ドラえもん のび太の日本誕生
『ドラえもん のび太の日本誕生』(ドラえもん のびたのにっぽんたんじょう)は、月刊コロコロコミック1988年10月号から1989年3月号に掲載された大長編ドラえもんシリーズの作品。および、この原作を元に1989年3月11日に公開された映画作品。大長編シリーズ第9作、映画シリーズ第10作。映画ドラえもん10周年記念作品。
映画監督は芝山努。配給収入20億2000万円、観客動員数420万人。第7回ゴールデングロス賞優秀銀賞受賞。同時上映は『ドラミちゃん ミニドラSOS!!!』。
解説
7万年前の後期更新世日本および中国大陸を舞台に、精霊王ギガゾンビを擁するクラヤミ族とそれに相対するヒカリ族の側に着いたドラえもんとのび太達の戦いを描いた長編作品。
興業記録は、同シリーズでは原作者藤子・F・不二雄存命時には破られることはなかった。藤子Fの死後、配給収入は1998年公開の『のび太の南海大冒険』に破られるが、現在でも最大の観客動員数となっている。
公開直前の1989年3月4日には、ドラえもん映画公開記念スペシャルとして『ドラミちゃんと日本誕生!』も放映されているほか、公開後の1990年に、続篇的内容のゲーム『ドラえもん ギガゾンビの逆襲』も発売されている。
原作冒頭では、『小学館BOOK』1974年3月号掲載の「山おく村の怪事件」(てんとう虫コミックス7巻収録)に登場した廃村、山奥村のその後が描写されている。また『小学四年生』1989年7月号掲載の「いつでもどこでもスケッチセット」(てんとう虫コミックス41巻収録)では、ドラえもんの道具により本作品の一部分が描かれている。これは通常の原作と大長編を結び付ける数少ないエピソードの一つであり、また映画の後日談に当たる話としては唯一のものである。
作中、ドラえもんが時空乱流によるものかもしれないとして話している神隠しのエピソードは、実際に伝えられている話に基づいているものの、その多くは誇張や創作を含んだ都市伝説である[1]。
映画のアバンタイトルではククルの登場のみでのび太らが登場せず、ククルが時空乱流に吸い込まれた後、地球の全景が現れて、どこからともなく「ドラえも~ん!」の叫びが聞こえてオープニングに入る、という珍しい構成である。また、映画ドラえもんシリーズでは唯一オープニングアニメーション内で「連載」と「主題歌」がクレジットされている。本作より、音響にドルビーステレオ方式が採用された。
藤子・F・不二雄の葬儀が行われた1996年9月29日に、『ザ・スーパーサンデー』内で追悼番組として本作が放送された。
あらすじ
家でも学校でも叱られてばかりののび太は家出しようと思い立つが、どこもかしこも私有地か国有地でどこにも自分の思い通りになる土地がない。ドラえもん以下4人も各々の理由で家出するも行くところがなく途方に暮れていた。それならばいっそのことまだ人間が誰も住んでいない太古の日本へ行こうと思い立ち、史上最大の家出へと出発した。
誰にも邪魔されないユートピアが完成したが、一時帰宅したところ、本物の原始人と思しき少年ククルに出会う。ククルの一族であるヒカリ族は、凶暴なクラヤミ族と精霊王ギガゾンビの襲撃を受けたという。のび太たちはヒカリ族を救うため、中国大陸へ向かうことにする。
ゲストキャラクター
- ククル
- 声 - 松岡洋子
- ヒカリ族の少年。集落近くの川で魚をとっていたため辛くもただ1人、クラヤミ族の襲撃を免れた。その後、時空乱流(時空間の乱れ)に巻き込まれて現代の日本に転移してきた。仲間たちを救うべく、ドラゾンビことドラえもんの力を借りてクラヤミ族に立ち向かう。将来はウンバホ(「日の国の勇者」の意)と改名し、ヒカリ族の族長となる。なお、『チンプイ』の春日エリは、彼の子孫である[2]。
- タジカラ
- 声 - 仲木隆司
- ククルの父。クラヤミ族に立ち向かうなどかなり勇敢である。
- タラネ
- 声 - 玉川紗己子
- ククルの母。
- 長老
- 声 - 北村弘一
- ヒカリ族の長老。かなりの高齢。
- ウタベ
- 声 - 二又一成
