阪神9300系電車

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テンプレート:鉄道車両 阪神9300系電車(はんしん9300けいでんしゃ)は、阪神電気鉄道が所有する優等列車用の通勤形電車

2001年3月10日に実施されたダイヤ改正において、直通特急が増発されたことに伴う所要本数増への対応および「赤胴車」と呼ばれる急行系車両中最も車齢の高い3000系の代替として、2002年にかけて6両編成3本18両が武庫川車両工業において製造された。

急行系車両では9000系に続くVVVFインバータ制御車であるとともに、阪神最初の大型車で当初は2扉クロスシート車として登場した3011形以来47年ぶり[1]の3扉セミクロスシート車両である。また、車体塗色も先に登場した5500系と同様に、従来の急行系車両と大きく印象を変えたカラーリングで登場した。

37年振りのクロスシート車

1998年2月15日のダイヤ改正で運行を開始した直通特急は、梅田駅から阪神本線阪神神戸高速線山陽電気鉄道本線の3線合計91.8kmを走破して山陽姫路駅に至る、私鉄の優等列車としては比較的長距離を走る列車である。直通特急の運行開始に際し、3扉セミクロスシート車の5000系5030系を投入した山陽電鉄とは異なり、阪神では、3扉ロングシート車の8000系・9000系を充当したが、転換クロスシート装備の後期タイプを中心に乗り入れ対象車とした山陽5000・5030系とのサービス格差は、ラッシュ時はともかく、データイムにおいては歴然としていた。このように、ロングシートの両系列は同じ直通特急で運用される車両の中で格差があるだけでなく、競合する西日本旅客鉄道(JR西日本)の新快速快速の主力車両である3扉オール転換クロスシートの221系223系に比べると見劣りしていた。

このように長距離を走る最優等列車であるにもかかわらずロングシート車を投入したのは、阪神本線内の朝ラッシュ時の輸送に配慮した[2]ことと、3011形就役後、輸送需要の増加に対応できずに何度も編成替えを繰り返し、ついには前面を非貫通構造から貫通構造に改造の上ロングシートにしたことから、クロスシート車の導入について慎重になっていたことなどの経緯がある。

しかし、直通特急運転開始後、懸念されていた山陽5000系列のクロスシート車による輸送上の混乱はなく、逆に利用者に対して短期間のうちにクロスシートサービスが定着していったことから、阪神においても2001年3月のダイヤ改正で直通特急が倍増されることに伴って必要となる増備車では、これらの動向を鑑みてクロスシート車を導入することを決め、同時に製造以来40年近く経過して老朽化が進行していた3000系を置き換えることとした。

概要

本系列は、外観では8000系タイプIVや5500系、性能面や搭載機器では9000系をベースとしており、前面のデザインや塗色、座席こそ大きく変わったが、1980年代後半以降に確立された阪神の車両スタイルを継承している。

編成・車体

編成は8000・9000系と同じ制御車 (Tc) - 電動車 (M') - 電動車 (M) の3両ユニットを背中合わせに2組連結した6両固定編成で、車両番号の奇数が大阪側、偶数が神戸側に組成される構成も同じである。車体は、阪神・淡路大震災被災廃車された車両の補充分を緊急に製造する必要からステンレス車体を採用した9000系とは異なり、本系列では再び普通鋼製の車体に戻ったが、屋根や戸袋部、床下部といった雨水による腐食が発生しやすい部分は、5500系同様ステンレス製である。窓配置は、8000系タイプIV以降共通の先頭車d1D3D3D2、中間車2D3D3D2(d:乗務員扉、D:客用扉)で、間柱を細くして連窓風にブラック仕上げとした客室側窓といった点は変わりないが、客用扉の幅がクロスシート部のシートピッチ(座席の前後間隔)確保のため、従来の阪神標準の1,400mmから他社の両開き扉車と同じ1,300mmとなった。車両前面のデザインは、前面ガラスの取り付けをボンディング工法と呼ばれる接着によるものにすることや前照灯を内はめ式に変更することでフラットですっきりとしたイメージを出したほか、左右に大きな後退角を取り、裾部を斜めにカットすることで、従来車のイメージを残しつつスピード感を持たせたものになった。屋根上には集約分散式冷房装置 (CU703) を各車に2基搭載したほか、9401形の大阪側に下枠交差式のパンタグラフを1基搭載し、同形式の神戸側にはパンタグラフ設置準備工事がなされている。また、連結器は9000系や5500系と同様に、両先頭車の前面はバンドン式密着連結器、9401形奇数車の神戸側と偶数車の大阪側は廻り子式密着連結器、その他の部分は半永久連結器を採用、9500形偶数車には非常時に山陽電鉄の車両と連結するためのアダプタが搭載された。9300系の登場以降は阪神なんば線を介した近畿日本鉄道奈良線との相互乗り入れ計画が具体化したことから、本系列はバンドン式密着連結器を装着した最後の新造車両となった。この他、車両間には5500系2次車以降本格的に採用された転落防止幌を設置している。

