路線バス
路線バス(ろせんばす)とは、国土交通省より道路運送法に規定される「一般乗合旅客自動車運送事業」の許可を受けた路線を運行し不特定旅客を運送するバスである。乗合バス(のりあいばす)ともいう[1]。都市間高速バスや「はとバス」に代表される定期観光バスもこの業態で運営されている。
本項では、一般道路を主体に運行される一般路線バスを中心に、特記ない限り、日本国内の路線バスについて記述する。高速道路を主体に走行する長距離路線バス(都市間高速バス)については、高速バスも併せて参照。
目次
現況
バスの運転
現在、日本のほとんどすべての路線バスは、大型自動車第二種運転免許を持った運転手ひとりだけが乗務するワンマン運転のいわゆるワンマンバスとして運行されている。1970年代前半頃までは、運賃の収受やドアの開閉、踏切などでの安全確認やバックの際の誘導などを行う車掌が乗車するツーマンであったが、人件費節減のため、1980年代にはほとんどワンマン運行になった。そのため、現在の路線バス用車両は基本的にワンマン仕様で車掌用設備は省略されている。
多くの地域において、運転手の間では、同業者とすれ違った際に手を上げて挨拶をすることが慣例となっている[2]。地域によっては異なる会社間でも行われること[3]や、「事故防止」という理由で挨拶を禁止している場合[4]、逆に通常運行を行っている(すなわち、バスジャックなどの非常事態が発生していない)ことを運転手間で確認する意味も含めて行う場合もある。
バスの運営
現在の路線バスは、地方を中心にモータリゼーションや少子高齢化、過疎化の進行により、かなり苦しい運営状況におかれている。
この様な赤字路線の運営は貸切バス事業の黒字分で補填してきたが、道路運送法の改正でバス事業の新規参入が緩和されたため過当競争に陥り、多くのバス会社において赤字路線を維持できなくなった。法改正で路線の減便・廃止は基本的に住民同意なしで行うことができるようになり路線の廃止、減便が相次いでいる。また経営環境の悪化から倒産する会社なども出てきている。また、鉄道路線等の廃止に伴う代替バス路線の場合、元々経営が厳しかった鉄道路線が廃止になって代わりに設定された路線が大半(例外が名鉄起線の代行バス)で、バス転換後も利用者の減少が続いた結果、慢性的な赤字が改善せず、鉄道代替であったはずのバス路線もまた廃線となるケースが相次いでいる。そのため、廃線を回避するために公的資金の投入を受けたり、非正規雇用の乗務員を積極的に利用する、廃止した路線のバス停標識の上にシールを貼って新路線に使い回すなど、経費を節減できるところは徹底的に切り詰めて、どうにか路線を維持しているところも多い。
収益の改善では、車体全体を広告に供するラッピング車両や、空港連絡路線の強化、地域ごとの分社、運行業務の他社への委託などが行われている。
大都市においては、地下鉄路線網の拡充に合わせて路線網が縮小された地区が多い。その他、大都市においては渋滞によるダイヤの定時性維持(平均時速15kmでダイヤを基本的に組んでいる)が最大の課題となる。これについては、最近では、バスレーンの設置や公共車両優先システム (PTPS) の導入、名古屋ガイドウェイバスのようにバス専用通路建設(ガイドウェイバスは案内軌条式鉄道扱いのためバス専用道路ではなく、専用軌道となる)など、道路混雑と渋滞により定時運行が妨げられやすいというバスの短所を、積極的に改善するための試みもなされている。
そのほか、自治体が支援する「コミュニティバス」というアプローチも行なわれている。東京都武蔵野市の「ムーバス」が成功例として知られる。また、大阪市バスの「赤バス」のように、小型バスによる均一料金での細かな地域への入り込みや、100円バスと呼ばれる形態での利用増を図る地域もある。
また、時刻表の配布により利用者が増加した例もある[1]。
鉄道会社系のバスはその会社の自動車部門(直営)からの分社が多い。自社直営バスの営業エリアの一部を分離する形での部分的な分社化は1970年代以降、南海電気鉄道や西日本鉄道・京成電鉄などで実施された例があるが、1990年代以降、バス事業を全面的に分社化する事業者が増えている。しかし、労働組合との関係などの事情で分社・子会社化が進まないケースもある。
自社の車両運行に必要な車両整備の為に、バス事業者が自社なり関連会社なりで自動車整備工場を所有し、バスの車検も自前で行っていることも多い[5]。専用の整備工場が無い場合でも、特定の車庫や拠点を整備して自動車整備工場としての認証を取得し車検・整備・修理や小規模な改造を手掛けるのはこの業界では珍しいものではない。また、設備・人員の有効利用や売上確保の一策として、自社グループに関係する車両のみならず地元タクシー事業者・運送業者や一般ユーザーの自家用車・大型自動車などの車検・整備を幅広く手掛けるなど、路線バスの会社が自動車の整備業・修理業としての一面を持つことも少なくない。また、自動車運転に必要な自動車損害賠償責任保険や自動車保険を中心にした各種保険の代理店業[6]や、自動車販売業[7]、ガソリンスタンド[8]など、自動車に関連する様々なビジネスをバス会社が直営していることもある。
