傀儡政権
傀儡政権(かいらいせいけん、英語:puppet government)は、ある領域を統治する政権が、名目上には独立しているが、実態では事実上の支配者である外部の政権・国家によって管理・統制・指揮されている政権を指す[1][2]。内政も外交も自己決定権が完全ではなく、支配者の利益のために支配者に操作・命令され統治される[3]。傀儡国家(かいらいこっか、puppet state)とも呼ばれる。
概要
「傀儡」という語は、「操り人形」を意味し、転じて影にいる者に利用されている者を指す[4][5]。つまり傀儡政権とは実際の支配者の操り人形(傀儡)であることを意味する。国家が別の国家を傀儡として擁立する目的には統治の安定や大義名分の確保など様々なものがあるが、いずれにせよ支配国家の利益が目的とされる。傀儡国の従属の度合いは様々であり、支配国の要求を拒否することや、時に独自性を強めて傀儡状態から脱することもある。ヨーロッパ史においては国家の保護関係が利用され、条約によって保護国とされた国が実質的には傀儡政権となる事も多かった。
実態として傀儡政権ではない政権でも、その政権に批判的な者が、非難や糾弾や侮蔑の感情を込めた主観的なレッテルをはるプロパガンダとして「傀儡政権」と表現することもある。例えば、一つの国家を分断して複数の政権が成立した場合(分断国家)、互いの政権は相手の政権を、その後盾となっている外国の「傀儡政権」と非難し合う。既に消滅した政権については、歴史的に評価が定まり、やはり外国の支配下に置かれていたと判断され、「傀儡政権」との評価が広く受け入れられる事も度々有る。しかし、ある政権が傀儡政権であるかどうかを評価することには、価値判断がともなうことも多く、しばしば過去の歴史の評価をめぐる論争の種となることもある。
傀儡政権の例
以下に示すのは、世界の地域別に分別した「傀儡政権」「傀儡国家」と見なされることがある、既に消滅した政権の一覧である。
アジア
中国史においては冊封と呼ばれる、他国の王を皇帝などの上位者が承認する体制が行われている。ただし多くは名目的なものであり、実質的な冊封国内への支配権を持っていた例は少ない。
中国史
朝鮮半島
第二次世界大戦前・中に日本の影響圏にあった政権
- 中国
- 内蒙古
- フランス領インドシナ - フランスの連邦植民地政府。仏印処理(明号作戦)後は日本によって完全に掌握される。
- 東南アジア
- フランス領インドシナ
- ベトナムのテンプレート:仮リンク(阮朝、? - 1945年)
- テンプレート:仮リンク
- テンプレート:仮リンクのルアンパバーン王国
- カンボジア王国
ソビエト連邦勢力圏内にあった国々
- 極東共和国(1920年 - 1923年) - ロシア内戦期の政府。ソビエト連邦政府への編入を宣言した。
- トゥヴァ人民共和国:(1921年 - 1944年) - 自治州としてソ連に編入。
- モンゴル人民共和国:(1924年 - 1991年)
- 東トルキスタン共和国:(1944年 - 1949年) - 1949年新疆ウイグル自治区として中華人民共和国に編入。
- アゼルバイジャン自治共和国:(1945年 - 1946年) - ソ連軍占領地。イランに併合。
- クルディスタン共和国:(1945年 - 1946年) - 上記と同様
東南アジア
インドシナ戦争
- コーチシナ共和国:(1946年 - 1949年) - 1949年ベトナム国に併合
- ベトナム国:(1948年 - 1955年) - フランス - 1948年 - 1949年の暫定政府期間を含める。
- 南ベトナム、特にゴ・ディン・ジエム政権とグエン・バン・チュー政権:(1955年 - 1975年) - ベトナム全土の共産化を防ぐためにアメリカ合衆国が軍事的、経済的に支援して設立。
カンボジア内戦
- クメール共和国(ロン・ノル政権、1970年 - 1975年) - アメリカ合衆国
- 民主カンプチア(ポル・ポト政権、1975年 - 1979年) - 中華人民共和国
- カンボジア人民共和国(ヘン・サムリン政権、1979年 - 1992年) - ベトナム社会主義共和国
その他のアジア
- トレビゾンド帝国(1204年 - 1461年) -東ローマ帝国の皇族が建てた国家。建国期にはテンプレート:仮リンクの支配下にあった。
