ドラえもん のび太のパラレル西遊記
『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』(ドラえもん のびたのパラレルさいゆうき)[1]は、1988年3月12日に公開された『ドラえもん』の映画作品。
原作は藤子・F・不二雄(当時は藤子不二雄Ⓕ名義)で、藤子不二雄コンビ解消後の『ドラえもん』映画第1作目である。監督は芝山努。脚本はもとひら了。配給収入13億6000万円、観客動員数280万人。
同時上映は『エスパー魔美 星空のダンシングドール』『ウルトラB ブラックホールからの独裁者B・B!!』
解説
本作は『西遊記』がモチーフであり、唐の時代の中国を舞台としている。脚本はもとひら了が担当したが、「西遊記の世界」というアイディアは藤子・F・不二雄本人から出されたものである[2]。映画ドラえもんシリーズの中では、特に恐怖的な演出が多くホラー要素が強い。内容は妖怪に支配されるパラレルワールドと化した世界を修正するため、のび太達が『西遊記』の登場人物に扮して、ドラえもんと共に妖怪達と戦うというもの。この戦いの際、のび太が孫悟空、ジャイアンは猪八戒、スネ夫は沙悟浄、しずかは三蔵法師の役に就いた。また、映画作品としてドラミが登場したのは『のび太の魔界大冒険』以来であり、本作でも同作と同様にのび太達の危機を救う。
本作の製作時、藤子・F・不二雄が体調不良で入院していたため、存命時のドラえもん映画作品の中では唯一、原作漫画の大長編ドラえもんが描かれていない。このため、次作『のび太の日本誕生』以降は、大長編と映画で番号が1つずつずれることになった。その代わりとして、フィルムコミックが初めて発売され、上下巻とも表紙絵は藤子が描いている。これを皮切りに以後の作品でもフィルムコミックが発売され、本作以前の作品も後に発売されるようになった。またドラえもん映画の中で、作者名義が藤子不二雄Ⓕとなっている唯一の作品である。
東宝邦画系春のドラえもん映画シリーズで、藤子不二雄Ⓐが原作の作品と併映される最後の作品となった。
あらすじ
小学校の新入生歓迎会に際し、のび太の提案によって「西遊記」の劇をやることになった。孫悟空役をやりたかったのび太であったが、孫悟空役は出木杉に取られてしまい、のび太は提案者であるにもかかわらず「村人その1」という端役で、セリフも「助けてくんろー!」のみだった。
孫悟空が実在すると信じるのび太は、「本物に似ている人が孫悟空になるべきだ」と主張し、タイムマシンで7世紀のシルクロードへ向かう。そこでのび太そっくりの孫悟空を目撃し、そのことを他の者に告げるも、そもそも架空のキャラクターであるはずの孫悟空の目撃談など誰も信じない。このため、もし孫悟空がいなかったら「ドラえもんの道具を使い放題」との約束で仲間たちを連れ、再び唐へやって来たのび太だったが既に孫悟空はいない。仕方なくドラえもんのひみつ道具「ヒーローマシン」でのび太自ら孫悟空に成りすましたものの、調子に乗ってボロを出し、結局ばれてしまった。のび太は、「ドラえもんの道具を使い放題」という無茶な約束に従わざるを得なくなり、ジャイアンが高笑いしながらタイムマシンを操縦する中、のび太とドラえもんは喧嘩になってしまう。
落胆して現代に帰ったところ、なんとのび太の家族も知人もみんな妖怪になっており、現代は妖怪の世界と化していた。原因は唐の時代でヒーローマシンを使った際、暫く起動状態で放置していたマシンからゲームソフト「西遊記」の敵役である妖怪たちが飛び出し、現実世界を荒らして三蔵法師を殺し、人類を滅ぼして人間に成り代ったためであった。こうしてパラレルワールドになってしまった歴史を元に戻すには、唐の時代へ戻って妖怪たちを1匹残らず倒すしかない。そこで5人は妖怪退治のため、ヒーローマシンで悟空たちに変身し、再び唐の時代へ向かう。しかしその時すでに本物の三蔵法師一行には、じわじわと妖怪たちの手が忍び寄っていた。
舞台
- 630年の唐(中国)
- 実在の三蔵法師(玄奘三蔵)が天竺への旅をしていた時代。『西遊記』に登場するような孫悟空や妖怪たちはいないはずが、ドラえもんのひみつ道具「ヒーローマシン」によって金角、銀角、牛魔王などの妖怪が現れ、大混乱に陥ってしまう。
- なお映画の音声では「636年」と聴こえるが、フィルムコミックには「630年」となっている。
ゲストキャラクター
- タイムマシン(音声)
- 声 - 三ツ矢雄二
- 今回の映画ではタイムマシンに音声制御装置が付けられており、ナビゲーションの役割をする。声を認識し、その指示に従って自動操縦となりナビゲートしてくれるのはいいのだが、自動操縦の精度が低い[3]上に操縦がやや乱暴で融通がきかないという欠点を持つ。このようなこともあって最終的にドラえもんは音声制御装置をオフにしてしまった。
