MLRS

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テンプレート:戦闘車両 多連装ロケットシステム(たれんそうロケットシステム、-Multiple launch rocket system、MLRS)は、長射程の阻止砲撃用としてアメリカ陸軍が開発した自走多連装ロケット砲。主にMLRSと呼ばれる。アメリカ軍の制式名称はM270

アメリカ以外では計画参加国に加え、日本韓国など13ヶ国で採用され、1,300輌以上が生産・運用されている。

開発

冷戦下、戦車などの戦闘車輌の数で勝るソビエト連邦などの東側諸国に対抗するため、従来の長射程榴弾砲よりも広範囲の面積を一度に制圧できる長射程の火力支援兵器を目指して、M110 203mm自走榴弾砲の後継として開発を開始した。

1971年アメリカ陸軍が研究を始め、1976年に、ボーイング社やLTV社などの5社に対して開発提案が出され、1978年に自走発射機の試作車が完成。1980年4月にLTV社の案が選定された。

開発途中からイギリスイタリア西ドイツフランスが参加し、1982年に最初の量産車が完成した。

設計

ファイル:MLRS-system.JPEG
ホワイトサンズ・ミサイル実験場におけるMLRSを構成する車両。手前からM270自走発射機、弾薬補給車、指揮車(M577装甲指揮車1983年

MLRSの一個大隊は、指揮装置・自走発射機(複数、陸上自衛隊では18両)・弾薬車などで構成されている。

自走発射機は、M2ブラッドレー歩兵戦闘車アルミ合金製車体をベースに開発され、車体前部には装甲が施され3名の乗員(右から車長砲手操縦士[1])が乗車するキャビンがある。窓には、発射時の噴射炎や弾片・小口径弾から保護する装甲ルーバーが備わっており、キャビンは発射時の有毒ガスの侵入を避けると同時に、NBC兵器防護のための気密構造になっている。砲手席にFCS(射撃管制装置)コントロール・パネルがあり、これを操作する事で装填モジュールの発射角度や、信管の設定を行う。キャビンの後部と下に動力系がある。

車体後部には、M26ロケット弾なら6発、ATACMSなら1発を収容し発射筒を兼ねるグラスファイバー製のLP(Launch Pod)と呼ばれるコンテナを2つ収める箱型の旋回発射機を搭載している。このランチ・ポッドはロケット弾搭載型なら円筒形のロケット弾発射筒6本が内蔵されており、アルミフレームで支えられている。発射時の車体安定化のための支えは備えない。

ロケット弾の発射間隔は約4.5秒で、全弾発射後はコンテナを入れ替えて再び発射可能となる。数種類あるこのロケット弾の弾頭の多くは、クラスター爆弾のように高度1,000m程でキャニスターが小爆発によって分解し、中の多数の子爆弾を地上にばら撒く。これらの子爆弾の爆発によって200m×100m程度の範囲の保護されていない兵員や軟装甲の車輌を一度に殺傷・破壊する能力を持つ。MLRSはロケット弾なら12発、ATACMSなら2発が発射可能で2種は混載できない。

1両のMLRSで投射される弾量はロケット弾12発で約1,600kgとされる。旋回発射機には迅速な再装填を可能とするクレーンが内蔵されているほか、ランチャー上にホイストが内蔵されており、コンテナの交換に3分、第一波攻撃から第二波攻撃には8分かかる[1]

運用

1982年からアメリカ陸軍への配備が開始され、以降NATO各国や西側諸国へ配備が開始された。

湾岸戦争において、英軍が200両近くのMLRSを実戦に投入し、絶大な破壊力を見せ付けた。ロケット弾の一斉射撃をイラク軍は「鋼鉄の雨(スチール・レイン)」と恐れ、これが数多くのイラク軍兵士の投降に繋がったとされている。イラク戦争においても投入された。一方で、クラスター弾禁止条約に批准した国々では退役もしくは、条約に抵触しない弾頭への換装が行われた。

