ドラえもん のび太のドラビアンナイト
『ドラえもん のび太のドラビアンナイト』(ドラえもん のびたのドラビアンナイト)は、藤子・F・不二雄によって執筆され、月刊コロコロコミック1990年9月号から1991年2月号に掲載された大長編ドラえもんシリーズの作品。および、この作品を元に1991年3月9日に公開されたアニメ映画。大長編シリーズ第11作、映画シリーズ第12作。
映画監督は芝山努。第9回ゴールデングロス賞最優秀金賞受賞作。同時上映は『ドラミちゃん アララ♥少年山賊団!』。
目次
解説
ハールーン・アッ=ラシード王の統治時代である794年のバグダッドを舞台に、ドラえもんとのび太達5人の活躍を描いた長編作品。『アラビアンナイト』をモチーフとしている。
ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫の4人が捕らわれのしずかを助けに行くという展開は、大長編ドラえもんではこの作品が唯一である(『のび太の海底鬼岩城』でもしずかは捕らえられるが、これは本人の意思で囮になったため、事情が異なる)。映画では『のび太の人魚大海戦』の中でこのパターンが使用された。
また、この作品ではドラえもんが悪役に四次元ポケットを盗まれてしまい、ポケットからの「ひみつ道具」抜きの冒険というハンディを強いられる。ドラえもんが持つ便利な道具を“ほぼ丸ごと”封印するという設定を用いた初めての作品でもある[1]。そのため本作ではひみつ道具以外にシンドバッドが持つ「王様のコレクション」が作中で重要な役割を果たす道具として登場する。
映画の予告編のナレーションは、映画主題歌の歌詞を担当してきた武田鉄矢が行っている。また原作ではドラえもん達は最後の戦いにほとんど関わらないが、映画では活躍の場が与えられた。
あらすじ
ドラえもんとのび太はひみつ道具の「絵本入りこみぐつ」で絵本の中に入り『シンドバッドの冒険』を楽しんでいた。のび太は最近、絵本の世界に夢中になっており、彼女なら共感してくれるであろうとしずかを誘おうとする。だが、彼女は今からピアノ教室の仲間とキャンプの予定。代わりに割り入ったのはジャイアンとスネ夫だった。彼らはのび太から絵本の世界で遊ぶと知るや大笑い。それでも、機嫌を損ね激昂するのび太を見るや、半信半疑で絵本の世界に飛び込んだ。
そんな彼らと入れ代わり、しずかがのび太の家を訪れる。実は日程を一日勘違いしていたらしく、それならと二人は『ピノッキオ』の世界を楽しむことにした。だが、どうも事情がおかしい。物語にない嵐の場面が登場したかと思えば、人魚姫や竜宮城が現れ、果てはお化けの百鬼夜行。あまりに荒唐無稽な世界にのび太は大笑いするが、イメージが崩れたとしずかは不機嫌になって帰ろうとする。ところがその矢先、彼女は何かに衝突した。
奇っ怪な物語は、絵本を勝手にない交ぜにしたスネ夫たちの仕業だったのだが、のび太はそれを知る由もない。絵本の良さを理解してくれない友人たちに、のび太もすっかり機嫌を損ね、バラバラになった絵本を置き去りにしたまま、ママの小言もあって勉強を始めた。だが、それが事件の発端だった。
後日、ドラえもんが怪訝そうにのび太に尋ねる。実は絵本入り込み靴が3足しか揃っていないという。そして、二人で不明者の確認を急ぐと、何としずかがアラビアンナイトの世界に閉じ込められたままであることが判明したのだ。大至急、彼女を助けようとするが、肝心の絵本が無い。実は、ママが二人の留守中に勝手に部屋に入り、焼き捨ててしまったのである。
もうしずかには会うことはできないのか…、絶望するのび太だが、彼は彼女が奴隷船に乗せられている悪夢を見て、大慌てでドラえもんの元に駆けつける。だが、彼は僅かな望みを賭けて、古代アラブの歴史を調査中だった。それは、『アラビアンナイト』には実在の人物が登場していることから、そこから空想世界につながる可能性があることを示唆する。
そこで、4人はしずかを助けるべく、時間旅行のガイドであるミクジンの案内で、タイムマシンで794年のアラビア・バグダッドへと向かうのだった。
ゲストキャラクター
- 船乗りシンドバッド
- 声 - 阪脩
