ゴーストタウン
ゴーストタウン(Ghost town)は、何らかの理由により住人が退去して無人となり、居住していたことを示す建物や痕跡のみが残されている場所のこと。産業による環境破壊や衰退、戦争や自然災害での退去によって、一度形成された都市や集落が廃墟化したものである。村の場合には廃村ということがある。
ゴールドラッシュのような産業の衰退については、新たな地を求めて去ることで残された町がゴーストタウン化する。それ以外の理由の場合にはその地を去る理由がないために闘争が始まる。戦争によって、居住の権利があいまいであるために無人に近い状態にされた地は歴史上数多く、現代においてもその爪跡を残している場所も多い。
実際にはセントラリアやチェルノブイリのように、ゴーストタウンとされる場所でも、ごく少数の住人が住んでいる場合もある。
目次
ゴーストタウンの形成理由
産業構造の変化
鉱業の衰退
アメリカ合衆国のコロラド州、モンタナ州、カリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州に多く存在する。ほとんどは、ゴールドラッシュの頃に、金鉱を目当てに集まった者たちによって形成された町であったが、金鉱が掘りつくされるとほとんどがゴーストタウンと化した。
日本でも、北海道や九州北部の炭鉱跡を中心に同様の元鉱山町が存在する。多くは、大きな都市の一部の集落が廃村になったものであるが、長崎県の端島は採炭のための人工島だったため、島そのものが完全にゴーストタウンと化している(現在は長崎市の一部)。他にも北海道釧路市阿寒町の雄別炭礦跡、夕張市の鹿島地区(大夕張)、北見市のイトムカ鉱山、岩手県八幡平市の松尾鉱山跡、埼玉県秩父市(奥秩父)のニッチツなどがある。
ナミビアのコールマンスコップはダイアモンド採掘の労働者の居住地として建設されたが、第二次世界大戦後のダイアモンドの暴落に伴い衰退し、1956年に放棄された。
離農・耕作地放棄
無人島化
- 東京都八丈町の八丈小島は、1969年までは人が住んでいたが、急激な過疎化、生活条件の厳しさ等の理由により、全島民が離島し、現在無人島となっているほか、伊豆諸島には放棄され無人となった島が他にも多数存在する。
- 鹿児島県のトカラ列島にある臥蛇島では1970年に、同様の事情により全島民が移住し無人島となった。
不動産投資過熱
集団移住
行政
- イタリアの都市マテーラの洞窟住居は、生活改善のために1950年代半ばから何度か大住民移動が行われ、廃墟と化していった。
- 栃木県下都賀郡谷中村は、足尾鉱毒事件対策を名目に全村が遊水池化されることになり、1906年に強制廃村となった。
- 福井県大野郡西谷村(現在の大野市)は、1963年の三八豪雪と1965年の四〇・九風水害で壊滅的な被害を受け、ダム建設に伴い集団離村している。
- 岐阜県揖斐郡旧徳山村はダム建設により村の全集落が水没するため全村民が離村移住した。
治安悪化
- 南アフリカのヨハネスブルグはアパルトヘイトの廃止により、それまで都心部への居住が許されていなかったアフリカ系住民や不法入国者等が一挙に市街地へと流れ込み、治安が悪化した。これにより北部のサントン地区等の近郊へと職場(企業)も住居も移転したため、中心街がゴーストタウン状態となっている。
戦争・政治弾圧
- 朝鮮半島の38度線付近では、朝鮮戦争休戦後の非武装地帯設定によって民間人が立ち入り禁止になり、ゴーストタウン化した場所がいくつかある。
- 現在シリアの主権下にあるゴラン高原のクネイトラは、中東戦争で大きな破壊を受けたが、崩壊したモスク、教会、病院などの施設を全て「イスラエルの攻撃による」として復旧させず廃墟にしたまま放置しており、町全体が反イスラエル的意図を含んだプロパガンダとなっている。
- カンボジアのクメール・ルージュ政権(ポル・ポト派)は都市文明そのものの否定を企図し、首都プノンペンをはじめとする全土の都市住民を農村に送ったことで200万を超えていたプノンペンの人口は5千人となったと言われる。
- フランスのオラドゥール=シュル=グラヌは1944年にナチス・ドイツによる虐殺が行われ、住民のほとんどが死亡した。
自然災害
火山の噴火
- 1世紀前後のイタリア半島に栄えた都市ポンペイは、隣接する火山の噴火により埋没し、廃虚に近い状態となった。
