無観客試合
無観客試合(むかんきゃくしあい)は、スポーツの試合において競技連盟や運営者などが観客を入れずに試合を行なう措置である。
目次
概要
無観客試合は主に観客のトラブルなどを原因とする規制措置や制裁であり、多くのスポーツにおいて試合主催者となるチームや観客に対しての罰則として規定されている。主催者にとっては試合の入場料を得ることが出来なくなり、観客にとっては試合を生で見ることが出来ない。直接にはプレーする選手が負わされる罰則ではないものの、特に自チームの不祥事などに起因したものである場合、観客がいない故に全く歓声が無いのでいざ試合に入ってもモチベーションを上げられないという選手も中には存在する。
ただし、規制されるのは観客の場内への入場のみで、場外における観客の応援が規制されない場合もある。後述の2006FIFAワールドカップアジア地区予選、日本-北朝鮮戦において無観客試合が適用された際、日本代表のサポーターがスタジアムの外で選手に対して声援を送る光景が見られた。
罰則以外にもテロ・暴動・伝染病感染が起こりうる場合に、選手・関係者のほか不特定多数が集まる観客の安全や健康面への配慮、会場所在地の地域の保安面や防疫などの観点から適用する場合もある。また試合会場の立地・設備や開催時間、災害による開催地の変更などといった要因で観客の来場が困難な場合や観客用の設備が無い施設での試合となった場合、あえて無観客で試合を実施することがある。その他、観客の安全・健康面及び来場・観戦には問題がなくても、試合会場の感覚チェックや民衆から試合開催の是非を問われかねない状況にあるなどの理由で、試合を非公開とすることもある。
近年では後述のプロレスや競輪の例のように、会場に観客を入れなくてもテレビ中継等のみで興行・開催が成り立つという理由から、開催経費の圧縮(無観客であれば場内警備や入退場管理・場内清掃等の費用が原則不要となる)を目的として無観客試合を行う例も見られる。
主な事例
サッカー
- 1980年10月の欧州カップウィナーズカップで、カスティージャvsウェストハム戦の第1戦で暴動が起きたため、アップトン・パークでの第2戦を無観客で行った[1]。
- 1998年のワールドカップ・フランス大会前のスイス国内での親善試合で、日本はユーゴスラビア、メキシコと無観客試合を行った。テレビ中継はされている。
- UEFAチャンピオンズリーグ 2004-05の準々決勝第2戦(2005年4月)、ミラノ・スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァで開かれたインテルナツィオナーレ・ミラノ(インテル)vsACミランの試合(ミラノダービー)で、インテルのサポーターが試合中に発炎筒を炊き、その内の一つがACミランのGKエジヴァウド・アウヴェス・デ・サンタ・ローザに直撃。更にそれを止めようとしなかったためこの試合は没収試合扱い(0-3でACミランの勝ち)となった。
- 2005年6月8日に平壌で開かれる予定であった FIFAワールドカップ・ドイツ大会のアジア最終予選・北朝鮮vs日本の試合が第3国・無観客試合となった。これは3月30日に北朝鮮のホーム(金日成スタジアム)で行った同大会のイラン戦で、北朝鮮の観客が主審の判定に対してスタンドの椅子や物を投げ込むなどのフーリガン行為が発生したためである。
- 2007年2月2日にシチリアで行われたセリエAのカターニャvsパレルモ戦で起きた暴動事件を受けて、第23節以降のうち、安全基準を満たしていないスタジアムでの試合を無観客で行うことになった。
- UEFA EURO 2008予選(2007年6月2日)、デンマークのコペンハーゲンで行われたデンマークvsスウェーデンの試合で、3-3となっていた後半44分、デンマーク代表選手がスウェーデン代表選手に暴行を働き、主審から即座にレッドカードを掲示されて退場処分となる。これに激怒したデンマークのサポーターがピッチに乱入し、主審を襲撃した。審判への暴行を原因にこの試合は打ち切られ、没収試合扱い(0-3でスウェーデンの勝利)となった。
- 2009年には新型インフルエンザ発生の影響により、大量の感染者が発表されたメキシコではメキシコリーグ及びメキシコ代表の試合を無観客としている。
