征途
テンプレート:Portal 『征途』(せいと)は、佐藤大輔によって書かれた架空戦記である。1993年から1994年にかけて、徳間書店(トクマノベルズ)から全3巻が刊行された。佐藤の出世作であり、佐藤の長編シリーズ作品中、2013年5月時点で唯一完結したシリーズでもある。
目次
各巻題名
新書版
トクマノベルズ(徳間書店)
- 征途 1 衰亡の国(1993年3月) ISBN 978-4191551305
- 征途 2 アイアン・フィスト作戦(1993年8月) ISBN 978-4191552517
- 征途 3 ヴィクトリー・ロード(1994年2月) ISBN 978-4198500566
文庫版
徳間文庫(徳間書店)
- 征途 上 衰亡の国(2003年9月) ISBN 978-4198919382
- 征途 中 アイアン・フィスト作戦(2003年10月) ISBN 978-4198919573
- 征途 下 ヴィクトリー・ロード(2003年11月) ISBN 978-4198919696
概要
1巻は冒頭で1995年、宇宙往還機の発進を前にした沖縄県嘉手納宇宙港の情景が描かれた後、一転して1944年のレイテ沖海戦まで視点が溯る。日本艦隊はサマール島沖で栗田健男提督が戦死した後も進撃を続け、上陸作戦中の合衆国陸海軍に大打撃を与える。その結果として合衆国は沖縄侵攻を遅らせると共に、ソヴィエトに対して北海道侵攻を認める。
2〜3巻では東京を首都とする日本国と豊原市(樺太)を首都とする日本民主主義人民共和国(北日本)に分断された二つの日本が留萌 - 釧路線を境界とし、ヴェトナム戦争や湾岸戦争を通じ激しく対立しながら発展していく有様を、同じように分断された藤堂兄弟を中心に描き、北日本の独裁者の死を切っ掛けに勃発した最後の戦いの後、宇宙往還機が発進した直後の嘉手納宇宙港で幕を閉じる。
物語は、これらの歴史に関わった藤堂家一族と、1隻の戦艦=太平洋戦争を生き残った戦艦大和を中心にして、「あり得たかもしれない、もう一つの日本の戦後史の歩み」を描いている。
登場人物
藤堂家
- 藤堂明
- 1巻の主人公。レイテ沖海戦時点では海軍中佐。藤堂家は明の祖父の代から帝国海軍軍人であった。大和の砲術長としてレイテ沖海戦に参加していたが、海戦中に僚艦の砲弾が流れ弾となって大和の前艦橋に命中し、森下艦長、能村副長の他、栗田長官、宇垣戦隊司令官以下艦隊司令部の面々もことごとく戦死してしまう。後艦橋配置だったため難を逃れるが、大和の中で生存する兵科将校の最上級・最先任者として大和の指揮を執らざるを得なくなってしまう。その後、艦隊はレイテ湾突入と米軍上陸部隊の殲滅に成功し、米軍によって「セント・クリスピンの虐殺」と名づけられるほどの戦果を挙げた。翌1945年、内地に一時帰還し大佐に昇進して武蔵の艦長に就任するが、長女は沖縄戦で斃れ、妻も本土への避難途中に敵潜の攻撃により失ってしまう。やがて沖縄水上特攻に参加することとなり、唯一内地に残る二男の進を友人の堀井に託して出撃。台風にまぎれる事で沖縄への接近に成功し、沖縄沖海戦で敵艦数隻を撃沈する戦果を挙げたのち、自らも武蔵とともに壮絶な戦死を遂げた。死後、少将に特進。
- 藤堂守
