老人語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2014年6月25日 (水) 21:53時点におけるKyoww (トーク)による版 (フィクションにおける老人語: 分かりやすく文章加筆)
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先: 案内検索

テンプレート:出典の明記 テンプレート:参照方法 老人語 (ろうじんご)は、現代語のうち、若年者による常用が少なくなり、使用者の中心が高齢者となった言葉、または高齢者が多用するとされがちな言葉である。

誰しもが高齢者になる可能性があるので、老人語を特定することはできないが、2000年代の日本では太平洋戦争以前から用いられてきた言葉がひとつの目安とされる。『新明解国語辞典』における言葉の種類のカテゴリのひとつである。同辞典が初版発行された1972年当時から、外山滋比古朱牟田夏雄など複数の知識人が「自分の常用語に怪しからぬレッテルを貼られた」という視座の論陣を張り、昨今の高齢化社会ともあいまって、ときおり物議を醸している。年配話者と若年話者が共にジェネレーションギャップに直面するきっかけの最たるものである。

老人語の一覧

テンプレート:雑多な内容の箇条書き 〈 〉は読み。

  • 逢い引き〈あいびき〉、逢瀬〈おうせ〉(デート
  • 合いの子 混血児。犬の場合は「雑種」と言った。現在のミックス。
  • 相合傘 男女が一本の傘を使うこと
  • 朝帰り 主に男性が、夜中、酒を呑み、朝になって言えに帰ること 恋人の処に泊まって、翌朝帰ること
  • 足を洗う 悪い職業から身を引くこと 仏教の修行僧が世間を見て来て、寺院に戻った時、足を清めたことから
  • 足を引っ張っる やろうとした行動を止められること
  • アバンチュール 浮気のこと。
  • 飴と鞭(むち) 怒ったり、しかったり、なだめすかしたりして教育すること
  • 危ぶむ 事の成り行きが悪い結果になるのではないかと不安に思うこと あぶないと思うこと
  • 如何様にも〈いかよう〉どの様にもすること
  • 行かず後家、行き遅れ 年の行った未婚女性
  • 一張羅 (いっちょら)その人が持っている服で、最高の物
  • 一儀〈いちぎ〉(性行為の婉曲な表現)
  • SP盤 プラスチック製のレコード。78回転であった。
  • 衣紋掛け〈えもんかけ〉(ハンガー)
  • オーバー コートのこと。
  • 大蔵省(家計の管理担当者)
  • オケラ 一文無しのこと。
  • オコシ 和装用女性下着
  • 御座なり その場しのぎにしておくこと 等閑〈なおざり〉ほったらかしにすること
  • お仕着せがましい 上から一方的に押し付けられたり、定められたりすること
  • お湿り 日照りの間の小雨
  • 押し売り 買う気が無いのに無理やり売りつける行為。不法行為にあたる
  • お酌さん 旅館で客の酒を注ぐ女性の職業。
  • お連れ様 恋人(女性)、愛人のこと
  • お手伝いさん、おさんどん(家政婦)女中
  • お見限り 相手にされなくなること
  • おひねり 芸人へのチップ 紙に巻いて投げられる。本来は神仏への供え物。洗米も使われる。
  • 未通女〈おぼこ〉、生娘〈きむすめ〉(処女
  • 重湯 〈おもゆ〉 お粥の上澄み。病人食。
  • 御大〈おんたい〉
  • 乳母日傘〈おんばひがさ〉(過保護育ちを揶揄した語)
  • 一丁目一番地 処女性のこと
  • 外套〈がいとう〉コート
  • 界隈 その辺り
  • 家作 借家
  • 活動大写真 映画
  • 楽隊 バンド。主に無声映画館を職場とした。軍隊に所属する楽団 軍楽隊もあった。
  • 合羽〈かっぱ〉、雨合羽〈あまがっぱ〉
ポルトガル語のcapaから音写。一般に、語としては両者は区別されない(意味が多少異なっている)
  • 化繊 化学繊維
  • 閣下 外国の君主以外の国家元首及び貴族への敬称
  • 月賦〈げっぷ〉ローン、リース。
  • 禿かむろ
おかっぱ頭。現代において漢字字義がほぼ正反対となってしまった典型例。
  • 通い 職場と離れた場所から勤務する従業員
  • カラン 花蘭
水道の蛇口。オランダ語。現在でも水道工事関係者の間では部品名として残っている
  • 勘当〈かんどう〉
  • 帰国子女 海外に長期滞在して、帰国した学齢期の生徒。「子は男子、「女」は女子のこと。
  • 貴様 相手(男性)のこと
  • 汽車
列車線機関車で運行される車両・気動車、もしくはJR線の通称
  • ギヤマン ガラス製品
  • 及第(点)〈きゅうだい(てん)〉(「合格(レベル)」。対義語は落第〈らくだい〉)
  • 行幸 天皇陛下が外出すること