- 2010年日本フットボールリーグでホンダロックサッカー部の宮崎県で予定されたホームゲームの一部が口蹄疫被害拡大を予防する観点から無観客試合・会場非公表となった。(2010年日本における口蹄疫の流行・社会的な影響の項参照)2011年にフェニックス・シーガイア・リゾート・イベントスクエアで開催したことをJFLのHPで明らかにしている。
- 2010年10月12日、イタリア・ジェノヴァのルイジ・フェッラーリスで開催された欧州選手権予選C組のイタリア対セルビア。セルビアサポーターの妨害行為によって試合開始後6分で試合が中止され、没収試合扱い(0-3でイタリアの勝利)となった。
- この件で、FIFAはセルビアに対して1試合の本拠地無観客試合処分と罰金12万ユーロ(約1300万円)を科す裁定を下した。一方、イタリアには罰金10万ユーロ(約1100万円)を科すとした。さらに、セルビアファンに対し今後の欧州選手権予選での敵地での試合のチケット購入自粛を命じた[2]。また双方とも今後2年間に同様の事態が発生した場合は無観客試合処分を1試合増やすとした。
- 2012年9月23日、中国スーパーリーグの遼寧宏運対杭州緑城は、尖閣諸島の領有権問題に端を発した反日デモの影響から当初予定から1日延期して開催地も北京市の香河国家訓練基地に移して無観客試合で行われた[3]。当時杭州緑城は日本人監督である岡田武史が指揮を執っていた。
- 2014年3月8日に埼玉スタジアム2002で行われたJリーグ ディビジョン1の浦和レッドダイヤモンズ対サガン鳥栖戦において、サポーターによって「JAPANESE ONLY」という差別的ともとれる横断幕が掲示してあった問題を巡り、サッカー界全体が人種差別に対する厳しい姿勢を示している事や事態の重大性、過去にも同様の問題を起こし累犯となっている事から、Jリーグ裁定委員会は同年3月23日に浦和レッドダイヤモンズのホームゲームとして埼玉スタジアムで開催される予定の対清水エスパルス戦を無観客試合とする裁定を下した。同年1月の規約改正により無観客試合の制度がJリーグに導入された[4]が、その初の事例となる[5][6](史上初の無観客試合開催)。
ラグビー
ハンドボール
- モントリオールオリンピック(1976年)アジア地区女子最終予選の日本vsイスラエル戦は、本来ならばホーム・アンド・アウェー方式で、日本とイスラエルの両国で交互に開催するべき処、テロ対策により日本国内の某所で2試合を無観客試合として開催された。
- 2005年4月の東アジアクラブ選手権は無観客で行われた。当時中国では大規模な反日デモが起こっており、中国側が安全面を配慮し、既に売られていた1500枚のチケットをすべて回収した。日本対中国のクラブの試合のみに限らずすべてのカードで適用された。
野球
- プロ野球公式戦では現状該当がないが、春先に実施される練習試合が無観客で行われることがある。
- 2008年3月に阪神甲子園球場で行われた阪神タイガースの練習試合が無観客試合となった。これは2007年秋から実施されていた甲子園の改修工事(第1期)の一環によるもので、当初は工事期間中はオープン戦を行わないことを決めていたが、ファウルゾーンがフィールドシートの設置で狭くなるため新しい甲子園のグラウンド感覚を確かめることを目的として、読売ジャイアンツ・中日ドラゴンズの2チームとの試合が非公開で行われた。また翌2009年3月にも工事第2期(外野席・アルプススタンドの改修など)完了後に同じ組み合わせで無観客試合が行われている。
- 2011年は東日本大震災の影響で当初の3月25日のプロ野球シーズン開幕予定が4月12日にずれ込んだため、各地で無観客の練習試合が行われた。特に発生直後の3月12日・13日は予定されていたオープン戦としての試合の公開を中止し、無観客試合で実施された[8]。
- 2014年3月18日に神宮球場で行われた東京ヤクルトスワローズ対阪神タイガース戦の試合は、同球場で耐震補強工事が行われているため非公開での実施となった[9]。
- 2010年全国高等学校野球選手権宮崎大会が口蹄疫感染拡大防止の為、出場選手の保護者、部員以外の一般市民は観戦は行われなかったが、準決勝以後は口蹄疫被害が縮小されたため、一般市民の来場も認められた。
- 社会人野球においては、都市対抗野球大会や社会人野球日本選手権大会の開催前に、会場となる東京ドームや京セラドーム大阪において出場チーム同士による非公開での練習試合を実施することがある。