- 全巻を通じた主人公のひとりで、明の長男。1945年、海軍少尉で流星改(彼の乗機は、愛知航空機の技師だった「先生」によってエンジンを密かに換装された流星改一型)のパイロットとして北海道・千歳基地でソ連軍の参戦に備えていた。石狩湾で領海侵犯したソ連駆逐艦を自らの流星改が撃沈した事件(石狩湾事件)を口実としてソ連が対日参戦し、守も樺太(サハリン)・北海道北部をめぐる攻防戦の最前線で奮闘するが、乗機のエンジントラブルとソ連軍による対空射撃の被弾で、樺太・真岡付近に不時着。ソヴィエト軍の捕虜になるまでに遭遇したある出来事が深いトラウマとなり、妻サーシャ(本名:アレクサンドラ・スターリナ・コンドラチェンコ)と出会うまでの長年にわたり「男性として大変な苦悩」を背負うこととなる。日本分断後は北日本の人民空軍で戦闘機パイロットに転身、祖国解放戦争(北海道戦争の北日本側の呼称)で人民空軍初のエースとなり、ヴェトナム戦争において被弾撃墜されるまで第一線で活躍した。共産主義国家の軍人として生きることに葛藤を抱きながら、最終的には元帥・人民空軍総司令官まで昇進する。サーシャとの間に一児を得るも夭折。その際の心労によって、サーシャもまた病死している。戦後半世紀の間、弟の進と直接顔を合わせたのは只一度であった。
- 藤堂進
- 2巻以降の主人公のひとりで、明の次男。大和が就役した日に生まれた。父の死後はその友人であった堀井の家で育てられ、堀井の娘で一歳年上の雪子と結婚。長じて海上自衛隊に入り、ヴェトナムに派遣される。湾岸戦争ではやまと艦長を勤め、統一戦争終結後、海将補で退役。
- 藤堂礼子
- 明の妻。那覇郊外の造酒屋の娘。夫の出征中に身を寄せていた実家から戦火を避け、次男・進とともに貨物船にて本土(呉)に疎開しようとするが、疎開船が米潜水艦の雷撃を受け沈没、漂流中に溺死する。その際、進は偶然同船した父親の知己の海軍軍人(後に自衛官となった進の上官になる)よりもらった救命胴衣と、疎開船を撃沈した潜水艦艦長の救助により、九死に一生を得ている。
- 藤堂貴子
- 明の長女。母と弟・進の疎開に同行することを拒否して沖縄に残る。沖縄戦の混乱の中、補助看護婦として徴用されていたが、逃げ遅れた幼い兄妹を助けようとして避難していた洞窟から走り出たところ、グラマンTBFから機銃掃射を浴びて死亡。
- 藤堂拓馬
- 進の長男。航空自衛隊の戦闘機パイロットで、TACネームは「ビッグ・ガン」。1982年の南北休戦会談(守と進も出席)が行われるなか、彼の搭乗するF15CJ改イーグルが「領空侵犯機」として日本民主主義人民共和国・第125防空中隊のミサイル攻撃により撃墜され戦死。なお、彼が戦死する結果となった「領空侵犯事件」は、公安調査情報庁(SRI)が守を南日本に脱出させようと仕掛けた政治工作を排除する意図をもって、国家保安省(NSD)長官の滝川が仕組んだものであった。
- 藤堂輝男
- 進の次男。海上自衛隊で戦闘機に搭乗し、ジェット時代初のダブル・エース・パイロットとして空戦史に名を残す。TACネームは「テディ・ベア」。1995年には宇宙往還機第一号の機長に選ばれる。
- 藤堂美咲
- 輝男の妻で旧姓・土井。父母ともに死別し祖父母に育てられた経緯から、常に孤独を求め他人に心を開かない少女時代を過ごす。非常に明晰な頭脳の持ち主であり、海上自衛隊に入隊後は美咲自身の才覚のほかに自衛隊上層部のPR戦略もあり、驚異的なスピードで昇進を重ねる。しかし、空母勤務中にパイロットの輝男と出会ったことが美咲を孤独から解放、自衛隊を辞め輝男と結婚する道を選ぶ。のちに輝男との間に一女・舞子を生む。
日本民主主義人民共和国(北日本・別称〈向こう側〉)
- 有畑角次
