野菜
野菜(やさい、テンプレート:Lang-en-short)は、食用の草本植物の総称[1]。水分が多い草本性で食用となる植物を指す[2]。主に葉や根、茎(地下茎を含む)、花・つぼみ・果実を副食として食べるものをいう。
定義
野菜は一般には食用の草本植物をいう[1]。ただし、野菜の明確な定義づけは難しい問題とされている[3][4]。
園芸学上において野菜とは「副食物として利用する草本類の総称」[5]をいう。例えばイチゴ、スイカ、メロンは園芸分野では野菜として扱われ[3][6]、農林水産省「野菜生産出荷統計」でもイチゴ、スイカ、メロンは「果実的野菜」として野菜に分類されているが[5]、青果市場ではこれらは果物(果実部)として扱われ[6][7]、厚生労働省の「国民栄養調査」[5]や日本食品標準成分表でも「果実類」で扱われている[3][1]。また、日本食品標準成分表において「野菜類」とは別に「いも類」として扱われているもの(食品群としては「いも及びでん粉類」に分類)は一般には野菜として扱われている[1][5]。また、ゼンマイやツクシといった山菜については野菜に含めて扱われることもあり[4][7]、木本性の植物であるタラの芽やサンショウの葉も野菜の仲間として扱われることがある[4]。さらに、日本食品標準成分表において種実類に分類されるヒシなども野菜として取り扱われる場合がある[1]。
日本では慣用的に蔬菜(そさい)と同義語となっている[8][9][10]。ただし、「蔬菜」は明治時代に入ってから栽培作物を指して用いられるようになった語で[7][10]、本来は栽培されたものではない野菜や山菜などと厳密な区別があった[11]。しかし、その後、山菜等も栽培されるようになった結果としてこれらの厳密な区別が困難になったといわれ[11]、「野菜」と「蔬菜」は学問的にも全く同義語として扱われるようになっている[11]。そして、「蔬菜」の「蔬」の字が常用漢字外であることもあって一般には「野菜」の語が用いられている[12]。なお、野菜は青物(あおもの)とも呼ばれる[1]。
分類
需要部位による分類
野菜は食用とする部位(需要部位)の違いから、一般に根を食用部位とする根菜類、地下あるいは地上の茎を食用部位とする茎菜類、葉や葉柄を食用部位とする葉菜類、花序や花弁を食用部位とする花菜類、未熟果や熟果を食用部位とする果菜類に分けられる[13][14][15]。
なお、日本ではこのほかの分類法として総務省「日本標準商品分類」では根菜類、葉茎菜類、果菜類の3つに分類され[15]、農林水産省「野菜生産出荷統計」では根菜類、葉茎菜類、果菜類、果実的野菜、香辛野菜の5つに分類されている[5]。
緑黄色野菜と淡色野菜
野菜は可食部分のカロテン含有量の違いによって緑黄色野菜と淡色野菜に分けられる。日本の厚生労働省では「原則として可食部100g当たりカロテン含量が600μg以上の野菜」[16][5]を緑黄色野菜と定義している。
西洋野菜と中国野菜
日本において明治時代以降に欧米から導入されたブロッコリーやレタスなどを西洋野菜(洋菜)という[13]。また、日本において中国から1970年代以降に導入され普及したチンゲンサイやパクチョイなどを中国野菜という[13]。
食材
野菜には旬があるが、近年では品種改良・作型の改良(ハウス栽培など)・輸入野菜の増加によって、旬以外の時期でも市場に年間を通して供給されるようになった。またこれらの影響か、近年の野菜の味は昔よりも薄くなったと感じている人もいる。需要形態が変化してきており、カット野菜(切断されて部分的に販売される野菜)や冷凍野菜も利用されるようになっている[5]。ただし、カット野菜は切断面が大きい分、野菜の呼吸量も大きくなるため、品質の落ちるスピードも速くなってしまうという難点がある[17]。
宗教・文化的理由もしくは主義として肉食を避ける人は、一般に菜食主義者(ベジタリアン)と呼ばれるが、これは「野菜のみを食べる人」という意味ではない。
なお、主食となる穀物は野菜に含めないことが多いが、それを主食としない文化圏では野菜として扱われることがある。たとえば、穀物であるトウモロコシは日本などでは野菜に含まれ、欧米でも米が野菜に含まれることがある。
野菜料理
野菜料理 とは、野菜を主体とした料理。調理法は温野菜、生野菜にわけられ、肉料理、魚料理などに対置して使われる。
栄養価及び効果
野菜の多くは無機塩類やビタミン類、食物繊維、抗酸化物質を含むフィトケミカルが豊富で、癌予防を含めた各種健康維持に役立っている。
