ADSL

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テンプレート:国際化 ADSL(エーディーエスエル、Asymmetric Digital Subscriber Line:非対称デジタル加入者線)とはDSLの1つであり、ツイストペアケーブル通信線路(一般のアナログ電話回線)を使用する上り(アップリンク)と下り(ダウンリンク)の速度が非対称(Asymmetric)な高速デジタル有線通信技術、ならびに電気通信役務のことである。

概要

既設の公衆交換電話網のメタリック通信線によるアナログ固定電話回線にデジタル情報を重畳して家庭や小規模事業所からのブロードバンドインターネット接続に使用される。アナログ電話回線に重畳させて提供するものをタイプ1、重畳させずに提供するものをタイプ2という。

従来の公衆交換電話網を経由したダイヤルアップ接続による従量制通信料金ではなく、月額定額料金で提供される場合がほとんどで、常時接続という利用形態が普及した。

2000年代前半に既設のメタリック通信線が利用できることで急速に普及したが、2000年代後半になると、携帯電話に代表される高速な移動系通信サービスの普及と、光ファイバーによる高速通信が主流になるにつれて、利用者が減少しており、PSTNのマイグレーションに伴って、サービスの廃止が検討されるようになった。

技術

ファイル:ADSL frequency plan.svg
一般電話回線の周波数帯域の模式図。PSTNが音声部分、Upstreamが上り、Downstreamが下りに当たる。

ADSLの特徴として、一方の通信帯域を削ることでもう一方により大きな通信帯域を割り当てている(非対称)。通常は下り(ダウンリンク)の速度が上り(アップリンク)の速度よりも高速に設定されている。これは一般家庭などでのインターネット利用ではWebアクセスなどの用途が主となるため、ダウンリンクデータの容量がアップリンクデータに比べて遥かに多くダウンリンクを優先することで総合的にデータ通信速度を高速化するためである。

既設のツイストペアケーブル通信線路でアナログ固定電話による通話と同時に信号を伝送するため、周波数帯域(0.3-3.4kHz)を避けたより高く広い周波数帯域を使用し、複数の搬送波を利用したOFDMなどのデジタル変調を使用しADSLモデムで誤り検出訂正や回線にあわせた通信速度調整を行っている。そのため、従来の電話回線モデムや低速仕様のISDNなどと比べて高速なデータ通信が可能である。

通信規格

次の2種類の規格から提供が始まった。

G.992.1(G.dmt)
ダウンリンク8Mbps(148~1104kHzの帯域を利用)・アップリンク1Mbps(26~138kHzの帯域を利用)
G.992.2(G.Lite)
ダウンリンク1.5Mbps(148~552kHzの帯域を利用)・アップリンク512kbps(26~138kHzの帯域を利用)

次のようなものが拡張規格として定められている。

Annex A
北米向け。
Annex B
ヨーロッパのエコーキャンセラ方式のEuro-ISDNと同時使用が可能。
Annex C
日本時分割複信TCM-ISDNとの干渉を抑えるため、2つの伝送マップを持ちISDNの伝送方向に同期して切り替える。

以下のような技術を用いることによりダウンリンク12, 24, 40Mbps、アップリンク3, 5Mbpsなどと高速化されていった。

S=1/2 1/4 1/8 1/16
誤り訂正ビット列を効率化する。
フルビットローディング(full-bit loading)
1つの搬送波の1回の変調で送信するビット数を11~12から15ビットへと拡張する。
ハイビットローディング(high-bit loading)
1つの搬送波の1回の変調で送信するビット数を15ビット以上とする。
ダブルスペクトラム方式(Double Spectrum)
使用する周波数帯域を倍(最大2.2MHz)に拡張する。
クワドラブルスペクトラム方式(Quadrable Spectrum)
使用する周波数帯域を約4倍(最大3.75MHz)に拡張する。

また、アップリンクを低周波数側、ダウンリンクを高周波数側とすることで送受信の分離(周波数分割複信)をしているものが多い。さらに、エコーキャンセラ(Echo Canceller)を使用し、アップリンクとダウンリンクの周波数をオーバーラップ(Over Lap)させダウンリンクの安定化・高速化と共にアップリンクの高速化を図っているものもある。