- 日本民主主義人民共和国の初代首相。戦前の共産党非合法時代を理論派の活動家として半世紀以上過ごした。戦前に投獄され、敗戦に伴う釈放の後に留萌-釧路線を越えてソ連軍に接触、豊原共産政権を樹立して初代首相に就任したが、祖国解放戦争の停戦後、政敵の川宮勝次にクーデターを起こされ失脚。彼を含む党内の有畑派は一斉に拘束され、国家保安省の玄関ホールにおいて即決裁判ののち、処刑された。
- 川宮勝次
- 豊原政権の情報機関兼秘密警察組織である国家保安省(略称として「NSD」、他国の同業機関からは上記の粛清の結果「サハリン・ホール」とよばれる)初代長官。共産党非合法時代に武闘派として活動していた経歴から戦後の釈放が遅れ、北日本の建国までに留萌-釧路線を越境することができなかった。このために初代首相になり損ねた川宮は、祖国解放戦争中から政敵である有畑に露骨な対抗意識を見せた。祖国解放戦争の停戦後、有畑首相一派をことごとく粛清して首相の座を奪い、腹心の滝川を長官に据えたNSDの威力を駆使して、1994年に病死するまで長期の独裁政権を敷く。
- 川宮哲夫
- 川宮勝次の子息。父の威光を背景に豊原政権内では「若き指導者」と称される。しかし、彼の豪奢で退廃的な振る舞いを嫌う実務官僚たちと、父の後継者としての地位を争っている。権力争いを有利にするべく、軍を掌握している守と手を組む。
- 滝川源太郎
- 川宮勝次の後任のNSD長官。日本帝国時代、極度の近眼により徴兵されなかった彼は、砲弾を製造する軍需工場で過酷な労働を強いられるうちに共産主義に目覚めた、と自称している。日本の分断後は単身で留萌-釧路線を北へ越え、川宮勝次の秘書官として頭角を現す。川宮の政権掌握後はNSD長官として猛威を振るい、国内においては反動分子を容赦なく処刑し、また、ライバル機関である東京政権のSRIの活動を激しく牽制した。
- その正体は東京政権のスパイで、北日本建国当初から米軍やSRIに情報を伝えていた。
- 神重徳
- 史実では、太平洋戦争終結後に北海道で行方不明となった大日本帝国海軍の将官。本作では日本民主主義人民共和国・赤衛艦隊司令官(中将)として連合国の「アイアン・フィスト作戦」に対抗すべく駆逐艦隊を率いて出陣。第二次日本海海戦で〈やまと〉他連合軍艦隊に魚雷を命中させ、劣勢に陥ったソビエト連邦義勇艦隊を壊滅から救った。
- 源田実
- 史実では大日本帝国海軍の大佐。太平洋戦争終結後に航空幕僚長、国会議員となった人物。本作では日本民主主義人民共和国・人民空軍初代司令官(少将)として活躍。祖国解放戦争では藤堂守の上官に相当したが、いち早く赤い日本の政治体制に迎合した源田のことを守は機会主義者とみなし、快く思っていなかった。
- アンドレイ・バラノヴィッチ・コンドラチェンコ
- ソ連軍特殊部隊スペツナズ隊員。ヴェトナム戦争で乗機を撃墜された藤堂守を救出したことにより、守と深い友誼を結ぶ。湾岸戦争で守と共に米空母ミッドウェイ撃沈作戦を成功させた後、ソ連崩壊により軍事顧問として北日本に移った。守の妻・サーシャはコンドラチェンコの実妹。
- 宗像考治
- 日本民主主義人民共和国・人民空軍大佐。藤堂守の副官であり腹心。湾岸戦争において米空母ミッドウェイを撃沈した攻撃隊を指揮し、この功績により人民英雄の称号を持つが、共産党幹部の子弟というだけで医者になれた者たちが起こした医療過誤によって妻子を失っており、豊原政権打倒を企図する藤堂守の計画に賛同する。コンドラチェンコから特殊部隊戦術の指導を受け、統一戦争勃発とともに守やコンドラチェンコたちと決起する。
