鉄道員 (小説)
テンプレート:基礎情報 書籍 テンプレート:Portal 『鉄道員』(ぽっぽや)は、浅田次郎の短編小説。『小説すばる』平成7年(1995年)11月号に掲載され、後に同名の短編集にまとめられ、1997年4月に集英社から刊行された。
本項では映画版やドラマ版、漫画版についても記述する。
目次
概要
廃線を間近にしたローカル線(北海道の元運炭路線。現実に1983年から1994年にかけて、特定地方交通線指定などにより、ほとんどが廃止された)の駅長に訪れる幸福を描いた作品。第16回日本冒険小説協会大賞特別賞。短編集は第117回直木賞受賞作で、140万部を売り上げるベストセラーとなった。
また、1999年に降旗康男監督、高倉健主演により映画化され、第23回日本アカデミー賞(2000年3月)の最優秀作品賞、最優秀主演男優賞など主要部門をほぼ独占した。
浅田次郎は、「散歩しているときに、あの(鉄道員の)ストーリー全部が一瞬にして頭の中に降って来た」と語っている。
収録作品
- 鉄道員(ぽっぽや)(『小説すばる』1995年11月号)
- ラブ・レター(『オール讀物』1996年3月号)
- 悪魔(『オール讀物』1995年11月号)
- 角筈にて(『小説すばる』1996年9月号)
- 伽羅(『小説すばる』1996年11月号)
- うらぼんえ(『小説すばる』1996年5月号)
- ろくでなしのサンタ(『小説新潮』1997年1月号)
- オリヲン座からの招待状(『小説すばる』1997年1月号)
あらすじ
主人公の佐藤乙松(おとまつ)は、北海道の道央(十勝・空知と推測されるが、あくまで架空)にある廃止寸前のローカル線「幌舞線(ほろまいせん)」の終着駅・幌舞駅の駅長である。鉄道員一筋に生きてきた彼も定年退職の年を迎え、また同時に彼の勤める幌舞駅も路線とともに廃止の時を迎えようとしていた。彼は生まれたばかりの一人娘を病気で失い、また妻にも先立たれ、孤独な生活を送っていた。
ある雪の日、ホームの雪掻きをする彼のもとに、忘れ物をしたと一人の鉄道ファンの少女が現れる。乙松は近所にある寺の住職の孫だと思い込むのだが、彼に訪れた優しい奇蹟の始まりだった。
書籍
- 「鉄道員(ぽっぽや)」 集英社 初版1997年4月 ISBN 4087742628
- 「鉄道員(ぽっぽや)」 集英社文庫 初版2000年3月 ISBN 4087471713
- 「鉄道員、ラブ・レター」 集英社CDブック 初版1998年2月 ISBN 408901140X
映画
高倉健が『動乱』以来19年ぶりに東映映画に出演する作品であり、広末涼子との共演や坂本龍一の起用なども話題を集めた。
さらに公開時期に放送されていた北海道の駅を舞台とした連続テレビ小説『すずらん』と併せて、JR北海道・JR東日本によるオレンジカードなどの販売、両作の撮影協力を発端にSLすずらん号運転開始という形で北海道で蒸気機関車が復活するといったタイアップも実現した。
映画版は原作をより大きく膨らませている。本編上の時間軸は幌舞線の廃止と乙松が退職を迎える寸前の現代の歳末から正月明けにかけてであり、乙松が回想する形式で、かつては炭坑の町であった幌舞に暮らしてきた人々にもスポットを当てている。
乙松が駅長を務める「幌舞駅」は、根室本線の幾寅駅を改造して撮影された。ただし、該当駅は終着駅ではなく途中駅であるため、いくらかの細工が施されていた。例えば、模擬の腕木式信号機や車止めを設置したことなどがあげられる。本線と幌舞線が分岐するターミナル駅として登場する美寄駅は滝川駅で撮影された。
ゴシップ誌『噂の眞相』での映画会社社員による覆面座談会形式の取材を基にするとした記事[1]では、本作のヒットにより、1997年の東映作品『北京原人 Who are you?』の損失をカバーできたという記述がある。