日本での運用

ファイル:多連装ロケットシステム 自走発射機M270008b 装備 167.jpg
陸上自衛隊の多連装ロケットシステム自走発射機M270
ファイル:13 13 047 R 自衛隊記念日 観閲式(Parade of Self-Defense Force) 11.jpg
多連装ロケットシステム自走発射機M270(発射装置収納状態)

日本では、1992年から陸上自衛隊の野戦特科部隊に配備が進められている。公募愛称は「マルス」だが、「多連装」の通称があるといわれる。

日産自動車宇宙航空事業部(現在のIHIエアロスペース)が車両のライセンス生産を行ない、情報処理装置を東芝が開発した。

防衛省は、「敵侵攻部隊が日本に侵攻するには上陸作戦を実施せねばならず、侵攻部隊は洋上において航空自衛隊、及び海上自衛隊が迎え撃ち、これを阻止する」と考え、敵侵攻部隊による日本本土への上陸作戦を最終防衛線としている。MLRSは、敵が上陸作戦を実施している浜辺へ、山陰などから射撃を行なって制圧するための装備とされている。

諸外国同様に自走発射機(自衛隊での装備名称は「多連装ロケットシステム 自走発射機M270 MLRS」)、指揮装置(同「多連装ロケットシステム指揮装置」)、予備弾薬車(同「多連装ロケットシステム弾薬車」)で構成されており、自走発射機はアメリカ他と同じ装軌式車両をライセンス所得の上陸上自衛隊向けに細部の仕様を変更したものが生産されている。日本で生産された車両は前部のライト類の形状が異なり、右側のライト下に有線通信用端子が備わる。アンテナはデータ無線通信用と音声無線用アンテナからなる。価格は1両約19億円で、陸上自衛隊の甲種装備で最も高価な車両になっている[1]。 指揮装置には大隊指揮装置、中隊指揮装置、小隊指揮装置、各指揮装置データ伝送装置の各種があり、シェルター式のものを73式大型トラック(3 1/2tトラック)に積載して運用される。弾薬車には74式特大型トラック(7tトラック)にクレーンを装備した車両が用いられている。

自走発射機車両はライセンス生産だが、ロケット本体はアメリカからの対外有償軍事援助で調達している[1]。 陸上自衛隊ではクラスター爆弾搭載型ロケット弾M26と、演習用訓練コンテナM27、訓練用ロケット弾M28を調達していた。しかし「クラスター弾に関する条約(オスロ条約)」に日本が署名する見通しとなったため、日本政府は条約で定義された禁止対象に該当するM26などのクラスター弾頭のロケット弾を、条約の保管期限までに廃棄する方針を決めた。条約は2010年8月1日に発効し、旧保有国の暫定措置として禁止対象のクラスター弾の保管期限は原則として条約発効後8年とされた。代替ロケット弾として平成20年度予算から単弾頭のM31GPS誘導ロケット弾の調達が開始された[2][3][4]

日本国内では、北海道矢臼別演習場のみ実射を行うことができる[5]が、MLRSの長い射程を発揮できる演習場がないため、アメリカのワシントン州にあるアメリカ陸軍ヤキマ演習場90式戦車などと共に車両を持ち込んで演習を行っている。

陸上自衛隊の調達数[6][7]
予算計上年度 調達数 予算計上年度 調達数 予算計上年度 調達数
平成4年度(1992年) 9両 平成9年度(1997年) 9両 平成14年度(2002年) 3両
平成5年度(1993年) 9両 平成10年度(1998年) 9両 平成15年度(2003年) 3両
平成6年度(1994年) 9両 平成11年度(1999年) 9両 平成16年度(2004年) 3両
平成7年度(1995年) 9両 平成12年度(2000年) 9両 合計 99両
平成8年度(1996年) 9両 平成13年度(2001年) 9両