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ラッピングバスの例 東京都交通局
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コミュニティバスの例 東京都港区ちぃばす
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100円バスの例 京王バス東
路線バスにおける優等種別
日本の路線バスにおいては基本的には路線内のすべての停留所に停車する各駅停車がほとんどであるが、観光地を抱えている路線や、長距離を走る地方路線、都市部において時間帯限定(朝夕ラッシュ時や昼間時間帯など)で特急・急行などの優等種別のバスを運行している路線がある。使用車両については通常の路線バスタイプ(下記参照)を使うところもあれば貸切タイプを使うところもあり、路線・運行会社によってまちまちである。 急行バスも参照
車両の特徴
日本の路線バスの車両の多くは、車両左側の前方および中間の2ヶ所にドアが設けられていることが多い。地域や事業者、路線によっては前方と後方の2ヶ所にドアが設けられている車両(一部の都市)、前方1ヶ所だけドアが設けられている車両(主に地方部)、前方・中間・後方の3ヶ所にドアが設けられている車両(大都市の一部事業者)もある。しかし、いわゆるバリアフリーへの対応で、近年ではノンステップやワンステップ車両が導入されるようになり、構造の関係から前方と中間の2ヶ所にドアがある形態に集約されつつある。
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東急バス
前中2扉バス - U-MP218M 1.jpg
京阪京都交通
前後2扉バス - KC-MP317KT-Tozan-B900.jpg
箱根登山バス
前扉バス - Tobus A-W293 low-floor prototype.jpg
都営バス
前中後3扉バス
前方ドアは運転席の脇にあり、前方ドアを利用する乗降時に運賃の精算がなされるため、精算機(運賃箱)が置かれていることが一般的である。
座席は多くが進行方向を向いた席であるが、車両左側の前後のドアの間の座席(多くは優先座席)は側面を向いていることも多い。乗客数が特に多い路線ではほとんどの座席を横向きに設置し、乗車定員を増加させていることもある。
- 日本のバスの座席も参照。
かつては路面と客室の間に大きな段差があり、車いすや高齢者の利用に難があったが、近年になって車体や設備の改善も進み、車椅子のリフトアップが出来たり、乗降時に空気圧を利用して車体が下がる仕組みを備えたり、ノンステップバスと呼ばれる車のように客室の床面を低くし、車体前方・中央(ごく一部は後方も)の入り口部分に床面との段差をなくして乗り降りを楽にしたバスも増えるなど、バリアフリー化が進んでいる。
またかつては古くなった観光バス車両に方向幕・運賃表示器・運賃箱などの路線バス用の機器を取り付け、路線バスに転用する例が多かったが、観光バスのハイデッカー化や路線バスのバリアフリー化により、このような改造例は少なくなっている。近年では、平成24年3月16日をもって運行終了した京都市交通局の定期観光バスに使用していた車両を水族館シャトル(京都駅前~梅小路公園間アクセス路線)に用いた例がある。
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昭和自動車
前面・側面に方向幕を設置 - Sandenkotsu RA50 FHI 3B.jpg
サンデン交通
前面に方向幕を設置、側面中央部に乗車用ドアを設置
乗車・降車方法
テンプレート:See also 路線バスでは、道路交通法により原則として、バス停留所(バス停)や、駅前などに設けられたバスターミナルで乗降する。乗降客が極端に少ない区間等の特に認められた区間では、バス停以外の場所であっても運転手に合図をすれば乗降できる「フリー乗降制」となっている場合もある。