- 海軍作戦部長
- 日本民主主義人民共和国・赤衛艦隊の将官。川宮勝次の死亡に伴う「統一戦争」北海道侵攻作戦の指揮の裏に隠された、藤堂守の豊原政権打倒を目論む意図に気づき賛意を示す。開戦後は自ら赤衛艦隊旗艦・解放に乗り込み、藤堂進の率いる水上打撃艦隊と戦い、戦死する。
- 本郷洋一
- 日本民主主義人民共和国・人民空軍大尉、第125防空中隊指揮官。共産主義(というより川宮勝次)を妄信しており、反共的言動を取る父母をNSDに密告し逮捕させた。それ以降は党の英才教育を受け熱狂的な共産党員となり軍に入隊。1982年の南北休戦会談で「領空侵犯機」を撃墜する。
- その後暫く辺境へ飛ばされていたが、2年後に戦略打撃軍へ転籍し、1993年には反応弾頭ミサイル実験施設司令になる。忠誠心のみが取り柄の無能な人物だが、反応弾頭を管理しているため、実務官僚との権力争いを有利にするべく動いていた川宮哲夫によって派閥に取り込まれ、その見返りとして少将に昇進する。
日本国(南日本)
- 福田定一
- 史実では歴史小説家の司馬遼太郎となった人物。1945年には陸軍少尉として戦車小隊長になり、ソヴィエト軍の上陸に備えて北海道へ向かう輸送船の中で守と出会う。戦後は新聞社に勤めたのち警察予備隊に入隊、北海道で北日本軍と戦う。ヴェトナムで陸上自衛隊第1独立装甲連隊(愛称:ゴジラ・コマンド)の隊長としてゲリラ殲滅戦(通称コー・チェンの戦い)を指揮したことから国内の左翼勢力に「メコン虐殺部隊」のレッテルを貼られ糾弾をうけ、陸将補で退役を余儀なくされる。その後は歴史小説家となり(史実と異なり本名で執筆活動をしている)湾岸戦争時には防衛庁からやまと乗艦取材に招待される。藤堂一族を描いた『海の家系』の作者。
- 黛治夫
- 史実では重巡利根艦長などを歴任した人物。レイテ沖海戦後に大和艦長となり、ソヴィエトの日本侵攻時に艦隊を率いて出撃し侵攻船団を殲滅するも、海戦の終盤で敵弾の直撃を受け戦死。
- 島田豊作
- 史実ではマレー作戦時に戦車中隊長として戦車による夜襲を敢行し英軍1個師団を包囲・殲滅した人物。本作では北海道戦争時に1等警察正・警察予備隊特車大隊長→特車群長として、またヴェトナム戦争時は陸将・陸上自衛隊ヴェトナム援助部隊司令官として福田の上官となる。
- 猪口敏平
- 史実では武蔵艦長としてシブヤン海で戦死した人物。武蔵がレイテ沖海戦を生き延び、海戦後に明が新艦長として赴任したため終戦時も健在だった。北海道戦争時に1等海上保安正・超甲型警備艦やまと艦長として第2次日本海海戦に参加した。
- 後藤田正晴
- 史実では内務省・警察庁のキャリア官僚を経て国会議員に転身し、内閣官房長官・副総理などを歴任した人物。本作では日本国政府の諜報機関「公安調査情報庁」(略称として「SRI」、他国の同業機関からは「トウキョウ・フーチ」と呼ばれる。「フーチ」は日本人が身内組織を呼ぶときに使う「ウチ(家)」の訛化)の長官を務め、対北日本・対ソビエト情報工作を指揮。祖国統一戦争前には退任し病気療養しているが、ある極秘の事実とともに元腹心の鹿内に南北日本統一工作を託す。
- 鹿内