配備部隊

20px武器学校 20px富士学校

20px北部方面隊

20px東北方面隊

20px西部方面隊

課題

実戦や試験などを重ねるうちに、以下のような運用上の制約が報告されている。

  1. 10km以内の目標に対して使用した場合、不発弾の発生率が高まる。
  2. ロケット弾が風の影響を受けやすく、着弾点がずれやすい。
  3. 発射時の轟音や煙によって、発射場所が露呈しやすくなる。
  4. 装填済みのロケット弾を一斉射した後の再装填に時間がかかる。
  5. 車体重量が重いので、空輸にはC-5ギャラクシーC-17グローブマスターIIIのような大型輸送機が必要となる。

上記の短所のうち2-4までは多連装ロケットランチャーの特性上どの種類にも多かれ少なかれ付きまとう欠点である。特にアメリカ軍にとっては5の「空輸には大型輸送機が必要」であるという点は、海兵隊空挺部隊などの緊急展開部隊へ大火力を提供するのに不利な要素であることから、より軽量かつ小回りの利く運用が可能なように、トラックにMLRS用ロケット弾発射機を搭載しC-130ハーキュリーズでも空輸可能な高機動ロケット砲システム(High Mobility Artillery Rocket System)を新たに開発した。

近代化

上記の課題も踏まえ、現在でも射撃管制装置などのシステムの近代化が進められている。IFCSやILMSのアップグレードがそれであり、このアップグレードを受けたM270をM270A1と呼ぶ。IFCSの導入は電子機器や航法装置を改善し、運用および維持のコストダウンに成功した。ILMSの導入も顕著な効果があり、照準や再装填の時間短縮に繋がっている[8]

GPSによる誘導装置を内蔵した新型ロケット弾はM31としてアメリカ軍に制式化され、GPS誘導に対応したMLRSはGMLRSとも呼ばれる。

使用ロケットとミサイル

ファイル:Army mlrs 1982 02.jpg
ロケット弾を発射するMLRS
ファイル:Mlrs.jpg
展示されるコンテナとロケット弾
ファイル:Atacms mlrs 01.jpg
地対地ミサイルATACMSとコンテナ。M26ロケット弾6発入りのコンテナと外見上見分けがつかないように擬装されている

The M270システムは各種のロケットとミサイルを含むMFOM(MLRS Family Of Munition rockets and artillery missiles)と呼ばれる兵器群を発射できる。これらは米国と一部はドイツで製造されている。最末尾のAT2がドイツ製で残りはすべて米国製である。

M26
227mmロケット弾 M77 二用途向上化従来型弾(Dual-Purpose Improved Conventional Munitions、DPICM)子弾x644個
M26A1
延長射程ロケット(Extended Range Rocket、ERR)射程45km 使用 向上型M85子弾
M26A2
M26A1のM77子弾化
M27
完全模擬発射訓練用コンテナ コンテナの装填訓練用
M28
訓錬用ロケット弾 M26子弾の場所にはバラスト・コンテナx3、煙幕コンテナx3が搭載
M28A1
短縮射程訓練ロケット(Reduced Range Practice Rocket、RRPR)丸い先端部を持つ 射程9kmへ短縮
XM29
ロケット 対装甲探知破壊弾(Sense and Destroy Armor、SADARM、サダーム)を子弾として運ぶ 制式化されなかった
M30
誘導型MLRS(GMLRS) 精密誘導ロケット、射程60-100km、M85複合目的改良型通常弾薬(DPICM)子弾x404個
M31
M30の派生型 単一高性能爆薬弾頭を持つ
XM135
ロケット 2液式神経化学剤VXガス) 制式化されなかった
MGM-140A
ATACMS(Army Tactical Missile System)M26なら6発入るコンテナに1発だけ収められた長射程誘導ミサイル M270を発射機として使用する多種類の弾頭がある
AT2(ドイツ製)
SCATMINロケット 対戦車地雷x28 射程38km

使用ロケットの諸元

M26

  • 重量:306kg(750ポンド)
  • 最大射程:32km(20マイル)
  • 弾頭:M77 DPICM 子弾×644個

M26A1/A2

  • 重量:296kg(650ポンド)
  • 最大射程:45km以上(28マイル)
  • 弾頭:M26A1 - M85 DPICM 子弾×518個, M26A2 - M77 DPICM 子弾×518個