機器

ADSLモデム

ADSLモデムは、ADSL通信に用いられるデータ回線終端装置である。ADSL通信経路の両端末である利用場所と収容局双方に設置される装置で、一般的には利用場所側の装置をADSLモデムと称する。

モデムによってはIP電話用のアダプターブロードバンドルーター機能を内蔵しているものもあり、ADSL信号でIP電話を利用することが可能な契約もある。

スプリッタ

スプリッタは通話とデータ通信を同時に可能にするため音声周波数帯を電話機電話交換機へ、データ通信用の高周波数帯をADSLモデムへ、それぞれ周波数分割して接続するために用いられる機器で分波器混合器との役割を持つ。

3つの接続口を持ち、加入者線からの配線をLINE端子、電話機をPHONE端子、ADSLモデムをMODEM端子に接続するのが一般的である。また、ADSLモデムに内蔵されている場合もある。

なお、アナログ固定電話による音声通信を使用しないサービス(タイプ2)の場合は設置不要である。

日本国内の状況

実験

1999年(平成11年)4月に、伊那市有線放送農業協同組合にパラダイン製のADSLモデムを同社の従業員が持ち込み、有線放送網での接続実験を行った。同年8月27日に伊那xDSL利用実験連絡会が記者会見を行い、8月から9月にかけて伊那市有線放送農業協同組合でのxDSLの公開実験をすると発表した。その時の主な参加企業は長野県のプロバイダー事業者として富士通長野システムエンジニアリング及び長野県協同電算、システム構築を担当した企業はKDDI研究所数理技研SunMicrosystems、xDSLの機材提供を行ったのは住友電気工業住友電設、ソネット、パラダインジャパン、NECであった。

同年9月1日にJANISネット(株式会社長野県協同電算)が長野市の川中島町有線放送農業協同組合の有線放送電話網を使って下り最高1.5Mbps・上り最高272kbpsのサービスを始めたのが商業ADSLサービスの始めとされる[1][2][3]

サービス開始

東京めたりっく通信は1999年12月24日に新宿新南口のユースビル一階で、ADSL/SDSL接続サービスのデモ・センター「新宿めたりっくバー」を開設した。NTT電話網を利用した商用ADSLサービスは1999年12月にコアラ大分市の一部を対象に、次いで2000年(平成12年)1月に東京めたりっく通信(後にソフトバンクBBへ吸収)によって東京23区内の一部を対象に開始(申し込みは1999年10月頃から)された。

普及

後にイー・アクセスやYahoo! BBやNTTのフレッツADSLなど主要な電気通信事業者によるADSL事業が立ち上がり始めた2001年(平成13年)頃からブロードバンドインターネット接続の普及とIP電話の普及の牽引役となり、利用可能な地域の拡大と連動して急速に普及し2001年はブロードバンド元年といわれた。2001年1月の時点では16,194回線だったのが、2001年12月の時点で1,524,348回線になった。総務省の発表によると2003年(平成15年)12月末には1000万回線を突破した。基本的には電話線があればそのまま利用可能なため、配線工事などの手間が少ないこともADSLの普及に貢献している。

現在と未来

ADSLは衰退し、過去の遺産となりつつある。かつて1500万件以上いた利用者は、2000年代後半になると減少に転じ、最盛時の3割程度の447万万件(2014年3月末現在)にまで減少している。固定系ブロードバンドサービスの契約数におけるDSLのシェアは12.5%にまで低下しており、もはや少数派となっている。

PSTNマイグレーションに伴う継続性の不安

機器の老朽化に伴うリプレースによるコスト増とFTTHや無線系のインターネット接続サービスによるユーザーの減少により、公衆交換電話網の採算性の悪化しており、公衆交換電話網のインフラであるメタル回線を使用するADSLサービスの継続性が疑問視されている。

NTTはPSTNの廃止時期を2025年としている[1]。なお、PSTNと一体で提供されているメタル回線については、DSLによるIP電話化により、存続する可能性を残している。最終的な廃止時期は、代替サービスであるFTTHの今後の普及などの要素を勘案して判断する事項と位置付けている。