- 黄金宮で1人暮らしをしている王様。あの『シンドバッドの冒険』の船乗りシンドバッドだが、かの冒険家も今となってはおじいさん。自慢のコレクションと自賛する、数々の不思議な魔法グッズを持っている。相手の言いたいことを勝手に先読みしてしまう癖があり、そのせいでドラえもん達はしずかを捜していることをなかなか伝えられなかった。黄金宮をアブジル達に乗っ取られた時はすっかり弱気になってしまったが、若き日の冒険が後世の子供達に夢を与えているとのび太達に聞かされ、勇気を取り戻して奪還戦に臨み、アブジルを倒した。原作ではアブジルとの戦いで剣を落としてしまうが、映画では完勝している。また、スタッフロールにて再び黄金宮を訪れたのび太達との交流が描かれている。
- ミクジン
- 声 - 松島みのり
- 22世紀の時間旅行公社に所属するツアーコンダクター兼ガイドロボット。タイムマシンの運転が荒い、目的地を間違える(原作のみ)などの欠点によりジャイアン達からは三流ガイド扱いされる。その上、人の会話に口出しして難癖をつけるなど、融通が利かない上気難しい性格なため、喧嘩してすねた挙句、仕事を放棄して未来へ帰るそぶりを見せる。しかし、実はこっそり後からついて来ていて(この時彼は火の玉に変身していた)、影からドラえもん達を助けていたことがわかり、いい加減なようでも責任感は強いことが明らかになる。さらにはカシム達が捨てたポケットを拾っていたりと、活躍の場は多い。なお、劇中、しずかと会話するシーンは存在していないが予告では泣いているミクジンを励ます場面がある。
- また、映画ではドラえもんを「ドラざえもん」と呼んでいた。
- アブジル
- 声 - 加藤精三
- 狡猾で傲慢な悪徳奴隷商人。アッバース朝時代の悪党界では、カシムと並びその名をとどろかせている。嘗て砂漠で倒れていた所をシンドバッドに救われて以後、黄金宮を乗っ取って世界を支配しようと企てている(街に帰される際にシンドバッドに忘れ薬を飲まされたが、飲んだフリをして吐き出していた)。
- 偶然見つけたしずかを捕まえて奴隷とし、王様(シンドバッド)に売りつけようとしていたが、ドラえもんたちと王様によって、しずかは救出された。その後、カシム一味と組んで黄金宮を襲撃。一時は宮殿を乗っ取るが、最後は冒険心を取り戻したシンドバッドに敗れカシム等と共に拘束される。シンドバッドいわく記憶を消した後に放逐するとのこと。なお、彼が乗り物としていたラクダは事件後、黄金宮で飼われることになったようである。
- カシム
- 声 - 加藤治
- 指名手配されている盗賊集団「サソリ団」の首領。腹黒い性格で、アブジルと同類。ドラえもんらを騙して国外逃亡を図るものの船が嵐に遭い、手下2人と砂漠をうろつくことになる。古い友人のアブジルに教えてもらった黄金宮を探しており、アブジルと組んで黄金宮の乗っ取りに一時は成功する。最終決戦時にはアブジルを見捨てて宝と共に逃げ出そうとするも、強風と宝の重さで倒れたところをドラえもんたちに見つかり手下もろとも捕まる。映画ではシンドバッドとアブジルの決闘の最中にしずかを人質に取るが、最終的にはドラえもん達に敗れて拘束される。
- 手下A、手下B
- 声 - 野本礼三、田口昂
- サソリ団のメンバーにして、カシムの子分達。大勢いた手下の中の生き残り。
- 手下Aは帽子をかぶっていて、大柄。手下Bはスキンヘッドで、小柄。
- ハールーン・アル・ラシード王
- 声 - 筈見純
- 実在の人物で、アッバース朝第5代カリフ。カシム率いる盗賊団に襲われかけたドラえもんらを助けた上、初対面にもかかわらず、王宮内へと保護し、もてなした。この世の悪を根絶やしにし、誰もが住み良い国をつくるため、日々尽力している正義感の強い王として描かれる。また、のび太の夢の中の話にも聞き流しせず、自分のサイン入りの交通手形まで手渡すという、度量の広い優しき心の持ち主。
- ランプの精
- 声 - 鈴木みえ
- シンドバッドのコレクションの1つ。ランプをこすると出て来るがのんびりしていてそそっかしいところがあり、用事を聞かずに出て行くこともある。こすった人の命令に従う。性格も主人に影響されるようで、アブジルらに従っていたときは彼も性悪になっていたがエンディングでは元の性格に戻った。映画では原作ほど怠けものではないようで、ちゃんと見張りや見回りを行っている。
- 魔人
- 声 - 郷里大輔
