそれ自身に対する同型 (automorphism) 全体からなる群を表す。
Inn(•) 内部自己同型群 Inn(G) は、G の内部自己同型 (inner automorphism) 全体からなる群を表す。
End(•) 自己準同型 End(G) は、G のそれ自身に対する準同型 (endomorphism) 全体からなる集合(モノイド)を表す。
記号 意味 解説
<math>\langle \bullet \rangle</math> 生成 G を群とすると、G の部分集合 S に対し、<S> は S の生成する部分群を表す。特に、 S一元集合 S = { x } である時には <x> とも書く。これは x の生成する巡回群である。環やベクトル空間などについても同様の記法を使う。
(•) 生成するイデアル (a, ...) は a, ... の生成するイデアル
K[•] 多項式環、生成する環 K を可換環とするとき、K[x, ...] は K と {x, ...} を含む最小の環。生成系が不定元のみからなれば多項式の環である。
K(•) 有理函数環、生成する体 K 可換体とするとき、K(x, ...) は K と {x, ...} を含む最小の体。生成系が不定元のみからなれば有理式の体である。
K<•> 非可換多項式環、生成する環 K 非可換環とするとき、K<x, ...> は K と {x, ...} を含む最小の環。

脚注

テンプレート:Reflist

参考資料

  • JIS Z8201 数学記号

関連項目


テンプレート:数学


  1. 数学においては、各々の記号はそれ単独では「意味」を持たないものと理解される。それらは常に、数式あるいは論理式として文脈(時には暗黙のうちに掲げられている、前提や枠組み)に即して評価をされて初めて、値として意味を生じるのである。ゆえにここに掲げられる意味は慣用的な一例に過ぎず絶対ではないことに事前の了解が必要である。記号の「読み」は記号の見た目やその文脈における意味、あるいは記号の由来(例えばエポニム)など便宜的な都合(たとえば、特定のグリフをインプットメソッドを通じてコードポイントを指定して利用するために何らかの呼称を与えたりすること)などといったものに従って生じるために、「記号」と「読み」との間には相関性を見いだすことなく分けて考えるのが妥当である。