キャッチコピーは「男が守り抜いたのは、小さな駅と、娘への想い。」「1人娘を亡くした日も、愛する妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた…」
キャスト
- 佐藤乙松:高倉健
- 幌舞線とともに生きてきた鉄道員。蒸気機関車のカマ焚き・機関士を経て1976年(昭和51年)より幌舞駅長を任じられ、退職を迎える。おっかない性格を自認している。
- 佐藤雪子
- 乙松と静枝が結婚後17年を経て授かった一人娘。両親から可愛がられたが、わずか生後数ヶ月で病死してしまう。乙松は仕事から離れられずに最期を看取れなかった。
- 佐藤静枝:大竹しのぶ
- 乙松の妻。乙松とともに駅を支える存在である。しかし体が弱く、暫く子供に恵まれなかった。雪子の没後しばらく経過した現在から2年前に病死するが、乙松は雪子の時と同じく、仕事から離れられずに最期を看取れなかった。
- 3人の少女(佐藤雪子):山田さくや(幼少時)・谷口紗耶香(小学校6年生)・広末涼子(高校生)
- 現代の乙松の許へ、見覚えがある人形を抱えて現れた少女。乙松と同じく「佐藤」と名乗る。正月休みで遊びに来たと話し、乙松は近所にある寺の住職の孫だと思い込んでいたが、住職からの電話で「娘も孫も帰ってきていない」と告げられ、少女が誰であるかを知ることになる。
- 杉浦仙次:小林稔侍
- 乙松の同僚。互いに"乙さん"、"仙ちゃん"と呼び合う仲であり、幌舞線の機関士を経て、幌舞線のターミナル駅である美寄駅長に昇進。退職後はトマムのホテル(小説では美寄駅に東京のデパートとJRの合弁でできる駅ビル)へJRのコネで天下りすることになっており、乙松にも勇退後の再就職先として誘いに、正月に幌舞駅を訪れる。
- 杉浦明子:田中好子
- 仙次の妻。乙松に代わって夫婦で静枝の最期を看取り、乙松を強く責める。
- 杉浦秀男:吉岡秀隆
- 仙次と明子の長男。乙松から”秀坊”と呼ばれる。JR北海道の札幌本社(鉄道事業本部)[2]で事務職を務めている。内示より早く乙松へ幌舞線の廃止を電話で伝えたが、自身は幌舞線で高校へ通ったことから乙松に感謝している。
- 杉浦由美:大沢さやか
- 秀男の妻。
- 吉岡肇:志村けん
- 閉山した筑豊(福岡県)の炭鉱から、石炭が掘れるからと幌舞へ移住してきた期間工の炭坑夫。酒癖が悪く、妻と別れており、敏行を満足に育てられなかった。幌舞炭鉱の事故に巻き込まれ帰らぬ人となる。
- 吉岡敏行:松崎駿司(小学生)、加藤敏行:安藤政信(敏行がムネと養子縁組したため改姓)
- 肇の長男。母親が娘(敏行の妹)を連れて逃げたため、父親と二人暮らし。父親の死後はムネに育てられ、イタリアへ数年間料理修行をする。
- 加藤ムネ:奈良岡朋子
- 幌舞駅前で「だるま食堂」を長く営んでいた店主。肇が死去したため敏行を引き取り、育ての母となる。近年の過疎化の影響で客が減ったため、「だるま食堂」を畳む。
- 飯田:中本賢
- 幌舞線の運転士。幌舞の出身。幌舞線廃止後の自分の身に不安を感じていた。
- その他の出演者
スタッフ
- 監督:降旗康男
- 脚本:岩間芳樹、降旗康男
- 音楽:国吉良一
- 撮影:木村大作[3]
- 録音:紅谷愃一
- 照明:渡辺三雄
- 美術:福澤勝広
- 編集:西東清明
- 助監督:佐々部清、瀧本智行、高橋浩、金丸雄一
- 記録:石山久美子
- 別班撮影:佐光朗
- 音響効果:齋藤昌利、早川隆彦
- 選曲:薄井洋明、浅梨なおこ
- 技斗:二家本辰巳
- VFXスーパーバイザー:根岸誠
- 制作管理:生田篤
- 現像:東映化学
- 撮影協力:ほべつ銀河鉄道の里づくり委員会、赤平市、滝川市、追分町、占冠村、三笠鉄道記念館、夕張市石炭博物館、住友石炭鉱業、北海道放送、大井川鐵道 ほか
- 企画協力:大沢清孝
- 製作者:高岩淡
- 製作委員:広瀬道貞(テレビ朝日)、西條温(住友商事)、玉村輝雄(集英社)、菅徹夫(日本出版販売)、岩田吉夫(朝日新聞)、日高康(高倉プロモーション)、後藤亘(エフエム東京)、植村伴次郎(東北新社)、佐藤雅夫(東映)