- ヒカリ族の一員で、歌が得意な男(漫画では太目の中年、映画では痩身)。日本に案内された直後の宴で、ドラゾンビを称える歌を作った。ジャイアン曰く「石器時代の偉大なアーティスト」。
- ヒカリ族
- 声 - 茶風林、坂東尚樹、梁田清之
- 7万年前、現在の中国上海市奉賢区付近に住んでいた原始人部族。ドラえもんたちの手助けにより、未開の地である日本に移住する。ドラえもんが変装したドラゾンビを神様と思って崇拝する。
- 因みに劇場公開された当時は藤村新一による旧石器捏造事件や、牛川人の正確な調査結果(人骨ではなくナウマンゾウの骨の可能性が高い)が発覚する前で、原作漫画には「ヒカリ族以前にも絶滅した人類=原人がいた」との記述があったが、日本に人がいた確実な証拠は作中の通り3万年前までしか遡らないようである。
- ギガゾンビ
- 声 - 永井一郎
- 本編における黒幕。
- 嵐と雷を操る不死身の精霊王。当初は典型的な呪い師と思われていたが、その正体は23世紀の人間であり、クラヤミ族を奴隷化して7万年前の世界の支配を企み、過去⇔未来の時間航行を遮断する時間犯罪者。この行為よりタイムパトロールから容疑をかけられていたため、地底に基地を作っていた。最後はタイムパトロール隊に逮捕された。てんとう虫フィルムコミックスで逮捕の際に「山田博士」と呼ばれている。
- ツチダマ
- 声 - 高島雅羅
- ギガゾンビの部下で、言葉を話す土偶(遮光器土偶に酷似)。クラヤミ族を操っていた。形状記憶セラミック製で再生能力を持っており、粉砕されても復活する。ただし、この再生能力はバラバラになった破片を繋ぎ合わせるに留まり、破片そのものが損失した場合はその部位は再生(新構築)が出来ない。飛行能力を持ち、岩をも吹き飛ばす衝撃波を発生させることができる。時折「ギーガー」という奇怪な声をあげる。猛吹雪の中でも飛行が可能。ドラえもんのひみつ道具「瞬間接着銃」により身動きが取れなくなり、最後にはギガゾンビに見捨てられて土砂の下敷きになる。
- 原作では複数の個体が存在しているが、映画では一体のみの登場となった。
- クラヤミ族
- 声 - 広瀬正志(リーダー)、岸野一彦、郷里大輔
- 7万年前の中国に住む、猿人に近い種族でゴリラのような顔をしている。ヒカリ族に比べると身体能力は高く背も大柄だが知能が低いようで、ギガゾンビやツチダマの下僕と化している。ジャイアンに「マックラ(真っ暗)族」と誤って呼ばれる。
- 架空動物
- のび太がドラえもんの道具で作り出した3匹の架空動物。最後は三匹ともタイムパトロールに引き取られ、「空想動物サファリパーク」で育てられることになった(三匹とも架空動物であるため、原始時代はおろか20世紀に生存すれば生物の歴史を狂わすことになるため)。
- タイムマシン
- 声 - 三ツ矢雄二
- 言葉を発し行き先は音声で認識する。なお、前作映画『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』で音声機能が搭載されたが、前作は原作漫画が存在しなかったため、原作においてしゃべるのは本作が初めてである。
- マンモス
- 声 - 大宮悌二
- ドラえもん達とはぐれたのび太の前に現れるマンモス。のび太に食料を与え、小箱型発信機を託した。その正体はタイムパトロール隊が乗ったタイムスキッパーが偽装した姿。ギガゾンビのアジトを突き止めるために後期更新世にワープして張り込みをしていたが、ギガゾンビに警戒されないために隠密行動していた。
- 地主
- 声 - 田口昂
- のび太たちがいつも遊んでいる空き地の地主。恰幅の良い体型ではげ頭。家出したのび太が空き地に住もうとしたところ、キャンピングカプセルをレンチでたたき止めた(原作では揺さぶった)。不動産会社から土地を3億円で売るように勧められていた(当時はバブル景気の真っ只中)。
- タイムパトロール隊員
- 声 - 橋本晃一
- 少年
- 声 - 真柴摩利
- 少女
- 声 - 林玉緒、前田雅恵
- 頭に花を乗せ、祭りの際は踊りを担当。
登場するひみつ道具
今作に登場する道具の数は旧作では最多。
- キャンピングカプセル
- どこでもドア
- 万能クリーナー(映画のみ)
- タイムマシン
- トレアドール