運賃は、均一料金制の場合(都市部に多い)と、距離に応じて金額が上がってゆく場合(対キロ制・区間制)とがある。基本的に、前者の場合は運転手のいる前方の入口から乗車して運賃を支払い、後方または中央の出口から出る(終点では前方の入り口からも降車できる事が多い)「前乗り後降り先払い」、後者の場合は後方または中央の入口から乗車し、前方の出口から出る際に運賃を支払う「後乗り前降り後払い」となる。東京都の均一運賃地域や横浜市、川崎市、名古屋市、那覇市(民間事業者の那覇バス)、伊丹市、尼崎市などが前者の方式を採用している。ただし、関西では、大阪市や京都市、神戸市などが都市部の均一運賃地域であっても後者の方式を採用しており、こちらの方が乗降の効率は良いといわれる。
なお、長距離を走行する一般路線バスは、乗車時間が長く乗降回数が少なく、座席をなるべく多く提供する目的もあり、トップドア車と呼ばれる前扉のみのバスが採用されていることが多い。この場合出入口が前扉で共通になっている「前乗り前降り後払い」となるが、路線によっては運賃先払いの場合もある。さらに、神奈川中央交通のように中扉がある車両でも最初の1区間だけ入口として使用する場合、車椅子で乗降する場合のみ中扉を開閉しそれ以外は除雪道具置き場として用いる場合など、中扉は使用せず「前乗り前降り後払い」とすることもある。
「後乗り前降り後払い」の場合、乗車する際に乗車場所ごとに番号が振られた整理券を取るか、バス共通カードやPASMOなどをカードリーダーに通して降車の際に運賃表で確認した整理券の番号に応じた運賃を運転席横の運賃箱に入れるかバス共通カードなどで支払う方式がほとんどである。「前乗り前降り」の場合も同様である。 また、信用乗車方式といわれる、行き先を運転手に告げ、行き先までの運賃を乗車時に運賃箱に入れる方式も存在している(横浜市営バスの対距離区間や東京ベイシティ交通、大利根交通などはこの方式で「前乗り後降り先払い」である)。また、現在も採用している路線は非常に少ないが、整理券を取らずに乗車し、降車時に乗車停留所を告げて運賃を支払う方法もある。
長所と短所
他の公共交通機関と比較する。
長所
- 設備投資が小さい
- バス停間の距離が鉄道の駅間距離に比べて短い
- 特にフリー乗降制区間が採用されていると、バス停以外でも乗降できる利点がある。
- 路面電車などの併用軌道より高速走行が可能
- 併用軌道の最高速度は40km/hなので、場合によっては併用軌道より路線バスの方が速く目的地へ到着することがある。
- Uターンが容易
- 車長9m以上・乗車定員30人以上又は車両総重量8t以上のバスでも高速道路の料金車種区分が「大型車」扱い[9]。
- ・車長9m以上・車両総重量8t以上又は乗車定員30人以上の路線バス以外のバスは「特大車」扱い。
短所
- バスレーンの無い道路では渋滞に弱い・渋滞の原因になる
- 大量輸送が困難
- バス1台あたりの乗車定員数が、連節車両であっても通勤形電車1編成あたり(2両以上)の乗車定員数より少なくなる。また、鉄道の場合は乗務員を増やすことなく編成両数を増やすことができ、大量輸送が可能。バスの場合はバス1台ごとに運転士1人が必要になるため、人件費の面で不利。
- 鉄道に対する高速化の限界
- 上記渋滞により、バスレーンのある道路を除いて専用軌道走行あるいは交通規制で優先される路面電車・LRTなどの併用軌道に比べ、路線バスの速度が低くなる。
- 高速道路での法定速度が100km/hなので、100km/hを越えて走行できる列車(在来線幹線の特急列車や新幹線などの高速鉄道)には対抗できない(表定速度も参照)。
- ただ、所要時間(および運賃)の差が非常に大きい高速鉄道や航空路線とは、ニーズによって使い分けられている部分も多い(JRバスの「昼特急」シリーズなど)。
- 区間によっては並行する鉄道路線で列車が低速でしか運行できない、あるいは鉄道が道路に比べて遠回りをしているといった理由で、所要時間が鉄道と同等もしくは鉄道に勝る例もある。
- 環境問題(大気汚染や酸性雨・地球温暖化)
- 交通事故
- バスが関連する交通事故は少なくない。道路は一般的に混合交通であり、他車の無謀運転や歩行者等の飛び出しなどによる事故は避けきれない。これに加え、劣悪な労働条件、あるいはバスサービスの供給過剰(競争激化)により、公共交通機関のバスでさえ無謀運転に陥ってしまう場合がある。
- バス固有の営業エリアの問題
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神奈川中央交通
連接バス
補足事項
- 乗車途中にて運賃支払い方法が変更になる路線もある(神奈川中央交通の町71系統等)。
- 一般的には系統番号がある路線については「系統」と称しているが事業者によっては「- 番」(琉球バス交通、近鉄バス)や「- 号経路」(京阪バス)が正式の呼称となっていることもある。詳細は当該記事を参照。
