市
市(し)は、行政区分のひとつで、通常は人口が多く密集した自治体にあてられる。大密集地のために特別区など市と別の区分を設けることもある。
行政上の区分としてあるかどうかに関わらず、人口密集地をより一般的にとらえる場合には、都市ということが比較的多い。
目次
日本における市
市制の市
近世までの日本では、商工業者が住む人口密集地を町、農民が住む集落を村として区分し、市という行政単位はなかった。
明治時代になると、まず1878年7月に郡区町村編制法が大きな人口密集地に区を置いた。ついで1888年4月公布の市制によって、区にかわって市が置かれることになった。市制は町村制と同時に、しかし別個の法として設置された。個々の市への実際の施行は1889年4月が最初である。
地方自治法の市
1947年に地方自治法が制定されると、市町村はこの法律に従って置かれた。
地方自治法では、市は都道府県に次ぐ規模の普通地方公共団体である。市となるべき普通地方公共団体の要件(市制要件)は地方自治法第8条に以下が示されている。
- 原則として人口5万人以上
- 中心市街地の戸数が全戸数の6割以上
- 商工業等の都市的業態に従事する世帯人口が全人口の6割以上
- 他に当該都道府県の条例で定める要件を満たしていること
だが一度、市になると人口減少などにより市の条件を満たせないようになっても、市のままでいることができる。まだ日本で、市になった都市が町村になったことはない。ただし分立により町村になったケースはある。なお、市であっても広さや市街地の配置などによっては山間部や農村部が面積の大半を占めている場合もあり、必ずしも町村より人口密度が高いというわけではない。
町、村から市への移行手続きは地方自治法第7条に定められており、関係市町村の申請に基き、都道府県知事があらかじめ総務大臣に協議し、その同意を得た上で当該都道府県の議会の議決を経てこれを定め、直ちにその旨を総務大臣に届け出ることとなっている。(町〈村〉を市とする処分)
しかし実際には、総務大臣との協議の際に、地方自治法第8条の市制要件の他、市制施行協議基準(昭和28年3月9日付け 自乙発第14号 自治庁次長通知)も満たすことが求められるため、多くの町村にとって市制への移行は容易なものではないのが現状である。
市制への移行の例としては東京都千代田区のように、特別区からの移行を目指しているものもある(千代田市構想)。
また1995年に改正された市町村の合併の特例に関する法律(合併特例法)など市町村合併を促進する法整備がなされ、市町村合併の際における市制要件が人口3万人以上に緩和されその他の要件を満たす必要がなくなるなどしたため、町村合併により市制を目指す例も多く見られた。なお、この合併特例法は2005年3月に失効したが、4月からは市町村の合併の特例等に関する法律が施行された。
市の名称について
新しく市となる普通地方公共団体の名称については、以前は特に規定もなく、福岡県遠賀郡若松町が旧市制の下において市制施行する際には福島県若松市(1899年4月1日市制施行)との重複は特に問題にならず、1914年4月1日に福岡県若松市(現北九州市若松区)が成立した。
しかし、東京都府中市(1954年4月1日市制施行)が市制施行を申請したあとに、広島県府中市が「1954年3月31日」と一日早い市制施行日を申請した事柄が問題化され[1]、1954年7月1日に埼玉県比企郡松山町ほか4村が合併した際に市名として申請した松山市は愛媛県松山市との重複から認可されず、東松山市となった。また、同一名称市の最初の事例である若松市でも先に市制施行をした福島県若松市が周辺町村の編入を期に1955年1月1日、会津若松市に改称した。[2]
こうしたことを踏まえ、1970年に各都道府県知事あてに出された「地方自治法の一部を改正する法律の施行について」(昭和45年3月12日自治振第32号)という自治事務次官通知によって、「市の設置若しくは町を市とする処分を行う場合において、当該処分により、新たに市となる普通地方公共団体の名称については、既存の市の名称と同一となり、又は類似することとならないよう十分配慮すること。」とされるようになった。
これ以後、既に存在する市の(表記上の)名称と同一の名称を使用することができないとされ、既存の市と同一名称の町が市制施行をする際には、方角等を頭に付す(北海道北広島市、埼玉県上福岡市〈現ふじみ野市〉、東京都東大和市、山口県新南陽市〈現周南市〉など)、旧国名や都道府県名・郡名などの広域地名を付す(岩手県陸前高田市、茨城県常陸太田市、常陸大宮市[3]、京都府京田辺市、大阪府大阪狭山市、奈良県大和高田市、広島県安芸高田市[4]、大分県豊後高田市など)、地域を象徴する名詞等を後ろに付す(京都府長岡京市、福岡県大野城市など)、広域地名をそのまま使用する(福岡県八女市〈福島町が市制施行〉など)、瑞祥地名に変更する(埼玉県和光市〈大和町が市制施行〉など)等、様々な方法で市制施行にあたって重複を避けている。