- 原始生活セット
- タケコプター
- らくらくシャベル
- らくらくつるはし(原作のみ)
- らくらくオノ(原作のみ)
- らくらくノコギリ(原作のみ)
- 花園ボンベ
- 畑のレストラン
- 動物の遺伝子アンプルとクローニングエッグ
- ラジコン雨雲
- ラジコン太陽
- ノビール水道管
- ノビールガス管
- ノビール下水管
- 万能ペットフード「グルメン」
- ミニ家具
- 時空震カウンター
- 翻訳コンニャク
- 映画ではお味噌味のものを使用。ククルはこれを食べてドラえもんたちと意思疎通ができるようになったが、ククルの父たちは食べておらずドラえもん達と意思疎通を行っているため矛盾点がある。
- 衛星写真
- 訪ね人ステッキ
- ひらりマント
- オートマチック花火
- レーザー検査機
- リニアモーターカーごっこ
- レスキューボトル
- ウルトラタイムウォッチ
- 通りぬけフープ
- 瞬間接着銃
- このほかに原作のみセリフだけの登場として、グルメテーブルかけと着せ替えカメラの名前が登場している。
スタッフ
- 制作総指揮 / 原作・脚本 - 藤子・F・不二雄
- 作画監督 - 富永貞義
- 監修 - 楠部大吉郎
- 美術設定 - 川本征平
- 美術監督 - 沼井信朗
- 録音監督 - 浦上靖夫
- 音楽 - 菊池俊輔
- 効果 - 柏原満
- 撮影監督 - 斎藤秋男
- 特殊撮影 - 三沢勝治
- プロデューサー - 別紙壮一、山田俊秀、小泉美明、波多野正美
- 監督 - 芝山努
- 演出助手 - 安藤敏彦、平井峰太郎
- 動画チェック - 内藤真一、原鐵夫
- 色設計 - 野中幸子
- 仕上監査 - 代田千秋、枝光敦子
- 特殊効果 - 土井通明
- コンピューターグラフィックス - 亀谷久、渡辺三千成、水端聡
- エリ合成 - 酒井幸徳、、末弘孝史、渡辺由利夫
- 編集 - 渡瀬祐子、林美都子 / 井上和夫
- 文芸 - 滝原弥生
- 制作事務 - 古井俊和、大神田富人
- 制作進行 - 中村守、和田泰
- 制作デスク - 市川芳彦
- 制作協力 - 藤子プロ、旭通信社
- 制作 - シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
- 原画
- 大塚正実 本多敏行 入江治美 木上益治 渡辺歩 児山昌弘
- 木村陽子 船越英之 飯山嘉昌 斉藤周一 斉藤文康 飯口悦子
- 窪田正史 岡尾輝子 神村幸子 小泉謙三
- 協力
- オーディオ・プランニング・ユー アトリエローク 旭プロダクション
- トミ・プロダクション 亜細亜堂 あにまる屋
- スタジオ・メイツ ダイゾウプロダクション スタジオ・タージ
- 京都アニメーション スタジオ・キャッツ スタジオ九魔
- 井上編集室
主題歌
- オープニングテーマ - 「ドラえもんのうた」
- 作詞 - 楠部工 / 補作詞 - ばばすすむ / 編曲·作曲 - 菊池俊輔 / うた - 山野さと子 / セリフ - 大山のぶ代(ドラえもん)(コロムビアレコード)
- この作品から、この曲が山野版になり[3]、1998年『のび太の南海大冒険』・2000年『のび太の太陽王伝説』の2作除く2004年『のび太のワンニャン時空伝』までの作品で使用された[4]。
- エンディングテーマ - 「時の旅人」
- 作詞 - 武田鉄矢 / 作曲 - 堀内孝雄 / 編曲 - 若草恵 / うた - 西田敏行(CBS・ソニーレコード)
- この曲は後に作曲した堀内孝雄や作詞した武田鉄矢によってそれぞれカバーされ、堀内のバージョンは1996年のフジテレビ系作品『700年前の約束』のイメージソングとして使用された。
脚注
- ↑ Gil Pérez(1593年のマニラ兵士)、英外交官ベンジャミン・バサースト失踪事件、作家アンブローズ・ビアス失踪事件、ノーフォーク連隊集団失踪事件(ガリポリの戦い#損害)、中国兵士集団失踪事件 等
- ↑ 『チンプイ』第5話
- ↑ テレビシリーズ版では1992年10月9日放送分から山野版を使用。
- ↑ テレビシリーズ版での使用は2002年9月20日放送分まで