- SRI職員で後藤田の右腕。かつては新聞記者で、政府の報道発表資料を記者会見前にKGBのスパイ・キンスキーへ売り渡す事で小遣いを稼いでいた。後藤田のスカウトによってSRIに入庁し、1982年の南北休戦会談時に藤堂守を「向こう側」(東京政権から見た豊原政権のこと)から「脱出」(豊原政権を国家として認めていないため亡命という言葉は決して用いない)させようと計画するが、NSDへの情報漏洩によって失敗する。その後も「向こう側」の政府高官や上級軍人の「脱出」を助ける任務である「雷鳥計画」に従事していた。物語の大詰めで鹿内は入院中の後藤田からある極秘の事実を告げられ、同時に後藤田から示された筋書きにより、日本政府(東京政権)を「向こう側」との全面武力対決へ導く。
- 「先生」
- 本名不明。大戦末期には愛知航空機の技師として、流星改の受領に来た守と出会う。戦後は日本国の宇宙開発を主導し、防衛庁を始めとするあらゆる官庁や政治家に働きかけて開発を推進する傍ら、朝の子供向け番組に出演して宇宙への夢を語り続ける。宇宙往還機のエンジン開発にも携わるが、エンジン燃焼実験中の事故により死亡。
- 「先生」は、その身元を知った上で宇宙往還機の機長に指名した藤堂輝男に対し、ある謎の言葉を告げる。これは、「先生」が輝男の伯父・守に宛てた一種の詫び言だった。
- 中曽根康弘
- 史実では帝国海軍の短期現役主計士官として勤務し、戦後は首相を務めた政治家。物語世界では、兄部艦長が指揮する戦艦長門乗組の主計中尉。
- 矢野徹
- 史実では、SF作家。物語世界では、福田一等警察士(警察予備隊時代の階級呼称、一等陸尉に相当)の部下の戦車兵。M4戦車の装填手。
- 堀井正夫
- 日本海軍技術中佐。戦前、ある会議に偶然居合わせた藤堂明と意気投合し親友となる。のちに、戦艦武蔵艦長として沖縄特攻に出征する明から次男・進を預かり、明の戦死後は進を実の家族同様に育て上げた。藤堂進の妻、雪子は堀井の娘である。
- 奥田
- 藤堂明が指揮を執ることとなった戦艦大和、二番主砲長。日本海海戦にも参加した四等水兵からの叩き上げで、「水兵の元帥」ともよばれる特務少佐にまで昇進した伝説の人物。明が最も信頼する部下であった。戦後は呉で書道塾をしているが、上官の忘れ形見、進の月謝を取ろうとしない義理堅い人物。
- 落合海将補
- 藤堂進の同僚であり、後任の第二航空護衛隊群司令。沖縄戦で有名な大田実海軍中将の係累という点で、何かと世間の注目を集めることでは藤堂進と共通点がある。史実では自衛隊ペルシャ湾派遣掃海部隊の指揮官として知られる。
- 東郷艦長
- 藤堂進から数代後任のやまと艦長。藤堂進の指揮のもと、統一戦争の樺太強襲作戦に参加する。東郷提督の係累という設定。
- スカイキッド21
- 航空自衛官。早期警戒管制機の管制官。TACネーム以外不明の人物ながら、1968年のメコン川デルタ、統一戦争と藤堂進の人生の重要な局面に二度も会話を交わすこととなる。
- 国場康明
- 陸上自衛隊の二等陸尉。ヴェトナム派遣の第一独立装甲連隊所属の偵察小隊の小隊長。1968年メコン川デルタでのゲリラ殲滅作戦時に重傷を負い、藤堂進二等海尉(当時)を始めとする海自隊員に看取られ死亡。進は、彼の妹・美奈子に私信を送っているが、彼とその妹が姉・貴子の死に居合わせたことは知る由もなかった。なお、彼と藤堂進の会話から沖縄返還が史実より早い1969年に予定されているとも読み取れる。
米国・その他
- ジョン・F・ケネディ