しかし、平成の大合併が行われるなかで、歴史的に共通した項目があるなどの合理的な理由によって既に存在する市側が了承すれば、同一の名称を使用することができるようになり、福島県伊達郡伊達町ほか4町が申請した伊達市が北海道伊達市と同一名称であるにもかかわらず認められた。[5]
2006年現在、同一名称の市としては前述の府中市と伊達市の2組が存在するのみとなっている。
また、「守山市」と「八幡市」は、それぞれ愛知県と福岡県にあったが、いずれも合併で消滅した(守山市→名古屋市守山区、八幡市→北九州市八幡区→北九州市八幡西区・八幡東区)ため、消滅後に市制施行した滋賀県守山市や京都府八幡市は、支障なく市制施行している。[6]
なお、字が違うが同じ読みの市は、出水市と和泉市(いずみ)、鹿島市と鹿嶋市(かしま)、江南市と香南市(こうなん)、古河市と古賀市(こが)、堺市と坂井市(さかい)、さくら市と佐倉市、津島市と対馬市(つしま)、北杜市と北斗市(ほくと)、三次市と三好市とみよし市(みよし)、山形市と山県市(やまがた)の10組が存在する。このうち鹿嶋市とみよし市は、市制施行時に既存の市(鹿島市・三好市)と同一表記となることを避けるために別の文字(異体字・平仮名)を用いた例である。
都市制度
一定以上の規模や地域での役割をもつ市は、政令で指定されることによって、より多くの行政サービスを行う権限を持つ、特例市、中核市、政令指定都市に移行できる。
外国における市(City)
中華人民共和国
中華人民共和国では、直轄市、地級市、県級市の3つに「市」が使われる。 4つの直轄市(北京市、重慶市、上海市、天津市)は、省に属さず独立して自治を行っている。 ほか、同じ「市」を用いられる行政区分に、地級市(市級の市)と県級市(県級の市)とがある。規模は地級市が県級市より上位にあり(「県」もあり、日本と逆で「市」より下位にあたる)、ある地級市の中に県級市が存在することもある。
台湾
テンプレート:Main 台湾では、5つの第一級直轄市(台北市、新北市、台中市、台南市、高雄市)と、3つの第二級省轄市(基隆市、新竹市、嘉義市)が存在する。
韓国
大韓民国では日本と同様の基礎的自治体である一般市と、その中で人口が多い(50万人以上)の特定市(水原市など15市)に「市」が使われる。このほか、日本の都道府県に相当する広域自治体である道の所属から独立し、同等の広域自治体として自治を行うソウル特別市、世宗特別自治市、釜山・大邱・仁川・光州・大田・蔚山の6つの広域市があり、これらは公式には「特別市」「特別自治市」「広域市」を名乗る。ただし一般的には単に「ソウル市」「世宗市」「釜山市」などと呼ぶことも多い。
ベトナム
テンプレート:See ベトナムの都市は、「城舗」(thành phố)と呼ばれ、第一級には中央直轄市(Thành phố trực thuộc Trung ương, 城舗直屬中央)として、第二級には省直轄市(thành phố trực thuộc tỉnh, 城舗直屬省)として存在する。第二級には、ほかに「市社(thị xã)」と呼ばれる市[7]もある。
脚注
- ↑ 東京都の側は旧武蔵国の、広島県の側は旧備後国の、それぞれ国府が置かれていた。ちなみに、広島県府中町は、旧安芸国の国府があったのが町名の由来である。
- ↑ ただこれについては、会津地方が江戸幕末の歴史的経緯から帝國政府に弾圧されてきたということもあり、地元で「会津」を市の名前に入れることに否定的な考えが少なかった(「会津」を市名に加えることに積極的だった)とも考えられている。
- ↑ 市制の時点で大宮市が消滅しており、ほかに大宮の入った市がないにもかかわらず同名が回避された。
- ↑ 市制の時点で高田市が消滅していたにもかかわらず同名が回避された。
- ↑ いずれも江戸時代に仙台を本拠とした大名・伊達氏一門に連なるルーツがある。
- ↑ ただし「八幡市」の読み方は福岡県八幡市が「やはたし」、京都府八幡市が「やわたし」と異なる。さらに京都府八幡市が市制施行されたときには福岡県八幡市との同名回避を行った滋賀県近江八幡市が存在した。
- ↑ 「町」と訳される場合もある。
関連項目
外部リンク
- 都道府県市区町村 - Wikipedia同様、有志によって作られる日本の地方自治体のデータ集
- 行政区画変遷一覧表(更に充実「地名&消印」サイト)