NTTは既に、フレッツ・ADSL向けのADSLモデムの製造を2005年(平成17年)をもって終了している。2011年(平成23年)時点では、NTTは販売及びメンテナンス契約の提供を継続しているが、今後いつまでADSLのサービスを提供し続けるかどうかについては、公表されていない。NTTが、総務省 情報通信行政・郵政行政審議会 電気通信事業部会 接続委員会に提出した資料によれば、NTTのFTTHの需要見積もりとして、2015年までに既存のADSLユーザを全てFTTHに切り替えることを前提とした事業計画案を示している。ADSLの前提となるメタル回線を完全に廃止することはしないとしているが、物理的または経済的にFTTHに置き換えることが困難な場所に例外的にメタル回線を継続する方針である。

現実的には、2011年度末におけるNTT東日本の加入電話とISDNの契約数合計はピーク時(2000年度末)の3147万件からほぼ半減の1570万件[2]になり、同じくNTT西日本の加入電話とISDNの契約数合計はピーク時(1997年度末)の3156万件からほぼ半減の1598万件[3]となり、ADSLの前提となるメタル回線自体が大幅に縮小している。

利用者の減少から、メタル回線である公衆交換電話網は、2006年3月期以降赤字に転落、2009年以降連続して1000億円規模の赤字を出し続けている。ユニバーサルサービス制度として接続している関連電話サービスの利用者から赤字補填用の基金を集めているが、2013年3月期は1021億円億円の赤字に対し、補填額はわずか68億円で焼け石に水の状態になっている。単純に電話として使用している利用者が、現状維持を希望しているものの、交換機メーカの撤退もあり、IP電話ベースのサービスにマイグレーションしない限り、サービスの継続が困難な状態になっている。

メタル回線の廃止については、加入電話、公衆電話、緊急通報 の電話サービスをユニバーサルサービスとして、電気通信事業法の第7条により「公平かつ安定的な提供に努めなければならない」と規定されているサービスであることが問題となっていたが、2011年(平成23年)4月より、加入電話に相当する光IP電話が、新たにユニバーサルサービスの対象となり、メタル回線の廃止を阻む問題ではなくなった。もはや、メタル回線の廃止時期は、時間の問題となっている。

全体的な流れとして、DSLは縮小傾向にある。実際DSLの契約件数は、四半期ごとに約5%ペースで減少しており、採算性の悪化から、DSL事業の継続が難しくなっている。それを反映して、他社に比べて自社で光ケーブルのインフラをほとんど持っていないソフトバンク系列は、FTTHに事業の中心を移すべく、光ケーブルの一分岐貸し問題で訴訟を提起している[4]

FTTHなどによる利用者の減少

都市部では2003年(平成15年)頃から光ファイバーを使い、より安定して高速な通信が可能なFTTHサービスがNTTなど数社によって始められており利用可能地域の拡大と共にFTTHへ移行するケースも増えている。さらに、東北地方3県を除き2011年(平成23年)7月に実施された地上デジタル放送への移行によって、「アンテナの代わり」としてCATVやFTTHのセールスが行われることがあり[5]、それに伴う移行も考えられる。また、2000年代後半以降は、各事業者による家電量販店などにおけるセールスも、ADSLよりFTTHの方に力を入れることが多くなっている。総務省の発表によれば、ADSLを主体とするDSL契約数は2006年4~6月期に減少に転じた。平成19年通信利用動向調査の結果によれば2008年(平成20年)3月末に光回線利用世帯がADSL回線利用世帯を初めて超過し、光回線への移行が進展している。2014年6月20日の総務省の発表[6]によれば2014年3月末の段階でDSLの契約数については447万(前期比4.9%減、前年同期比17.6%減)、FTTHの契約数については2,535万(前期比1.3%増、前年同期比6.3%増)と固定回線によるブロードバンド接続では、FTTHの利用がDSLの利用の約5.7倍と大きく超過している。

無線系のインターネット接続サービスによる利用者の減少

携帯電話やWiMAXなどの無線系のインターネット接続サービスが充実してきており、ADSLの利用者の減少に拍車をかけている。3.9世代携帯電話パケット通信サービスの契約数は1,362.8万(2012年12月末現在)にもなっている。ただし、FTTHと同じく地域的な格差が存在する。ADSL回線では通信できなかったり、低速な通信しかでき無かったりする過疎地や市街地の周辺地域では、無線系のインターネット接続サービスが提供されていなかったり、サービスが提供されていても接続速度が低速であることがある。

