ドラえもん のび太の宇宙小戦争
『ドラえもん のび太の宇宙小戦争』(ドラえもん のびたのリトルスターウォーズ)は、「月刊コロコロコミック」1984年8月号から1985年1月号に掲載された「大長編ドラえもんシリーズ」の作品。および、この原作を元に1985年3月16日に公開された映画作品。大長編・映画ともにシリーズ第6作。
映画監督は芝山努。配給収入11億8000万円、観客動員数240万人。同時上映は『忍者ハットリくん+パーマン 忍者怪獣ジッポウVSミラクル卵』。
解説
タイトルは東宝の特撮映画『宇宙大戦争』のもじり。『ガリヴァー旅行記』のリリパット国冒険譚をモチーフにしている。またアメリカ映画『スター・ウォーズ』に対するオマージュ要素もある。加えて古典SF『縮みゆく人間』も発想のヒントとなっており、同作で小さくなった主人公が玩具の家で生活するシーンなどが、本作に影響を及ぼしている[1]。なお、作者は以前に前述の小説、映画のオマージュである短編「天井裏の宇宙戦争」(てんとう虫コミックス19巻収録)を発表していた。
『大長編ドラえもん』で唯一、連載時最終回の後半部分を袋とじにする演出がなされている。これは読者に結末の想像を膨らませ、注目させるのが狙いだった。
『大長編ドラえもん』ではドラえもん、のび太、しずか(作品によってはドラえもん側につくことも)とスネ夫、ジャイアンというメンバー構成が多いが、本作ではドラえもん、のび太、ジャイアンとしずか、スネ夫でそれぞれ分かれて行動している。また、この作品では終始スネ夫の活躍が顕著であり、物語のキーパーソンとなる。また、ラジコンの操縦テクニック、あるいは天才メカニックとしての地位が確立し、この特技は後作にも生かされることになる。
昨年度の『ドラえもん のび太の魔界大冒険』と同じく、公開当時は作品冒頭にドラえもんとのび太が出演する短編アニメが上映され、入場者プレゼントであった「ともだちカード」を紹介していた。この短編アニメはビデオ・DVD版では未収録。
あらすじ
スネ夫の趣味で特撮映画を作っていたのび太たちは、ピリカ星から来たという親指ほどの小さな少年パピと知り合い、友達になる。そんな彼らの前に突然クジラのような形の宇宙戦艦が現れ、映画の舞台装置を熱戦攻撃で破壊して去って行った。
実はパピはピリカ星から亡命してきた大統領で、独裁者ギルモアの手に落ちたピリカ星の情報機関PCIA(ピシア)が、地球まで彼を追ってきたのだ。パピを守ることを約束するドラえもんたちだが、しずかを人質に取られた上、ドラえもんたちが「スモールライト」で小さくなっている間にスモールライトを奪われてしまった。ドラえもんたちに迷惑をかけまいと、パピはしずかの身柄と引き換えに自ら投降し、PCIA長官ドラコルルの手に落ちてしまう。
ドラえもんたちは、スネ夫の作ったラジコン戦車を武器に、スモールライトを取り戻しパピを救い出すため、パピの愛犬ロコロコの案内のもとピリカ星へ向かう。
舞台
- ピリカ星
- 地球人の指ほどの大きさしかない小さな人間が住む星。惑星の周囲には、土星の環のような形の小衛星帯が存在する。小さいながらも、豊かな資源に満ちている。科学技術は地球よりも発達しており、恒星間航行も確立している。年齢よりも実力を重視する社会で、8歳で大学を卒業したり10歳で大統領に就任することもできる。人口は約1000万人。首都のピリポリスには古い(1000年くらい前と劇場版では言われていた)下水道が張り巡らされ、ギルモアの独裁政治に抵抗するため組織された自由同盟が連絡用の通路として利用している。ロコロコによると、この下水道にはネコがたくさんいるとのことだが、この場合の「ネコ」とは地球でいうネズミである[2]。
ゲストキャラクター
- パピ
- 声 - 潘恵子