  • 恐妻家 妻を恐れる夫のこと
  • 銀幕 映画のスクリーン、転じて映画界。
  • 巨匠 芸術分野で傑出した人物。
  • 強壮 体質を改善して、強い身体をつくること
  • 家人 〈けにん〉貴族、豪族に使用人として仕えた人々。妻の事ではない。
  • 後学 役に立つ知識。
  • 高等文官キャリア公務員
  • コール天〈コールてん〉
  • 御一新〈ごいっしん〉(明治維新。広義に文明開化を含める)
  • 交換日記 日記を交換して、読み合う習慣。
  • 公僕 公務員のこと
  • 国電 JRの都市電車。E電とも呼ばれた。
  • 極楽〈ごくらく〉、無何有郷〈むかうのさと〉(ユートピア
  • 御不浄、雪隠(せっちん)、厠(かわや)、はばかり 御手洗い、トイレのこと。
  • ゴム引〈ゴムびき〉(ゴムコーティングを施した製品、特に繊維品を指す)
  • 御用聞き 各家庭を廻って、注文販売をする仕事。
  • 小間物 日用品、化粧品等、家庭で使う物
  • こわす(両替する)
  • 言下〈ごんか〉〈げんか〉言うか、言わない直ぐに。
  • 匙 (さじ) スプーンのこと。
  • 妻 (さい)
  • 細君〈さいくん〉、御新造〈ごしんぞう〉
「あなたの奥さん」のやや雅語的な尊敬表現。対義語は「暴君」〈ぼうくん〉。手塚治虫が作品のセリフで多用。
  • 性 〈さが〉人が生まれながら、持っているもの。儒教から。
  • 皿洗い アルバイトの代名詞だった。賄い付きで、本職になる事も出来る。
  • 猿股、申又〈さるまた〉(ブリーフ
  • シカト 無視。
  • しけ込む 主に未婚男性が、アパートで一人暮らしをしている未婚女性の部屋に泊まり続けること
  • 支那そば(「中華そば」の語ならば、決して老人語とは言えない)
  • 締め込み ふんどし
  • シャッポ 帽子
  • シャボン(石鹸。ポルトガル語のSAVON―サヴォンから)
  • ジャケツ、ヤッケ(ジャケット。jacketのドイツ語読み)
  • 射幸心 働かずに収入を得たいと願う気持ち。
  • 襦袢〈じゅばん〉
下着・肌着。但し、和装界では老人語ではない。ポルトガル語。
  • 蹴球 サッカー。ア式蹴球がサッカー。ラ式蹴球がラグビー、米式蹴球がアメリカン・フットボール。氷球がアイスホッケー。
  • 出札口 鉄道の切符を職員の手で売る窓口。
  • 滋養〈じよう〉身体の弱い部分を、栄養素で補給すること
  • 省線〈しょうせん〉、省電〈しょうでん〉
現JR線のこと。戦前は鉄道省だったため。
  • 女学生
  • 女史〈じょし〉
  • 白タク 無認可のタクシー。海外には存在する。
  • ジャンバー 正しくはジャンパー。ブルゾンのこと。
  • 素寒貧〈すかんぴん〉(一文無し)
  • 水褌 (すいこん)六尺ふんどし。男性用水着。
  • すってんてん 一文無しのこと。
  • ステンショ 鉄道の駅
  • スフ、人絹〈じんけん〉(いずれもレーヨンの、日本称の略語)
  • ズボン下〈ズボンした〉(股引およびステテコの総称)
  • 住み込み 職場の別部屋に泊まり込んで働く従業員。
  • 世相 世の中のありさま。(主に国内)社会の様子。
  • 接吻 (せっぷん)、ベーゼ。キスのこと。
  • 即席 インスタント
  • そっち 相手のこと
  • 田男 尋常小学校の6年目を農家の手伝い、子守で代替する教育制度。
  • たま
  • 逐電〈ちくでん〉(この意の俗語は「とんずら」)
  • 茶瓶 ハゲ頭の蔑称
  • 帳面〈ちょうめん〉
  • チョッキ ベスト
  • チン・チン電車 路面電車
  • 中華 ラーメンのこと。
  • 都合〈つごう〉
「トータルで」「合計で」の意。必要とする/される数量の意図を裏打ちされた用法。
  • 吊〈つるし〉
既製服ハンガーに掛けて吊るされて陳列されている事から。特にスーツを指して用いる。対義語は「誂物」〈あつらえもの〉、つまりオーダーメイド
  • 帝大〈ていだい〉
北海道・東北・東京・名古屋・京都・大阪・九州の旧7帝国大学のこと。
  • デカンショ デカルト、カント、ショーペンハウエルの3人の哲学者。旧制高校の学生が使った囃子言葉。
  • 丁稚奉公 見習い。戦前の就職形式。
  • 手弁当 食事代を自腹で持ち、勤務すること
  • 天竺牡丹〈てんじくぼたん〉(ダリア
  • 電気のホヤ(電球。灯油ランプの火屋から派生)
  • 電子計算機〈でんしけいさんき〉
電卓が登場する以前より、メインフレームを指す語として定着していた。
  • 電声管 金属管などを用いた通信装置。船舶や建物で使われた。
  • (総)天然色〈(そう)てんねんしょく〉