野菜は、果物とともに癌予防の可能性が大きいものとされている[18][19]。
デザイナーフーズ計画は、1990年代、アメリカ国立癌研究所 (NCI) によって2000万ドルの予算でがんを予防するために、フィトケミカルを特定して加工食品に加える目的で開始された計画である。デザイナーフーズ計画では、がん予防に有効性のあると考えられる野菜類などが40種類ほど公開された[20][21][22]。デザイナーフーズ計画で発表された野菜はつぎのとおり。
- にんにく、タマネギ(ユリ科)
- ニンジン、セロリ、パースニップ (セリ科)
- トマト、ナス、 ピーマン、ジャガイモ(ナス科)
- キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ(アブラナ科)
- キュウリ(ウリ科)
香辛料では甘草(リコリス )、ショウガ、ウコン(ターメリック)、バジル、タラゴン、ハッカ、オレガノであり、豆類では大豆である[23]。
野菜などで変異原性物質Trp-P-1(3-amino-1,4-di-methyl-5H-pyrido[4,3-b]indole)に対して抗変異原性を示すものは次のようなものがある[24]。
- 抗変異原性++++:ダイコン(葉)、キクナ、アスパラガス、ピーマン、キュウリ
- 抗変異原性+++:ニラ、ハクサイ、ゴボウ
- 抗変異原性++:ネギ、ホウレンソウ、パセリ、レタス、ズイキ、ニンジン、ショウガ、サツマイモ、ラディッシュ、ナス、キャベツ、ブロッコリー、シイタケ
- 抗変異原性+:チンゲンサイ、コマツナ、セロリ、レンコン、カブ、ダイコン(根)、オクラ、ウリ
野菜などで変異原性物質NIHP(2-ヒドロキシ-3-(1-N-ニトロソインドリル)-プロピオン酸)に対して抗変異原性を示すものは次のようなものがある。
- 抗変異原性++++:トマト、タマネギ
- 抗変異原性+++:ナス、キャベツ、ブロッコリー、ニンジン、ダイコン(根)、エノキ、シメジ
- 抗変異原性++:アスパラガス、シイタケ
- 抗変異原性+:コマツナ、トウガラシ
キャベツ、ブロッコリー、ゴボウ、ナス、ショウガ等に強い抗変異原性があることが知られている。加えて、エストラゴン、オレガノ、ギョウジャニンニク、シロザ、タイム、ツクシ、フキノトウ、モミジガサ、レモンバームの野菜類9種にもTrp-P-1に対して強い抗変異原性があり、キク科、シソ科、アブラナ科、セリ科の植物に抗変異原性があるものが多い[25]。
腎臓に障害がなくカリウムを摂取しても問題がなければ、カリウムを豊富に含む野菜や果物の摂取を増やすことにより高血圧の降圧が期待できる[26]。
スイスのバーゼル大学の生理学者、グスタフ・フォン・ブンゲ (de:Gustav von Bunge) は、肉を食べると含硫アミノ酸(メチオニン、システインなど)のチオール基が硫酸に代謝され、体組織を酸性にするのでアルカリ性のミネラルを摂取する必要がある、と主張した[27]。2002年のWHOの報告書では、カルシウムの摂取量が多い国に骨折が多いという「カルシウム・パラドックス」の理由として、カルシウムの摂取量よりも、タンパク質によるカルシウムを排出させる酸性の負荷の悪影響のほうが大きいのではないか、と推論されている[28]。 ハーバード大学で、栄養学を教えているウォルター・ウィレット教授は、タンパク質を摂取しすぎれば酸を中和するために骨が使われるので骨が弱くなる可能性がある、として注意を促している[29]。野菜は果物とともにアルカリ性食品に分類されている[30](「酸性食品とアルカリ性食品」を参照のこと)。
ヒトの消化管は自力ではデンプンやグリコーゲン以外の多くの多糖類を消化できないが、大腸内の腸内細菌が嫌気発酵することによって、一部が酪酸やプロピオン酸のような短鎖脂肪酸に変換されてエネルギー源として吸収される。食物繊維の大半がセルロースであり、人間のセルロース利用能力は意外に高く、粉末にしたセルロースであれば腸内細菌を介してほぼ100%分解利用されるとも言われている。デンプンは約4kcal/g のエネルギーを産生するが、食物繊維は腸内細菌による醗酵分解によってエネルギーを産生し、その値は一定でないが、有効エネルギーは0~2kcal/gであると考えられている。また、食物繊維の望ましい摂取量は、成人男性で19g/日以上、成人女性で17g/日以上である[31]。食物繊維は、大腸内で腸内細菌によりヒトが吸収できる分解物に転換されることから、食後長時間を経てから体内にエネルギーとして吸収される特徴を持ち、エネルギー吸収の平準化に寄与している。