- ピリカ星の大統領。正確な年齢は不明だが、地球人でいえばのび太たちと同年代であるらしい。高度に発達したピリカ星の学習システムにより、わずか8歳で大学を卒業したという超エリート。そのためか年齢に似合わず冷静で礼儀正しく責任感が強い性格。ギルモア将軍のクーデターに遭い、本人は徹底抗戦を望むが、側近らの強引な手引きでロケットで惑星外へ亡命。漂流の末にたどり着いた地球でのび太たちと出逢い、すぐに仲良くなったが、彼を追って地球までやって来たギルモアの側近・ドラコルルの手でしずかを人質にされ、彼はしずかの解放と引き換えに自ら囚われの身となった。しかし、最後にはドラえもん達の活躍で救出され、大統領の座に復帰することができた。ドラえもんの「ほんやくコンニャク」と同じ効果を持つ「ほんやくゼリー」により、地球人とも会話できる。また、かなり高度な超能力・催眠術なども使いこなすことができる。原作のみではあるが、のび太の両親の前に姿を見せて素性も明かした、数少ないゲストキャラクターである。
- ロコロコ
- 声 - 三ツ矢雄二
- 言葉を話すパピの愛犬。パピへの密使として密かに地球へ派遣されるも再会かなわず、囚われの身となったパピの救出を決意したドラえもん達をピリカ星へ案内する役目を担った。通常の動物の前足に当たる部分がないが、大きな耳が前足(手)の役割をしており、この耳を羽ばたかせて空を飛ぶことができる他、ロケットの操縦も行うことができる。ドラえもん達もあきれるほどの大変なお喋り好きだが、本人(犬)にはその自覚は全くなく、自分では“無口”だと言っている。その度を過ぎたお喋り好きが原因で1度は味方の危機を招いたが(この時だけは自分のお喋り好きを反省した)、最後では逆にそのお喋り好きが役に立って味方の危機を救うこととなった。
- 『のび太のワンニャン時空伝』では、このキャラクターをモデルにした乗り物が登場する。
- のらネコのクロ
- 声 - 潘恵子
- 町内に住む野良猫。パピの超能力(催眠術)によって操られ、しずか救出の重要な役割を果たすことになった。
- ちなみにロコロコはピリカ星で自由同盟の基地へ続く下水道を案内する際、「下水道にはネズミはいないがネコがたくさんいる」と説明し、ドラえもんを安心させたが、彼の言う「ネコ」とは地球で言うネズミであり、ドラえもんは下水道の中でネズミの大群を見て仰天した。
- ゲンブ
- 声 - 金井大
- ピリカ星の元・治安大臣。パピをピリカ星から脱出させた後、反政府団体の自由同盟を組織し、ギルモアへの反撃の機会を狙っている。ロコロコによると、趣味は飲酒とカラオケ(映画版では歌は下手という設定が追加)で、「気が若く髭は黒く染めている」とのこと。ロコロコのお喋りを一時的に中断させる方法を知っている人物でもある。
- ギルモア
- 声 - 八名信夫
- クーデターによりピリカ星を支配した独裁者の将軍。およそ80万人とも言われる大規模な軍隊を率いて武力による恐怖政治を展開し、大統領であったパピの命を奪って自ら皇帝に君臨しようと企てていた。非常に用心深く猜疑心の強い性格であると同時に、直情的で癇癪持ちでもあり、そのため壊しても意味がないタクシーロボットを感情に任せて破壊したりする一面もある。パピや自由同盟など自分に反対する者を根絶やしにするために情報機関・PCIA(ピシア)を設立している一方で、自分の不人気さは十分に承知しており、反乱の発生を恐れて自分の部下たちさえも信用していない。その彼がどのようにして軍隊の圧倒的支持を獲得し、クーデターを成功させることができたのかなど、彼が独裁者の地位を手に入れた経緯は作中では描かれていないが、街の中には監視装置を兼ねた自分の肖像画を多数設置しており、ピリカ星全体を絶えず厳重な監視下に置いていた。最後には元の大きさに戻ったドラえもん達の活躍で追い詰められ、部下たちを捨てて車でひとり脱出を図るも、ドラえもん達の活躍で勇気付けられ一斉蜂起したピリカ市民たちの手で倒された。
- ドラコルル
- 声 - 屋良有作