M30/M31

  • 最大射程:45km以上(28マイル)
  • 誘導システム:GPS/INS(衛星誘導/慣性誘導)
  • 弾頭:M30 - M85 DPICM 子弾×404個, M31 - 90kg(200ポンド)HE単弾

AT2 SCATMIN

  • 重量:254.46kg
  • 最大射程:39km

PARS SAGE-227 F

  • 重量:160kg以上
  • 最大射程:70km

ATACMS

  • 全長:3.97m
  • 直径:0.61m
  • 重量:1,670kg
  • 弾頭重量:561kg
  • 最大射程:165km

運用国

登場作品

アニメ・漫画
第8話に登場。金沢独立軍のトロットモービルを攻撃するために50メートル道路上に展開した。なお、実車とはキャビンの形状が異なる。
OVAで登場。 
国連軍及び戦略自衛隊の装備として、M270をモデルとした架空兵器多連装ロケットシステム自走発射機M290が登場。サキエルEVA弐号機への攻撃に使用された。
日本陸軍の装備として登場。北九州に上陸せんとするBETAを迎撃するが、突破される。
第21話に登場。陸上自衛隊の車両が怪獣ダルードとステラゴンを攻撃するが、ダルードの反撃を受けて破壊された。
映画
東西ドイツ国境の戦車戦NATO軍が投入。クラスター爆弾ワルシャワ条約機構軍戦車隊を壊滅したが、シュトルモビークの反撃で撃破される。
ビル街を疾走するゴジラに対してロケットで直接攻撃する。
国連軍の装備として、旧作にも登場したM290に加え、多連装ロケットシステム自走発射機M299(形状はM270に酷似)が登場。双方ともに第4の使徒への攻撃に使用された。
実物が日本映画初登場。館山に出現したゴジラ迎撃のために、90式戦車などと共に県道89号線上に展開、ゴジラを攻撃した。
事故で第三特別実験中隊ごと1547年へ飛ばされ、直後に合戦に巻き込まれる。
終盤のディセプティコン戦で登場。
小説
皇居内で倒れた宇宙怪獣ゼロケルビンに対し、第1特科隊所属車両が相模湖畔からM31を用いた精密攻撃を行い、止めを刺した。
ゲーム
プレイヤーが直接操作するほか、砲撃モジュールを使用して任意の地点に火力支援を要請可能。
敵私設軍の兵器として登場する。プレイヤーへの攻撃はできない。味方部隊の兵器としても登場する。
日本を占拠したアメリカ陸空軍の車両として登場。プレイヤーも購入して使用できる。
  • 『グローバルフォース新・戦闘国家』
陸上部隊の対地攻撃用の兵器として登場し、広域攻撃とピンポイント攻撃の選択ができる。対地攻撃兵器の中でも巡航ミサイル弾道ミサイルに次いで敵にダメージを与えられる兵器として用いられる。
西側諸国の兵器として登場。ちなみにATACMS地対地ミサイルとして別兵器に分類されており、基本的にMLRSでは227mmロケット弾しか使えない。
作中の戦闘時に用いられる、また、タンカーにM270のランチャーポッドのみを多数搭載した対馬級上陸支援ロケット砲艦も登場する。
アメリカ軍の支援兵器として登場。スカーミッシュでは普通に呼び出し、操作することが可能。シナリオは不明。

脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 『2010陸海空自衛隊最新装備 JSDFニューウェポン・カタログ』 『丸』新春2月特別号別冊付録 潮書房 2010年
  2. 防衛省装備施設本部公式サイト、中央調達に係わる契約情報
  3. 平成21年度防衛調達審議会 サンプリング調査審議実施状況
  4. 予算執行事前審査等調書(平成22年度第3四半期)
  5. ただし、弾着地の関係上最大射程の半分にあたる射距離15キロ程度に設定の上、実弾でなく爆発しない演習弾による射撃に限定される
  6. JapanDefense.com
  7. 防衛白書の検索
  8. FAS - MLRS Battalion Operations - System Description

関連項目

外部リンク

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