- 旅客自動車運送事業運輸規則第12条により所定の発車時刻より前に発車させることが禁止されているため、停留所に早着した場合は、停留所から乗車する客及び車内に乗客がいなくても停車して時間調整を行う。ただし、クローズドドアシステム導入路線で降車のみの扱いとなる停留所に早着した場合は、乗客の降車が済み次第、時間調整を行わずに所定の発車時刻より前に発車可能である。
日本以外での事例
アメリカ
長距離高速バスである「グレイハウンド」が有名だが、都市間輸送はバス・列車・飛行機がしのぎを削るボストン - ニューヨーク - ワシントンD.C.間など一部の区間を除いて、ほぼ飛行機の独擅場である。
ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市や地方の都市部では、都市内や都心と郊外を結ぶ路線バス(トランジットバス)が多く設定されており、多くが1ドル25セント - 5ドル程度の運賃で運行されている。同一交通局内のバス・地下鉄・ライトレール・路面電車への乗り換えには、1 - 2時間有効な乗換券が発行され、追加料金は発生しない。車体のフロントにバイクラック(自転車取り付け台)があるバスもある。ニューヨーク市などごく一部の大都市の例を除き、都市内-近郊の路線バスの主な利用者は、自家用車を所有できない貧困層である。都心部での公共交通機関の利用を促すために、大都市郊外のバスターミナル・地下鉄駅には、無料駐車場を併設しているところも多い。米国では通勤交通費の支給は一般的ではないが、駐車場コスト削減のために、交通局と契約を結んで従業員のバス利用を無料にする企業もある。
アメリカのなかでは例外的に一般住民や旅行者にも広く使われるニューヨーク市都市交通局のバスは、同市の地下鉄と同様に、24時間運行され、料金は均一体系である。同市内には12,499ヶ所のバス停があり、全てのバスが障害者・車椅子のための昇降機を備えている。アメリカ各都市における、都市内バスの年間利用者数(2004年)は以下の通り。[2]
ヨーロッパ
都市内交通機関として路面電車とともに路線バスが設定されている。都市内への自家用車の乗り入れを抑制(パークアンドライド)するため、都心部の限定された区間では無料で利用できる施策が行われている都市も多い。また、ロンドン名物の二階バスが有名であるが、2005年12月9日、車イスでは乗り込むことができず、障害者に配慮した公共交通機関を2016年までに整備するよう求めた欧州連合(EU)統一基準はクリアできない等の、バリアフリーやなどの問題から、旧型車は一般用としては姿を消した。 しかし、観光用としては走っている。
アジア
所得水準が低い上に鉄道網が十分に整備されていない国が多く、都市内交通・都市間輸送ともバスが主体の国が多い。料金徴収のため、車掌が乗車している国もある。使い込まれた整備状況の悪い車両が多い上に運転が荒く、特に東南アジアでは未舗装の悪路を高速で飛ばすことや、無謀な追い越しを行うことが多いため、危険性が高い。国によっては屋根の上まで乗客が乗車したり、バス停以外の場所で乗客が飛び乗ったりするなど、現在の日本では考えられない状況も見られる。しかしながら、一般市民が手軽に利用できる交通手段がバスしかないことも多い。東南アジアやインドでは日本で使われていた路線バス車両が払い下げられて使用されている例も見掛けられる。
また、中国では長距離路線で寝台バスが運行されている。
事業者別
- 北海道の乗合バス事業者
- 東北地方の乗合バス事業者
- 関東地方の乗合バス事業者
- 中部地方の乗合バス事業者
- 近畿地方の乗合バス事業者
- 中国地方の乗合バス事業者
- 四国地方の乗合バス事業者
- 九州地方の乗合バス事業者
- Category:日本のバス事業者
参考文献
- 鈴木文彦『路線バスの現在・未来』『同part2』グランプリ出版、2001
関連項目
車両
運行方式
その他
脚注
外部リンク
テンプレート:公共交通- ↑ 国土交通省公式ホームページ 一般乗合旅客自動車運送事業(乗合バス、路線バス)
- ↑ 同一会社または親会社と子会社同士
- ↑ 主に都市間バスの共同運行会社や資本等で関係する会社等
- ↑ 北海道中央バス及び関連会社等
- ↑ 北海道中央バスにおける小樽整備工場での小樽地区及びニセコバスの整備・札幌工場での札幌地区及び札幌第一観光バスの整備・空知工場における空知地区・旭川営業所及び子会社の空知中央バスの車両整備も受託する例等
- ↑ 三重交通や昭和自動車など多数。
- ↑ 例としては草軽交通など。
- ↑ 例としては小田急バスなど。
- ↑ 基本的な料金車種区分表 ドラぷら(東日本高速道路が運営)。高速道路によっては料金車種区分が異なる場合がある。