- ギルモアの側近で、ギルモアに反対する者を根絶やしにすることを任務とする情報機関・PCIA(ピシア)の長官。クジラ型の戦闘艦に乗って地球に侵入し、パピを捕らえてピリカ星へ連行した。スモールライトの重要性を理解して持ち去る、破壊されると発信器を周辺物体にばらまくよう細工した無人戦闘艇を利用して自由同盟の衛星基地を突き止める、ドラえもん達のラジコン戦車の構造を解析して弱点を見付けた上でスネ夫としずかの操縦するラジコン戦車を撃ち落とすなど、非常に知的かつ有能な策略家。地球でもピリカ星でも、ことごとくドラえもん達の先手を取って窮地に追い込んだが、最後は元の大きさに戻ったジャイアンの活躍で戦闘艦を海に落とされ、降伏した。「目的のためならどんな手でも使う、冷酷で残忍な男」とパピから評されており、今まで一度も約束を守ったことがないとまで言われていて、本人もそれを認めている。その一方で、部下の適切なアイディアや意見を即座に採用する度量もあり[3]、部下達も彼の指揮には忠実かつ積極的に従っている。映画版では原作と服装が異なっており、顔つきも原作のロボットを思わせる顔立ちからより地球人に近い顔立ちに描かれ、性格もやや間抜けになっている。ちなみに作者の藤子・F・不二雄は「ドラえもん映画で一番の策略家であり倒す手を考えるのに苦労した」と語っている。
- PCIA兵士
- 声 - 中尾隆聖・他
- 自由同盟隊員・ギルモアに抵抗する市民たち
- 声 - 塩屋翼・加藤正之・佐藤正治・速水奨・島田敏・菅原淳一
登場ひみつ道具
- ロボッター
- スモールライト
- 本作においては、「スモールライトで小さくなった人間を元の大きさに戻すには、スモールライトの解除光線を当てる」「解除光線を当てなくても時間が経つとスモールライトの効き目が切れて自然に元の大きさに戻る」という2つの新設定が付け加えられた。本作以前の『ドラえもん』作品では、この2つの設定は見られない。
- どこでもドア
- 壁紙秘密基地
- 天才ヘルメット
- 技術手袋
- 壁紙格納庫
- 片づけラッカー
- 本作においては、「ラッカーの効き目は4時間で切れる」という新設定が付け加えられた。本作以前の『ドラえもん』作品では、この設定は見られない。
- タケコプター
- ドンブラ粉
- チーターローション
用語
- ピリカ星人
- ピリカ星の住人。体の大きさは地球人の指ぐらいしかなく、髭は生えるが頭髪はない。人間の耳にあたる所に触角の様な角が生えている。また、手や足に指はないが、それでも自由に物をつかむことができる。
- 自由同盟
- ピリカ星の周りの小衛星の密集地帯(土星の環状)に基地がある。衛星基地の司令はゲンブで、11機の戦闘機が配備されている。ピリカ星にも地下同盟がある。これらを合わせて自由同盟という。衛星基地の隊員は103人、ピリカ星の隊員は519人。対するギルモアの軍隊は約80万人で、戦力差は圧倒的に不利だったが、ドラえもん達の協力と、彼らの活躍に勇気付けられて立ち上がったピリカ市民たちの一斉蜂起により、ギルモア率いるPCIAに勝利した。
- PCIA(ピシア)
- ギルモア将軍が設立した情報機関。ギルモア将軍に反対する者を根絶やしにするのが任務で、マッコウクジラのような形の戦闘艦や、シャチのような形の無人戦闘機、カジキのような形の戦闘ヘリコプターなど数多くの兵器を所有している。その人員は約80万人と言われる。名称の由来は、ピリカの頭文字「P」+CIA。
スタッフ
- 原作・脚本 - 藤子・F・不二雄
- 作画監督 - 富永貞義
- レイアウト - 本多敏行
- 美術設定・デザイン - 工藤剛一
- 美術監督 - 川本征平
- 録音監督 - 浦上靖夫
- 撮影監督 - 斎藤秋男
- 特殊撮影 - 原真吾
- 音楽 - 菊池俊輔
- 監修 - 楠部大吉郎
- プロデューサー - 別紙壮一 / 小泉美明、木村純一、波多野正美
- 監督 - 芝山努
- 演出助手 - 安藤敏彦、原恵一
- 動画チェック - 石井文子、西岡哲夫
- 色設計 - 野中幸子
- 仕上監査 - 片川喜好、代田千秋
- 特殊効果 - 土井通明
- 効果 - 柏原満
- エリ合成 - 平田隆文、古宮慶多
- スリット・スキャン - 渡辺由利夫
- 編集 - 井上和夫
- 文芸 - 水出弘一
- 制作進行 - 小倉久美、神田高秀、伊坂武則、星野匡章
- 制作デスク - 田中敦
- 制作担当 - 田村正司、山田俊秀
- 制作協力 - 藤子スタジオ、旭通信社
- 制作 - シンエイ動画、小学館、テレビ朝日