日本国内でのサービス提供事業者

DSLサービスのシェア(2013年9月末現在)は、ソフトバンク系が63.4%、NTT系が33.8%となっている。年率にして16~20%にもなる契約数の減少が10年近く続いているのに伴い淘汰が進んでいる。

ADSLアクセスラインのみ提供

  • NTT東日本 - フレッツ・ADSL。山村部、離島を除く管轄地区全域。ADSL接続サービスのみ提供。プロバイダとは別途契約が必要。
  • NTT西日本 - フレッツ・ADSL。山村部、離島を除く管轄地区全域。ADSL接続サービスのみ提供。プロバイダとは別途契約が必要。

プロバイダがADSL回線事業者の窓口となる一括契約型

アクセスライン(接続サービス)を提供する業者は「ホールセール」(wholesale、卸売)とも言い、ADSL回線事業者が各プロバイダと提携し提携先プロバイダの一括サービスとしてプロバイダを窓口に契約する方式。

プロバイダとADSL回線事業を兼ねている形態

  • ソフトバンク
    • 東京めたりっく通信(現・ソフトバンクBB) - 1999年(平成11年)7月、日本で初めて電話線を利用したADSLサービスを提供(東京都内)。その後、ソフトバンクBBへ吸収合併された。
    • Yahoo! BB - 自社でADSL接続サービスとプロバイダサービスを合わせて提供する。一部の山村部、離島(沖縄をのぞく)を除く全国。
    • 平成電電 - 電光石火。自社プロバイダ契約とセット。直収ADSLもある。2006年(平成18年)に日本テレコム(現・ソフトバンクテレコム)に事業譲渡された。
    • JDSL - 日本テレコムが2001年(平成13年)から東京、名古屋、大阪周辺を対象に自社でADSL接続サービスとプロバイダ(ODN)サービスを合わせて提供していた。2002年(平成14年)に接続サービスはイー・アクセスに移管。
  • 直収ADSL
    • au one net(旧・DION)(メタルプラスネットDION ADSL50/10) - アクセスラインが直収電話KDDI「メタルプラス」となる。050番号のIP電話サービスも利用可能。ただしKDDIはADSLサービスは未実施であり、イー・アクセスの設備を利用している。
    • Yahoo! BB おとくラインタイプ - アクセスラインが直収電話のソフトバンクテレコム「おとくライン」となる。050番号のIP電話サービスは利用できない。
  • 地域ADSL事業者

テンプレート:節stub

世界のADSL技術

世界的に見れば日本のADSLは世界中で複数あるDSL規格またはxDSL規格の1つである。DSLの技術は大きく分けて上り信号と下り信号が同じだけの帯域幅を持つSDSL(Symmetric Digital Subscriber Line、対称デジタル加入者線)と上りと下りで帯域幅が異なるADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line、非対称デジタル加入者線)に分けられ、またそれぞれの中でも細かな変調方式の違いやモデムチップメーカーの技術的な思惑の違い、技術革新による性能向上規格の登場、各国独自の既存電話事情、等によって多くの規格が乱立した。たとえば日本でのみ普及していたISDNの周波数帯とのノイズ干渉を避けるG.992(G.dmt/G.Lite)Annex C等が代表的である。これら数十あるDSL/xDSL規格は普通「DSL」と呼ばれている。

2010年頃からヨーロッパを中心に複数のSDSL回線を束ねて使用するEFM(Ethernet in the First Mile)という専用線サービスが普及しつつある。

世界のDSL普及率

世界のDSL普及率は、世界のブロードバンド契約者数のOECD加盟国の2005年のデータから読み取れる。人口100人に占めるブロードバンド契約者の割合の多い順に示す[7]