- 米合衆国第35代大統領。物語世界では、1963年、ダラスにて暗殺されず生き延びる(代わりにジャクリーン夫人が暗殺されている)。史実のジョンソン政権同様、ベトナム戦争長期化から支持率低下に悩まされる。友好国からの支持を繋ぎ止めるため、日本に対してはベトナム派兵の報奨として最新装備を安価かつ大量に供与、宇宙関連技術についても積極的な援助を行い、日本の宇宙開発が拡大する端緒をつくった。特別措置による大統領任期第3期目の1970年に、CIAに行わせた違法秘密工作が発覚し、議会より弾劾を受け、副大統領リンドン・ジョンソンを後任として辞任に追い込まれた。
- リチャード・ニクソン
- 米合衆国第37代大統領。物語世界では、1972年、ケネディ後任の現職・ジョンソン大統領を破り、大統領に就任。2期の大統領任期において、ヴェトナム撤退、宇宙計画縮小、米国経済の復興等の業績を残し、1980年、ロバート・ケネディを後任として、勇退した。
- ロバート・A・ハインライン
- 史実ではSF作家となった人物。レイテ沖海戦ではトーマス・C・キンケイドの、沖縄沖海戦ではアーレイ・バークの参謀として大和型戦艦と戦う。やまとが国連艦隊に編入された際には連絡将校として乗り込み、世界最大の主砲の射撃に感銘を受ける。中将で退役後に駐日大使となり、ヴェトナム反戦デモを目撃する。
- ジョージ・パットン
- 米軍日本占領軍総司令官兼国連日本援助軍総司令官。本作の世界では、レイテ湾に突入した日本海軍の攻撃によってダグラス・マッカーサーが戦死したため、その代行的な役割を担う。赤い日本の侵攻により、函館周辺に追い詰められている南日本及び国連援日軍の窮状を逆転させるための渡島半島逆上陸作戦「アイアン・フィスト」を敢行し、人民赤軍を壊滅状態に陥れることに成功する。現場主義的な感覚により、警察予備隊として再編を果たしたばかりの日本軍(後の陸上自衛隊)および日本人にも好意的で、多数の装備・戦車を貸与して援助するが、戦争神経症の兵士を殴ったことで解任され、史実と同じく自動車事故で死亡する。
- ジョーゼフ・P・ケネディJr.
- 米海軍中佐。ジョン・F・ケネディで知られるケネディ兄弟の長兄。物語世界においては、国連日本援助軍・A統合任務部隊(別名エイブル部隊)情報参謀として戦艦アラバマに乗り組み、赤衛艦隊および義勇艦隊と交戦し、戦死する。
- ジョージ・H・W・ブッシュ
- 史実では米海軍航空隊のパイロットとして太平洋戦線に参加し、後に第41代合衆国大統領となった人物。作中では婚約者バーバラの名を取って「グラマラス・バーバラⅡ」と名づけられたグラマンTBFのパイロットとして沖縄戦に参加している。彼の編隊は、地上部隊の支援爆撃をこなして母艦に帰投する途中、一人の水兵を機銃掃射で射殺する。だが、撃たれた者は水兵ではなく、水兵と似た服(つまりセーラー服)を着た藤堂貴子であった。
- セルゲイ・ゴルシコフ
- ソ連海軍大将。物語世界においてはソヴィエト援日義勇艦隊司令長官として、やまとを含む国連エイブル部隊と交戦。戦艦アラバマを撃沈するものの、自身の旗艦ソヴィエツキー・ソユーズにも大損害を受ける。
- ユーリ・モイセヴィッチ・キンスキー
- 元KGB職員。米国へ亡命した前任者レフチェンコの後任として、表向きはソ連通商代表団の一員として1984年に来日。日本政府内部に情報提供者を作るため活動するものの、鹿内のリークする政府情報に踊らされ、危うくSRIに拘束されるところを鹿内に助けられ帰国の途につく。ソ連崩壊後の1993年、借りのある鹿内の依頼により、北日本の核兵器に関する情報収集活動を引き請ける。
- アリス・シェルドン(ジェイムズ・ティプトリー・Jr.)