- イラク王国(1932年 - 1960年) - イギリス委任統治領から独立するが、その後も影響下にあった。
- ハワイ共和国(1893年-1898年) - ハワイ王国ではアメリカ人移民の勢力が強まり、1887年のテンプレート:仮リンク制定などで、王は実質的な権力を失った。テンプレート:要出典範囲。1893年に海兵隊のクーデターにより王制は打倒され、共和国が建設された。サンフォード・ドール大統領は早い内からアメリカへの併合を求めており、1898年アメリカに併合。ハワイ準州となる。
- アフガニスタン紛争期における諸政府は、いずれの政府も対象から傀儡であると呼ばれ攻撃されている。
ヨーロッパ
フランス革命期・ナポレオン戦争中にフランスの勢力圏内にあった国々
- ライン同盟(1806年 - 1812年)
- ワルシャワ公国(1807年 - 1815年)
- バタヴィア共和国(1795年 - 1806年) - 1806年ホラント王国に移行
- ホラント王国(1806年 - 1810年) - 1810年フランスに併合
- ヘルヴェティア共和国(1798年 - 1803年)
ブレスト=リトフスク条約により成立し第一次世界大戦終結までドイツ帝国の勢力圏内にあった国々
第二次世界大戦中に枢軸国の勢力圏内にあった国々
- フランス共和国のヴィシー政権(1940年 - 1944年) - 占領国であるドイツの強い影響下にあり、政・経両面に渡って協力を強いられ、ナチス・ドイツがフランスにおいて敗退し始めると崩壊した(ナチス・ドイツによるフランス占領も参照)。
- スロバキア共和国(1939年 - 1944年)
- ベーメン・メーレン保護領(1939年 - 1944年)
- クロアチア独立国(1941年 - 1945年)
- イタリア社会共和国(1943年 - 1945年)
- ノルウェーのクヴィスリング政権(1943年 - 1945年)
- ハンガリー王国の矢十字党によるテンプレート:仮リンク(1944年 - 1945年)
- セルビア救国政府(1941年 - 1944年)
- テンプレート:仮リンク
- テンプレート:仮リンク(1943年 - 1944年)
イタリアが降伏した1943年9月以降はドイツによる支配へと切り替えられた
- テンプレート:仮リンク(1939年 - 1944年)
- ギリシャ国
- ピンドス公国・マケドニア公国
- テンプレート:仮リンク
第二次世界大戦後から冷戦終結までソビエト連邦勢力圏内にあった国々(衛星国)
- テンプレート:仮リンク(1944-1946)
- ドイツ民主共和国
- ポーランド人民共和国
- チェコスロバキア社会主義共和国
- ハンガリー人民共和国
- ブルガリア人民共和国
- ルーマニア社会主義共和国(チャウシェスク政権発足以降はソ連と一定の距離を置くようになる)
その他のヨーロッパ
- ポーランド立憲王国(1815年 - 1832年) - ロシア帝国(1832年ロシアに併合)
- ポズナン大公国(1815年 - 1848年) - プロイセン王国(1848年プロイセンに併合)
- フィンランド民主共和国(1939年 - 1940年) - ソビエト連邦
- ギリシャ軍事政権(1967年 - 1974年) - アメリカ合衆国
アフリカ
- エジプト・ムハンマド・アリー朝(1928年 - 1951年) - イギリスの保護国であったが、名目上独立した後も強いイギリスの影響下にあった。
- エチオピア人民民主共和国(1975年 - 1990年) - ソビエト連邦
- バントゥースタン(ホームランド)の諸国 - 南アフリカ連邦による名目上の黒人独立国
アメリカ
- パナマ(1903年 - 1967年) - アメリカ合衆国
- キューバ・フルヘンシオ・バティスタ政権(1933年 - 1959年) - アメリカ合衆国
- ドミニカ共和国・ラファエル・トルヒーヨ政権(1930年 - 1961年) - アメリカ合衆国
- ニカラグア・ソモサ政権(1934年 - 1979年) - アメリカ合衆国
- グアテマラ(1954年 - 1984年) - アメリカ合衆国
- ホンジュラス(1933年 - 1949年) - アメリカ合衆国
- エルサルバドル(1973年 - 1992年) - アメリカ合衆国
- チリ・アウグスト・ピノチェト政権(1974年 - 1990年) - アメリカ合衆国