21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)では、望ましい野菜の摂取量は成人1人1日あたり350g以上とされている[32][33][5]。日本人の平均ではこの目標に対して8割程度の摂取量にとどまっており、若年層においては7割~6割程度にとどまっている状況にある[5][34]。平成24年の調査では20歳以上の日本人の平均野菜摂取量は、286.5g/人日であった[35]。所得と生活習慣等に関する状況の調査においては、所得が高いほど野菜摂取量が多く、所得が低いほど野菜摂取量が低い傾向が見られた[34]。
脚注
関連項目
外部リンク
テンプレート:料理- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 『健康・栄養学用語辞典』中央法規出版 p.636 2012年
- ↑ バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント編『世界の食用植物文化図鑑』(柊風舎) 140ページ
- ↑ 3.0 3.1 3.2 『食料の百科事典』丸善 p.30 2001年
- ↑ 4.0 4.1 4.2 農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』農山漁村文化協会 p.1542 2006年
- ↑ 5.0 5.1 5.2 5.3 5.4 5.5 5.6 5.7 5.8 テンプレート:Cite web
- ↑ 6.0 6.1 テンプレート:Cite web
- ↑ 7.0 7.1 7.2 野菜園芸大事典編集委員会編『野菜園芸大事典』養賢堂 p.1
- ↑ 『食料の百科事典』丸善 p.18 2001年
- ↑ 農業・生物系特定産業技術研究機構編『最新農業技術事典』農山漁村文化協会 p.1542 2006年
- ↑ 10.0 10.1 斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.1 1991年
- ↑ 11.0 11.1 11.2 斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.2 1991年
- ↑ 野菜園芸大事典編集委員会編『野菜園芸大事典』養賢堂 p.1参照
- ↑ 13.0 13.1 13.2 杉田浩一編『日本食品大事典』医歯薬出版 p.104 2008年
- ↑ 斎藤隆『蔬菜園芸の事典』朝倉書店 p.30 1991年
- ↑ 15.0 15.1 テンプレート:Cite web
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- ↑ 落合敏監修 『食べ物と健康おもしろ雑学』 p.195 梧桐書院 1991年
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- ↑ がん予防と食品 —デザイナーフーズからファンクショナルフーズへ— 、大澤 俊彦、日本食生活学会誌、Vol.20 (2009) No.1
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- ↑ Human Vitamin and Mineral Requirements, joint FAO/WHO expert consultation, 2002, (Chapter 11 Calcium)
- ↑ ウォルター C. ウィレット 『太らない、病気にならない、おいしいダイエット-ハーバード大学公式ダイエットガイド』 光文社、2003年5月。174~175頁。ISBN 978-4334973964。(原著 Eat, Drink, and Be Healthy, 2001)
- ↑ 食品の酸性・アルカリ性について、小池 五郎、日本釀造協會雜誌、Vol.71 (1976) No.6
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ 健康日本21
- ↑ 21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)について 報告書-厚生労働省
- ↑ 34.0 34.1 平成22年国民健康・栄養調査結果の概要
- ↑ 平成24年度『国民健康・栄養調査』、厚生労働省