直和
テンプレート:出典の明記 直和(ちょくわ、テンプレート:Lang-en-short、disjoint union)とは、複数の集合、また(特に代数的構造の入った)集合をぴったり貼り合わせてできる新たな集合のことをいう。
直和を表すのに用いられる記号には
- <math> \oplus, \coprod </math>
などがある。後者の記号は直積のそれによく似ているが、後述するように直和と直積には深い関連があり、特にある種の代数的構造を持つ集合の直和と直積は有限個のものの間では同じになる。
集合の直和
集合の直和(テンプレート:Lang-en-short、非交和)とは、互いに交わらない、つまり共通部分が空集合であるような二つの集合の和集合を表す。二つ以上の集合の直和も同様に定義できる。たとえば、ある位相空間の部分集合の、内部と境界と外部の和は直和になっている。
形式的に、(必ずしも共通部分が空ではない)二つの集合 A, B の直和は次のように与えられる:A や B に属さない記号、たとえば * を付加した集合 A* = A × {*}, B* = {*} × B を考えてやると、二つの埋め込み
- <math>A \hookrightarrow A^*;\, a \mapsto (a,*),</math>
- <math>B \hookrightarrow B^*;\, b \mapsto (*,b)</math>
が得られて、A*、B* には共通部分がなくなる。このときの和集合 A* ∪ B* のことを A と B の直和という(上の埋め込みは全単射であり、誤解のおそれのない場合には A* と A, B* と B はそれぞれ同一視して区別しない)。今の場合、構成した直和は直積 A* × B* の部分集合である。
線型空間の直和
体 F 上の線型空間 V , W に対してその直和(direct sum、有向和)とは以下のように定められる
- 定義
F 上の線型空間 U が V , W の直和であるとは、U のすべてのベクトル u ∈ U に対して V の元と W の元が唯一つ存在し
- u = v + w (v ∈ V , w ∈ W)
と唯一通りに表現可能であることを言う。U は V⊕W とも表される。
- 線型空間の直和の特徴
- V⊕W が存在するならば、V ∩ W = {0}
- V の任意の基底と W の任意の基底の和集合は V⊕W の一つの基底となる。
- V , W の直積 V×W と V⊕W はカノニカルな同型射 Φ : (v,w) ↦ v+w が存在する同型関係。
加群の直和
任意個の加群 {Mi}i∈I に対して、それらの直積
- <math>\prod_{i \in I} M_i </math>
に含まれる元のうち(これが空でないことは選択公理を要さない)、その成分が有限個のものを除いてすべて単位元であるようなもの の集合を考える(制限直積)。元の間に演算を (xi)i∈I + (yi)i∈I = (xi + yi)i∈I, 環の作用を a(xi)i∈I = (axi)i∈I(a は環の元)で与えると、この集合は加群になる。これを加群 {Mi}i∈I の直和と呼ぶ。なお、この定義から作用を無視すれば自然にアーベル群の直和が得られる。
ある加群の任意の元が部分加群 {Mi} の元の有限の和として一意的に書き表せるとき、この加群は {Mi} の直和と同型になる。直和はこのようにして構造的に定義することもできる。これに対して既に述べたような定義を構成的ということもある。
ベクトル空間と同じように、直和加群の長さはそれぞれの加群の長さ(またはアーベル群のランク)の和になる。
圏論的直和
圏論における直和(テンプレート:Lang-en-short、双対直積)とは、直積 (product) の双対概念で、次の普遍性を持つ対象 A のことである:
対象の族 {Aλ}λ∈Λ を考える。対象 A と射 iλ: Aλ → A が存在して、任意の対象 X と写像 fλ: Aλ → X に対し、
- <math>f_\lambda = f \circ i_\lambda</math>
を満たす f: A → X がただ一つ存在する。
集合の圏では、この圏論的定義でいう直積・直和と、上で述べた 「集合の直積・直和」 の概念は一致する。ところが、一般にはそうはならない。たとえば、単位元を持つ可換環の圏における直和とは 「環のテンソル積」 であって、上で述べた 「環の直和」 は圏論的には直積である。また、群の圏における直和は 「群のテンプレート:仮リンク」 と呼ばれるものである。あるいは、アーベル群の圏においては、直和は「制限直積」であり直積は「直積」であるから、この場合は、有限個の対象に対する直積と直和は同じ対象を定める。これは環上の加群の圏においても同様である。