かつて映画業界が、「白黒でも人工的な着色でも無い公開作品」という意味を強調喧伝するため、盛んに用いた語。
  • 天火〈てんぴ〉(オーブン
  • 天日〈てんぴ〉、お天道様〈おてんとうさま〉(直射日光
  • 禿頭 ハゲ頭のこと
  • 刀自〈とじ〉
最も端的な説明は、「夫と死別後、一族のトップとして権勢を振るう先代当主の正妻」となり、大抵「現当主の実母」をも兼ねている。
  • 渡航 船で海外旅行をすること
  • 二重マント、二重回し、トンビ、インバ、エンバとも呼ばれる男性用コート。シャーロックホームズが着用している。
  • 刃傷沙汰〈にんじょうざた〉(歴史的著名事件の例がこちら。最近の例ではこちら
  • 人足〈にんそく〉(臨時雇用者)254とも。一日¥254だったから。
  • 抜き うどんや蕎麦の具とつゆだけの料理。主に酒の肴。
  • 懇ろ〈ねんごろ〉
  • ノークラ(オートマチックトランスミッションの車の事)
  • ノーパン パンティーを履かない女性。ノーパン喫茶という風俗店が存在した。
  • ノーブラ ブラジャーを着けていない女性
  • ハイミス 年の行った未婚女性
  • 上等舶来(舶来品〈はくらいひん〉)(持ち物・服装・良好な状況等を褒める語)
  • 白墨 黒板用のチョーク。色付きもある。
  • ハジキ カチャとも。拳銃。ピストルのこと。
  • 旗日〈はたび〉(国民の祝日
  • パトロン スポンサー
  • はま(車輪埼玉弁に由来。「車両に嵌まっている部品」の意より派生か)
  • バンド(ベルト
  • 番頭 店長
  • 半ドン
  • 日限〈ひぎり〉
  • 左前 経営不振
  • 左巻き つむじが左に巻いている事から。へそ曲がりな子をさして言った。
  • 火熨斗〈ひのし〉(アイロン)現在は電気製品。
  • 暇〈ひま・いとま〉をもらう いとま乞い(自己都合退職。暇を出す出される)だと、逆に解雇の意味。童謡「十五夜お月さん」の歌詞にもある)
  • 平に〈ひらに〉(『平に御容赦を。』)
  • ビロード(ベルベットの布)
  • 風味 料理の味わいや香り
  • 平民 隠居 昭和22年以前の民法で定められていた、華族・士族以外の国民(人民)
  • 別珍〈べっちん〉(綿の横ビロード織り)
  • 弁士 無声映画の解説をする職業。
  • 瘋癲 (ふうてん)的屋、香具師、ニート、精神疾患のひとつ。
  • 父兄会 PTA
  • へっつい(かまど
  • ペテン
  • 勉強する 価格、家賃等を安くすること
  • 望楼、火の見やぐら。消防署の監視塔。
  • 反故、反古〈ほご〉(キャンセル
  • 蒲柳の質〈ほりゅうのたち〉
虚弱体質。デリケートな性分。およそ対極の人間は剛の者〈ごうのもの〉と呼ぶ。
  • 馬子(まご)馬を引いて、人や荷物を運ぶ職業。馬方とも。「馬子にも衣装」
  • 待合 男女が密会する施設。料理は出さないが宿泊は出来る。ラブ・ホテル。
  • 満艦飾〈まんかんしょく〉(物干しにぶら下がった洗濯物)
  • マンマンデー(慢慢的・ゆっくりと・そのうちに。中国語)
  • 晦日〈みそか〉(大みそかに限らず「月末」を指す)
  • ムード・ミュージック 和製英語。イージーリスニング。軽音楽(けいおん)としてマンガ、映画で復活した。
  • ムカつく 吐き気がすること
  • 向こう三軒、両隣り。 近所付き合いをよくしておく例え。
  • メリケン粉
  • メリケン・パンチ ボクシングのストレート。
  • メリヤス(ニット製品)
  • 耄碌〈もうろく〉(認知症
  • 門弟 弟子
  • 持ち出し 経費を自腹で払うこと
  • 夜勤 深夜労働
  • 藪睨み〈やぶにらみ〉差別視すること
  • 奴さん〈やっこさん〉(「あいつ」「あの野郎」のソフトな表現。対象は大抵、男性である)
  • 遊学〈ゆうがく〉留学
  • 行方〈ゆきがた〉(多くは、否定表現を加えこの用法に用いる)
  • 夢の超特急 現在の東海道新幹線。
  • 良しなに〈よしなに〉宜しく
  • 他所行き〈よそいき〉(高級服。狭義には、私服としての礼服
  • ヨーチン(ヨードチンキの略語。赤チンと同様の運命)
  • 洋行〈ようこう〉(海外渡航)
  • 余人〈よにん〉
  • 予備隊 警察予備隊(現在の自衛隊)
  • 雷様〈らいさま〉(落雷
  • 羅紗緬 (らしゃめん) 羊毛。外人の愛人。
  • ルーキー 新人のこと。
  • ルンペン
いわゆるホームレス。由来はドイツ語の蔑称である。
  • 連絡船(比較的大型のフェリーボート)
  • レコ 恋人もしくは愛人のこと 小指をさして示す。
  • ロートル(老人・年配者・グループの年長者。中国語)
  • 蝋引〈ろうびき〉(パラフィンコーティングを施した製品)
  • ワイフ 妻のこと