順位 国名 人口100人に占めるブロードバンド契約者の割合 契約者数(人)
DSL Cable その他 合計
1 アイスランド 25.9 0.1 0.6 26.7 78,017
2 大韓民国 13.6 8.3 3.4 25.4 12,190,711
3 オランダ 15.7 9.6 0.0 25.3 4,113,573
4 デンマーク 15.3 7.2 2.5 25.0 1,350,415
5 スイス 14.7 8.0 0.4 23.1 1,725,446
6 フィンランド 19.5 2.8 0.1 22.5 1,174,200
7 ノルウェー 17.8 2.9 1.2 21.9 1,006,766
8 カナダ 10.1 10.8 0.1 21.9 6,706,699
9 スウェーデン 13.3 3.4 3.6 20.3 1,830,000
10 ベルギー 11.3 7.0 0.0 18.3 1,902,739
11 日本 11.3 2.5 3.8 17.6 22,515,091
12 アメリカ 6.5 9.0 1.3 16.8 49,391,060
13 イギリス 11.5 4.4 0.0 15.9 9,539,900
14 フランス 14.3 0.9 0.0 15.2 9,465,600
15 ルクセンブルク 13.3 1.6 0.0 14.9 67,357
16 オーストリア 8.1 5.8 0.2 14.1 1,155,000
17 オーストラリア 10.8 2.6 0.4 13.8 2,785,000
18 ドイツ 12.6 0.3 0.1 13.0 10,706,600
19 イタリア 11.3 0.0 0.6 11.9 6,896,696
20 スペイン 9.2 2.5 0.1 11.7 4,994,274
21 ポルトガル 6.6 4.9 0.0 11.5 1,212,034
22 ニュージーランド 7.3 0.4 0.4 8.1 331,000
23 アイルランド 5.0 0.6 1.1 6.7 270,700
24 チェコ 3.0 1.4 2.0 6.4 650,000
25 ハンガリー 4.1 2.1 0.1 6.3 639,505
26 スロバキア 2.0 0.4 0.2 2.5 133,900
27 ポーランド 1.6 0.7 0.1 2.4 897,659
28 メキシコ 1.5 0.6 0.0 2.2 2,304,520
29 トルコ 2.1 0.0 0.0 2.1 1,530,000
30 ギリシャ 1.4 0.0 0.0 1.4 155,418
OECD 8.4 4.2 1.0 13.6 157,719,880

近年では日本のみならず世界的にも携帯電話の普及が目覚しいことなどから、固定電話の契約者線を利用するDSLは漸減する傾向にある。

サービス提供上の問題点

未提供地域の存在による格差

ADSLを始めとしたブロードバンド基礎的電気通信役務として位置付けられておらず、あまねく全域(全ての市・町・村)で提供することが法的に義務づけられていないため、過疎地山村離島など)で利用できない状況とそれに伴う料金の地域格差拡大の恐れもある。

また、対応インターネットサービスプロバイダにおいても地域格差が生じている。例えばADSLを加入者接続に利用する場合、NTTなどのアクセスライン提供事業者が設置する相互接続点に専用線でサービス提供用サーバなどを接続しなければならない。これらの機器・回線を他の事業者の社屋に有料で設置するなど高額な費用が掛かる為、都市圏のプロバイダ以外の新規参入がしにくいという問題も抱えている。 テンプレート:See also

通信速度

加入者線路は音声などの低周波伝送を満たすシールドなしツイストペアケーブルを使用しており、これを高周波伝送に転用しているためその伝送特性が保証されておらず、速度や安定性などが設置条件によって大きく左右され通信品質を保障することができない(ベストエフォート)。実際のところ、通常の使用環境では最良でも理論値の70~80パーセント程度となる。

ADSLの速度低下の主な要因としては次のものがある。影響が大きい場合は、速度低下のみならずADSL通信そのものを確立できない(「リンクアップ」しない)状況に至る。

通信線路の損失
  • 電話局に設置された端末装置(DSLAM)からの延長距離
利用場所から局内端末装置までの距離が長いほど損失が大きくなり、通信速度が低下する。周波数の高い帯域ほど距離による影響が大きく、クワドラブルスペクトラム方式の場合は局内端末装置から1kmで理論値の半分にまで速度が落ちる。
端末装置が置かれた電話局をGC局というが、ある利用場所からの加入者線路を収容している電話局(端局またはEO局という)が必ずしもGC局であるとは限らない。ADSLの普及が遅れている地域ではEO局からGC局までNTT東西によって内部中継されており、利用場所から局内端末装置までの総延長が長くなる傾向がある。なおEO局からGC局までの内部中継が光回線で行われている場合は後述の問題点「光収容」に該当する。
外来ノイズ

