不等号
不等号(ふとうごう)は、実数などの大小を表すための数学記号である。より一般的には、順序集合(例: 整数、実数)の2つの要素の間の順序(大小ともいう)を表す。
順序集合の二つの元は、等しいか、片方が他方より大きいか、等しくなく大小関係がないか、のいずれかである。 2つが等しい場合は等号(=)を使い、2つに大小関係がある場合にのみ不等号が使える。等しくなく、大小関係がないあるいは問題としないときには否定等号(≠)を使う。否定等号は「不等」を表す記号ではあるが、大小関係がなくとも使える(例: 複素数)ので、大小を表す記号とは性質が異なり、不等号には含めないことが多い。
不等号は等号と同様に中置し、左辺と右辺の間の順序を表す。等号を含む等式と同様に、不等号を含む式を不等式と呼ぶ。
目次
基本的な不等号
単純な不等号
テンプレート:記号文字 「<」は左辺が右辺より小さいことを示す。「>」は左辺が右辺より大きいことを示す。
日本語の読みは文部科学省により「〜は〜より小さい」、「〜は〜より大きい」と読むように指導されているが、「小(しょう)なり」「大(だい)なり」と参照されることも多い。
- 使用例
- <math>3 > 2\,</math>(3は2より大きい)
等号付き不等号
テンプレート:記号文字 「≦」「≤」「⩽」(いずれでも意味は同じ)は左辺が右辺より小さいか等しい(a < b または a = b)ことを示す。「≧」「≥」「⩾」は左辺が右辺より大きいか等しいことを示す。
初等教育では <、> の「(等号を含まない)不等号」を先に導入するが、数学一般においては等号を含めた「≦」を先に定義する方が自然な場合が多く、「<」のほうが「a ≦ b かつ a ≠ b」として定義される。
日本の学校では「≦」「≧」と不等号の下に等号を書く場合が多い。欧米では不等号の下に一本線を書いた「≤」「≥」や不等号の下に平行な線を書いた「⩽」「⩾」と書く場合が多い。
日本語の読みは文部科学省により「〜は〜以下」、「〜は〜以上」と指導されているが、「小なりイコール」および「大なりイコール」として参照されることも多い。プログラミングでは「LE (less than or equal to)」「GE (greater than or equal to)」と呼ぶこともある。
- 使用例
- <math>a^2 \geqq 0</math>(a2 は0以上)
発展的な用法
「a < b」と「b > a」、「a ≦ b」と「b ≧ a」はそれぞれまったく同じ意味である。
3辺の不等式 a < b < c は、同じ形の等式と同様に「a < b かつ b < c」を意味し、推移律により a < c も同時に表している。a < b < c = d ≦ e < …… のように、4辺以上になったり「≤」や等号が混ざったりしても同様である。「>」「≥」「=」でも同様の表現ができる。ただし、「<」「≦」と「>」「≧」が混ざることは(推移律が成り立たず実用性が乏しいので)まれである。
3辺の不等式は変数の含まれる区間を表すのによく使われる。
- <math>a < x < b\,</math> は <math>x \in (a, b)</math> に等価
- <math>a \leqq x < b</math> は <math>x \in [a, b)</math> に等価
- <math>a < x \leqq b</math> は <math>x \in (a, b]</math> に等価
- <math>a \leqq x \leqq b</math> は <math>x \in [a, b]</math> に等価
派生記号
複号
テンプレート:記号文字 テンプレート:記号文字 複号同順を使った式で、「≶」「≷」「⪋」「⪌」「≦」「≧」「⪙」「⪚」もしくは「≶」「≷」「⋚」「⋛」「≤」「≥」「⋜」「⋝」が使われる。ただし「≤」「≥」「≦」「≧」は以下・以上と紛らわしいので、「複号同順」や「等号は同時にのみ成り立つ」等の但し書きを添えることが多い。
1つの論述の中に複数の複号同順を表す不等号を同時に用い、複号同順を表す不等号の上部および下部のそれぞれ(「⋚」、「⋛」の場合は上部、中央、下部のそれぞれ)で文が成り立つ場合に用いる。また、「±」および「∓」と共にも用いられる。
1つの式だけで使われることはまれで、「〜ならば〜」「〜のとき〜」「〜とすると〜」などと複数の式にまたがり使われることが多い。
正負の複号と違い、1回使われるだけでは意味を成さない。「どちらかが成り立つ」(x = ±1 : x = 1 または x = −1)のような用法は、等号付き不等号でのみ使われる。
日本では、「⪋」「⪌」と中央をイコールの2本線で表記する場合が多いが、欧米では「⋚」「⋛」と1本線で表す場合が多い。
- 使用例
- <math>a \lessgtr b \lessgtr c</math> ( (a < b < c) または (a > b > c) )
- <math>a \lessgtr b</math> ならば <math>x + a \lessgtr x + b</math> ((a < b ならば x + a < x + b)であり(a > b ならば x + a > x + b) )