- 原画
- 飯山嘉昌 大塚正実 大武正枝 池ノ谷安夫 東海林真一 若松孝思
- 末吉裕一郎 柳田義明 神村幸子 宮本英子 川越ジュン 荒川真嗣
- あべじゅん子 原完治 木上益治 みのわみえこ 名須川充 小林一三
- 鈴木信一 田村吉章 窪田正史
- 協力
- オーディオ・プランニングユー アトリエ・ローク 旭プロダクション
- 東京アニメーションフィルム トミプロダクション 亜細亜堂 スタジオ メイツ
- 風プロダクション あにまる屋 スタジオ イルカ スタジオ 古留美
- スタジオ タージ スタジオ ディーン シャフト
- スタジオ 九魔 イージーワールド・プロダクション 井上編集室
主題歌
- オープニングテーマ - 『ドラえもんのうた』
- 作詞 - 楠部工 / 補作詞 - はばすすむ / 作曲 - 菊池俊輔 / 歌 - 大杉久美子(コロムビアレコード)
- エンディングテーマ - 『少年期』
- 作詞 - 武田鉄矢 / 作曲 - 佐孝康夫 / 編曲 - 桜庭伸幸 / 歌 - 武田鉄矢(ポリドールレコード)
- 原作、映画共に地球への帰途にてスネ夫が「(ピリカ星に)また遊びに行こう」と言う場面で終わるが、映画ではスタッフロールの背景で実際にドラえもん達がピリカ星に遊びに行った後日談が描かれている。
他作品のパロディ
この映画はタイトルが「リトルスターウォーズ」ということで、ハリウッドを中心に映画のパロディが随所に散りばめられている。
予告編は英語による解説を含めたハリウッド映画のような紹介を「やることがオーバーだ」とドラえもんが突っ込みを入れる。しかし、映画ドラえもん25周年公式サイトで公開されている予告編は主題歌を流すものとなっており、前述の予告編を見ることはできない(なお、2004年に発刊された「ぼく、ドラえもん。」第1号付録DVDには、「やることがオーバーだ」とのセリフが含まれている予告編が収録されている)。この予告編はかなり長めに作られており、レンタル向けに供給されていたVHSビデオでは「やることがオーバーだ」と突っ込みを入れた後に『日本語版』の予告編がついている予告編の完全版が収録されていた。
また本編では、ジャイアンによるMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー。アメリカの大手映画会社)映画作品のオープニングロゴ「レオ・ザ・ライオン」のパロディに始まり、『未知との遭遇』・『フランケンシュタイン』・『E.T.』の場面をドラえもんたちが演じるものが採用されている。また『スーパーマン』での飛行デートのシーンものび太としずかで再現されている。この中で本物の『スター・ウォーズ』も登場し、のび太とドラえもんがC-3POとR2-D2と共演している。
本編のOPではジャイアンが、クライマックスではドラえもんがビルに登って戦闘機と戦うという『キングコング』のパロディを行っているが、劇場版では「まるで何かの映画みたい」というドラえもんの台詞があり、これがパロディであることを示唆している。
また、この作品が1984年に執筆された作品ということもあり、常に目が見ている人に向いているように作られている肖像画など、ギルモア将軍は小説『1984年』のビッグ・ブラザーをモチーフにしている。
脚注
関連項目
外部リンク
テンプレート:芝山努監督作品- ↑ 『藤子・F・不二雄ワンダーランド ぼく、ドラえもん』第3号 小学館、2004年、15頁。
- ↑ しかし、地球でしずかを救出する交渉の際、パピとドラコルルは地球のネコを正しく「ネコ」と呼んでいた。また、ドラコルルはピリカ星でドラえもん達を含む自由同盟のメンバー達を捕らえるために軍隊を動員して下水道へ進入させる際、「(ネコとは言わず)ネズミ1匹逃がすな」と指示していた。
- ↑ 大長編ではジャイアンの隙を突いて探査球をポケットに飛び込ませた部下にその場で昇進の内定を出す、公園でのパピにコントロールされた野良猫のクロとの交渉では茂みに隠れたパピ本体を見つけ出すのは困難とのモニター係の見解を重視して捕虜交換の決断を下している。