- ヴェトナム戦争時のCIA職員。一時期はCIAを退職し大学講師となっていたがPIC(写真解析センター)部長として復帰した。写真解析から北ヴェトナム軍による大攻勢(テト攻勢)の兆候を発見する。
- ジェラルド・パーネル(ジェリー・パーネル)
- 米陸軍軍人。湾岸戦争時は大佐・中央軍司令部作戦幕僚部長として参加。戦後は准将に昇進し統合参謀本部で緊急事態対処計画立案に携わった後、第24機械化歩兵師団第1旅団長として国後島に赴任し統一戦争を迎えるが、反応兵器攻撃を受け戦死する。
- チャールズ・シェフィールド
- アメリカの宇宙往還機・X30計画の中心人物。X30による大気圏内全速発揮試験失敗の責任により引責辞任。
- 上記3名はいずれも史実ではSF作家となった人物。
兵器
作中に登場する実在の兵器の一部には一般的な表記と異なる名前が用いられている物がある。
大日本帝国
- 航空機
日本国
警察予備隊/海上警備隊
陸上自衛隊
- 装甲車両
海上自衛隊
- 超大型護衛艦
- やまと(大和)
- ミサイル護衛艦
- 航空護衛艦(空母)
- 打撃護衛艦
- 対潜護衛艦
- 河川哨戒艇
- 戦闘機
- A4EJスカイホーク - F7UJカットラス - F14Jトムキャット - FV1Jハリアー - FV2ヴァルキリー(B型、D型):湾岸戦争・統一戦争時の主力戦闘攻撃機。垂直離着陸が可能な前進翼機。
- 攻撃機
- A1HJスカイレイダー - AC46J(ガンシップ)
航空自衛隊
- 戦闘機
- 観測機/早期警戒機
- OB2J
- E5B:川崎GK520・4発ジェット機をベースとした空中早期警戒管制機。また海上自衛隊でもP5E対潜哨戒機として制式化している。
北日本
人民赤軍
赤衛艦隊
- 第二次日本海海戦時
- 第三次日本海海戦時
- 解放(II)(ソヴィエツキー・ソユーズ) - 独立(II)(キーロフ級ミサイル巡洋艦) - 統一(アドミラル・クズネツォフ級空母ワリヤーグ) - 栄光(スラヴァ級ミサイル巡洋艦)
- 潜水艦
- エコー改級
- 八月一五日級 - 真岡:攻撃型反応動力潜水艦(真岡は6番艦)。放射雑音レベルがロシア式技術の潜水艦としては最良の部類に入る高性能艦。キロトン級反応弾頭搭載巡航ミサイルが装備可能であり、統一戦争緒戦で国後島に展開する米軍部隊に反応兵器による全面攻撃を実施した。西側呼称エックスレイⅡ級(なお、史実のエックスレイ級は深海作業用の原子力ステーションに付けられた呼称である)。
人民空軍
戦略打撃軍
アメリカ合衆国
- 戦艦
- 航空母艦
- ミッドウェー:湾岸戦争で対艦ミサイル飽和攻撃により沈没。
- インデペンデンス - エンタープライズ - ニミッツ - エイブラハム・リンカーン:統一戦争緒戦の反応兵器攻撃によりエンタープライズ、インデペンデンスは沈没。ニミッツ、エイブラハム・リンカーンは大破。
- 護衛空母
- セント・ロー - ファンショウ・ベイ - ホワイト・プレーンズ - カリニン・ベイ - ガンビア・ベイ - キトカン・ベイ:サマール沖海戦で沈没。
- 重巡洋艦
- 軽巡洋艦
- ナッシュビル:レイテ島沖でマッカーサー元帥とともに沈没。
- 原子力ミサイル巡洋艦
- イージス巡洋艦
- 駆逐艦
- ミサイル駆逐艦
- ミサイルフリゲート艦
ソヴィエト連邦
- 戦艦
- ガングート級戦艦ガングート - セヴァストポリ(I) - アルハンゲリスク(ロイアル・ソヴリン):石狩湾海戦で沈没。
- ソヴィエツキー・ソユーズ
- 巡洋戦艦
- クロンシュタット級重巡洋艦クロンシュタット - セヴァストポリ(II)
- 駆逐艦
- オグネヴァイ級
- 航空機
大和型戦艦の概要、活躍