- <math>a \lesseqgtr b</math> ならば <math>x + a \lesseqgtr x + b</math> ((a < b ならば x + a < x + b)であり(a = b ならば x + a = x + b) であり (a > b ならば x + a > x + b))
- <math>a^2 = 4\,</math> で <math>a \gtrless 0</math> ならば <math>a = \pm 2</math> ( (a2 = 4 で a > 0 ならば a = 2) であり (a2 = 4 で a < 0 ならば a = −2) )
非常に大きい/小さい
テンプレート:記号文字 比が極度に大きいことを示すために、通常の不等号ではなく、「≪」「≫」が使用される。原則として、双方非負(0以上)の場合にのみ使う。0に近い領域で比が大きいこともあるので、差は必ずしも大きくない。
その後に近似計算を行うための説明であることが多い。
「〜は〜より十分に小さい(大きい)」「〜は〜より非常に小さい(大きい)」などと読む。
- 使用例
- <math>10^{-10} \ll 0.1 < 1 < 10 \ll 10^{10}</math>
- <math>a \gg 1</math> ならば <math>a + 1 \approx a</math>
大きい/小さいかほぼ等しい
テンプレート:記号文字 「≲」「⪅」「⪍」(意味に大きな違いはない)は「小さいかほぼ等しい」、「≳」「⪆」「⪎」は「大きいかほぼ等しい」を意味する。近似計算で使われる。
- 使用例
- <math>a \approx 0</math> で <math>b > 0\,</math> ならば <math>a + b \gtrapprox 0</math>
数学以外の用法
コンピュータ
コンピュータの分野では不等号が「LT (less than)」「GT (greater than)」と呼ばれることもある。不等式としては次のように使われる。
- ほとんどの言語で、不等号は < と > で表される。
- ほとんどの言語で、等号付き不等号は <= と >= で表される。
- プログラミング言語においては、不等式は左辺と右辺を引数にとる二値集合(真偽値の集合)への関数として定義されることが多い。
- Python のような例を除けば、 a < b < c のような構文はエラーとなるか (a < b) < c と解釈され、数学記号として期待される結果(a < b かつ b < c)を返さない。ただしLISPは、(< a b c) でそのような結果を返す。
- Pascal、SQLなどでは、<> が否定等号(≠)として使われる。
- PerlやRubyなどでは、<=> は、左辺が右辺より大きければ 1、小さければ −1、等しければ 0 を返す演算子である。
不等式以外に使われる不等号は、次のようなものである。
- 主にASCII環境で、< … > を山括弧(‹…› や〈…〉)の、<- -> や < > を矢印(← →)の代用に使う。不等号以外の用法は、これらから発展したものが多い。
- C言語、Java、Perlなど多くの言語で、<< と >> はビットシフト演算子である。
- C++では、<< と >> は(ビットシフト演算子でもあるが)ストリームへの入出力の演算子でもある。
- C++では、テンプレートに与える引数を、<arg1, arg2, ...> のような形で表記する。
- C言語、Perl、PHPなどでは、-> はメンバ演算子である。アロー演算子とも呼ばれる。
- UnixやMS-DOSではリダイレクトを表す。< は標準入力、> は標準出力、>& は標準エラー、>> は標準出力を追記、等の種類がある。
- Perlでは、$< はプロセスユーザID、$> はプロセス実行ユーザIDを表す。
- Perl、Ruby、PHPなどでは、連想配列のキーと値を=>で区切る。
- XMLやHTMLなどのSGMLでは、<要素名> と括弧のように使い、タグを表す。
- 多くのコマンドインタプリタで、> はコマンドプロンプトに使われる。
- 多くのチャットシステムで、発言の前に発言者のハンドルと > を付ける。「ハンドル >」の形のコマンドプロンプトから発展したものである。
- 電子メールや電子掲示板で、> が引用符として、引用各行の行頭につけられる。古くはタブを使っていたが、ネストするとタブが連続することになるので、表示桁数節約のために > を使うようになった。
- チャットや電子掲示板で、> や >> のあとにハンドル、人名、レス番等を書き、その人物やレスへの発言であることを表す。元はリダイレクト構文に由来し、1行発言の後に「Hello > john」のように使った。現代のスレッドフロート型掲示板では、レスの冒頭に「>>レス番[改行]」と書くか、文中に「>>レス番は〜」などと書く。
- 人名の後に<(通常全角)を付け、その人物の発言であることを表す(通常は実際の発言の引用ではなく代弁やジョークとして)。漫画のふきだしに由来する。
文字実体参照
HTMLでは不等号はタグを表すため、ASCII文字であるにもかかわらず文字実体参照 < (<) と > (>) がある。
等号付き不等号にも文字実体参照 ≤ (≤) と ≥ (≥) がある。これらは U+2264 と U+2265 の、等号が一本線の等号付き不等号に変換される。