この他、インターホンドアチャイムを音で呼ぶ(“ピンポンが鳴る”など)など。

なお以下に挙げられる成句は、年輩話者にとっては常用語ではあろうものの、現代において一般用語とはやや言い難い例である。

  • 『立てば芍薬、坐れば牡丹、歩く姿は百合の花
  • 『道義〈どうぎ〉、地に堕ちた』
  • 『退引〈のっぴき〉ならない用事』、『因処〈よんどころ〉無い事情』
  • 五臓六腑に沁み亘る』
  • 『塩梅〈あんばい〉が良い/悪い』

フィクションにおける老人語

テンプレート:言葉を濁さない 古くからテレビドラマやアニメなどでは、一人称「わし」や語尾「じゃ」、打消し「」といった言い回しが「老人の使う言葉」というイメージでよく用いられる。この老人語は江戸時代、セリフの約束事として、老人や知識人を表現するための役割語として芝居の世界で使われだし、それが明治以降小説や漫画などにも広まり定着したものである。

これらの言葉は現代の広島弁に近いが、広島弁が直接的に老人語とされたわけではなく、江戸時代の上方言葉が起源である(江戸時代の上方では、現代の「や」や「へん」ではなく「じゃ」や「ぬ」が使われていた)。江戸時代初期、江戸在住の知識人には京都・大坂を始めとする西日本出身者が多く、西日本出身でなくても知識人は上方風の話し方をしていたとされる。その後、江戸町人文化の発展とともに江戸言葉が成熟し、上方風の話し方が衰退するなかで、江戸町人の間で「上方言葉=昔の知識人、長老の話し方」という認識が生まれ、現在の老人語のイメージへと繋がっていった。

時代劇などでは、このような話し方を、高齢でなくとも大名代官などの貴人、学者医師僧侶、あるいは欲深な富裕層などが用いることが少なくないが、これも昔の知識人の言葉遣いというイメージと関係すると思われる。明治時代になってから、「維新の元勲」や政治家軍人に西日本出身者が多かったこと(薩長土肥)も影響しているとされる。

参考文献

  • 金水敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』(2003年、岩波書店、ISBN 978-400006827-7) - フィクションにおける老人語

関連項目

外部リンク