- 三蔵法師
- 声 - 池田勝
- 実在する唐の時代の仏教の僧侶。経典を手に入れるため天竺への旅をしている。スパイ活動をしていたリンレイを責めなかったり、行き場を失ったリンレイを自ら引き取るなど、心が広い人物。日本における西遊記の映像化作品では女優が演じる事が常とされている様に、中性的な美青年僧のイメージが強いが、本作では史書の記述どおり体格の良い朴訥とした風貌で描かれている。ドラえもん劇場版において初の実在した歴史上の人物である。
- キャラクターデザインは、藤子・F・不二雄作品「T・Pぼん」の『白竜のほえる山』に登場する三蔵法師に基づいている。
- リンレイ
- 声 - 水谷優子
- 三蔵法師の旅にお供する少年。その正体は牛魔王と羅刹女の子供である紅孩児(こうがいじ)。三蔵を捕らえるためのスパイとして送り込まれたが、三蔵は初めからそれを見抜いており、その上でお供として連れていた。三蔵やのび太との交流から罪悪感が生じ始め、最終的には両親のやり方に耐えきれず、捕らわれたのび太達を助ける。両親を失った後は三蔵に引き取られ、そして正式に三蔵の弟子となった。原作同様、泣き虫。
- 人間と変わらぬ容姿をしているが、元々の姿なのか、妖怪としての姿があるのかは不明。
- 牛魔王
- 声 - 柴田秀勝
- 火焔山に棲む妖怪たちの王。自身の身体の大きさを自由自在に変えることが可能で、最終決戦では身長35m、体重2万トンと化した。この巨体でヒーローマシンを踏みつけて壊し、妖怪たちの封印方法を封じたことで、ドラえもん、のび太、ドラミを追い詰めた。しかし、のび太が最後の力を振り絞って巨大化させた如意棒で壁に叩きつけられた際に心臓が停止して息絶える。これにより全ての妖怪たちは力を失い、自身の亡骸は噴火を起こした火焔山の溶岩に居城もろとも飲み込まれた。
- 捕らえたドラえもんたちを食べようとした際、最初にドラえもんを食べようとした。
- 羅刹女
- 声 - 栗葉子
- 牛魔王の妻。空を自在に飛ぶ妖力を牛魔王から与えられており、強風を巻き起こす「芭蕉扇」を持っている。その力でのび太を苦しめた。リンレイの裏切りで捕らえていたドラえもんたちを解放されてしまうが、最終決戦の最中にしずか、スネ夫、ジャイアン、三蔵、リンレイを再度捕らえることに成功する。しかし、牛魔王がのび太に倒されたことで自身も力を失い、火焔山の溶岩の中に落下して最期を迎えた。形見となった芭蕉扇はスネ夫とジャイアンが火焔山の炎を消すために使用した。
- 金角
- 声 - 石森達幸
- 牛魔王の子分。名前を呼ばれた相手が返事をするとその相手を吸い込んでしまうというヒョウタンを持つ。幾度となく三蔵法師を狙うが、結局はヒーローマシンに戻される。
- 銀角
- 声 - 加藤精三
- 牛魔王の子分。金角の弟。金角がヒーローマシンに戻された後に敵討ちのためにドラえもんたちを狙うが、降参したふりをしたドラえもんの機転でヒーローマシンに戻される。
- 先生
- 声 - 田中亮一
- 妖怪の世界では、牛魔王に似た妖怪に変身する。[4]
- 野比玉子
- 声 - 千々松幸子
- 妖怪の世界では、のび太の0点の答案用紙を見つけた途端に鬼の姿に変身する。
- 野比のび助
- 声 - 加藤正之
- 妖怪の世界では、新聞を読んでいる時に鬼の影が見える。また、トカゲのスープが大好物である。
- モトヒラくん
- 声 - 難波圭一
- のび太たちのクラスメート。冒頭における劇の練習シーンで登場。クラスの演劇の脚本と演出を担当している。モデルは、この作品の脚本を担当したもとひら了。
- 出木杉英才
- 声 - 白川澄子
- 今作では、孫悟空の劇で悟空の役担当。妖怪に乗っ取られた世界では、出木杉の頭に角が生えている。
- ドラミ
- 声 - よこざわけい子
- 牛魔王に食べられそうになった時助けにきた助っ人キャラクターとして登場。また、ドラミのアイディアで家に戻ることができた。
- ヒーローマシンのコンピューター
- 声 - 石井敏郎
- ヒーローマシンの中でプレイヤーに音声で説明を行う。
- 姫
- 声 - 原えりこ
- 本名「ピーチ姫」[5]。ドラえもんがプレイしたヒーローマシンの「バイキング」中の登場人物。ドラゴンに捕らえられていた。
- 妖怪
- 声 - 田原アルノ、島香裕
- 少年
- 声 - スイッチョン
登場するひみつ道具
- ヒーローマシン
- 当時のブームを反映し、ファミコンやセガ・マークIII・セガ・マスターシステムを意識したつくりとなっている。