- 企画:坂上順、神村謙二、御厨敏雄、後藤広喜
- プロデュース:石川通生、進藤淳一、角田朝雄、木村純一
- 製作:「鉄道員」製作委員会 (東映、テレビ朝日、住友商事、集英社、日本出版販売、朝日新聞社、高倉プロモーション、TOKYO FM、東北新社)
主題歌
挿入歌
- 鉄道員の歌(作詞:降旗康男 作曲:佐藤準)
- テネシーワルツ(静枝がハミングする曲)
- サウスポー(歌:ピンク・レディー・だるま食堂で吉岡肇が流れていた曲)
- 夢は夜ひらく(歌:藤圭子 吉岡肇が歌っていた曲)
協力
受賞歴
- 第17回ゴールデングロス賞優秀銀賞、全興連会長特別賞
テンプレート:降旗康男監督作品 テンプレート:日本アカデミー賞最優秀作品賞 テンプレート:毎日映画コンクール日本映画大賞
ドラマ
テンプレート:Sidebar with collapsible lists 2002年1月1日、テレビ朝日系の新春スペシャルドラマとして「鉄道員/青春編」が放送された。内容は1964年、炭鉱が斜陽期に差し掛かっていた時代の幌舞を舞台としており、仙次と初代の結婚式に始まって、乙松が映画館窓口係を務めていた静枝と知り合い結ばれる所から、原作と同じ結末を迎えるまでを描いている。ドラマでは、原作のラストにあたる部分に関して、独自の脚色も加えられた。
- キャスト
- スタッフ
漫画
テンプレート:Sidebar with collapsible lists 映画公開後に講談社『月刊アフタヌーン』1999年9月号にてながやす巧による長編コミカライズとして掲載され、同年に単行本化された。
「ながやす巧 作品集」巻末エッセイでの ながやすの弁によれば、原作の単行本刊行時から取材・制作を行っていたものの全ての原稿が完成してからの掲載となり、時期が映画化後になったとされている。このため、キャラクターデザインは映画版を踏襲しておらずオリジナルのものである。シナリオは原作に忠実であるが、原作や映画版では端役だった現代の幌舞線の若手運転士である早川の役回りが多くなっている点が特徴。漫画は原作本来のキハ12形をモデルとして描かれている。
- 収録本
- 講談社文庫『鉄道員/ラブ・レター』 ISBN 4062748266(2004年6月15日発行、1999年10月6日発行のKCDXを文庫化したもの)
- 講談社『ながやす巧 作品集』ISBN 9784063755602(2008年9月22日、ムック本扱い)
関連項目
作品
- 駅 STATION
- 新幹線大爆破
- すずらん
- NHK連続テレビ小説として公開当時放送されていた。主人公の一生を炭坑で繁栄衰退した北海道の駅に絡めるという基本プロットが酷似していることから、しばしば「鉄道員」と対比される。
- ホタル (映画)
- 高倉の映画「鉄道員」の次回作(2001年、東映映画)。こちらも高倉(主演)・降旗(監督)・木村(撮影)のコンビで製作された。
- GTO (1998年のテレビドラマ)#映画
- 1999年12月公開の東映映画。映画「鉄道員」とは別編成で撮影・制作されているが、ふるさと銀河線をロケ地としたり、出演者やスタッフの一部が「すずらん」と重複しているという「すずらん」と「鉄道員」の要素をより抜いた一面がある。
- 水曜どうでしょう
- 1999年の企画「ヨーロッパ・リベンジ」において、あまりに過酷な旅を終えて帰国する航空機(日本航空)で「鉄道員」が上映されており、感動のあまり一同は号泣した。テレビでのOAでは上映したスクリーンは番組ロゴで潰されていたが、DVD化にあたり許諾を得てラストシーン(上映中の機内)が収録された。
撮影
- 幾寅駅:「幌舞駅」として使われた駅。
- 大井川鐵道:撮影に使用された鉄道会社。家山駅とC11 227が撮影に使用された。
- 磐越西線:冒頭のシーンにて登場。D51 498が「SL磐梯・会津路号」として臨時運転された際に撮影された。