- 瓶の中に入った魔人。瓶の蓋を開けると、身長16メートルにまで巨大化し、蓋を開けた人の命令に従う。強すぎて使いこなすのは難しいらしい。
- Q太郎
- 声 - 天地総子
- 絵本「舌切り雀」のつづらに入っていたオバケの一人。藤子作品からゲスト出演。「アラジンと魔法のランプ」のランプの魔人を怖がって逃げる。映画版では「オバケ怖~い」というセリフ付きで登場する(魔人には「オバケはそっちだろ」と言われている)。
- シンドバッド
- 声 - 掛川裕彦
- こちらは絵本のシンドバッドの主人公。本編の主要キャラクターであるシンドバッドと違い、青年の姿で描かれる。
- ジャック
- 声 - 江森浩子
- 映画のみ登場。絵本「ジャックと豆の木」の主人公。物語通り豆の木を登っていたが、ジャイアンの余計なお世話でトラブルに巻き込まれる。原作ではこのシーンは「西遊記」の絵本である為、代わりに孫悟空一行が登場する。
- 女神
- 声 - 鷹森淑乃
- ピノキオに命を吹き込んだ女神。
- 魔女
- 声 - 山田恭子
- 絵本「ヘンゼルとグレーテル」の登場人物。だが物語が混じった世界で、住んでいるお菓子の家に、「白雪姫」の魔女(声 - 江森浩子)に毒リンゴを届けられ困惑する。
- 兵士
- 声 - 飯塚昭三
- 商人
- 声 - 加藤正之、橋本晃一、田中亮一
登場するひみつ道具
- 絵本入りこみぐつ
- 宇宙大百科
- 一日で覚えるアラビア語会話
- アラビアの衣装
- いくらでもお金が出る財布(原作のみ)
- 翻訳コンニャク(セリフのみに登場)
- タイムマシン
- 風神うちわ
- みの虫式寝袋(映画ではみの虫式スリーピングバッグ)
- おりこうターバン
- ノビール水道管
- グルメテーブルかけ
- タケコプター
- ネットロケット
- 空飛ぶふろしき
- 通りぬけフープ
- 変身ドリンク
- スモールライト
王様のコレクション
作中で重要な役割を果たす道具のほとんどは、『アラビアンナイト』をモデルとする。シンドバッドが第7の航海で助けた時間旅行者から贈られた。
- 空飛ぶじゅうたん
- これに乗って急いでいたシンドバッドが、絵本から出ようとしていたしずかを跳ね飛ばした。
- 空飛ぶ木馬
- 空を飛ぶことの出来る作り物の馬。一人乗り。終盤のアブジルとの戦いにおいて、空中分解してしまう。
- 瓶の魔人
- 上記参照。
- 魔法のランプ
- 上記参照。
- ダンシングドール
- アラビアの踊り子風。ゼンマイ式らしく、ネジを巻かないと倒れてしまう。
- サルの召し使い
- 料理や道具の準備など、王宮の雑用係。生物かロボットかは不明。
- 兵士の種
- 普段は豆粒程度のピンク色の玉で箱に入っているが、地面にまくと一粒一粒が槍を持った兵士の姿となる。箱を持った主人が命じれば、再び種に戻る。弓矢を持った兵士も登場。
- 忘れ薬
- 飲むと、黄金宮の記憶をなくす薬。シンドバッドは王宮を悪党から守るために客人に飲ませていたが、アブジルはこっそり吐き出していた。
- 千里眼池
- 王宮の庭にある丸い池で、名前のとおり遠くの景色を映し出すが、調子が悪く、叩くと映ったり、映像にもノイズが混じるなど、のび太から「うちのテレビみたい」と言われた。
- 岩戸
- 前に立って「開け、ゴマ!」と唱えると岩戸が開き、四次元空間を通って別の場所へ移動できる。王宮近くと、歩いて10日の砂漠にある岩場を繋いでいる。固定式のどこでもドアの様なもの。
- 砂船
- 砂漠を、まるで海のように走る帆船。
- 砂イルカ
- 砂漠を、まるで海のように泳ぐイルカ。
- 砂クジラ
- 砂漠を、まるで海のように泳ぐクジラ。
- 胸騒ぎブローチ
- シンドバッドが左胸につけているブローチで、王宮の異変に反応してけたたましい音を鳴らす。
- 吸血コウモリ(原作のみ)
- 集団で空を飛び、獲物に襲い掛かって血を一滴残らず吸ってしまう。その凶悪な性能から、シンドバッド自身も「コレクションの中には下らないものもあるのだ」と発言している。
- 空飛ぶ宮殿
- 黄金宮全体が、底部に装備された大型のロケットで飛行する。
スタッフ
- 制作総指揮 / 原作・脚本 - 藤子・F・不二雄
- 作画監督 - 富永貞義、渡辺歩
- 美術設定 - 川本征平
- 美術監督 - 沼井信朗