内装

内装は3011形以来となるセミクロスシートを中間車4両の扉間座席に採用し[3]、出入口側には固定クロスシートを、中間部には転換クロスシートを設置した。両先頭車2両は、梅田、三宮元町高速神戸新開地、山陽姫路といった阪神本線とその乗り入れ先である神戸高速鉄道東西線および山陽電鉄本線の主要駅の階段および改札口が両先頭車に最も近い位置にあることから、混雑を考慮してロングシートとなった。座席の表地には複雑な柄を表現できるジャガード織のモケットを採用、一般席は金茶色、優先席はグレー基調となった。また、クロスシートの採用に伴い、座席幅と通路幅を確保するため、9000系に比べると側壁の厚さが15mm薄くなっている。車内案内表示器は、5500系・9000系で採用したLED式路線図を山陽電鉄線内にも拡大、直通特急停車駅のみ追加して点滅するように改良し[4]、山側2か所・浜側1か所[5]の客用扉上部に配置したほか、5500系・9000系と同様に扉開閉予告ブザーを設置した。運転台は5500系・9000系と同じデスクタイプであるが、ブレーキハンドルには初めて横軸式が採用された。乗務員室と客室との仕切り窓の遮光幕は全自動昇降式となり、8000系リニューアル車、9000系近鉄乗り入れ対応改造車、1000系にも継承された。

走行機器

台車は9000系と同一の1本リンク式ボルスタレス台車であるが、空気バネの形状や左右動ダンパ取り付け位置が異なることから、新形式のSS-144B(電動車用)・SS-044B(制御車用)となった。主電動機は9000系と同一の東洋電機製造製TDK-6146-A 130kWを搭載するが、制御装置は阪神では初めてIGBT素子によるVVVFインバータ制御装置である東芝製SVF047-A0を採用し、9401形に搭載している。また、補助電源装置の静止形インバータ (SIV) は140kVAのINV094-LOを、空気圧縮機 (CP) はC-2000-MLを9301形に搭載している。なお2011年時点では、阪神のVVVFインバータ車では唯一東芝製の制御装置を装備している(他系列はすべて三菱電機製)。

塗色をめぐる話題

車体塗装は、従来の赤胴車とは異なり、5500系の塗装に対応させた上部「プレストオレンジ」下部「シルキーベージュ」のツートンカラーとされた。「プレスト」(Presto)とはイタリア語演奏記号「極めて速く演奏せよ」の意味である。しかし、この上部「プレストオレンジ」下部「シルキーベージュ」のツートンカラーに床下機器の黒の取り合わせが、阪神タイガースのライバル球団である読売ジャイアンツのチームカラーに類似していたことから、「タイガースの親会社の電車が、読売巨人軍をイメージさせるカラーリングというのはいかがなものか」と物議を醸し、2001年に行われた阪神電鉄の株主総会でも問題となったほか、挙句の果てには、阪神電車ファンでもあり阪神タイガースファンでもある鉄道研究家の川島令三の著書にまで取り上げられた[6]。このように話題を呼んだカラーリングであったが、その後の8000系リニューアル車でも採用された。

しかし、雑誌の発表では伝統の赤胴車塗色にするというものもあった。

その後新造された1000系および、近鉄乗り入れ対応改造された9000系では、ブラック処理された前面に、やや黄色に近いオレンジの「ヴィヴァーチェオレンジ」というカラーリングとなり、阪神タイガースの球団旗に近い色合いとなった。