テニス
- 2009年3月6日から8日までスウェーデンで行われるデビスカップ2009ワールドグループ1回戦のスウェーデンvsイスラエルの試合は、パレスチナ自治区ガザを攻撃したイスラエルに対する抗議行動に伴い、安全上の理由から無観客試合となった。
バレーボール
- 2012年1月7日並びに1月8日のVリーグ・チャレンジリーグ2011-2012シーズンの女子公式戦3試合は、当初の日程ではひたちなか市総合運動公園総合体育館で開催される予定であったが、東日本大震災による施設の損壊により使用できなくなり、日立オートモティブシステムズ体育館での代替開催に変更。この日立オートモティブシステムズ体育館は企業施設のため観客席設置が出来ず、リーグ当局の決定により無観客試合(一般だけでなく、応援団の立ち入りも禁止された)で大会を開催した[10]。
相撲
- 1945年(昭和20年)6月場所は両国国技館(1909年開館の旧国技館)で非公開で行われた(本来5月開催のところ空襲による会場難や閑院宮逝去による自粛などで延期。国技館も空襲で屋根が焼け落ちており晴天七日間の興行であった)。非公開となった理由は米軍の空襲が激烈な時期であり、東京都内で多人数を集めての興行を行うと危険であったこと、東京大空襲の直後とあって「この非常時に相撲の本場所とは」という批判を恐れたことなどがある。 備州山大八郎が7戦全勝で平幕優勝。(ただし、傷痍軍人が招待されていた)
- 幕下以下に関して、1944年5月(両国国技館)・11月(明治神宮外苑相撲場)、1945年6月(春日野部屋)の各場所は、十両以上と切り離して非公開でおこなわれた。
プロレス
- アメリカ合衆国では、テレビ放映用の試合の収録を、観客を入れた興行を収録するのでなくテレビ局のスタジオにリングを設置して観客無しで試合だけを収録する場合があったという(高森朝雄原作「ジャイアント台風」より)。
- アメリカでは "Empty Arena Match" と呼ばれ、古くは1981年のCWAでのジェリー・ローラー対テリー・ファンク、近年では2009年のTNAでのスティング対カート・アングルの試合などが知られる[11]。
- 日本ではノーピープルマッチと呼ばれる。日本のプロレス史上で無観客試合の有名な例といえば、1987年10月4日に新日本プロレスでアントニオ猪木がマサ斎藤と行った巌流島での「時間無制限ノールール観客なし」の対決である。坂口征二・山本小鉄らの立会人と取材陣のみが見守る中、2時間5分という死闘が展開された。これは、別に猪木と斎藤の間に観客を入れての試合が出来ない事件があったわけではなく、「巌流島で観客無し時間無制限ノールールの果たし合いみたいなのをやったら面白いんじゃないか」という猪木・新日本の企画によるものである。もっとも、観客がいないがゆえに「『島で待ち受けた側が負ける』という武蔵VS小次郎のジンクスにこだわった両雄がなかなか来島せず試合開始時間が遅れに遅れる」というハプニングもあったという。
- ネオプラスが2010年より開始した「19時女子プロレス」は無観客で試合を行っている(試合はUstreamを利用して配信)。
競輪
- 小倉競輪場で2011年より開始した「ミッドナイト競輪」は、周辺住民への配慮から無観客で実施される(レースの模様はSPEEDチャンネルや動画配信サイトなどで流し、車券はインターネットのみで販売)。翌年より前橋競輪場、青森競輪場でも実施。
ゴルフ
- 2012年(平成24年)9月30日に開催されたコカ・コーラ東海クラシックの最終日は、台風17号の接近に伴い「観客の安全が確保できない」として、日本ゴルフツアー機構(JGTO)の設立以来初めてとなる無観客で行われた[12]。また同週開催の日本女子オープン(横浜CC)でも11・12番ホールをギャラリーの入場を禁止する措置をとった。
- ツアー公認試合では現在のところ上記のみだが、本戦出場権を懸けたマンデートーナメントやツアー出場権を懸けた予選会、一部の女子ステップ・アップ・ツアーなどでは無観客で実施される(ステップ・アップ・ツアーでの例 )。
競馬
- フランスではストライキなどにより開催ができずに競馬の代替開催をする場合、予定にない開催のために観客を入れずにレースを行う場合がある。