- 如意棒
- 筋斗雲
- 衣装
- タイムマシン
- ドラミちゃんのタイムマシン
- タイムマシンに自動音声装置
- 蒸留水
- スパイ衛星
- タケコプター
- こうもりホイホイ銃
- 気配アラーム
- ほんやくコンニャク
- ひらりマント
- どこでもドア
- デラックス・キャンピングカプセル
- 雲製造機
スタッフ
- 原作 - 藤子不二雄Ⓕ
- 脚本 - もとひら了
- レイアウト - 本多敏行
- 作画監督 - 富永貞義
- 美術設定 - 工藤剛一
- 美術監督 - 高野正道
- 録音監督 - 浦上靖夫、大熊昭
- 音楽 - 菊池俊輔
- 効果 - 柏原満
- 撮影監督 - 熊谷正弘
- 特殊撮影 - 原真悟
- 監修 - 楠部大吉郎
- プロデューサー - 別紙壮一、小泉美明、波多野正美
- 監督 - 芝山努
- 演出助手 - 平井峰太郎
- 作画監督補佐 - 大塚正実
- 動画チェック - 内藤真一、原鉄夫
- 色設計 - 野中幸子、枝光敦子
- 仕上監査 - 代田千秋、吉沢幸子
- 特殊効果 - 土井通明
- エリ合成 - 平田隆文、古宮慶多
- コンピューターグラフィックス - 亀谷久
- 編集 - 井上和夫、渡瀬祐子
- 制作事務 - 大神田富美
- 制作進行 - 中村守、和田泰
- 制作デスク - 市川芳彦
- 制作担当 - 山田俊秀
- 制作協力 - 藤子プロ、旭通信社
- 制作 - シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
- 原画
- 池ノ谷安夫 飯山嘉昌 大塚正実 斉藤文康 伊藤治美 窪田正史
- 村山純一 原田浩 木村陽子 鹿取真三子 若松孝思 渡辺歩
- 須田裕美子 神村幸子 重国勇二 杉野左秩子 飯口悦子 伊藤一男
- 若山佳治 山本勝也 森島格 西岡哲夫 徳田益男 唐瑞亨
- 徳田幸子
- 協力
- オーディオ・プランニング・ユー アトリエ・ローク 東京アニメーション・フィルム
- 旭プロダクション トミ・プロダクション 亜細亜堂
- アニマル屋 スタディオ・メイツ スタジオ九魔
- スタジオ・タージ スタジオ・キャッツ シャフト
- 井上編集室
主題歌
- オープニングテーマ - 「ドラえもんのうた」
- 作詞 - 楠部工 / 補作詞 - ばばすすむ / 編曲·作曲 - 菊池俊輔 / うた - 大杉久美子 / セリフ - 大山のぶ代(ドラえもん)
- 大杉久美子がドラえもんの映画のオープニングテーマを歌ったのは本作が最後である。次作の『のび太の日本誕生』からは山野さと子が歌っている。
- エンディングテーマ - 「君がいるから」
- 作詞 - 武田鉄矢 / 作曲 - 山木康世 / 編曲 - 都留教博 / うた - 堀江美都子、こおろぎ'73
- ただしエンディングテーマ曲としてだけではなく挿入歌としても使用されており、本作の予告編でも流れる。この他、歌の入っていないアレンジバージョンが作中でBGMとして使用されている。
その他
- 作中、ドラえもんが「ほかの3人(しずか、ジャイアン、スネ夫)の危険があぶない!」という重言を発している。
- 岩山での金角・銀角との戦闘時、金角の呼びかけに応えてしまったドラえもんがヒョウタンに吸い込まれる。その後、困っているのび太に気づいたジャイアンとスネ夫が合流し、どこでもドアでヒョウタンからドラえもんが戻ってくる一連のシーンで、金角が銀角になっている作画ミスがある。これは販売用・レンタル用にかかわらずDVDなどでも確認できる。
- ReBORNシリーズのCM(「ドラえもん お店で相談篇」)で本作同様、のび太が孫悟空・ジャイアンが猪八戒・スネ夫が沙悟浄・しずかが三蔵法師の役割を演じているシーンが存在する。ただし、本作のシーンを流用したわけではなくアニメは新規作成。キャストは水田わさび版のものだがBGMは本作で使用された菊池俊輔作曲の物となっている。
脚注
- ↑ 第1特報では『機械猫 乃比太的同次元西遊記』と表記されていた。
- ↑ 「QuickJapan」64号、太田出版、2006年
- ↑ ±24時間の誤差が出ると断りがある他、同じ場所にも到達できない。
- ↑ のび太のパラレル西遊記 (てんとう虫コミックス・アニメ版―映画ドラえもん)(先生、ドラミ、出木杉、のび太のママ、のび太のパパ)
- ↑ 「映画アニメドラえもん・エスパー魔美 《のび太のパラレル西遊記/ 星空のダンシングドール》」小学館<コロコロコミックデラックス (16)>、1988年。ISBN 4-09-101016-4