国営放送
国営放送(こくえいほうそう)は、国家によって直接運営されている放送局の形態を指す。また、法律や国家権力により、国民に対し強い統制をかけて行われる放送形態のことを指すこともある。
概説
多くは大国や旧共産圏諸国、ヨーロッパ諸国、開発途上国などに存在し、運営資金は国家から拠出されている。そのため、放送内容は国家の政治的な宣伝(プロパガンダ)、鼓舞と言ったものが多く、国外に向けて国際放送を行っていることが多い。
変り種として、パラオのエコパラダイスFMのように、国内向けになっている局もある。
主な国営放送局
- アメリカ - ボイス・オブ・アメリカ(アメリカの声、VOA)・ラジオ・フリー・アジア(RFA)・ラジオ・フリー・ヨーロッパ(RFE)・AFN(外国駐留部隊向け)
- ソ連(現・ロシア) - モスクワ放送(現・ロシアの声)・ロシア1(RTR)
- フランス - France 24(フランス24)
- 韓国 - 韓国政策放送
- 北朝鮮 - 朝鮮中央放送(国内向け)、平壌放送(朝鮮語のみの海外向け)、朝鮮の声放送(Voice of Korea。朝鮮語以外の言語の海外向け)
- 中国 - 中国中央電視台、中国国際放送(北京放送。国外向け)、中央人民広播電台(国内向け放送)
- 中華民国 - 台湾国際放送(自由中国之声)
- タイ - 広報局タイ国営放送(NBT。NBTラジオとNBTテレビなど)
- ベトナム - ベトナムテレビジョン・ベトナムの声放送局
- モンゴル - モンゴルの声
他多数。
また、英国放送協会(BBC)などのように、それ自体は公共放送だが、国際放送部門のみは運営資金が国家から支出されているケースもある。
台北(台湾)と北京(大陸)の、またピョンヤン(北朝鮮)とソウル(韓国)の、国営放送による中傷合戦はBCLの間では有名である。
ヨーロッパ諸国の国営放送局のほとんどは、専属のオーケストラ(放送交響楽団)を持っている。
日本の現状
日本では、日本放送協会(NHK)のことを「国営放送」と表現することがある。正しくはNHKは(放送法施行による1950年の電波開放以降)公共放送であり国営放送ではない。しかし、以下のような理由により「国営放送」と表現することがある。
- 社団法人時代、無線電信法により政府が放送事業を管掌し、受信するに当たっては放送受信許可(現在のNHK受信料の前身)とラジオ受信機の取得許可、2種類を要したこと。
- 単なる誤解、もしくは国営放送と公共放送の同一視。
- 公共放送と国営放送の違いを理解した上でNHKと政府・与党との「距離の近さ」を表現する。この文脈では、1955年11月から1993年8月まで(55年体制)、また1994年6月から自公連立で政権を担う自由民主党との距離の近さを問題視していることが多い。小説の形を取っての、また実名を挙げての告発本も著されている(今井彰「ガラスの巨塔」、永田浩三「NHK、鉄の沈黙はだれのために」、堀潤「変身 Metamorphosis メルトダウン後の世界」)。
- NHK放送技術研究所での開発事業に政府補助を受けている。
- 事業予算などに国会の承認が必要である。
- 政府は、放送法第33条(改正後は第65条)に基づき、特定の事象について重点的に採り上げ報道するようNHKに命令(改正後は要請)出来る(これにより「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」の集会は必ずNHKニュースで採り上げられる)。また会長・籾井勝人が「領土問題では明確に政府の立場を主張する、それが国際放送の役割。政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」「慰安婦がいたのは日本だけではない」と記者会見で発言した。
- NHK番組改変問題、永田や堀の退局の原因になるなど、“不偏不党”を大義名分として批判的な意見を封じるよう自民党が申し入れている例が確認されている。2013年11月には第2次安倍内閣で、首相安倍晋三が自身に近い思想を持つ人物(百田尚樹、長谷川三千子、本田勝彦)を経営委員に推し、3人は推された通りに就任した。
- 放送終了、放送開始の際、日章旗を放映し君が代を流す(基点放送時は日章旗を放映する)。
- ヨーロッパの国営放送同様にオーケストラ(NHK交響楽団)を持つ(大手メディアで他にあるのは読売新聞社のみ。ただし欧州でも英国放送協会、ドイツ公共放送連盟加盟の各放送局、オーストリア放送協会のように公共放送が放送交響楽団を持つ例は多数存在する)。
また、放送大学については、日本政府が直接運営を行っている訳ではない(学生が納入する授業料で賄われる)ので公共放送に分類される。ただし、旧法人は政府が全額出資する特殊法人だったため、事実上国営放送だった。現法人についても実質的に国の運営下にあり、国から多額の補助金を交付されていることから、国営放送のように捉えられることもある。グリーンチャンネルも、視聴料によって賄われるので民間放送に分類されるが、これを運営する一般財団法人グリーンチャンネルは日本政府が全額出資する特殊法人の日本中央競馬会がほとんどを出資しているため、実質的に政府の支配下にある。
なお、2006年、時の首相・小泉純一郎が「国際情報発信の強化」を指示しており、アメリカのVOAのような政府発の国際放送を日本でも導入すべき、との議論が出てきた。この指示に基づき2007年7月9日、対北放送「ふるさとの風」の運営が拉致問題対策本部によって開始された。