- 伊豆諸島の青ヶ島(東京都青ヶ島村)では、1785年に同様に火山の噴火により住民全員が避難して無人島化、50年を経て住民が戻ったという歴史がある。
- 伊豆諸島の三宅島(東京都三宅村)は、2000年の火山の噴火により住民全員が避難して一時無人島化したが、現在は住民が帰島している。
- トカラ列島の諏訪之瀬島も、火山の噴火により1813年から1883年までの70年間、無人島となった。
- パプアニューギニアのラバウルは1994年に発生した火山の噴火によって大きな被害を受け、放棄された。
- モントセラトの首都プリマスは1997年に発生した火山の噴火によって大きな被害を受け、破壊された。
火災、疫病
砂漠化の進行
- アフリカ大陸北部のサハラ砂漠周辺や、中央アジアのタクラマカン砂漠周辺など。近年人口爆発による食料増産のため、焼畑農業・過放牧・灌木の過度の伐採が行なわれオアシスが乾上るなどして砂に侵食された地域の放棄が増えている。また、埋もれた砂の下から過去の都市遺跡が見つかることもある(エジプト文明遺跡、楼蘭など)。
人為災害・環境汚染
放射能汚染
- ビキニ環礁でのアメリカ合衆国による67回もの核実験、とりわけ第五福竜丸も被曝したキャッスル作戦では近隣のロンゲラップ環礁にも多量の死の灰を降らせた。実験の3日後、ロンゲラップ島の住民64人全員は1.75Gyの放射線に被曝し、家屋・財産を残したままクェゼリン環礁に強制的に移住させられた。
- 1986年に旧ソビエト連邦(現在のウクライナ)にあったチェルノブイリ原子力発電所の爆発事故により、チェルノブイリおよびプリピャチ住民全員が避難を余儀なくされ、一時無人となった。これらの町はその後はこの地で最期を迎えることを希望した少数の老人が町に戻ったため、現在では住んでいる人がいる。その他にもウラル地方での核の汚染により、多くの村落がゴーストタウン化している。
- 福島第一原子力発電所事故の影響で、福島県の浜通り地方中部の多くの住人が避難することになった。
ダイオキシン汚染
石綿汚染
- 西オーストラリア州ウィットヌーンは青石綿鉱山により繁栄、鉱石くずなどを道路整備などに使用したため全域が汚染された。ゴーストタウン化による観光客の増加によって発生する健康被害を恐れ、町を廃止して地図から町を抹消し、道路の封鎖などが予定されている。
炭坑内火災
- ペンシルベニア州セントラリアは石炭の町として繁栄していたが、1962年に発生した坑内火災によって居住が困難になり住民が退去した。2010年時点で10人の住民が残っている。消火活動は断念され、自然鎮火には200年以上かかるとされている。
住宅バブル
スペインでは世界金融危機 (2007年-)で住宅バブルがはじけると、ローンを払えない多くの人々が家を手放して、ゴーストタウンが出現[1]。
ゴーストタウンの再利用
ゴーストタウンによっては、その後町そのものが映画のセットとして使われたり、逆にゴーストタウンであることを売り物に観光地化したところもある。
- 先述されたイタリアの都市マテーラの洞窟住居は、生活改善のために50年代半ばから何度か大住民移動が行われ、廃墟となったが、世界遺産に登録されると、遺構を改築して住み始める人が出てきた。現在は7割に人が住んでおり、ホテル、オフィス、レストランも開業した。
- 1970年に集団移住が行なわれ廃村となった長野県飯田市大平地区の大平宿では江戸時代中期から昭和初期の民家が廃屋として残っており、財団法人日本ナショナルトラストや飯田市、地元の有志により「いろりの里」として保存・修復され、自炊による宿泊が可能となっている。
- 北海道夕張市鹿島地区は、映画の撮影に使用された。
- 滋賀県長浜市余呉町の鷲見集落は、映画「八つ墓村」の撮影に使用された。
- 長崎県の端島(軍艦島)は、映画やドラマの撮影、ミュージシャンのプロモーションビデオの撮影などに使用された。島の現在の様子を紹介する写真集やDVDなども出版された。さらに住民の集団離島から30年以上の時を経て、全国から文化的遺産として残すことを望む声が多く挙がり、観光客が多く訪れ遊覧船でのクルーズや上陸ツアーなどが組まれるようになった。島を世界遺産に登録しようとする動きも活発である。