しかしながら線路情報開示システム(NTT東日本NTT西日本)にアクセスして電話番号を入力すれば電話局からの距離や回線損失などの回線の状況を知ることはできるものの(回線が光収容の場合はエラーになる)、実際には「契約可能区域」となっているにも係わらず地方など交換局が疎になっている地域やノイズの多い地点などでは速度が大きく低下する、または接続できない地点が存在することとなる。

ただ回線の通信速度が遅い問題や接続できない(リンクできない)問題はモデムの技術水準向上や各種の技術開発により、普及開始当初よりは大きく改善している。ADSLという技術自体が2000年代に入ってから実用化され通信方式として歴史が浅いこともあり、ADSLモデムのファームウェアを最新のバージョンに入れ替えるなどで通信状況が改善されることも多い。

業者の中には通信速度が上がらない、通信できないにも係わらず解約に応じないと問題視されている事例もあり国会などでも取り上げられた。現在に於いても無理な契約と顧客の無理解が重なり、開通後に「速度が上がらない」などの苦情が絶えない。また広告での「最大速度は理論値であり、必ずしも仕様通りの速度が出ない」ことへの注意書きの扱いが小さいとして、業界へ公正取引委員会からの指導も入った(電気通信役務#日本の電気通信事業法における利用者保護も参照)。

数十Mbpsといった理論上の最大速度は恩恵を受けられる場所が電話局周辺に限定されることや、古いパソコンや初心者ユーザにとってはオーバースペック(過剰性能)の場合もあり、2003年頃から下り1Mbps・上り512Kbps程度の低速ながら低価格なサービスも登場した。

光収容

光収容とは利用場所から電話局へ到るまでの伝送路において、電線そのままではなく途中で電話用の光ケーブルへ変換(収容)されていることを表す用語。対語はメタル収容。ADSLは音声通話帯域よりも高い周波数帯域をデジタル情報伝送に利用する技術であるが電話用光ケーブルでの音声伝送は光収容の機器が設計上その高い周波数帯域の伝送を想定しておらず、光収容(音声多重化)の際には不要帯域としてカットされてしまう。このため、伝送路の途中や電話局側末端で光収容されている加入者回線はADSL信号をDSLAMまで透過させることが出来ず通信が成立しない。

光収容加入者は残置されている空きのツイストペアケーブル(メタル回線)があった場合にのみ、収容替え工事を加入者負担でした後でADSLの工事が可能である。しかしコンテナタイプの簡易局舎などで遠隔多重加入者線伝送装置(RT:Remote Terminal, RSBM:Remote SuBscriber Module)に接続されていたり、マンションなどの集合住宅主配線盤に光ケーブルのみが引き込まれているなど切り替えが不可能でADSLが利用できない場合もある。

2000年代に入り幹線部分のメタル通信線路の新設が停止されているため、光収容加入者はさらに増加するものと考えられる。

ただし都市部などでは以前より普及しているCATVのインターネットサービスや20042005年辺りからの光ファイバー回線(FTTH/FTTx)の本格的展開普及により、ブロードバンド回線が引けない問題はおおむね解消されつつある(しかし集合住宅など、一部には依然としてその問題は残っている)。

ISDNからADSLへの切り替えに伴う通話サービス低下

日本方式のISDN(INS64)にはADSLを重畳して使用出来ないため、INS64をアナログ固定電話に切り替える必要がある。インターネット回線の速度向上を主眼に切り替えを行なう利用者が多いが、音声通話の面でサービス低下が顕在化する場合が多い。代表例はi・ナンバーにて複数番号を利用していた場合でアナログ固定電話へ切り替えた後も回線数を維持する場合はダイヤルインを契約する、IP電話を契約するなどの追加費用が必要となる。

アナログ固定電話に比してINS64は提供される付加サービスが高機能であることや漏話と呼ばれる現象(他の電話線との間で、干渉により通話音声が互いに漏れる)が生じにくいなどの通話品質が高いため、アナログ固定電話への切り替えを避けタイプ2というADSL専用の回線を引き込む場合もある。