- 録音監督 - 浦上靖夫
- 音楽 - 菊池俊輔
- 効果 - 柏原満
- 撮影監督 - 斎藤秋男
- 特殊撮影 - 渡辺由利夫
- 監修 - 楠部大吉郎
- プロデューサー - 別紙壮一、山田俊秀 / 小泉美明
- 監督 - 芝山努
- 演出助手 - 塚田庄英、平井峰太郎
- 動画検査 - 原鐵夫
- 色設計 - 野中幸子
- 仕上検査 - 枝光敦子、態勢益美、金田小幸
- 特殊効果 - 土井通明
- エリアル合成 - 古林一太、末弘孝史
- コンピューターグラフィック - 亀谷久、水端聡、渡辺三千成
- 編集 - 井上和夫、渡瀬祐子 / 薩川昭夫、須田修、国吉伸幸、西脇尚人、マクワガ・マリア・えみこ、佐藤寛一、西川洋二
- 文芸 - 滝原弥生
- 制作事務 - 古井俊和、大福田富美
- 制作進行 - 和田泰、中村守、星野匡章
- 制作デスク - 市川芳彦
- 制作協力 - 藤子プロ、ASATSU
- 制作 - シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
- 原画
- 飯山嘉昌 神村幸子 斉藤文康 若山佳治 原博 徳田幸子
- 飯口悦子 小泉謙三 中村裕之 窪田正史 柴田晃宏 山崎隆
- 船越英之
- 協力
- オーディオ・プランニング・ユー アトリエ・ローク 旭プロダクション
- トミ・プロダクション 亜細亜堂 スタディオ・メイツ
- あにまる屋 京都アニメーション スタジオ古留美
- イージーフィルム オニオンプロダクション KOREA双進
- 上海朝陽動画 スタジオ・キャッツ スタジオ九魔
- シマ・スタジオ スタジオ・タージ スタジオ・ルンルン
- スタジオしゃどう 井上編集室
主題歌
- オープニングテーマ - 「ドラえもんのうた」
- 作詞 - 楠部工 / 作曲 - 菊池俊輔 / 唄 - 山野さと子(コロムビアレコード)
- エンディングテーマ - 「夢のゆくえ」
- 作詞 - 武田鉄矢 / 作曲 - 白鳥澄夫 / 編曲 - 渡辺雅二 / 唄 - 白鳥英美子(キングレコード)
- 原作のラストシーンはのび太とドラえもんが砂漠の冒険に思いを馳せるものだが、映画ではエンディングのスタッフロールにてまた黄金宮に遊びに行っており、『のび太の宇宙小戦争』と同様のエピローグとなっている。
ゲーム版
PCエンジン用ソフトとしてゲーム化されている。1991年12月6日にHuCARD版、1992年5月29日にSUPER CD-ROM2版が発売された。なお、SUPER CD-ROM2版にはキャラクターボイスや映画で使用された楽曲などが追加されている。ストーリーは映画版と若干の違いがある。
登場人物
SUPER CD-ROM2版のみ。
- ドラえもん(声 - 大山のぶ代)
- のび太(声 - 小原乃梨子)
- ジャイアン(声 - たてかべ和也)
- スネ夫(声 - 肝付兼太)
- しずか(声 - 野村道子)
- ドラミ(声 - 横沢啓子)
- シンドバッド(声 - 掛川裕彦)
- アブジル(声 - 加藤精三)
- カシム(声 - 加藤治)
ゲーム版スタッフ
- 製作総指揮:工藤裕司
- 原作:藤子・F・不二雄
- プロデューサー:浦敏治
- ディレクター:松永智史
- アシスタントディレクター:宮本徳人
- ゲームデザイン:脇坂充胤
- プログラム:脇坂充胤
- チーフデザイナー:船橋正道、武田真理
- アドバイザー:小山俊典、岡本敏郎、松浦浩司、澤口岳志
- サウンドエフェクト:井上雅明、前川征克、坂田圭司
- ミュージック:渡辺麻紀、本宿陽子、長谷川エイジ
- 録音制作:オーディオ・プランニング・ユー
- 制作協力:小学館、シンエイ動画、テレビ朝日、ASATSU
- 企画/制作:ハドソン
脚注
- ↑ 1種類の重要な道具や、帰還手段や戦闘手段など特定分野の道具が封印される展開は以前にもあったが、ポケット丸ごとといったものは今回が初。
関連項目
- ドラえもん映画作品
- アニメーション映画
- そんごくう(原作のみ登場)
- ジャックと豆の木(映画のみ登場)
- ピノッキオの冒険
- 人魚姫
- さるかに合戦
- 白雪姫
- 浦島太郎
- 一寸法師
- 親指姫
- アラジンと魔法のランプ
- オバケのQ太郎