変遷と現状

ファイル:Hanshin9300Series01.jpg
連結器交換前の9300系

9501Fは2001年3月6日に竣工し、同年3月10日のダイヤ改正では正面および側面にステッカーを貼り付け、梅田駅10時00分発の姫路行直通特急から営業運転を開始、3000系3105F + 3106Fを廃車にするとともに、直通特急から準急まで、阪神本線・山陽電鉄本線で急行系車両を使用する列車で幅広く運用されるようになった。翌2002年2月には9503Fが竣工、これに伴い3107F + 3108Fが代替廃車された。続いて同年9月24日には9505Fが竣工したが、メーカーの武庫川車両工業が同月末をもって解散したことから、同社において新造された最後の車両となった。この時、車両需給の関係で3111F + 3112Fが予備車として翌年3月まで残ったが、2003年3月16日付けで廃車され、3000系は消滅した。この時点で本系列の製造目的のひとつである3000系の廃車代替新造が達成されたこと、および近鉄奈良線との相互直通運転が具体化したことから9300系の製造はこの3本で終了し、その後は8000系のリニューアル改造や、近鉄奈良線直通用の1000系の新造に移行した。

2009年3月20日からの近鉄奈良線との相互直通運転に際し、他形式車両と同様に従来のバンドン式密着連結器から廻り子式密着連結器への換装を開始、2007年7月下旬には3編成全ての連結器の交換が終了した。なお、本系列は近鉄奈良線への直通対応は実施されていない。

デビュー当初は中間車のクロスシート部にはつり革がなかった(扉上部のみ設置)が、2013年時点ではクロスシート部にもつり革が追設されている。

2013年には9401の集電装置がシングルアーム式に交換され、8月3日に営業運転を開始した[7]

2013年秋頃から、車内案内表示器からランプ点灯式の路線図を撤去してLEDスクロール式案内表示器のみとする改造が行われ、現在全編成撤去が終了している。

2010年4月現在、6両編成3本(18両)が在籍している。

編成

テンプレート:TrainDirection
9500
(Tc1)
9300
(M')
9400
(M)
9400
(M)
9300
(M')
9500
(Tc2)
注釈
9501 9301 9401 9402 9302 9502 2基ともシングルアーム式パンタグラフへ交換
9503 9303 9403 9404 9304 9504
9505 9305 9405 9406 9306 9506

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

参考文献

  • 鉄道ピクトリアル』1997年7月臨時増刊号 No.640 「特集:阪神電気鉄道」 電気車研究会
  • 鉄道ファン』 2001年4月号 No.480 「新車ガイド 阪神9300系」 交友社
  • 『関西の鉄道』 No.49 「特集:阪神電気鉄道 山陽電気鉄道 兵庫県の私鉄PartII」 関西鉄道研究会
  • 『車両発達史シリーズ 7 阪神電気鉄道』 2002年 関西鉄道研究会
テンプレート:阪神電気鉄道の車両
  1. 3011形のロングシート改造時からでは37年ぶりとなる。
  2. 山陽5030系も阪神本線のラッシュ輸送に配慮して横1人-2人配列の転換クロスシートを採用した。
  3. 普通系車両で当初転倒防止のためセミクロスシートを採用した5001形(初代)を除く。
  4. 本系列を導入時には既に西宮東口駅が廃止されていたため、同駅部分は当初から省略されている。また、白浜の宮駅の表示部分は直通特急の臨時停車を考慮して当初から設けられていたが、2008年から一部が停車するようになった荒井駅の表示部分は設けられていなかったため、撤去されるまで荒井駅は表示されないまま使用された。
  5. 大阪側先頭で進行方向左側が山側、右側が浜側。
  6. 『鉄道新車レビュー Vol.1』170p, 中央書院、2003年。ただし、川島はクロスシート車両の投入について以前から『全国鉄道事情大研究 神戸篇』(草思社)などの著書で提言していた。
  7. 阪神9300系9401号車の集電装置がシングルアームに - 交友社『鉄道ファン』railf.jp 鉄道ニュース 2013年8月7日