なお、NTTはPSTNと共にISDNの廃止時期を2025年としている[8]。NTTとしては、ISDNの契約者にFTTHによるIP電話への移行を推奨している。

普及の遅れ

アメリカでADSLの普及が始まった当初はアメリカと同様に電話回線敷設状態の良い日本でも速やかな普及が期待されたが、実際にはアメリカよりも大きく遅れて普及した。

背景として電話加入者回線を独占的に保有していたNTTが、ADSLへの対応に消極的(無関心)であった点が指摘されている。NTTは当時国策でもあった加入者までの光ケーブルによる高速回線(FTTH)を早急に普及させ、その間は一般家庭や小規模事業所向けのインターネット接続に既存のISDNの利用を促す構想を持っていたと言われる。

ADSL事業Yahoo! BBが急激な加入者増加に伴って開通作業が大きく遅延し問題になった際、批判を受けたYahoo! BB側が「原因はNTTの作業遅延にある。NTT電話局への弊社ADSL端末装置設置が迅速ではない」と声明するなど社会問題に発展し背景にNTTの構想があるのではと憶測された。なおNTT電話局舎内への他事業者装置設置についてはその設置スペースをYahoo! BBが独占しているとして新規参入の他ADSL事業者が抗議するなど、問題が生じた。なお、Yahoo! BBなどの「遅いのはNTTが原因」と言うユーザー対応は未だに収まっていない。

これらの批判を受け2001年6月の国会にてNTT法電気通信事業法の改正が可決され、NTT東日本NTT西日本はこれを受け同年末に未使用のメタル回線(ドライカッパ)や光回線(ダークファイバー)を各ADSL事業者に積極的に割り当てるようになった。

その後、NTTもFTTHとADSLの2本立てでブロードバンド対応を進める方針を明確にし自社ブランド「フレッツ・ADSL」でのADSLサービスを開始した。

複雑な利用者契約

アクセスラインのみ提供の電気通信事業者が行う回線サービスである場合(2006年現在、NTT東西のフレッツのみ)、あくまで加入者と電話局との端末装置同士で高速通信を実現するものである。この為、インターネットへの接続にはインターネットサービスプロバイダとの契約も必要である。また、プロバイダがADSL接続業も兼ねている契約形態でも加入者回線を使用するために当然NTTなどの通信回線を保有する電気通信事業者と契約をしている必要がある。従って、計2種類の事業者と契約する必要があることになる。この煩雑さは、通信回線の保有とプロバイダ事業を合わせて行うCATVには無い部分である。ただしプロバイダ側がISPサービスの申し込みと同時にフレッツの申し込みを代行受付し、料金請求も合算して行っている場合もある(しかし契約はあくまでも2箇所である)。

ユーザー側から見た場合にはこの契約の手続きを少しでも簡略化するためとプロバイダ側のユーザー囲い込みも目的にプロバイダがADSL接続業も兼ねている契約形態(Yahoo! BBやTNC「ADSLパワーライン」)やプロバイダが窓口となってADSL契約も一括して行う形態(ADSL提供業者がイー・アクセスやアッカ・ネットワークスの場合。ホールセール(wholesale = 卸売)とも言う)もあり利用可能な地区の場合には「フレッツ・ADSL」料金+プロバイダ料金より総額料金が安く設定されているが、この場合にはADSL接続で複数のプロバイダを切り替えて利用できない欠点がある。

直収電話に変更した場合には、系列企業のADSLサービスしか利用できないなどの制限がある。

なお、この問題は、FTTHでも共通する部分がある。

保安器の問題

ADSLはFTTHと異なり電話線を利用するため、保安器がADSLに適合していないと電話やFAXを利用する時に一度回線が切断されてしまう。保安器を新しいものに替えれば問題ないが、余分に費用が掛かることがある。

脚注

  1. PSTNのマイグレーションに関する概括的展望について
  2. 平成23年度電気通信役務契約等状況報告について(NTT東日本)
  3. 平成23年度電気通信役務契約等状況報告について(NTT西日本)
  4. NTT東西に対する訴訟の提起について|ソフトバンクBB株式会社,ソフトバンクテレコム株式会社
  5. たとえばフレッツ・テレビ
  6. 電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(平成25年度第4四半期(3月末))|総務省
  7. OECD
  8. PSTNのマイグレーションに関する概括的展望について

関連項目

外部リンク

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