基礎的電気通信役務
基礎的電気通信役務(きそてきでんきつうしんえきむ)は、文化的な生活に不可欠最低限の電気通信サービスで、ユニバーサルサービスとも呼ばれる。また、ユニバーサルアクセスと呼ばれる電気通信サービスへのアクセス手段に着目した考え方もある。
日本の電気通信事業法第7条では、国民生活に不可欠であるため、あまねく日本全国における提供が確保されるべきものとして総務省令で定める電気通信役務であると定義されている。
目次
基礎的電気通信役務基金制度
基礎的電気通信役務基金制度はユニバーサルサービス基金制度とも呼ばれる、基礎的電気通信役務の提供に係る費用の一部を指定法人を介して各電気通信事業者が負担する制度である。
市場原理では、サービスが提供されないもしくは費用が高くなりすぎで加入が難しくなる地域・加入者の権利確保のために考えられた手法である。税金による補助金と比較して、競争を阻害しない制度設計が可能とされる。
発展途上国では、農村・漁村などの整備が遅れている地域の設備拡充のための費用を、都市部のより豊かな住民が負担する目的で運用されている。その際、入札を行ってより少ない基金で運営を行おうとする工夫も見られる。
ヨーロッパ・アメリカでは、VoIPサービスの普及により、より少ない固定電話加入者へ負担が集中していることが問題となっている。また、技術の進歩により、移動体通信(携帯電話・PHS)、ブロードバンドインターネット接続などより高度の通信サービスへの適用も議論されている。[1]
費用算出方式
費用算出方式として次のようなものがある。
- 収入費用方式(相殺型) : 採算地域の黒字と不採算地域の赤字とを相殺した上で、賄いきれない費用を他事業者の負担とするもの。競争地域の料金引き下げが他事業者の負担となるという指摘がある。
- 積上型 : 不採算地域の赤字を積算し他事業者の負担とするもの。
- ベンチマーク方式 : 全国平均の費用を一定以上上回る地域の積算額を他事業者の負担とするもの。
会計上の費用を算出する場合、競争中立性が求められている。
事業者間の費用や役務提供の分担方法についても議論がある。
- 費用負担事業者の範囲の設定
- 事業者間の費用負担割合の決定方法(売上げ・利益・加入者割当て電話番号数)
- より低い費用でできる事業者と役務提供を地域ごとに分担することの是非
技術の進歩により、IP電話・無線アクセスなど他のサービス手段のほうが費用が安くなった場合の対応については、2010年代までを目標に、各国で検討が進められている。
- 移行のための費用分担
- 移行期間を短くして総費用を少なくする制度設計。(強制的に加入者契約を変更・放送サービスと融合させて費用分担を少なくする)
日本の基礎的電気通信役務
2007年現在、基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者として、東日本電信電話(NTT東日本)と西日本電信電話(NTT西日本)が該当している。
日本の基礎的電気通信役務の範囲
2011年4月27日現在、電気通信事業法施行規則第14条において、次の役務が指定されている。
- 自動式アナログ電話の音声伝送役務[2]のうち次のもの
- 第一種公衆電話の市内通話、警察機関、海上保安機関ならびに消防機関への緊急通報、および離島特例通信[3]に掛かる音声伝送役務[2]
- 基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者の通常の市外局番の緊急通報対応の光IP電話[4]のうち次のもの
相当な期間の前までに総務大臣に報告し、光IP電話の提供により市町村等の単位で加入電話の新規提供を行わないことができる。また、光IP電話は補填対象にならない。
次の役務に関するものについては指定されておらず、全国への提供が義務づけられていない。よって、ユニバーサルサービス基金制度の算定および補填対象にもならない。
- 手動式アナログ電話による通信(100番通話等)
- 電報
- 第一種公衆電話からの市外通話
- 第二種公衆電話
- 国際電話
- 携帯電話
- PHS
- 直収電話
- ISDNおよびブロードバンド(ADSL、FTTH)
- 音声伝送役務以外の電気通信役務(携帯電話のメール機能など)
日本の基礎的電気通信役務の契約約款
電気通信事業法第19条では、基礎的電気通信役務を提供する電気通信事業者は、料金その他の提供条件(第52条第1項又は第70条第1項第1号の規定により認可を受けるべき技術的条件に係る事項及び総務省令で定める事項を除く)契約約款を定め、その実施・変更前に総務大臣に届け出なければならないと規定されている。