本作品においては、大和型戦艦が重要な役割を担っている。概要及び活躍は以下の通り。兵装などの詳細は「大和型 (架空戦記)」を参照。
大和・武蔵
両艦とも1944年10月の捷一号作戦までは史実とほぼ変わらない。捷一号作戦時、大和は、史実では副長の能村次郎中佐(当時)が砲術長を兼任していたが、この作品では新任の藤堂明中佐が砲術長を務めていたことにされている。
シブヤン海で、武蔵の代わりに長門が米海軍高速空母機動部隊の空襲により沈み、サマール島沖での米護衛空母部隊との戦闘中に大和が被弾、栗田健男中将以下の第二艦隊司令部、宇垣纒中将以下の第一戦隊司令部、森下信衛艦長、能村副長らが全員戦死する(この時、大和の艦橋に命中したのは利根の主砲の流れ弾だったが、作品世界内でその事が明らかになったかどうかは不明。また、この利根の砲弾は後に北日本の秘密警察長官となった滝川源太郎が兵器工廠で仕上げたものとも示唆される記述もある)。大和の指揮は藤堂砲術長が代行し、武蔵他の僚艦と共にホモンホン沖で真珠湾帰りの米旧式戦艦6隻を撃沈。さらにレイテ湾で「セント・クリスピンの虐殺」と呼ばれる上陸船団及び海岸堡に対する艦砲射撃を行った。
本土帰還後、大和は損傷修理を兼ねた大改装を受ける。また、武蔵についても電探の更新と機銃などの増設が行われた。
1945年7月25日、武蔵以下重巡2、軽巡1、駆逐艦10からなる第2艦隊(司令長官・伊藤整一中将、武蔵艦長・藤堂明大佐)は沖縄沖で戦艦8、重巡最低3からなる米軍第54任務部隊と激突した。台風の影響もあって混乱した米軍が戦力を逐次投入してきた事も幸いし、武蔵は戦艦ミズーリ、ニュージャージー、インディアナ他1隻(作中描写からおそらくアイオワ)を撃沈し、他に戦艦数隻を大破させたが、ウィスコンシンなどの反撃を受けて甚大な被害を受け、最終的に沈没する。
1945年8月21日、大和と少数の駆逐艦からなる水上部隊は石狩湾に来襲したソヴィエト艦隊を迎撃、戦艦ガングート、セヴァストポリ、アルハンゲリスク他輸送船多数を撃沈・撃破する。大和自身も被弾し黛治夫艦長らが戦死するが致命傷とはならなかった。一方、既に道北地方を制圧しつつあったソヴィエトは、この敗戦によって北海道全島占領が困難となり、米軍が意図的にソ連軍に近い旭川と函館へ反応爆弾を投下したことによって日本が降伏。第二次世界大戦が終結した。
やまと
終戦後、大和は米軍によって接収された。一時は反応兵器実験の標的艦にされる予定だったが、「向こう側」の成立を受けてまたも改装され、超甲型警備艦「やまと」として海上保安庁海上警備隊に配属された。
北海道戦争中盤の1952年6月5日、やまとは国連日本援助軍エイヴル部隊の一員として、ソヴィエト義勇艦隊及び北日本赤衛艦隊と第二次日本海海戦を戦う。旗艦アラバマが撃破された後はやまと艦長の猪口敏平が艦隊指揮を代行し、巡洋戦艦クロンシュタット、セヴァストポリを撃沈、ソヴィエツキー・ソユーズを大破させた。しかし、向こう側の駆逐艦解放(旧・春月)の魚雷が命中し、追撃を断念する。
海上自衛隊の発足と共にやまとも護衛艦隊に移管し、超大型護衛艦(艦番号BB-11)に改称される。一時期予備艦となったが、ヴェトナム戦争参加に際して現役に復帰、小改装(電子戦能力の向上、ヘリ甲板仮設など)を受けた上でヴェトナムへ派遣される。
ヴェトナム戦争後ふたたび予備艦になっていたやまとは、1980年代に入って「10・4・10・10艦隊」計画により大改装を受け、イージス艦となる。
藤堂明の息子、藤堂進は1991年1月の湾岸戦争で、やまと艦長(一等海佐)として空母ミッドウェイを巡る戦闘に参加。1994年7月の統一戦争では第8護衛隊司令(海将補)として向こう側の赤衛艦隊との第三次日本海海戦に参加、さらに豊原近郊のIRBM基地に対する艦砲射撃を指揮した。