また次のような場合、総務大臣は電気通信事業者に対し、相当の期限を定め当該料金を変更すべきことを命ずることができる。
- 料金の額の算出方法が適正かつ明確に定められていないとき。
- 電気通信事業者及びその利用者の責任に関する事項並びに電気通信設備の設置の工事その他の工事に関する費用の負担の方法が適正かつ明確に定められていないとき。
- 電気通信回線設備の使用の態様を不当に制限するものであるとき。
- 特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。
- 重要通信に関する事項について適切に配慮されているものでないとき。
- 他の電気通信事業者との間に不当な競争を引き起こすものであり、その他社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため、利用者の利益を阻害するものであるとき。
日本の基礎的電気通信役務基金制度
- 2006年11月 - 日本の基礎的電気通信役務基金制度が実施。
- 2007年1月 - 電話番号1つあたり7.35円(消費税込)の拠出が全事業者に求められることとなった。[1]これにより、対象の各電気通信事業者の多くは利用者にその分を転与して7.35円(税込)を料金に加算して請求されていた。
- 2007年1月9日 - ソフトバンクプリペイドサービスにおいては1チャージあたり20円(税込)が請求される。
- 2008年1月1日 - 月額7.35円(税込)から月額6.3円(税込)に値下げとなる。
- 2008年1月16日 - au(KDDI・沖縄セルラー電話連合)のぷりペイドでの徴収開始。チャージした金額ごとに設定された利用可能期間に応じた額がチャージごとに引き落とされる(auプリペイド式携帯電話での「ユニバーサルサービス料」ご請求開始について)。ツーカーのプリケーについては、停波が近いことを理由に徴収を見送った。
- 2008年1月31日 - この日以降にソフトバンクプリペイドサービスのチャージを行った際の徴収額が、19円/チャージに引き下げ。同年2月4日開始のプリモバイルについても、この金額を適用。
- 2009年2月1日 - 月額6.3円(税込)が、月額8.4円(税込)に値上げとなる。同時に、イー・モバイル利用者からの徴収を開始。
- 2009年3月3日 - この日以降にプリモバイル・ソフトバンクプリペイドサービスのチャージを行った際の徴収額が、29円/チャージに引き上げ。
- 2011年2月1日 - 月額8.4円(税込)から月額7.35円(税込)に値下げとなる[7]。
- 2011年2月1日 - この日以降にプリモバイルのチャージを行った際の徴収額が、24円/チャージに引き下げ。
- 2012年1月1日 - 月額7.35円(税込)から月額5.25円(税込)に値下げとなる[8]。
- 2012年1月16日 - この日以降にプリモバイルのチャージを行った際の徴収額が、16円/チャージに引き下げ。
- 2012年7月1日 - 月額5.25円(税込)から月額3.15円(税込)に値下げとなる。
- 2012年7月3日 - この日以降にプリモバイルのチャージを行った際の徴収額が、11円/チャージに引き下げ。
脚注
- ↑ ユニバーサルサービス制度の将来像に関する研究会(第7回)
- ↑ 2.0 2.1 音声通話および該当する場合には無線呼出し。
- ↑ 3.0 3.1 電気通信役務に関する料金の計算に用いられる距離区分について、本来の距離区分より有利なものを適用することにより、料金の特例が適用される通信であって、離島特例MA内から発信され離島特例MA外へ着信するもの、および離島特例MA外から発信され離島特例MA内へ着信するもの。離島特例MAとは、離島のみで構成されるMA。
- ↑ 当該設備に係る回線の全ての区間が光信号伝送用(共同住宅等内にVDSL設備その他の電気通信設備を用いるものを含む)に限る
- ↑ 5.0 5.1 利用者が電気通信役務の利用の程度にかかわらず支払を要する一月当たりの料金(付加的な機能に係るものその他これに類するものを除く)当該光電話役務の契約において、当該光電話役務以外の役務の契約(以下「他の役務契約」という。)が必要とされる場合にあつては、当該他の役務契約により利用者が支払うこととなる基本料金を合算した額
- ↑ 電気通信事業者が電気通信役務の提供を承諾する際に利用者から交付を受ける金銭
- ↑ テンプレート:PDFLink 電気通信事業者協会、2010年9月16日
- ↑ テンプレート:PDFLink 電気通信事業者協会、2011年12月1日
関連項目
外部リンク
- ユニバーサルサービス制度(総務省)